コンサルタントの出勤簿13 (リグじぇん風味)

 

 

*自覚

 

駐車場にしゃがみ込みジェーンは子猫を撫でていた。

毛の短いかわいらしい猫だ。

「おはよう。ジェーン、かわいいな」

あたたかな日差しが振り注ぐ気持ちのいい日になら遅刻など気にもとめないジェーンと違い、慌てて駆けて行くリグスビーがそれでも声をかけていった。

「にゃぁん」

子猫が甘えた声で鳴く。ジェーンはその頭を優しく撫でた。

「残念。君のことじゃないよ」

 

 

*年上の恋人

 

喧嘩をしたのだ。

へそを曲げたリグスビーは、もうジェーンとは口を利かないと言い出し、それでいいよとジェーンも言った。

だが、リグスビーは、出張のため明日の朝、早く起きなければならず、5時というその時間に起きることに少しばかり自信がなかった。しかし、もし、起きなければ、相手との調整をつけたボスに殺される。

言い出した手前、さっそく沈黙の誓いを破ることはしゃくで、リグスビーは、5時に起こしてほしいと紙に書いてジェーンに渡した。

「起きろ。リグスビー」

朝っぱらから、チョウの電話で起こされて、リグスビーは眉を潜めている。

「……俺、何か、約束してたか……?」

「しるか。ジェーンが電話をかけてきて、今すぐお前を起こせって言ったんだ。一体何事だ。こっちが聞きたい」

「……あー、悪い。……その、ありがとう」

 

のそのそと着替えをするリグスビーは、せめて飲み物だけでも口にしてから出掛けようとキッチンに行って、また驚いた。

完璧な朝食を前に、ジェーンが座っている。

「ジェーン、その……」

『食べて』

ジェーンは用意してあったと思しき紙を見せる。

食べ終われば、今度は『いってらっしゃい』

意地悪く笑った口元は、決して口を利く気はないようだが、リグスビーは帰ったら、自分から謝ると決めた。

 

「ごめん……」

だが、

『まだ許す気はないよ』

白い紙を指に、ジェーンはにっこりと笑った。

 

 

*左じゃなくって、右

 

ジェーンとリグスビーのハンサムな二人連れがのんびりと公園の中を歩くのに、ちらちらと視線を投げかけてくる女の子たちは両手の数では足りなかった。

その中に、勇気ある赤毛とブルネットの二人組がいた。

魅力たっぷりに微笑むと、ジェーンとリグスビーに声をかける。

「ねぇ、この辺にランチのおいしいお店って」

「それなら、」

リグスビーは、少し照れ臭そうにしながら親切に店を教え、だが、一緒に行かないという誘いには首を振った。

「俺たち、これからまだ、仕事だから」

 

「……満更でもなさそうな顔してたくせに、断るんだ。おいしいお店なら、僕だって行きたかったのになぁ。」

わざとらしいため息をつく金髪のコンサルタントは、こんな年上の男を相手にして、女性の誘いを断るリグスビーを馬鹿だと詰る。

それを拗ねたように口を尖らして聞いていたリグスビーは突然、

「……そうかよ………あっ!」

さっきの女性たちを追って走り始めた。

「……なんだよ!」

呆気にとられたジェーンは、金色の髪をかきあげ、思わず悪態を付く。

「待って! 待ってくれ。さっき、言った道は間違ってた。左じゃなくて、右に曲がるんだ。ごめん。間違えた!」

ジェーンは赤くなった自分に、居心地悪そうに目を泳がせた。

 

 

*お腹一杯は、幸せ

 

「ジェーン、その、飯でも食わせてくれよ」

休みの日の朝に、突然、アパートメントを訪ねてきたリグスビーの言い分はコレだ。

「作って無い」

「じゃぁ、パンと、コーヒーだけでもいい」

「パンも、コーヒーもない」

「じゃぁ、水を」

「水もない」

すげない断り文句に、機嫌を悪くすると思っていたリグスビーの顔は、どんどんと心配げなものになっていった。

「……ジェーン、お前、大丈夫か? 腹、減ってるだろ」

 

 

*主導権は僕のもの。

 

「なぁ、俺の部屋に行くか?……それとも、お前の部屋に行く?」

職場からの帰り、リグスビーは照れ臭そうに聞いた。

「両方しようか」

ジェーンはにっこりと感じよく笑い返した。

「君は、君の部屋に帰る。僕は僕の部屋で寝る。バイバイ、リグスビー」