黒いブラジャー
ジェーンが泊った朝、シャワーと浴びたいと言い出した彼に、どうそと勧め、自分も用意を整えながら、歯を磨くために、バスルームのドアを開けたチョウは、見てはいけないものを見てしまった気がした。
確かに、チョウのクローゼットには、ジェーンが買い取った紫色のセクシーなドレスがかかっている。だが、あれは、着るためのものというより、テリトリーの主張のために置かれているだけのはずだ。しかし……と、チョウは、強引に着替え中のジェーンから目を離している最中に、コンサルタントのお姫様になりたい発言を聞いた覚えがあることを思い出してしまっていた。
伏せ目がちに俯くようにしたジェーンは、高価そうなレースのついた黒のブラジャーのホックを、背中で留めようとしている。
薄い小麦色の肌色に、黒いブラは、扇情的な感じで良く似合っていた。
ジェーンは背中に回した手で器用にホックを留めて、ドアが開いたことを気に留める様子はなく、作業に滞りはない。
とんでもないところに遭遇してしまっただけに、とにかく自然に振る舞って、そのことには触れたくないとチョウは、女性物の下着を平気で身に着けているコンサルタントをできるだけ見ないようにしながら、歯磨き粉を歯ブラシに絞り出す。
だが、鏡の中に映るジェーンのすかすかの胸にされた黒ブラが気になって、つい、目がいく。
「……なぁ……」
ベストや、ジャケットで隠れるとはいえ、そんな秘密を抱かえたジェーンと、これから今日、一緒に仕事をする勇気がチョウにはない。
いつのまにそんな趣味を持ったのかも気になる。
だが、次の言葉が言い出せずにいると、いきなりジェーンが背中から覆いかぶさって来た。
「すごい顔! チョウがどんな顔するかと思ってやっただけだよ。この世の終わりって顔するんだから、チョウって、すっごく面白いね!」
ブラジャーに包まれたぺちゃんこの胸が、チョウの背中を擦る。
お前の方が、100倍も面白いわ!と、チョウは、猛然と歯を磨いた。
END
女装ジェーンを書ている最中のツイッターで、Yしさんとのおしゃべり中に出たネタですvこの他に、ブラのホックをチョウに外してもらうというネタもありました(笑)