コンサルタントの出勤簿 4

 

*腹が減る

 

リズボンと、ヴァンペルトがダイエットすると決めたのだ。

女性陣は、目の毒だからと、車および、署内での無駄な飲食をチームに禁じた。

そうは言っても、男たちは腹が減る。

夜食を禁止されているからと、夕食をたっぷり食べたが、やはり、残業しているうちに、腹が減って耐えられなくなった。

「……チョウ」

「だよな。いまなら」

資料を探しにヴァンペルトは席を立ち、リズボンも自室のデスクに付いている。

「え、食べるの? 僕もお腹ぺこぺこなんだよ。仲間に入れて」

仕切りの向こうのコーヒーサーバーの側の、しかも、植物の影なんていう、いじましい場所で、自販機のホットドックに齧りついていた男3人は、しかし、たまたまコーヒーを飲みに寄ったリズボンに見つかってしまった。

リズボンの睨みに、男たちは、うなだれたまま、次々に口を開いた。

「すみません。仕事中は、食べないって規則だったのに、考えが足りませんでした。」

「すみません。あなたたちの努力を邪魔する気じゃなかったんですが、考えが足りませんでした」

「ごめんなさい。つい、カーテンを閉め忘れてしまいました。考えが足りませんでした」

 

 

*A+A=Aまたは、O

 

連続誘拐事件の犯人から、無事子供を助け出すことが出来た。怪我を負っていた少年は、病院で種々の検査を受け、現在治療中だ。しかし、その良い知らせを両親に告げる役をチームでは押し付け合っていた。

「……僕は、嫌だよ!」

「大丈夫、感謝なんかされないから」

「こういうのは、リズボンの役目だろ」

「……こんなこと、上手く言えるのはボスしかいません」

チーム全員に縋るような目で見つめられ、リズボンは顔を思い切り顰めながら、そっと両親に近づいた。

「あの、キースさん」

リズボンは、真面目そうな父親の肩に手を掛けた。

「子供は無事保護されました」

両親は崩れおちんばかりに喜び、抱きあって涙を流している。

リズボンは、息子の無事を神に感謝する父親から、つらそうに目を背けた。

「奥さん、あなたの息子さんは輸血のために、病院で血液型の検査を受けました」

 

 

*祈り

 

とある事件で、聞き込みに行った先の教会で、チームからの別行動をリズボンに命じられたリグスビーと、ジェーンには、車がなかった。

「30分後には、保安官事務所から迎えがくるから」

「わかりました」

しかし、親切な牧師が、二人を送って行こうと申し出た。

 

普通牧師さんといえば、温厚な人柄を想像しがちだが、この牧師は、ハンドルを握ると人柄が変わるようだ。とんでもないスピード狂で見知った田舎道であるのをいいことに、ほとんどブレーキを掛けない。掛けるとすれば、座席に顔を打ちつけることになるような急ブレーキだ。

「おい! おい! 頼む、もう少し慎重に運転を!」

「本当だね、このままじゃ、殺人事件を解決するより前に、僕たちが死体になりそうだ……!」

文句を言う間にも、車は地面の穴で跳ね、ジェーンは舌を噛みそうになっている。

 

眩暈を起こしながらも、目的地についたジェーンは、「あなたほど神の存在を示してくれる人はいない」と、牧師に告げた。

上機嫌で帰っていく牧師の車の後ろ姿に、それでも一応の挨拶をしながら、リグスビーは尋ねた。

「なんでだよ。ジェーン」

「だってさ、リグスビー、君、あの牧師の運転中に、何回、神様に祈った?」

 

 

*既婚者VS夢見る独身

 

張り込みに付き合いたいと言ったのは、ジェーンだ。

だが、何がしたかったのか、ジェーンは、後部座席で毛布にくるまり、うとうととしている。

リグスビーと交代の時間になり、チョウは、少しかわいそうかと思ったが、ジェーンを起こした。

「なぁ、悪い。後ろに積んである毛布を取ってくれないか?」

眠そうにジェーンは目を擦った。

「ねぇ、チョウ、よかったらさ、僕たち、今晩だけ結婚してるって関係にならない?」

は?っと、チョウも、リグスビーも目を見開いた。

「おい、ジェーン、お前が何を考えてるのか知らないけどな、俺もいるんだ。この車の中で、何かするのだけは、絶対にやめてくれよ!」

リグスビーは怯え声だ。

「え? どういうこと? チョウさえ、承諾してくれたら、……自分の毛布くらい、自分で取ってよ」

 

 

*酷い男

 

確かに、犯人は逮捕できたが、コンサルタントが用いた自白を得る際のやり方は、巧妙な詐欺のようで、時間さえかければ、正当な逮捕に踏み切ることが出来たと確信しているリズボンは、解決ムードに緩んだチームの空気の中で、一人不機嫌だった。

「……ダメだったかな?」

ジェーンのつぶやきに、リグスビーは、同情を目付きで示す。しかし、警察官としては、犯人だった未成年者に対する配慮を欠いたジェーンのやり方に、同調できない部分もあり、慰めの言葉を口に出することまではできない。

ジェーンは、リズボンに近づこうとしていた。

だが、

「ジェーン、今は、どんな慰めも、言い訳も聞きたくないの。あなたに言いくるめられるのもまっぴら。チョウ、30分でいいわ。その鬱陶しいコンサルタントを、私の部屋に近付けないで頂戴。いいわね」

 

その一時間後、チョウが、報告書を持ってリズボンのドアを開けた。

「ボス、ちょっと、いいですか?」

「……あら、そういえば、もう一時間近いけど、ジェーンは? チョウ、あなた、すごいわね、どうやってジェーンをこんなに長い間、大人しくさせていたの? 絶対に現れると思ってたのに」

リズボンは、チョウの後について、フロアーに出て、わかった。

コンサルタントは、茫然と言った面持ちで、ソファーに手錠で繋がれている。

チョウの姿に気付いたジェーンは、大きな声を出した。

「ねぇ、チョウ! トイレに行きたいんだけど!」

チョウは、判断を求めるようにリズボンを見た。