偽薬
「お前、さっきの……何、飲ませた……!?」
「えっ? だから、麻薬取締課で貰った、エクスタシー」
リグスビーと昨日解決済みの事件のことで、報告書に載せる細かい打ち合わせをしていたジェーンは、肩を強く掴まれ驚きながらも、笑いながら振り返り答えのだが、後ろにいたチョウの顔を見て、表情を変えた。
「……え? ねぇ、……チョウ?」
荒い息を押えるためか、口元を覆い隠すチョウの目は赤く血走り、底光りするような嫌な光を帯びている。
「それは、冗談か? ……それとも、本当だとでも言う気か?」
まだ、掴んだままのジェーンの肩にかかる力は強すぎる。睨んでくる目の威力も、冗談ごとではすまされない。
「どうしたんだ、チョウ? なんか、顔が赤いけど、風邪でもひいたか?」
揉め事の雰囲気を孕んだチョウと、ジェーンの様子を気にしたリグスビーが、報告書から目を上げ、口を挟んだが、じとりとジェーンを睨んだまま、ちらりともチョウは目を離さない。
さすがに、もう、ジェーンも笑えなかった。
「あー、あのさ、チョウ、……なにか、誤解があるような気がするんだけど、勿論、僕がおみやげに貰ったのは、偽薬で……」
「向こうに確認のために電話した。お前、向こうで、馬鹿げた手品を披露したそうじゃないか。本物と偽物の見分けがつかなくなって、大騒ぎだったって」
「ちゃんと、本物は、返してきたよ」
懸命にジェーンは釈明したが、獰猛に目を光らせたチョウの表情はまるで変わらない。
「本当か? 少しだから、いいだろうと、ふざけて本物をくすねてきたんじゃ」
チョウは、荒い息を懸命に押さえ込んでいる。
失敗を悔やむようにして、ジェーンは額を押え、俯いた。
「あー、そうだった。……そうだったんだよね。……チョウって、変なところで、信じやすいんだった。あー、しまった。どうしよう」
そして、怒りと興奮で息を荒くしている、職場では非公開の恋人をちらりと見る。ここが同僚の目もある場所だということも、思い出せないほど視野を狭くしているチョウは、完全に暗示にかかっている。それも、『職場でジェーンにセックスドラッグを飲まされた』というチョウにとっては、許し難い思い込みを、深く、深く信じ込んでいるようだ。
「おい、ジェーン、チョウは、どうしたんだ?」
ただならぬ物騒さを漂わせて、ジェーンに詰め寄っている同僚の様子を心配げに、リグスビーがしている。席を立つべきかどうか、彼は迷っている。
だが、この場合、リグスビーの心配は、申し訳ないが邪魔だった。
「あ、そうだ。リグスビー、僕さ、昼から人と会う約束があって、チョウに同伴して貰う約束だったんだ。忘れてたから、今から行くよ。遅くなるかもしれないから、もしかすると、チョウは、そのまま直帰になるかもしれないってリズボンに言っておいてくれる?」
「……いいけど」
駐車場で待ちぼうけを食らわされただけにしては、チョウの様子がただ事ではないと気付いているようだが、リグスビーは、困っているジェーンの様子も敏感に感じとり、それ以上は追及しない。
「ありがとう」
礼を言うなり、ジェーンは、チョウの腕を引いた。チョウが、怒り、乱暴に腕を取り返す。
「とにかく、この場じゃ、どうしようもないから」
それから、何度か腕を払われて、やっとジェーンはチョウの耳元で囁く。
「君の家でなら、どういう風にでも、チョウの言うこときくから、今はとにかく、うちに帰ろう? このままじゃ、君、職務規定違反でクビになっちゃうよ」
いつもより、かなり荒っぽいチョウの運転する車の助手席にジェーンは座っている。
ジェーンだって、こんな荒い運転をするチョウの車に乗っているよりは、自分で運転したかったが、いつもの理性が剥がれかけているチョウは、自分がハンドルを握ることを強く主張し、がんとしてそれを譲ろうとしなかった。
激しく車線変更を繰り返すスピードが出過ぎの車は、次々と車の間を縫い追い越して行く。確かに普段から、チョウの運転は上手かったが、普段なら、こうまで自分の腕を見せつけることをしない。
激しいパッシングでスピードの鈍い前の車に煽りをかけるチョウの隣で、ジェーンは、ふざけて、ぽいっと偽薬をチョウの口に放り込んだことを、かすかに苦く悔やんでいる。
「チョウ、お土産。いま、麻薬取締課の手伝いをしてきたんだ。それ、エクスタシーだよ。今晩、僕、遊びに行ってもいい?」
30分前のあの悪ふざけを、まさか、チョウが信じるとは思わなかった。また3台、スピードを緩めず、チョウは間を縫い、軽々と車を追い越していく。
麻薬取締課に裏を取っているところからして、チョウだって、口に入れられた瞬間には、あの薬が偽薬だとわかっていたのだ。
だが、本当にそうか?から始まった軽い疑問は、時間が立つに従って、じわじわとチョウの思考を侵食しだし、何かわからない薬を飲まされたという不安も後押しして、結局は、「パトリック・ジェーンという男は何をやるか信じられない」という普段からチョウの持っている思いが、警察署内で麻薬なんてものを使わないという当たり前の常識を凌駕してしまったのだろう。
自分で自分を暗示にかけたチョウは、だから、今、まるでセックスドラッグを服用したかのような、獰猛な興奮を示している。
薬がどのような効果をもたらし、どんな状態になるかを職務上よく知っている分、性質が悪い。
だが、ここまで深く暗示にかかるには、「ジェーンを信じてはいけない」という絶対の基礎が、チョウの中になければならないはずだ
思い切りブレーキが踏まれ、車はチョウのアパートの駐車場に止まった。素早く車から降りたチョウは、反対側に回って、ジェーンのためにドアを開ける。
これが、親切心からの行為ならありがたいが、チョウは、引き摺り下ろすようにジェーンを車から連れ出す。腕を引かれたまま、部屋へと連れ込まれるなんて、情熱的な行為だとジェーンも思うが、それが、性欲だけと直結していると知っていれば、足は縺れるし、今一つ、気持ちだって上向かない。
しかし、部屋に着いたチョウは、いきなり毒づくように唸ると、掴んでいたジェーンの腕を投げ出すように離し、キッチンに駆け込んだ。
脇目も振らず、ごくごくと水を飲む。3杯、立て突付けに飲んで、顎を拭うと、叩きつけるようにしてコップを置いた。
「……帰れ。お前を連れて来たのは、判断ミスだった……」
暗い熱を孕んだ目をしながら、チョウは、強い自制心を取り戻して、ジェーンを見つめている。
手を伸ばして、腕を掴んでしまえば、警官たちと肩を並べて歩いているとは言え、たかがコンサルタンと、現場の捜査官では、腕力の差など歴然だ。身体の関係だってある相手なのだ。自分の思い通りにレイプするのなど、簡単なことなのに、チョウは、荒い息を吐きながら、必死に自分を抑え込もうとしていた。
そのチョウの姿には、ここまでの道のりの間、鬱屈した気持ちを抱えていたジェーンも、軽く胸を打たれた。
普段、迷惑を掛けている分、今日は、チョウに付きあって、多少の無理をすることになってもしょうがないかといった諦めや、チョウが暗示にかかることになった薬を口に放り込んだのも僕なんだしといった自嘲、それに、もしかしたら、縺れ込んでいる最中に、暗示を解くタイミングを掴めるかもしれないなんて、この事態を軽々しく考えていた自分を少し恥ずかしくジェーンは感じた。
「チョウ」
チョウは、荒い息を吐き出している口を覆う。そうやって一部を隠されると、チョウのじっとりと獰猛な熱を孕んだ目元の壮絶な色気が、強調される。
「……今すぐ帰れ。自分が何するか、自信がない」
「知ってるよ。チョウ。……僕は、多分、君をその苦しみから、助けてあげられると思うんだ」
やわらく笑いながら、ジェーンは一歩づつチョウに近づいて行った。
だが、内心、自分でも献身的かつ、挑発的な台詞じゃないかと、ジェーンはやつきそうだ。
ジェーンは、チョウを嵌める気なのだ。
しかし、それにも気付かす、チョウは、何度もきつく目を瞑り、正気を保とうと、顔を顰めている。
「ただしさ、僕も怪我はしたくないから、少しだけ君の協力がほしいんだけど」
座らされた椅子の背に、チョウは両手を縛りつけられている。
少し離れた位置に立つジェーンは、さっきから、じっとチョウを見つめているだけだ。
金髪の青い目に見降ろされながら、チョウはどれほど馬鹿になっているのかと、冷静な判断力をなくしてしまっている自分の頭をかち割ってやりたいほどだ。
例え、腕を縛るネクタイが解けようと、決して手の届かない位置にいるジェーンが、欲求不満のあまり、気がおかしくなりそうなほど、きれいにみえた。
服を着れば、細く長くみえる足が、やわらかくきもちのいい脂肪を付けているのをチョウは知っているのだ。
あの足が汗に濡れ、自分の腰に絡んで、むずかるように引き寄せる時の興奮を覚えている。
「……ジェーン……!」
さっきから、何度も、チョウは、ジェーンの名を呼んでいるのだ。
だが、この辛いほどの興奮から解放してくれると言って、椅子にチョウを繋いだジェーンは、にこりと笑い返してくるだけで、手の届く範囲には決して近づこうとしない。
近付かれたら、自分でも何をするかわからないとう恐さをも自覚しているというのに、チョウは、さっき自分を繋ぐ時に嗅いだジェーンのセクシーな匂いが嗅ぎたくてたまらない。
細く長い首筋を舐めて、項に生えた金髪ごと、ぎりぎりと歯を立てて噛みつきたい。それから、肩にも、胸にも歯型を付けて……
「ジェーン……!」
怒鳴るように、再度呼び、苛立ちにチョウは、床板を蹴る。
「ジェーン! ジェーン!」
散々噛んで、あの滑らかな肌に赤い跡を付けたら、四つん這いに這わせ、嫌がる尻をペニスの前に据えて、ずぶりと突き挿し、無理矢理にでも犯す。
まだ、きついジェーンの尻肉は、ぎりぎりと締まり、硬い勃起を懸命に拒もうとするはずだ。
だが、硬いアレで、赤い肉をこじ開けてやる。金髪は暴れるかもしれない。そうしたら、尻を思いきり叩く。
ジェーンが泣いて謝るまで、ずっと叩いて、従わせる。
「チョウ、ねぇ、まず、少し話をしようよ」
じっとチョウの様子を見つめて観察ながらジェーンは、自分の手には負えなさげにみえるチョウの物騒な様子に、ひやりとしたものを感じながらも、背筋がぞくぞくとする興奮も感じていた。
「君は、僕が渡した薬を、まだ、本物だと信じてる?」
睨んでくるチョウの目が、今まで見たことないほど、本気で憎々しげなのが新鮮だ。
「さすがに、それはしないんじゃないかって、君だって疑っただろう? もう少し、その考えを進めてみよう」
かろやかに笑いながらも、ジェーンだって、この状況は、さぞ、チョウにとって腹立たしいことだろうと思っている。箍の外れた本能の前にセックスをちらつかされて、思わず、従った結果が、この拘束と、まるで満足のできない現状だ。
「僕の考えはこうだよ。君は、あの偽薬を飲まされた後、つい、こう考えた。『薬を使って、ジェーンと楽しむのは悪くないかもしれない』」
「そんなことは、考えてない! お前の悪ふざけが過ぎただけだ! そんな場所で、べらべらしゃべってないで、ここに来い」
イライラとチョウが怒鳴る。
「やだよ。近付いたら、チョウに、何されるかわからない」
ジェーンは、椅子をがたがたと揺らすチョウの我慢の限界をはかりながら、チョウが自分で自分にかけた自己暗示を解こうともがいている。
「じゃぁ、いいよ。歓迎しないけど、もっと本当らしい思考を進めてみようか。君は、僕のことを、心底信じてないんだ。僕だったら、悪ふざけでドラックくらい使うかもしれないと、君は僕を疑っている。だから、偽薬だってわかってたくせに、疑いの罠にはまって、チョウ、君は、自分で自分を暗示にかけたんだよ」
にこりと笑いながら、距離を取るジェーンを、じとりと獰猛な光で濡らした目で、チョウが追いかける。もう一歩下がりながら、ジェーンもチョウに視線を当てた。
「かわいそうだよね、僕。疑われた挙句、君に犯されちゃうんだ」
「馬鹿なことを、言ってないで! ジェーン、早く、ここに来い!」
欲求不満のチョウは、普段の比でなく、キレやすい。
「馬鹿なことじゃないんだよ。本当に、チョウは、仕方のない」
肩を竦め、ため息を吐き出す、金髪にペニスを捻じ込み、チョウは、犯したくてたまらなかった。
だが、ジェーンは、少しもチョウに近づこうとしていない。
さっき、怪我をしたくないと言ったジェーンに同意し、きつく腕を椅子に縛ることを許した自分が、今は、たまらなく腹立たしいばかりだった。
拳が砕けるかもしれない強さで、何度引き寄せようと、たかだかネクタイの拘束は解けず、どろどろと苛立ちが腹を焼く。
見下ろしてくる金髪は、今だって全身に隙があり、誘っているようにしか見えないというのに、ジェーンは、焦らすように、側を歩くだけで決して自分に近づこうとしない。
いつもの、少し楽しげにした悪戯めいた顔で笑い、じっとチョウを観察している。
その冷静な顔への苛立ちは、相当なもので、ジェーンを犯り殺したかった。
「顔、真っ赤だね。暑い?それとも、チョウ、何かしてほしいの?」
にこりと笑い、ジェーンが聞く。
何かしてほしいのかなんて、今すぐやらせと言う以外ない。
「ここへ来て、跪け、舐めろ! ジェーン、今すぐにだ!」
だが、ジェーンは、困ったように笑うだけだ。
まるで今すぐやらせるようなことを言っていたくせに、焦らすばかりのジェーンに苛立ちが募る。
ジェーンは、まだ、チョウを観察している。
なぜ、自分がこんなにも辱められなければならないのか、とにかく、チョウは腹立たしくてしょうがない。
「今すぐ、ここに、来いって言ってるだろう、ジェーン!」
何度も怒鳴るように名を呼ばれるジェーンは、チョウが上手に隠していた本来の獰猛さに目を見張る思いだ。
確かに、警察関係者は、暴力的嗜好を持つ者が多いが、これだけ、支配的な性格をして、普段、あれ程冷静な行動を取るチョウを、逆に見直したくなる。
本当なら、ベッドでも、もっと強引でもいいはずだ。
それを、せずに、自分に合わせてくれているチョウの心の大きさに、惚れそうな気すらする。
だが、ジェーンはチョウの気持ちを逆撫でるように肩を竦める。
「こわいね。チョウ」
「来い、ジェーン!」
少しばかりジェーンも、チョウの『パトリック・ジェーンを信頼しない』なんていう考えを頭に染み込ませている態度には、頭にきている。
そして、それから、
ここに来いと怒鳴られることは、10回以上。
ここにきて、舐めろ、雌豚と罵られたのは、7回。
もう、お前とは寝てやらないぞと、脅してきたのが、5回。
さすがに軍隊仕込みのすさまじい罵詈雑言は、バリエーションが素晴らしくて数えきれなく、そのうち階下の住人に通報されるんじゃないかと心配になるほど、暴れた挙句、ついさっき、とうとう、頼むと、チョウは、言い出した。
拘束を抜けようともがいた手首には、明日、事情を疑われることがうけあいの擦傷が赤い。
だが、まだ、がたがたと椅子を揺する。
興奮しすぎの目元は、赤く腫れ、涙が目尻に溜まっている。
「うーん。そうだね、側にいってもいいけど、酷いことしないでよ」
さすがに、ジェーンももうチョウをいじめることには満足していた。というよりは、本当は、彼との接触なしに、会話だけでチョウにかかった暗示を解くことの困難さに限界を感じていた。
本当に、どれだけ、チョウは自分のことを信頼ならないと思いこんでいるのか、いくら言葉を尽くしても、ジェーンを信じようとはしない。
さっきだって、
「雌豚って、チョウ、酷いこと言わないでよ。僕、傷付いちゃうだろ。僕は、君が好きなのに」
すぐさま、チョウは、強く否定した。
「嘘をつけ!」
暗示にかかり、本能を剥き出しにしている今、つまり、これが、チョウの本音だ。
確かに、ジェーンは、自分のためにチョウを利用しているという自覚があったが、こんなに彼を傷つけていたのかと、ひやりと心が冷える。
「ジェーン……!」
「もう、わかったから。そんなに怒らないでよ。チョウ。ほら、僕、君の側にいくからね。でも、わかってるね? 僕に何かしちゃだめだよ」
ジェーンは、慎重にチョウに近づく。近付いて、もう一度、手を出すなと念押しすると、チョウの思い通りに、彼の前で膝をついてやった。
「いいかい? 僕は、君のために、ここにいる。でも、僕に何かしたら、僕は、君を置いて、この部屋から出て行くからね」
そう言って、ジェーンは、チョウの足に手を掛け、様子を窺いながら、欲望に前を腫らすチョウのスラックスのジッパーを下げる。
開けたそこは、長い間の興奮に熱を溜め、むんとした雄の匂いを辺りにまき散らした。
そのまま、待たすことなく、前を濡らす下着をずり下ろせば、血管を浮き立たせたどす黒く硬いものが、ジェーンの顔を打ちそうな勢いで飛び出す。
「すごいね、これは、また」
零れ出した先走りでてらてらと表面を光らせたそれにぺろりとジェーンは、舌を伸ばした。
たったそれだけで、マックスの硬さのペニスはビクビクと、跳ねる。
「ねぇ、チョウ、これがこうなってるのは、僕に興奮したせいかな?」
硬い勃起を口の側に置いたまま、チョウを見上げれば、チョウは、呼吸を荒くし、眼差しだけで続きを強要していた。
しかし、ジェーンは、ドクドクと振動し、激しく欲求を伝えるものに青い目を向けるが、ふふっと笑うだけで咥えない。
「舐めて欲しい?」
「舐めろ」
「命令しないでくれるかな?」
じっと見上げ続けると、とうとう、苛立たしげにチョウが床を強く蹴る。低い唸り声が太い喉元から獰猛に響いた。
「言うだけなのに。本当のことなんだから、簡単じゃない? お前を犯したくて、頭がおかしくなりそうだって」
頬笑みの形の唇は、濡れてドクドクと脈打つペニスの先に触れそうで触れない。
「言ったら……お前は、咥える気があるんだな?」
チョウにはジェーンの薄い唇が、今までで、一番、憎らしく見えて、だが、たまらない欲望を感じた。今すぐ、そこに捻じ込みたい。両手が自由なら、頭を掴んで、まだ開かせたことのない、喉の奥まで開かせ、熱く狭いそこを使って、思うさま、腰を使う。
チョウはごくりと唾を飲み込む。
だが、ジェーンがにこりと笑った。
「あ、待って。やっぱり、言うなら、ジェーン、お前を愛してるって言ってみようか」
その笑顔は、華やかだ。
「くそっ!!」
とうとう、チョウの靴裏は、床ではなく、床に膝をつくジェーンの足を蹴った。
思わずジェーンがよろける。それだけ思い切り蹴ったくせに、チョウは、瞬時にしまったという表情を浮かべた。
どこかに、チョウの正気がある証拠だ。
蹴られた腿は痛かったが、ジェーンは尻もちをついた床で肩を竦め笑った。
「ごめん。調子に乗り過ぎだったね。とりあえず、いかせてあげるね。一回、出して落ち着いたら、チョウ、元に戻るから。あ、それと、下手とか、そういうのは、言うのは駄目だよ」
金髪は、口を開けると、もう焦らすことなしに、腫れあがって先を濡らすチョウのペニスを口の中に飲み込んだ。
あれほど待ち望んでいたやわらかく湿った肉が、チョウのものを咥える。
大きく傘の張り出した先端を飲み込み、くびれまでの間を、やわらかな舌が包み込むようにして舐めた。もう限界に近く、我慢させられてきたチョウのものは、口の中に咥え込まれただけで、いきそうだ。
ジェーンは、前に教えたことを忘れず、唇をしっかりと締めて、チョウのものに吸いついてくる。
ドクドクと脈動する幹の根元を握って、顔を前後にスライドさせ、できるだけ喉の奥まで咥え込もうとしていた。
だが、苦しいその動きは、長くは続かず、口の中から太いペニスを吐き出すと、ねとりと溢れだしていたカウパーを、舌先が丁寧に舐め取ってゆく。
薄い唇は開けられ、もう一度、大きな張り出しを口の中に含んだ。
熱く濡れた口内の肉が、もう限界を訴えるペニスを優しく包み込む。
また、温かな口内にペニスを頬張られたチョウは、縛られた腕を軋ませながら、胸を反らして喘いだ。
「……あぁ、ジェーン」
やわらかく締めつけてくる口内を肉の竿で埋め尽くす良さに、頭の奥がスパークし、チョウは奥歯を食いしばる。
きれいな顔を歪め、頬を膨らましたジェーンがチョウのペニスを口の中のものを吸い上げ、舐める。
股ぐらに吸いつく金色の頭は、ピチャピチャといやらしい音を立てて、なんとか、深いスライドを再開させる。
「出す? チョウ? 出していいよ。……多分、飲めるから」
もごもごと聞きとり難くジェーンが言ったことが、もう、チョウに限界を超えさせた。
ぐっと腿に力が入り、唸りとともに、ジェーンの喉の奥を目がけて撃った。
途端に、ジェーンの身体が強張り、苦しむ舌がヒクヒクと震えてチョウのペニスに触れる。
堪え続けていた射精は、一度では済まず、二度、三度と、勢いよく滑らかなジェーンの喉の奥を叩いていく。
ごほごほと、ジェーンの背がむせ返る。だが、ジェーンは、まだ精液を溢れさせているチョウのものから口を離さなかった。
長い射精の間、ジェーンは懸命にチョウのものを咥え続け、とうとう口内はどろどろのぬかるみになっている。
耐えてはいるが、何度かえずきが込み上げているようで、チョウのものを咥えたままベストの背中が苦しげに咳き込む。
だが、ぶるりと身体を震えさせると、ジェーンは、なんとかそれを飲み下す。
青い目を涙で潤ませ、顔を上げて、口を開くと、チョウに、ねばついた口の中を見せた。舌が赤い。
「ねぇ、チョウ、僕が君のこと好きだってこと、少しは信じてもいい気がしてきた?」
垂れたジェーンの目の睫毛は、涙でしっとりと濡れている。
「いくら僕でもね、チョウがクビになるような真似だけは、絶対にしないよ」
まだ、両腕を縛りつけられたまま、チョウは椅子に座らされている。
その膝の上には、多少体重が軽いだけのコンサルタントが、柔らかくて気持ちのいい尻を乗せている。ただし、コンサルタントの尻は、上等なスラックスの生地に包まれたままだ。
はっきり言ってかなり重い。
「さすがに、今回は、僕も傷ついたな。チョウ、全然、僕のこと、信じてないね」
青い目は、冷たくチョウを見下ろす。
「どうして、僕が、君に、ドラッグを、それも、仕事中に飲ませるなんて思うのかな」
引け目はあったが、チョウは憮然としたまま答えた。
「……普段のお前のどこを信じろって言うんだ」
ちゅっと、優しげに、ジェーンの唇がチョウの頬に触れる。
「ん? チョウ、このまま一晩、椅子に縛り付けられたままでもいいの、君?」
しかし、翌日。
「ジェーン! 麻薬取締課から、電話があった。本物が数錠、偽物と入れ替わっているそうだ」
ソファーに寝そべるコンサルタントを冷たく見下ろすチョウの腕は強く組まれている。
「え? そんなの僕のせいじゃないよ。僕が、あそこで遊んだのに、付け込んで、誰かがくすねたんじゃない?」
思わず辺りに流れたひやりとした空気は、たまたま資料と取りに立ったリグスビーが振りかえったほどだ。
「絶対だよ、チョウ」
二人の顔が目に入ったリグスビーは、揉めているジェーンとチョウの側には決して近寄りたくないと思った。
笑顔で弁解するジェーンを相手に、チョウの目は、暗く据わっている。
「……やっぱり、お前は信じられない」
「酷いなぁ、君……!」
END