ついーと(に書こうかなぁと思って、自粛しました)のCJ 4
「人ってさ、なんでキスするんだろうね?」
まだ寝ていた人の上に乗っかって、息苦しくなるほど長いキスで、無理矢理目覚めさせておきながら、おはようでも、ごめんでもなく、朝一番にジェーンが言いだしたことはこれだった。
うっかり目を開けたことを後悔したくなるほど近い距離にある青い目は、人の都合などお構いなしに、不必要な程甘く微笑んでいる。
だが、目の下にできた隈は、酷い。
第一、チョウが起こすより前に、朝、ジェーンが活動し始めるなんていうのは、一睡もできずに夜を過ごしきった時だけだ。
自分の疑問を不思議そうに首をかしげながら、もう一度ジェーンは、覆いかぶさっている身体を更に寄せて来る。柔らかくて、生温かな粘膜が、唇の表面をふっくらと覆っていく。
「ねぇ、どうして、キスしたくなるんだろうね?……まぁ、たしかに、気持ちいいんだけどさ」
唇の表面を掠めるようなキスを繰り返しながら、ジェーンは口を開き続ける。
「でもさ、気持ちいいだけだったら、何も、キスじゃなくても、直接性器を擦りつけ合った方が、ずっと気持ちがいいよね? なのに、愛情の身体的表現方法として、キスが多用される理由はなんでなんだろうね」
だが、チョウは、キスが気持ちいいかどうかよりも、暑いことの方が問題だった。
今朝は朝から、格別暑い。
「……暑い」
「だろうね。君、寝汗がすごいよ」
ジェーンは、チョウの上へと覆いかぶさったまま、項へと手を伸ばし、そこを拭って、わざわざ見せる。
チョウの項に触れた手は、べっとりと汗で濡れている。
それだけじゃなく、金髪にずっと押し潰され続けているチョウは、重い。
「どけ。ジェーン、お前、重い」
だが、酷いなと言っただけで、構わず、ジェーンは体中で覆いかぶさったまま、チョウの額に触り、汗をかいた前髪も撫で上げていく。そして、また、キスする。
「君のことだから、気付いてて、実は、自分もアピールポイントだって思ってたりするんだろうけど、チョウって、唇の形がかわいいよね。かわいいのに、遠慮がちな形でさ、思わず、キスしてみたくなる」
にっこりと笑って、金髪は、また、キスだ。
「どっかの大学教授がさ、どうして、人間はキスするのか、研究したりしてないかな? そしたら、僕、その答えを知りたい」
「そんなのを研究するために、俺たちの税金が使われてたりするなんて、俺は嫌だ」
チョウの答えに、夢がないなぁと笑いながら、ジェーンは、またキスしてきた。
もういい加減、暑くて、重くて、腹立たしくなっているチョウは、キスしてきたジェーンの頭を、素早く捕まえ、逃げられないように、がっちりと頭を手で掴むと、閉じている唇の中へ、舌を捻じ込む。
無理矢理開かせた口は、この強引とも情熱的ともいうキスをまるで歓迎していなかった。
チョウが、濡れて滑らかな口内で寝そべる柔らかな舌を追いまわすようにして、捕まえ、舌を絡めても、付き合い程度に、ジェーンは舌を動かすだけで、まったく乗ってこない。
だが、チョウは、暑いのを我慢して、ジェーンが側にいるのを許していた、はらいせの分は、十分に口内を貪った。
さすがに、キスの最後の辺りでは、んぅっと、鼻に抜ける甘い声を、ジェーンも漏らし、チョウの身体の上に乗った腰を軽く摺り寄せてきていたが、キスをやめれば、呆れた目が、御苦労さまと言う。
「朝から、お盛んなことで」
そして、仕返しのように、汗に濡れたチョウの身体へとぎゅっとしがみついてきた。
本当に、暑い。
寝汗をかいた身体の上にあるのは大人の男、一人分の身体が発する熱量だ。
「チョウでも、キスが好きなんだからさ、やっぱり、人間って、キスするのが好きなんだよね。なんでだろうね?」
「……一晩、それをずっと考えてたんだな、お前……」
汗ばんだチョウの腕は、決して、ジェーンを抱き返さない。
「そう。さすがに起こしちゃかわいそうかなって思って、朝まで、君にキスするのは、やめにしてたんだけど、君、寝ながら、むにゅむにゅ、唇を動かしたりさ、すごくかわいくて、思わず、じっと眺めちゃったよ」
また、ちゅっと、ジェーンは、チョウにキスしていく。
チョウが、激しく迷惑そうな顔をしているのにも構わずにだ。
目覚ましが、遠慮がちに鳴る。チョウが手を伸ばすより先に、ジェーンが時計を取り上げ、チョウに手渡した。ベルの音を止めたチョウは、目の下に隈を作りながら、にこにこと機嫌良く笑っている金髪を見上げ、朝から、疲れたと思う。
「……どけ、ジェーン、そろそろ、本気で用意する」
やっと、ジェーンは、チョウの上からどいたが、さすがに、ひったりと身体を寄せ合ったせいで汗をかいている金髪が、言うのは、やはり、脱力しそうなことだ。
「わかった。トイレが我慢できなくなったんだね?」
「……そうだ。どけ」
しかし、CBIへと向かう、短い道のりの間に、あれだけ眠れなかったくせに、ジェーンはするりと眠りに落ち、仕方なく、チョウは、車の振動に合わせ、ふらふらと頭を揺すっている金髪のために、遅刻ぎりぎりの時間まで、遠回りして運転した。
END