コンサルタントの出勤簿 10
*リズボンのお熱
捜査中に、リズボンが熱で倒れた。具合が悪いことを押し隠したまま捜査に当たっていたボスは、倒れた後も、本部に残り、ソファーで唸りながらも、指示を出している。
「……とにかく、ジェーンには勝手をさせないで、……」
「わかってます。ボス。心配しないで、休んでいてください」
ジェーンのソファーを占領しながら、熱でうなされているリズボンが夢見たような、悪夢は現実には起こらなかった。事件は、なんとか、常識の範囲内で解決され、犯人を連れて本部に帰った部下たちを、ソファーから起き上がることも出来ないほど熱のある赤い顔でリズボンは労る。
「みんな無事? 誰も、怪我しなかった?」
ジェーンは、熱いリズボンの額に手を当てながら、被っているタオルケットをひきあげてやる。
「優しいボスだね、リズボンは。こんな状態だっていうのに、みんなのことを気遣ってるよ」
小柄なボスは、熱でふうふう苦しそうに息を吐きながら、ジェーンの後ろにいる部下たちを見上げる。
「……報告書を今すぐ書いておいてね。かかった経費の仮精算の期限は明日の朝よ」
ジェーンはやれやれと後ろを振り返る。
「あーあ、やっぱり、リズボン、大分具合が悪いようだね。夢見て、うわごとを言ってるみたいだよ」
*仕事上の知り合い
天気が良く、ボスコは、昼を買いに外にでたのだ。
すかさず、RJについての情報を得ようと、隙をみては、付きまとうジェーンが追って来て、ボスコは忌々しく思う。
図々しい金髪は、肩を並べ、歩き出す。
「あのさ、僕、思うんだけどさ」
「俺は、何も思わん」
そこで、たまたま、知り合いの女性とすれ違った。口元に微笑を浮かべた彼女は、ボスコよりも7つは若く、すらりと長い足がとても魅力的だ。
手を上げて、挨拶をしてきた彼女に、ボスコも軽く手を上げる。
「へぇー」
たったそれだけのことに、意味ありげに、にやにやと笑って見せる金髪が、ボスコの勘に触った。
「仕事上の知り合いだ」
「へぇ、そう。君の? それとも、彼女の仕事の?」
*丁寧な言葉使い
昼のランチを、一緒に食べたのだ。
ジェーン好みの、テーブルの花まで目のいき届いた美味いランチを食べながら、フォークを握ったまま、チョウは、ジェーンに「塩」と言ったのだ。
グラスの水を飲んでいたジェーンは、軽く眉を潜める。
「チョウ、大人のマナーとしてさ、人に物を頼むなら、塩を取って下さい位は、言ったらどうだい?」
勿体ぶって差し出された塩を受け取りながら、チョウは、ちらりとジェーンに目をやった。
「なら、お前も、いくいく、言うときは、どこにいくのか、言ったらどうだ?」
*お仕置き
昼休み、本を読んでいるチョウの側で、ジェーンは構わず、話しかけていた。
内容は、主に、今日は暇だねという、事件のないありがたい日を喜ばない善良な市民として不届きな不満だ。
じっくりとミステリーを読み進めているチョウは、いい加減、鬱陶しい。
「ジェーン、1ドルやるから、このファイルを片付けてきてくれ」
あからさまに追っ払う、チョウの態度に、ジェーンは不満そうに顔を顰めたが、それでも、どこか少しだけ面白がりながら、本当に1ドル受け取り、ファイルをキャビネットにしまいにいく。
コーヒーを片手に、つかつかとリズボンがチョウに近づいた。
「チョウ」
「はい。ボス」
チョウは、本から目を上げる。
「犯人は、妻よ。それから、コンサルタントに、余計な事務仕事はさせないで。組合がうるさいの」
*なぞなぞ
張り込みに、ジェーンも付き合うと言ったのだ。
だが、ジェーンがしていることと言えば、車の後部座席を占領し、軽く目を瞑り、うとうとしているだけだ。
「なぁ、ジェーン」
チョウは、本を読んでいて、リズスビーは話し相手が欲しい。
「……眠いよ」
「そう言うなって、クイズをしようぜ。質問に答えられなかったら、1ドル払うんだ」
「嫌だよ。眠い」
「じゃぁ、俺がお前の質問に答えられない時は、2ドルでもいい。よし、じゃぁ、お前から」
「……もう、しょうがないなぁ。空に飛び立つときには、羽根が4枚、走る時には、足が5本。水中だと、目が一つ。なんだと思う?」
質問だけすると、ジェーンは、またうとうとと目を瞑ってしまう。
「なぞなぞか?……んー、なんだ? ちょっと、待てよ。考えるから。……くそっ、ジェーン、ほら、2ドルだ」
チョウが、口を挟んだ。
「ジェーン、今のの答えを言えるか?」
ジェーンは目を瞑ったまま、リグスビーから受け取った2ドルのうちの1ドルをチョウに手渡した。