ついーとのCJ 8(シーズン2 11話ネタ)
「ねぇ、聞かなかった?」
チョウのソファーに勝手に座り、勝手に入れた紅茶を、勝手に変えた番組を見ながら、優雅に飲んでいるコンサルタントが振り返った。小首を傾げて見上げてくる顔は、人を魅了するのに十分なだけ整っているが、青い目がなんでもない風を装いながら、細心に人の表情を伺っている今、ジェーンの顔は小賢しいだけだ。
「なにをだ?」
チョウも、ジェーンがいるからといって、わざわざ紅茶を入れてやったりはしないが、人が着替えている間に、自分の分だけの湯を沸かし、チョウのコーヒーを入れるための準備をまるでしようとしない金髪はイラつかせる。
「何って、……そう。今、チョウの頭の中に浮かんでること」
今、考えていることなら、コーヒーがうまいだ。湯が湧いていて、着替えてすぐに入られたなら、もっと気分が良かったに違いないも考えた。
「お前が、俺に絡みたいと思ってることはわかってるが、俺は疲れた。面倒な話がしたいなら、明日にしてくれ」
「……帰れって言ってる?」
「まぁな、さりげなくだ」
「全然、さりげなくはないけど、チョウの気持ちはよく伝わったよ。僕は邪魔なんだね」
「まぁ、そんなところだ。……ジェーン。ボスは、お前のプライベートについてわざわざみんなにしゃべったりしない。お前が、ひそかに、華やかな高校生活を送っていない自分を卑下していることなんて、誰も気付いてない。お前が、俺と空白の高校時代を共感しあいたいと思っているんだとしても、悪いが、俺は、少年院に入るまでは、仲間に恵まれた」
青い目は見開かれ、それから険しく顰められた。
「……どういう方法で、チョウは、そういう個人情報を手に入れるんだい?」
知ってるだろう?と、チョウは面倒そうにジェーンを見た。
「ヴァンペルトや、リグスビーには出来ない方法が俺には出来るんだ。で、ついでだ。言ってやろうか? お前がもし高校に通っていたら、きっと人気者で、アルバムにも大きく載っていたに違いないさ。もしかしたら、プロムキングにだってなれたかもな。恩師にも、あいつは面白い奴だったって名前だって覚えていて貰えただろう。だが、お前は、高校に通っていなかった。高校の同窓会なんてモノに出たせいで、憧れでじくじくと心が痛むんだろう? どうして自分は高校に通うなんていうごく当たり前のことが出来なかったのかと、不幸に胸が疼くんだろう。自分だけで、その気持ちを抱きかかえているのが嫌だからって、俺に当たって、踏みにじらせるな。かわいそうだと言って欲しかったなんて言うなよ? 俺は疲れているって言った。酷いことを言われて、気がすんだんなら、帰るか、寝るか、どっちかにしてくれ。寝るなら、そのソファーで寝ろ。ボスを馬鹿にした罰だ」
チョウに傷を抉られている間、ずっと見開かれたままだった目が、ゆっくりと伏せられた。金色の睫毛がふわりと絡み合う。ジェーンは、投げつけられた言葉を味わうように、しばらく目を瞑ったままだった。次第に唇の端がゆっくりと上がっていく。
「……酷いな。チョウって」
「嬉しそうだぞ。お前……マゾめ」
チョウの言葉に、くすりと笑ってジェーンが目をあける。青い目は明るい。口元の笑いとも違和感がない。
「うん。まぁね、でも、自分で自分を痛めつけてた時より、酷くやられちゃったら、もう、痛いって思う以外に思い煩う必要もなくなるし、チョウにはお湯も沸かしてあげなかったし、……リモコンは隠したし」
「……お前」
「今、イラついたせいで、今なら、チョウは、僕のこと酷くしてやってもいいって思ってるけど、自分で言い出した手前、セックスしようなんて、もう言えないし」
「…………」
「それにしても、チョウって、やっぱり優しいよね。いつから、知ってた?」
「そんなに前じゃない」
「ねぇ、キスだけしようよ。そうしたら、今晩、大人しくここで寝るから」
「……大人しく寝なくてもいいぞ」
くすりと、ジェーンは笑った。チョウを招き寄せる。腕を伸ばして首を抱き寄せると、うっすらと口を開く。積極的に、ジェーンは唇を合わせてくる。だが、
「キスだけだよ……卒業までは、純潔を守るって誓いを立ててるんだから」
胸を撫で回していたチョウは、同じシュチエーションで、同じ台詞を言われたことがあって、思わず吹き出していた。
「やっぱり。……ちゃんと、誓いを守らせてあげた?」
青い目に聞かれて、チョウは、ついっと目を反らした。
END