*C×Jは、エッチ後という設定です。
CBI 春便り
「何、やってるんだ、お前たち!?」
リグスビーの大声で、ドアの方へと顔を向けた二人は、思い切り、驚きを露わした顔をしているリグスビーにこそ驚いたという顔をした。
リグスビーが屋上のドアを開ける前、ねぇ、今度も、昨日みたいに、入れたままでボールの下のとこ、指でぐりぐりするアレ、やってね、アレ、すごく気持ちがよかっただとか、CBIの建物屋上に、他に誰もいなくて、二人きりだということをいいことに、ジェーンとチョウは、真っ昼間からずいぶんとアダルトな会話を交わしていたのだ。どちらかと言えば、ジェーンが話していて、チョウは、自分で作ってきたサンドイッチを食べることの方を重要としているようだったが。
ちなみに、ジェーンの頭は、チョウの膝に乗っている。そんなラブラブしい格好をして、エッチに注文をつけていたジェーンの髪を、チョウはサンドイッチを頬張りながら指で櫛づけていた。天気の良さに、屋上で昼食を取ろうとしたチョウを、車から、大きなブランケットを持ってきたジェーンが追ったのだ。今日は、風がなく、陽は温かい。そして、同じように太陽の恵みを味わおうと、運悪く、屋上に足を向けたリグスビーは、膝枕で、昼休みを過ごす、男二人を発見し、世界の終わりを見たと言わんばかりに叫び声をあげたわけだ。
「なんで、チョウの膝にジェーンの頭が!?」
「なんでって、僕が、頭を乗っけたからだけど……」
まだ、寝そべったまま、膝から頭だけを上げて、リグスビーを見上げるジェーンは、不思議そうに首をかしげる。
「ジェーン! 膝枕してほしいんだかったら、リズボンとか、リズボンとか、リズボンとか!」
「ねぇ、チョウ、リグスビーの、アレは、ヴァンベルトの名前が言えない反動なのか、それとも、リズボンに母性を感じて、慕っているからか、どっちだと思う?」
さぁ、とチョウは、肩を竦め、最後のサンドイッチを口の中に収めた。咀嚼しながら、入れ物だった袋を手の中で丸める。立ち上がろうとして、コンサルタントに下から、やだよと文句を言われた。まだ、昼休み中だろと、ジェーンは言う。
「リグスビーもおいでよ。ここ、すっごく日当たりがよくて、気持ちいいよ」
しっかりとチョウの膝に頭を乗せ直し、チョウを動けなくさせた金髪のコンサルタントは、まるで食後のコーヒーでも勧めるように、気軽にリグスビーをチョウの膝枕へと誘った。
リグスビーは、誘いに、ぎょっと目を剥いたが、あまりにジェーンが心地よさそうに目を細め、楽しげに誘うせいで、自分の動揺がおかしいのかと、おどおどと少し態度を落ち着かなくした。はっきりと異性愛者で、同性の膝枕なんて嫌悪の対象であるくせに、そういう押しの弱いところが、リグスビーの愛すべきところだ。ジェーンは、実は感触が自慢のブランケットを指先で撫で、ほら、気持ちいいよと、更に、リグスビーを誘惑する。
「チョウの膝、高さがちょうど良くて、寝心地満点だよ」
ねっと、ジェーンに見上げられたチョウは、思い切り顔を顰めている。ジェーンの言葉に操られるように、ついふらふらと、リグスビーが近づいてきているのだ。
「昨日、リグスビー、遅かったんだよね。眠いんじゃないの?」
「実は、そうなんだが」
リグスビーは、おずおずとブランケットの上に膝を乗せた。幸せそうに笑うコンサルタントとは対照的に、同僚はぶすりと睨んでいるが、手をついて触れたブランケットは太陽の光を浴びてふかふかで、実は眠くて仕方のなかったリグスビーを絡め取ろうとしている。さらに、ジェーンは、チョウの膝の上に頭を乗せたまま、時々うっとりと目を細める。まるでうとうとしているようだ。
「リグスビー、お前、マジか……?」
誘惑に抗えず、ブランケットの上に転がったリグスビーの頭が、自分の膝に近づいてきているチョウの声が地を這うように低い。
「だって、ジェーンが、試してみろって」
左の腿に頭を乗せたジェーンを避けるように、リグスビーは、右の腿の上に頭を据えようとしている。ジェーンの頭だけでも、重いというのに、この上、リグスビーの頭までなんて、チョウはまっぴらだった。
だが、目を閉じたままのジェーンが口元だけで幸せそうに笑う。
「どう? リグスビー?」
リグスビーは間近のジェーンの睫毛が意外なほど長いことに、なんだかどぎまぎさせられながら、うーんと唸った。
「悪くはない……」
「俺は、最悪だ」
尖ったチョウの声が上から降ってくる。
「枕は黙ってるものだよ」
陽をたっぷり浴びて、気持ちよさそうに目を瞑ったまま、ジェーンがチョウを嗜める。
「お前ら、頭が重いってことがわかってるか? 職場の屋上で、一人の男の膝に、二人の男の頭が乗っかってるという異様な事態も」
だが、チョウの苦情がまだ続いているというのに
「だー!!!!」
いきなりリグスビーが大声を上げて、跳ね起き、チョウも、ジェーンも目を丸くした。
「頭に、ちんぽの感触があたった!!」
泣きそうな顔で喚くリグスビーに、ジェーンの顔に笑みが広がり、転げるように笑いだす。
「それは、それは」
わざわざ自分は、ぐりぐりとチョウの膝の上で頭を動かし、苦虫を噛み潰したようなチョウの顔をくすくすと楽しんでいる。
「お前ら、二人とも、変だ!!」
喚くリグスビーが指を突付ける。
「人のこと、枕にしたお前も変だ!」
本気で目を潤ませているリグスビーを、ぴしりと指差し、チョウも一言、きつく叱った。そして、チョウの手は、膝の上のコンサルタントの頭も容赦なく叩く。
「降りて下さい。ジェーン」
頭をさすりながら、ジェーンが身を起こした。コンサルタントは不服そうだ。
「リグスビー、先に戻って、コーヒーをいれておけ。俺にチンコがあるのは、当たり前だ」
「あーあ、リグスビー、泣いちゃってたよ?」
「泣かせたのは、あんただろう……」
立ちあがり、ブランケットを畳み始めたチョウを手伝うように、ジェーンは丸めたゴミを預かっていた。
「……でも、ねぇ、チョウ、あれ、ちょっと勃ってたよね?」
ジェーンは、声をひそめてチョウの耳元で囁く。
「実は、リグスビーのこと、好み?」
チョウは、コンサルタントの真意を疑うように、馬鹿にしきった目で、ジェーンを眺める。しかし、ジェーンは口を閉じない。
「だけどさ、チョウは、僕がお願いしたから、僕とセックスしてくれたわけだろう? ってことは、もし、リグスビーがお願いしたら、彼の願いも叶うんじゃないかなって」
チョウは、馬鹿馬鹿しいとばかりに、ジェーンから目をそらして、ブランケットを畳む続きを始めた。
「でも、もしさ、君が僕と付き合ってなくて、それで、リグスビーがお願いしてきたら」
ジェーンが良く回る口を閉じそうになく、仕方なくチョウは口を開く。
「それ以上は、リグスビーの名誉のために、考えるのをやめてやってくれ。一応、言っとくと、リグスビーとは絶対に寝ない。奴は同僚だし、奴の方が先に出世するに決まってるんだから、後々面倒くさいことになるのは嫌だ」
警察内部の出世に関する複雑怪奇さは、コンサルタントになって、初めてジェーンも知った。能力は、評価項目が5項目程になってから、初めて顔を出す。コネ、人種、学閥、性別。確かに、リグスビーの方が、先に出世しそうだ。だが、それは、面倒だという理由にしかならず、リグスビーが、チョウの好みなのかどうかは、わからない。ジェーンは顔を顰め、チョウ、やっぱり、君は、ボーダレス過ぎだと言おうとしたら、先に、チョウに遮られた。
「……この際だから、はっきりさせとくぞ。男か、女かと聞かれたら、俺は迷わず、女だ。あんたは、俺の人生にとっても、イレギュラーだ」
「僕の他にも、もう一人いるけど」
一年以上のつき合いを続けた7人の女の間に、ほんの一時割り込んだ、たった一人だ。だが、ジェーンは、こだわりをみせる。
「僕と話をしてた時は、勃ってなかった。実は、リグスビーに、むらむらした?」
「しない」
「ああいうがっちりしたタイプが好き?」
「違う」
「僕、君が初めてで、あまり上手くないし、リグスビーみたいに若くもないし、」
「……なぁ、ジェーン。なんだったら、今晩にでも嵌めてやる。嵌めたまま、2回でも、3回でもいかせてやる。そろそろ口を閉じないか」
チョウは、もう、この会話を打ち切りたいと顔に書いて、畳んだブランケットを脇に挟み、ジェーンから丸めたゴミを受け取った。
「君は、自分がセックスの上手いのを、上手に利用するね」
ふふんと、納得のいかない顔をして、ジェーンが先に歩き出す。
はぁっと、ため息を吐いて、チョウはその背中を追った。顔には、手に負えない年上の男への苦笑が浮かんでいる。
「……お前、今、怒ったふりで、今晩の約束を取り付けてっただろ……」
「リグスビー、コーヒー!」
しきりと頭の違和感をごしごしと擦っている、まだ、かすかに涙目のリグスビーだけが、その日の午後のかわいそうな人だった。
END
2月22日がにゃんこの日ということで、一日遅れましたが、にゃんこっぽいジェーン。
どこが、にゃんこかと言うと、ひなたぼっこ好きv