メンタリストでなんちゃって童話 3
ヘンゼルとグレーテル
昔、昔、ここはドイツの暗い森。
「お兄ちゃん……」
「大丈夫だからな、ヴァンペルト」
その日、食べるものにも困るようになったリグスビー家では、とうとう幼い子供が森の中に捨てられました。捨てられた二人は、木の生い茂った暗い森の中で迷い、お腹がペコペコです。
勝ち気なヴァンペルトも泣きそうでしたが、それよりも、ウェインお兄ちゃんの方が、たくさん目が潤んでいました。けれども、お兄ちゃんは妹を守ろうと一生懸命です。
「俺、ここまでの道に、パンを落としてきたんだ。それを辿れば、おうちに帰れるからな、ヴァンペルト」
しかし。
お兄ちゃんが落としてきたパンは、鳥たちによって食べられてしまいました。
「……どうしよう。ヴァンペルト」
けれども、森の奥から、いい匂いがします。
それに気付いたヴァンペルトが、すっかり落ち込んで、茫然としているお兄ちゃんの手を引きました。
「お兄ちゃん、あっちに行ってみようよ」
すると、森の奥には、屋根はクッキー、窓は飴。ドアはチョコレート。壁はウェハース。夢のようなお菓子のおうちが建っているではありませんか!
お腹がぺこぺこの二人は、ものも言わず、齧りつきました。
がりがり、ぺろぺろ。ぱりぱり、ごっくん。
シロアリのごとく、家を食べていく子供たちの音に、驚いて、飛び出してくる影がありました。
「あー! もう! また、僕のうちを食べてる子がいる!」
口の周りをべたべたにしながら、幸せそうに家に齧りついている二人を発見した魔法使いのジェーンが大きな声で嘆いています。
「うわ。ドアが半分ない! もう、やめてよ! 屋根まで! 何回、僕が雨漏りの修理をしたと思ってるんだい!……そもそも、この計画が甘かったのかなぁ。ねぇ、チョウって子は、甘いものが嫌いなのかい? 今度の家は、するめに、おせんべい、ナッツで作る。そうする。もう、決めた!」
end
このお話の教訓 男を掴む気なら、胃袋を掴め!
白雪姫
あるところに、美しいリズボンというお妃さまがいました。
国王のもとに、後妻に入ったリズボンは、継子であるジェーンにも、とても優しく接しましたが、口から生まれたようなジェーンは、小さな頃からおしゃべりが止まず、リズボンの頭痛の種でした。
年頃になったジェーンは、今日もまた、リズボンの部屋にずかずかと入り込むと、大きな鏡を見つけ、口を開きます。
「ねぇ、リズボン、隠しているようだけど、リズボンは、元々魔女だろう? つまり、お里から持ってきた、この鏡は、魔法の鏡というわけだね?」
「……私は、魔女なんかじゃないわ」
一応、お妃さまに魔力があるというのは、内緒です。だって、そんなこと言ったら、国民たちが怖がります。なのに、ジェーンは遠慮がありません。
「またまた。リズボンは嘘が下手なんだから、無理しなくていいのに。じゃぁ、この鏡が普通の鏡かどうか、試してみようか……さぁ、答えておくれ。鏡よ、鏡よ、鏡さん。この世で一番美しいのは誰だい?」
ジェーンは鏡に尋ねます。馬鹿正直に、魔法の鏡は答えます。しょうがありません。それが、魔法の鏡の仕事です。
「それは、ジェーン姫、貴方様でございます。金色の美しい巻き毛、晴れた空のように澄んだ瞳、あなたのように美しい方は、世界にただ一人でございます」
ジェーンは鏡ににっこりと笑います。そして、リズボンに向かってもにこりと笑います。
「リズボン、僕が世界で一番きれいなんだってさ。魔法の鏡って正直だよね。ごめんね、リズボン」
その瞬間、耐えに耐えてジェーンを育ててきたリズボンの忍耐の糸がぷっつり切れました。
世界一の美女の座を奪われたせいではありません。小賢しく見栄っ張りなジェーンの気質に我慢がならなくなったのです。リズボンは、竹を割ったようにまっすぐな性格です。
「ジェーン、あんたなんて、もう、私の娘でもなんでもないわ。あんたなんて森に捨ててやる!」
そうして、森に捨てられたジェーンですが、運だけは強くて、さっさと小人の家を見つけました。勝手に入って、ベッドで眠ります。ベッドが小さすぎると文句を言って、3つくっつけて眠っています。
仕事から戻った小人たちはびっくりです。
しかし、ジェーンは、やたらと器用な性質だったので、小人たちの食事の世話など引き受け、悠々自適に森の生活を楽しみだしました。
そして、そんなある日のことです。
もう面倒みきれないと、ジェーンを森に放りだしたリズボンでしたが、やはり王宮暮らしで育った継子が無事森で暮らしているのか心配になり、妃の気品を魔女コスで隠し、森にやってきました。
下げた篭には、不眠症のジェーンを心配し、良く眠れる魔法をかけたりんごが土産に入っています。魔法のりんごとはいえ、一つ位食べる程度でしたら、一晩、ぐっすり眠れる程度でしたので、リズボンは、小人全員の分も持ってきていました。
ジェーンは、昼寝中のようです。
リズボンが、肩を揺すって起こすと、目を開けるなり、ジェーンが、勝ち誇ったようににっこり笑いました。
「リズボン! ほら、やっぱり、君は魔女だった」
それだけで、リズボンは、ここに来たことを後悔しました。継子のジェーンが不憫だと思って、つい甘やかした子育ては絶対に間違いだったと悔やんでいます。
「……ジェーン、元気そうで何よりだわ」
「うん。僕、ここの暮らしに向いてるみたいんなんだよね。料理や、掃除も裁縫だって、きっとリズボンより僕の上手だし、皆に気に入られて毎日楽しく暮らしているよ。少し不満があるとすれば、話相手が少ないこと位かな? なんでだろう。小人たちってすぐベッドに入って寝ちゃうんだよ。僕がまだ話してるってのにさ」
ジェーンは、久しぶりのリズボンに、森の暮らしを滔々と語ります。
「ここは、朝が早くてね。でも、起きると、空が抜けるように青いんだ。小鳥の声で目を覚ますんだよ。色んな種類がいてね」
本当に語り続けます。相当、話し相手に飢えていたようです。
「小鳥たちが僕のベッドのまくら元に、その朝咲いた花を届けてくれるんだ。毎朝違う種類なんだよ。そういえば、小人たちのベッドは小さくて、僕の身体に合わないから、彼らが僕のために新しいのを作ってくれたんだけどね、その素材が、」
リズボンは、もう頭痛がしてきました。
「……ジェーン! 悪いけど、今日は、このリンゴを届けに来ただけなの。みなさんと一緒に食べなさい。私、あまり体調がよくないの。今日はもう帰るわ」
「え? 大丈夫かい、リズボン? 調子が悪いって……更年期障害……?」
ジェーンは、リズボンの気持ちを抉ってきます。だから、リズボンは、ジェーンが嫌いなのです。
「いい? ジェーン! りんごは、みんなで食べるのよ!!」
しかし、痩せているくせに、食い意地の張ったジェーンは、魔法のリンゴを全部一人で食べてしまいました。
こんこんと眠り続けるジェーンを、死んだのかと小人たちは悲しみます。
そして、数日後。
森に、チョウ王子が通りかかりました。
ジェーンは、誤解したままの小人たちによってガラスの棺に埋葬されていました。
もうお忘れかもしれませんが、ジェーンは、魔法の鏡が言うとおり、とても美しい娘でした。
「……これは、なんと」
チョウ王子は、馬から降りて、まじまじと棺の中を覗き込みました。
すると、その途端。
「ふぁぁ、よく寝た」
リンゴの安眠魔法が切れたジェーンが、ぱっちりと目を覚ましました。チョウ王子はびっくりです。ですが、ジェーンもびっくりです。
「あ、ごめん。……君、王子さまだよね? ねぇ、僕、もう一回目を閉じるからさ、……手順に通り起こしてくれないかな?」
ジェーンは、さっそく目を閉じましたが、王子らしくプリンセスをキスで起こすつもりでいたチョウも、してくれと言われ、寝た振りまでされると、気恥ずかしくてできません。
できないままに、時間が過ぎていくと、焦れて来たのか、ジェーンが薄目を開けて、ちらちらこちらの気配を窺ってくるので、余計にチョウは動けませんでした。
石のように固まったチョウに、しかし、ジェーンはプレッシャーをかけてきます。
「あのさ、僕は、日が暮れて、夜になって、明日になっても、キスしてくれない限り、このまま待つつもりだから」
目を閉じたままのジェーンに脅しをかけられ、チョウも、むかっ腹が立ち、勢いがつきました。腹をくくれば、チョウだってプリンスなのです。キスくらい平気です。ぎゅっと、ジェーンを抱きしめ、唇を合わせます。ジェーンの唇からは、ほのかにリンゴの甘酸っぱい匂いがしました。
「……ねぇ、プリンス、君の名前を教えて」
「チョウだ」
「そっか。チョウっていうんだ。……チョウ」
うっとりとジェーンが王子の名を呼びました。しかし、その短い名を、実は、ジェーンは最後まで呼ぶことができませんでした。
はじめてのキスだというのに、チョウ王子が舌を捻じ込んできたのです。
「えっ!? ちょっ、待っ!」
しかし、舌は、口内を這いまわり、ねっとりと情熱的にジェーンの舌を捕えにきます。
しかも、王子の手は、スカートの中に入り込み、ジェーンの滑らかな腿を撫でていきます。
「チョウ! ねぇ! それは、早すぎじゃ……!」
腿を撫で上げる手の心地よさに、ぞわりとジェーンが身体を震わせているうちに、もう、チョウは、ジェーンの両腿を抱きかかえています。
「ねぇ! ねぇってば! チョウ!」
あまりの急展開に、ジェーンが焦っているというのに、覚悟さえ決まれば、チョウは落ち着いたものです。王子らしい威厳に満ちた強い眼差しで、ジェーンを見つめます。
「俺の妃はお前に決めた。他の奴に盗られないうちに、お前を俺のものにする。何か文句があるのか?」
そのことに対しては、ジェーンもチョウの容貌がばっちり好みだった上、キスまで上手いので、文句はありませんでした。が、ジェーンもプリンセスなのです。もうちょっとムードとか、甘い言葉なんかが欲しかったのです。それは、顔に現れていたようです。
「拗ねているのか? お前はきれいだから、そんな顔をしていても、美しいな。約束する。大事にする。お前のことが好きだ。……俺を好きになってくれ」
希うように、もう一度、チョウから熱心に口づけられれば、ジェーンはすっかり満足しました。
「しょうがないね。そんなにチョウが頼むんだったら、好きになってあげてもいいよ」
こうして、ジェーン姫は、キンブル国のお妃さまとなりました。
継母のリズボンは、ジェーンのいない毎日に、清々して、いえ、喧嘩する相手がいなくて少し寂しい思いをしているようですが、平和に国をおさめながら、暮らしているということです。
「リーズボン。君が寂しがってるかと思って、里帰りしてきたよ」
「やめてー! ジェーン、ちゃんと、チョウ王子に許可は貰ったの!? あんたがふらふら勝手に帰って来ると、キンブル国との国交問題になるのよ! 」
めでたし、めでたし(え?)
このお話の教訓 エッチは、せめて、自己紹介がすんでから。
ピノキオ
チョウは、出来上がった青い目の人形に言いました。
「いいか、ジェーン。もしお前が嘘をついたら、お前の鼻がどんどん伸びるからな」
金色の髪の人形は、チョウを見つめ、それは、それはきれいに、にっこり笑いました。
「チョウ、僕は、嘘なんてつかないよ」
あれ? ジェーンの鼻が少し伸びたようです。
「……ジェーン」
さっそくの嘘に、チョウはため息をつきました。
「ジェーン、俺は、嘘をつく奴が嫌いだ」
きらりと気も強く、ジェーンの瞳が光りました。
「いいよ、僕だって、チョウのことなんて嫌いだから」
ジェーンは言い返しましたが、また、ジェーンの鼻がにょきにょき伸びています。
しかし、ジェーンはやめません。
「本当のことなのに。僕は、チョウのことなんて、大嫌いなんだよ」
ぐんぐん、ぐんぐん、ジェーンの鼻が伸びていきます。
「どうしてなんだ。僕の鼻が! 鼻が……!」
ジェーンが慌てて、どんどん伸びる鼻を押えようとしています。
チョウは、ジェーンの様子に苦笑しました。
「……ジェーン、困ったな。俺は、嘘は嫌いだけど、お前は好きなんだがな」
長い鼻にバランスを崩しながら、ジェーンはびっくりしたように瞬きしました。
ひどく長い鼻をしているくせに、ジェーンは澄まして言います。
「なんだ。チョウがそう言うんだったら、僕もチョウのこと好きになってあげてもいいよ。僕もチョウのこと好きだよ」
するするするっと、ジェーンの鼻が縮んでいきます。ジェーンは、チョウをちらちらと見ながら、はにかんだように笑います。
「うん。もしかすると、大好きかもしれないね」
すっかり鼻は元に戻りました。やめておけばいいのに、まだ、ジェーンは口を開きます。
「でも、きっと、チョウの方が、沢山、僕のこと好きだと思うけどね」
あれ、ジェーンの鼻は伸びません。
どうやら、ジェーンの言葉は真実のようです。
(よかったね、ジェーン)
めでたし、めでたし。
このお話の教訓 ラブラブっていいねv