*この話は、続きものというわけではないのですが、りんたさんのところにある、マリリン・ジェーンを下敷きにして書いています。どういう経緯でマリリン・ジェーンが生まれたのかもりんたさんのサイトにありますv書いてて楽しかったですvみなさん、ありがとうございますv
マリリン・チョウ先輩
ミネッリのバースディにサプライズを用意しようと言い出したのは、ジェーンだった。リグスビーは、ほんの少し、ヴァンペルトの胸の谷間が見られることを期待しただけだ。チーム全員が入れた紙の中から、まさか、自分の企画が選ばれるなんて、思いもしなかったし、しかも、その企画の実行者として、相棒のチョウが当たりの紙を引き当てるなんて、史上最悪の悪夢にも近い。
リグスビーが書いたのは、「マリリンの格好で、バースディの歌を」だ。
チームが集まる場に、リズボンに名を呼ばれ、手招きされたミネッリは、流石に今日が、自分の誕生日だと自覚のあるようで、眉の間に苦悩の皺を寄せて俯くリグスビーの窄められた肩とは対照的に、何かを期待したような笑顔だ。
「期待していいよ。ミネッリ」
言わなくていいのに、ジェーンが耳打ちしている。
その声が打ち消されるより前に、勢いよくドアが開いた。
「うわぁ……」オ!と続くはずの声は、あまりに堂々としたチョウの態度に、虚空に消えた。チームの面々だけでなく、ちらちらとこちらをうかがっていた別班の職員の視線も、皆、言葉もなく、チョウに張り付いたままだ。
五分刈りに近い短い髪に、四角い顔。鍛えられた二の腕の太さは、リグスビーでも負ける。ふわりと可憐な真っ白のドレスの下から見える足は、堂々と筋肉を付けて太く、大きく広げられている。
チョウは、言葉もなく見つめてくる視線を睥睨するように見渡し、冷やかしの言葉は一切受け付けないと、更に威圧をかけてくる。
しかし、あのマリリンが着ていた真っ白の大きく胸の開いたドレスなのだ。幾らチョウの大胸筋が発達していようとも、そこにパラダイスはない。目が離せないのは、怖い物だからこそ、つい見てしまう、あの心理だ。
ボスであるリズボンの目も口も空きっぱなしだというのに、どこから出したのか、ジェーンだけが、にこにことしながら、ロウソクの灯されたバースディケーキをチョウに渡している。チョウは、それを両手で受け取り、石像のように固まってしまっているミネッリの前に差し出すと、低いウィスパーヴォイスで歌い出した。これが下手だったら、まだ笑いようがあるのに、思いもかけず上手いせいで、誰も何も言い出せず、互いの目を見つめ合うだけで、かなり微妙な空気が流れる。その位、チョウの格好は異様だ。
ジェーンに肩をつつかれ、ミネッリもまるで魔法が解けたように慌ててロウソクの火を吹き消した。
「あ、ありがとう……みんな…………チョウ、捜査官……」
「ねっ、ほら。公平に籤を引いた以上、チョウは、絶対にずるしないんだよ。僕の勝ち」
ジェーンが満面の笑顔で、リズボンに手を差し出している。
紙幣を取り出すリズボンは、顔色ひとつ変えることなく、平然と、ひとかたならない女装姿を披露する自分の部下を、まだ、信じられないという顔で見ている。なんと言っても、マリリンだ。あのマリリンの格好なのだ。
「……すげぇな、チョウ……」
もう呆然を通り越し、敬服の気持ちさえ込められた後ろからのその声に、リグスビーも心の底から、同意するしか出来ることがない。
「お誕生日、おめでとうございます。……もう、いいな」
引きつった笑顔を浮かべるミネッリに軽く会釈をすると、チョウは、くるりと踵を返そうとした。
「待って、待って、待って! アレやってくれなきゃ!」
ジェーンが慌てて送風機を取り出した。吹き出した風に、ふわりとドレスの裾が捲りあがり、うおっと声を上げながら、チョウが慌てて、ドレスの後ろを抑えた。こんな時に、つい捲れあがる裾に目が吸い寄せられてしまう男どもは、自分がアホだと心の底から反省する。特に、スカートの下が、トランクスだと知っていながら、後少しだったのに!と、悔しい気分になった自分の頭を机に打ちつけたい気分になる。
「ジェーン、お前な!」
「えっ、だって、マリリンの格好なのに、これしないなんて、マリリンに失礼だろ……ね、チョウ、パンツ、青だったね、ね、ミネッリも見えたよね?」
満面の笑顔から目を反らしたミネッリはごほんと、咳払いをした。
「……あー、リズボン、後でちょっとオフィスへ」
リズボンが夢から覚めたように、びくりと身体を震わせ、大きな目を更に大きく見開いた。「わ、私ですか!? ……ちょっと、どうしてくれるのよ!」
end