コンサルタントの出勤簿 3
*やめて、やめて、怖い話はやめて……!(by リグスビー)
ある昼休み、ジェーンのする霊の話に、リグスビーは震えあがり、ヴァンペルトは顔をこわばらせ、リズボンは、さっさと席を立っていた。
「だからさ」
「でも、ちょっと、待てよ。ジェーン、お前は、本当に霊が見えてたり、感じたりしてたわけじゃないんだろう?」
じっとりと汗をかいたリグスビーの手はきつく握られている。
「うん? まぁ、だけどさ、ああいうことを職業にしてると、不思議なことはいくつもあって」
ジェーンが笑顔なのが、また不気味だと、リグスビーなど、とうとう耳を手で覆った。
だけど、と金髪のコンサルタントは、振り返る。
「……ねぇ、……チョウ、君は、全然怖そうじゃないね? せっかく、とっておきの話をしてるのに、チョウって、結構、幽霊の存在とか、信じそうな気がしてたんだけどな」
チョウは、コーヒーから目を上げた。
「霊の存在なら、信じてる。実際、前日に戦死した戦友の声で危機を助けられたこともある。……ただ、俺は、お前のことを信じてない」
*頼む、頼むから、怖いことするのはやめてくれ…!(by リグスビー)
「ちょっと、おかしいんだけどね」
リズボンが、照れ臭そうに笑いながら、コーヒーサーバーの前でヴァンペルトに話していた。
「今朝、だれだが、わからない相手から、真珠の首飾りを貰う夢を見たの」
「まぁ、素敵ですね。実は、いい人が?」
くすくすと笑う上司と部下は、少しだけ気になる人がね、なんて喋っている。ひょいとジェーンが顔を出した。
「リズボン、その夢、きっと、夕方までには、理由がわかるよ」
笑顔のコンサルタントの神出鬼没さと、胡散臭さは、周知のことだ。リズボンは何にでも首を突っ込むジェーンに呆れたように肩を竦め、ヴァンペルトは、少しだけ期待したような笑顔を見せている。
夕方、ジェーンが、リズボンに、リボンのついた小さな包みを差し出した。
「え? 貰えないわよ。こんなの!」
びっくりして慌てる上司を、部下たちは、見守っていた。
「いいんじゃないですか? ジェーン、金持ちなんだし」
ヴァンペルトに肘でつつかれ、リグスビーはリズボンを口説く。
「そ、たいしたものじゃないし、とりあえず、開けてみてよ。気に入らなかったら、取り替えてくるから」
嬉しさの隠しきれない顔で、リズボンが包みを開けた。
出てきたのは、「夢解析」だった。
*仲いいの……?
昼休みのことだ。
ジェーンと、チョウは、ソファーと、席で、それぞれに、サンドイッチを食べている。
「ねぇ、チョウ、コーヒーが飲みたくない?」
「いいや、別に」
「酷いなぁ。僕、誰かれ構わず、誘ってるわけじゃないんだよ?」
「気にするな、俺も、誰かれ構わず、断ってない」
だが、そう言った後、チョウは、ジェーンのために紅茶を入れてやっていた。
*来客注意
「いい、ジェーン、わかってる? これからいらっしゃる方に、あなたにも特別な態度をとって欲しいの」
リズボンに、ジェーンはにこりと頷いた。
「いいよ。特別な態度を取るんだね。ところでさ、その特別って、また来て欲しいって意味? それとも、もう二度と来てほしくないって意味?」
*直感
ジェーンのコンサルタントの面接時に、たまたま、どうしても報告しなければならないことがあって、チョウは、会議室のドアを開けたのだ。
「こちらで調べた限りでは、犯罪歴はないようだけど、一応、形式的に確認するわ。逮捕されたことはないわね? ミスター・ジェーン」
「ええ」
次の質問は、逮捕歴のある人物に為されるためのものだったが、何人もの面接者と面談した後のリズボンは疲れて、読み間違えたようだ。
「それは、なぜ?」
「捕まらなかったから」
金髪は、にっこりと答えた。チョウは、こいつに決まりだなと思った。
*最悪を告白し合おう!
被害者の恋人を訪ねようと、リズボン、ジェーン、リグスビー、チョウの4人でやってきたのだ。ホテルであるそこは、残念なことに、事件現場であるエレベーターが使えなかった。30階の部屋まで、4人は階段を昇った。途中、ジェーンが言い出したのだ。
「ねぇ、この最悪な苦行を少しでも楽しく過ごすためにさ、今までの人生で最悪だった時のことを一つづつ、告白しあおうよ」
リズボンは、犯人と向き合った瞬間、自分の銃に弾が入ってないことを知った時の話をした。
「俺は、この間だよ。ものすごく気まずかった。ジェーン、お前が俺に暗示をかけた時だ」
リグスビーは、ヴァンペルトにキスしてしまった時のことを言っている。
「僕はね、」
捜査官と違い、体力のないジェーンは、階段に、息を切らしていた。やっと、29階だ。
携帯電話が鳴った。
「ジェーン、悪いが、俺が先でいいか?」
チョウが口を挟んだ。
「ヴァンペルトから連絡があった。恋人は、こちらの指示に従わず、ホテルを変えたそうだ」