コンサルタントの出勤簿 9

 

 

*ジェーンのお願い

 

公園の側では、やかましくアイスクリーム屋が音楽を流していた。

子供たちが群れている。

リグスビー、チョウ、ジェーンの3人は、孫を連れた老夫婦に聞き込みの最中だった。

「ねぇ」

小さな彼は、おばあちゃんのスカートをしきりに引っ張り、アイスクリームをねだっていた。

「ねぇ、」

そこで、同じように声を上げたのは、ジェーンだ。コンサルタントの目は、小さな彼と同じようにきらきらとしてアイスクリーム屋を見つめており、チョウは、ジェーンが余計なことを言い出さないよう、じろりと重く睨んだ。

いかにも、空々しい態度で、チョウから視線をそらしたジェーンは、リグスビーにそっと近寄った。

「ねぇ、リグスビー、僕のこと好き?」

「は?」

聞き込みには全く関係のない突然の質問に、リグスビーは、慌てふためく。老夫婦も、警戒心を露わに、孫を引き寄せ、顔を顰める。チョウの眉は、きつく寄っている。

激しく困惑しながらも、それでも、質問に答えてしまうのが、リグスビーのいいところだ。

「……好きって、言えば、好きだよ。どうしたんだよ、いきなり。ジェーン?」

ジェーンは、嬉しそうに笑うと、道の向こうを指差した。

「だったら、捜査官から転職して、アイスクリーム屋になってよ」

 

 

*ジェーンのお使い

 

「ああ、もう! あそこにいるのが、ビート保安官だったら、私はここに入らないから」

リズボンは、顔を顰めて、建物の入り口で立ち止まった。

捜査の主導権を巡って、わからずやの保安官とはやりあったばかりだ。

だがまだ、折り合いがつかず、保安官は、リズボンの指示を無視し、勝手に聞き込みを始めているようだ。

リズボンは、ジェーンに顎をしゃくった。

おやおやと眉を上げた笑顔を作り、珍しく本気で癇癪玉を破裂させているチームのボスを面白がると、建物の中に入ったジェーンは、つかつかと男に近づいた。

そして、くるりと背を向けて帰って来る。

「リズボン、彼、やっぱり、ビート保安官だったよ。リズボンが君に会いたくないから、ここに入らないって言ってるって言ったら、彼、すごく喜んでたよ」

リズボンは、コンサルタントを振り切るように建物の中に入っていった。

 

 

*看板の文字

 

ひどく暑い日だった。

景色のいい湖畔のキャンプ地だったが、捜査に進展はなく、チームの気分は倦みがちだった。

とにかく、暑いのだ。

少し歩くだけで、額を汗が伝い、目の中に染みて痛む。

木陰で軽食を立ったまま平らげたリグスビーは、うらやましげに青々とした湖を眺めた。

「……飛び込みたいぜ」

「だよね」

ジェーンも頷く。もともと体力のないコンサルタントは、今にも倒れそうな顔つきだ。

「……なぁ、やっちまうか?」

リグスビーは、周りを見回す。人気はない。

「……それ、すごくいいかも……」

最早、うわごとのようにつぶやいて、コンサルタントも同意した。二人はいそいそと服を脱ぎ出す。

だが、チョウはただ一人、腕組みをしたまま、立っていた。

二人はとうとう裸だ。

どうしてだと、はやる気持ちを抑えて、チョウを振り返る。

「ここは遊泳禁止だ」

「……なんで、脱ぐ前に言わないんだよ!」

「服を脱ぐなとは書いてない」

 

 

*減らず口

 

ジェーンが憂鬱げにチームの机へと戻って来た。

ソファーに倒れ込む。

「最悪……」

ヴァンペルトは心配そうに、ジェーンを眺めた。

「どうしたんですか? ジェーンさん」

「1ワードが、20ドルだよ」

「え? 本でも書いたんですか? 20ドルなんてすごいじゃないですか!」

 

「こないだの違反切符の罰金を払いに行ったんだよ……たった一言言っただけなのに……」

 

 

*その金で奢ってもらうのは、捜査官として、ちょっと……

 

ジェーンの1ワード、20ドルは、そこだけが、噂となって広まった。

「おい、ジェーン、お前が書いたのは、フィクション? 面白いのかよ」

儲けたのなら、俺たちにも奢れと、リグスビーと、チョウは、にやにやとコンサルタントを見つめている。

「え? 僕が今年書いた最高のフィクションと言えば、税務署への申告書だけど、……うん。まぁ、おごってもいいけど」