コンサルタントの出勤簿 6
*人間関係は上手くやれ!
聞き込みに行った先の家では、5歳になるかわいらしい少女がピアノのレッスンをしていた。
母親は、目尻を下げて、少女を見つめながら、ジェーンに言った。
「音楽はお好きかしら?」
ジェーンは少し困ったように笑った。
「ええ、好きです」
ジェーンは笑みを深める。
「でも、お気になさらず、このまま続けてくださっていいですよ」
隣に立つコンサルタントのわき腹を思い切り肘で突くと、ごほんと、大きくチョウは咳払いをするなり、切り出した。
「それで、事件の話なんですが……」
*ジェーン的説得法
事件の解決後、休憩のため、たまたま通りかかったショッピングモールでは、とあるソプラノ歌手のチャリティーコンサートが開かれていた。
着替え用のTシャツを物色中のリグスビーは、たちの悪そうな若者たちの方へと、ふらふらと歩いて行くコンサルタントに気付き、ため息を吐き出した。
「……ジェーン!」
腕を掴むと、ジェーンが振り返る。
「ねぇ、リグスビー、あの歌手が刑務所訪問のボランティアもしてるって、本当だってこの子たちに教えてあげてよ」
若者たちにじろりと睨まれ、仕方なくリグスビーは、バッジを見せる。
「……本当だ」
リグスビーは、歌手のことなど、名前すら知らない。
珍しく、ジェーンは真剣な顔だ。
「ねっ、だから、君たち、万引きなんて割に合わないことはやめた方がいいよ。逃げ場のない刑務所のなかで、この歌が聞きたいのかい? 本当に?」
*紳士はアイスクリームがお好き?
「あのさ、リズボン、紳士の名にかけて、明日必ず返すから、5ドル貸して」
目の前には、アイスクリームの屋台だ。
ジェーンは、早くと、手を突き出している。
リズボンは、肩を竦めた。
「いいわよ、ジェーン」
ただし、と、リズボンは付け加える。
「その紳士って人を、いますぐここに連れてらっしゃい。そうしたら、5ドル貸してあげるわ」
*違反切符を切られるかどうかは、コンサルタント曰く『運』らしい…。
ふうっと、珍しくジェーンが疲れたようなため息を吐き出した。
「どうしたんですか?」
ヴァンペルトは、ソファーのコンサルタントを気遣うように尋ねた。
「今朝の僕には、運がなくってね」
ジェーンは憂鬱そうに瞼を閉じる。
「ねぇ、ヴァンペルト、世の中って、やっぱり不公平だよね」
だってさ、と、ジェーンは続ける。
「警官だって人の子だからさ、間違いは起こる。だけど、誤認逮捕は一番避けたい事態だから、そうならないようにリズボンなんかは、ぴりぴりしてるだろう? なのに、交通課の警官が捕まえた相手だけは、絶対に、必ず、間違いなく、違反を犯してるんだからね。いいよね、彼らは」
「……ジェーンさん、違反切符を切られたんですね……」
「うん。……リズボン、怒るかな?」
*ほんのちょっとの付属物
「ねぇ、チョウ。君、今よりもう少し職場に近い部屋を探してるんだって?」
「……相変わらず、なんでも知ってるな。お前は」
肩を叩いてきたジェーンを、胡散臭いものでも見るようにチョウは肩越しに見る。
「酷いな、そんな目で見るなんて、いい情報を教えてあげようと思ったのに」
現金なもので、そうジェーンが言うと、さっそくチョウは振り返った。
「どこだ?」
「君のアパートメントより、職場にあと5分は近くなるね。ただし、君の希望より大きくて、7部屋に2つのゲストルームと、ダイニングキッチンがあるかな」
「それは、ワンフロアー全部が貸し切りなのか? 無理だ。金が払えない」
チョウは顔を顰める。
「それがさ、ほんのちょっとの付属物さえ我慢すれば、賃料は今の君の部屋代の半分位なんだよ」
ジェーンは、にこりと笑った。
「その付属物って、つまり、……この僕のことなんだけど」
ジェーンは大きく腕を広げて、ウェルカムとチョウを抱きしめる準備をして待ち構えた。