コンサルタントの出勤簿 8
*午後の紅茶
リズボンは厳しい上司だ。
現場への急行を命じられながら、それが果たせなかった部下など、事情を尋ねることなく切り捨てる。
その日、チョウは、渋滞に捕まり、現場への到着が遅れた。
ぎろりと、大きな上司の目が睨む。
「午後のお茶は美味しかった? チョウ?」
冷たい皮肉が投げつけられ、チョウは身を竦めながら、頭を下げる。
「すみませんでした。ボス」
だが、そのまだ5分後に、悠然とコンサルタントが現場に到着した。
「やぁ、リズボン」
手を上げて、合図するジェーンを、現場に残された遺留品から顔を上げたリズボンの目が冷たく見つめる。
「ジェーン、午後のお茶はどうやって飲んでたの?」
ジェーンは驚き顔だ。
「レモンでだけど、いきなりどうしたの、リズボン?」
*本当に保安官のせい?
「オーケー、わかったわ。わかった。あなたの言い分もわからないわけじゃないわ。私も出来るところまでなら譲歩する」
地元の警察と、チームの意見が対立することはよくあることだ。難しく顔を顰めてはいたが、リズボンは誠実に事件に取り組む保安官に対して、寛容さを示した。
そのすぐ後に、リズボンに近づいたジェーンが肩を竦めて、チョウとリグスビーの元へと戻って来た。
「ホントに、あの保安官には参っちゃうよ。リズボンをあんなに不機嫌にさせてさ。おかげで、僕がリズボンに話しかけたら、すぐ、彼女、怒りだしちゃってさ」
*手の中の象
終業時間間際、ジェーンがファイルを取りに立ったチョウに近づいた。周りを見回し、ひそひそと耳打ちする。
「ねぇ、チョウ、君がもし、僕がこの手の中に隠しているものを当てることができたら、今晩、君の家に行ってあげてもいいよ」
素早く握った拳を差し出し、何だと思う?と、ジェーンは聞く。
チョウは、ため息をひとつ吐くと、ジェーンを見た。
「象が1頭」
「惜しいよ、チョウ! かなり近いんだけど、外れ。……でも、いいところまでいったから、今晩7時ね、夕飯は僕が買っていくから」
ジェーンはぽんっとチョウの肩を叩くと、にこりと笑った。
*意見の対立
「ジェーン、お前、チョウとの仲が、おかしくないか?」
朝から、一言も口を聞こうともしない、チョウと、ジェーンの様子に、リグスビーが心配そうに、ソファーのジェーンへと声をかけた。
昼休みだというのに、チョウは、黙々と机に向かって仕事をしていて、声をかける隙さえ与えない。
「昨日、ちょっと、チョウと、意見が対立しちゃってさ、言い合いになっちゃったんだよ」
だから、とジェーンは肩を竦める。
「大したことじゃないんだけどね、急に、彼の部屋のドアをヘアピンで開けて中に入ったら、彼、すごく怒ってさ、だったら、また急に来たくなるかもしれないから鍵を頂戴って、僕が丁寧にお願いしたのに、彼ときたら、もう電話もしてくるなって、すごい勢いでドアしめて」
チョウって、気が短いよねと、笑うコンサルタントに同意を求められるリグスビーは、気の毒そうにチョウを見つめた。
*恋
ジェーンが隣に立つチョウをちらりと見つめた。
「僕さ、……堅苦しいくらいの古風な恋って、ちょっと憧れてるんだよね」
「わかった。じゃぁ、アパートの下の階に住んでる、ばあさんを紹介してやる」