メンタリストでなんちゃって童話 7

 

*鶴の恩返し

 

あるところに、リグスビーという善良な若者がおりました。

ある日、リグスビーが、山に出掛けると、一匹の美しい鶴が、罠にかかってもがき苦しんでいるではありませんか。

リグスビーはさっそく、鶴を助け出しました。

「これは、かわいそうなことをした」

怖がって暴れる鶴を落ち着かせながら、細く長い足を締めつける縄を緩め、リグスビーは、何度も鶴の足を撫でます。

 

その晩のことです。リグスビーの家の戸を叩く音がしました。不審に思ったリグスビーがそっと戸を開くと、金色の髪をした男が立っているではありませんか。

いきなり男はリグスビーをひっぱたきました。

「え!?」

「これは君が僕の足をいやらしく撫で回した分だから。……だけど、君は僕のことを助けてくれたから、お礼をするよ。僕、達鶴は、義理堅い種族なんだ。あ、僕に、あの部屋を貸してくれるかい? 中を覗くのはなしだからね」

叩かれた頬は痛いし、男の言うこともさっぱりでしたが、ずかずかと中に入り込み、勝手にお茶まで入れて、自分の決めた部屋に入り込んだ男のペースに、リグスビーは飲まれ、逆らうことができませんでした。

 

夜半です。

「すごい、眠い。……なんで、僕、こんなことしてるんだろう」

「あっ、間違えた。でも、まぁ、いいや。どうせ、僕のじゃないし」

「あー、もう、恩返しなんて古臭いよ。面倒くさいなぁ」

それでも、一晩、夜は開けました。

朝、扉から出てきたジェーンと名乗った男が、酷く疲れている様子なのが気になったリグスビーですが、自分も男の独り言に悩まされ、眠れぬ夜を過ごしていたので、今から寝るというジェーンに安心し、自分は働きに出掛けました。

昼寝を決め込んでいたのか、夕方帰ってみれば、ジェーンは少し回復したようです。そして、リグスビーが作った夕飯を完食すると、また、覗くなと言って、部屋に籠ってしまいました。

今晩、ジェーンは自分への大絶賛を始めています。

「本当に僕って、天才だよね。こんなきれいなの誰にもできない」

「僕って本当に器用だ。この手さばき、こんなの公開でやってみせなきゃ、勿体ないっていうものだよ」

やはり、ジェーンの声がうるさくて、リグスビーは眠れません。

「……なぁ、何やってるんだ、お前?」

リグスビーは扉の向こうに声をかけました。

途端でした。

「僕、覗いちゃダメだって言ってあったよね」

リグスビーは、一ミリだって扉を開けていません。開けはなったのは、ジェーンの方です。いえ、鶴の方です。

鶴が仁王立ちで、リグスビーは目を見開きました。

「なっ!?」

「せっかく、僕が恩返ししてるのに、君ときたら!」

「お前、鶴! 鶴だ!」

「当たり前のこと、何度も言わないでよ。もう説明してあっただろ」

「ジェーン、お前がやつれてたのは……」

「そう、恩返しのために、羽根を抜いて織物をしていたから」

すると、リグスビーはジェーンに飛び付き、ぎゅっと抱きしめました。

「そんな、やめてくれ!」

リグスビーは羽根がぬけて、細くなったジェーンの身体をきつく抱きます。

「ダメだ。勿体ないだろう! お前のふくよかな腰の肉がそんなことでなくなるなんて!」

「…… は? 今、何て言った? もう一回言ってくれる……?」

身を削る恩返しを、必死に止めるリグスビーの様子には、ジェーンも思わず感動しそうでしたが、聞き捨てならないことを聞いた気がして、額には癇性な皺が寄ります。

「ダメだよ、お前、このすげぇいい手触りを、そんな恩返しなんかで……!」

「誰が、触っていいって言ったんだい?」

ジェーンは、尻を撫でようとするリグスビーを張り飛ばしました。

ですが、恩返しにはすっかり飽きていましたので、もう織物を織るのはやめにして、のんびりリグスビーの家で暮らすことにしました。

「恩返ししてからじゃないと、群れに帰れないんだ。恩を返すなって言ったのは君だから、僕のことちゃんと一生面倒みてね」

 

 

END

 

 

*うさぎとかめ

 

ある日、ジェーンうさぎは、カメのリグスビーをからかってやろうという気になりました。

「ね、あの山の頂上まで競争しないかい?」

ジェーンうさぎは、自分の足の速さに自信があります。

「いいぞ」

リグスビーは快諾し、ジェーンうさぎは、のろまなカメとの競争なんて楽勝だと、スタートに立ちました。

「もし、君が勝ったら、デートしてあげるからね」

「本当か?」

リグスビーはがぜんやる気をだしています。けれども、勿論、ジェーンは自分が勝つ気でいます。

「よーい、スタート!」

ぴょん、ぴょんと軽快にジェーンは山を駆けあがって行きます。

リグスビーは、のろのろと這うような早さですが、粘り強く進んでいます。

 

もう、ジェーンは中腹まで来ました。

まだスタート地点でのろのろしているリグスビーを見下ろし、天気もいいし、昼寝でもしようかと、ジェーンはごろりと横になりました。

そして、ついぐっすり寝入ってしまったのです。

 

「おい、ジェーン、こんなところで寝てるなよ。さぁ、一緒にゴールまで行こうぜ」

カメのリグスビーに起こされたジェーンは、びっくりして飛び起きました。

今すぐ、ゴールを目指そうと慌てましたが、リグスビーは、自分を起こしてくれたのです。それは、ダメだと気付きました。

ジェーンは、ゆっくり、ゆっくり、リグスビーと一緒にゴールを目指しました。

それもまるでデートのようでしたが、

「ねぇ、同時にゴールの場合、僕からデートに誘う? それとも、君が誘うことにする? ねぇ、どっちにしようか?」

 

END

 

 

*かぐや姫

 

むかし、昔、あるところに、竹を取ってくらすおじいさんがいました。

ある日、おじいさんが、いつものように竹を切りに、竹やぶに入ると、まばゆいばかりに金色に根元が輝く一本の竹があるではありませんか。

そっとおじいさんがその竹を切ると、なかには、玉のようにかわいらしい金色の巻き毛の赤ん坊がいました。

子供のなかったおじいさんとおばあさんは、その子を大事に、大事に育てました。

さて、不思議な子供は、不思議に早く育ち、たった三月で、美しい乙女に成長しました。

この子を育てる間にも、おじいさんが竹を切りに行けば、その竹の中に、黄金が詰まっていたりと、おじいさんとおばあさんはもう大層お金持ちになっていたのですが、育ったジェーンが、自分に求婚してくる男どもに、高価なプレゼントを求め、またがっぽりと二人を稼がせていました。

「ねぇ、チョウ。僕さぁ、天竺の仏の御石の鉢が欲しいなぁ。あれを貰っちゃったら、ちょっとお嫁に行きたくなっちゃうかもしれないなぁ」

「マッシュボーン、君ならさ、東の海の蓬莱山にある玉の枝なんて、簡単に手に入るよね? すごくきれいらしいんだ。僕、見てみたくてさ」

他にも、もろこしにある火ネズミの裘だとか、竜の持っている玉、つばめが生むという子安貝など、手に入りにくい、高価なものばかりを、自分に恋焦がれる男たちに求めます。

それで、命からがら、手に入れてきた男たちに嫁ぐ気があるのかと言えば、全くありません。

 

そんな高ビーで、美しい、ジェーンの噂は広く流れ、ついには、時の天帝であるリグスビーも、ジェーンを妃として宮中に迎えたいと言い出しました。

しかし、ジェーンも、さすがに天帝に求められ、断ることも難しく、困り果ててため息をつきました。高ビーだけが理由ではなく、ジェーンは、どれほど求められてもお嫁にいけなかったからです。なぜなら、ジェーンは天女だったのです。

 

そんな、ある晩のことです。

「おじいさん、おばあさん、恩返しは十分したと思うんだけど、僕、そろそろあなた達にお別れして月に帰らければならなくなりました。いままで本当にありがとうございました」

顔を曇らせたジェーンの言葉に、おじいさんと、おばあさんは寂しくてさめざめと泣きます。

目の前で泣かれるのに弱いジェーンも、つい、もらい泣きそうです。

そして、その噂を聞きつけたリグスビー天帝は、ジェーンが月に帰るのを阻むため、自身と二千の軍を竹取りの里へと送りました。

文はかわしていたものの、初めて顔を見たリグスビー天帝の真面目腐った求婚に、ジェーンもちょっとときめいたりもしたのですが、月の迎えがやってくる時は刻々と迫っています。

「あなた達の武器では、月からの使者を阻むことなどできません」

ジェーンは言いました。

「それでも、必ず、お前を守ってみせる」

リグスビーは、言い切りました。けれども、使者が近付き、月の光が強くなると、天帝の軍は誰ひとりとして動くことが出来なくなってしまったのでした。

リグスビーも、ジェーンを求め、大きく前へと腕を突き出した必死の顔のまま、固まってしまっています。ジェーンは使いの御車に乗ろうとして、振り返り、人の世で、一番尊いはずの人のその顔を見ました。

本当に、本当に、リグスビーは、必死の顔をしていました。

「……帰るのやーめた」

 

ジェーンは、月に帰るのをやめました。

そして、策謀渦巻く宮中で、自身も策を巡らせて、天帝の妃として結構楽しくやっているそうです。

 

めでたし、めでたしv