S2 一話 ボス子。
だーかーらー!と、ミネリに招き入れられ、リズボンとジェーンの間に立ったボスコは、睨むように見つめてくるジェーンを、一瞬、冷たくねめつけた。
あたしが、ミネリにRJの件を任命されるのは、あたしがあんたより、ずっと信頼できて、有能なせいであって、そう思うのは、ミネリの勝手だし、それに、それは、本当のことだし、つい昨日まで、胡散臭いインチキ霊能者だったあんたと私は全然違うのよ!思うのだ。
ボスコはだが、腹のうちとは逆に、軽くジェーンから視線を反らした。
上司の前で、みっともなく揉めるつもりなど、美意識の高いボスコにはない。
大体、ボスコは、ジェーンがCBIのコンサルタントとしてやってきた時から、嫌いだったのだ。
ブロンドのふさふさの髪をして、垂れた目でにっこりと笑えば、なんだか、ジェーンの周りにはきらきらしたものが飛び交い、局内は、ざわざわと落ち着かない。
それを、また、この頭の足りてなさそうなブロンドの男は、当然と受け止めて、それなのに、わざとらしい控え目な態度で、リズボン達へと握手のための手を差し出していた。
あたしには、あの時から、あんたのお尻についてる悪魔の尻尾が見えていたのよ!と、ボスコは正しい決断を下したミネリの前で、少し居心地悪げな態度を取る。
なぜって、自分の能力のなさも省みず、頭の悪い男が逆恨みして、ボスコの能力を疑うようにして値踏みしてくるからだ。
何が、州の事件解決率をアップさせるために、僕の知識を最大限に生かすよう努力しますよ! あんたにあるのは、急場しのぎの口のうまさと、その顔だけのくせに! 大体がね、たまたま、ブロンドのブルーアイに生まれたからって、偉いわけじゃないのよ! ちょっと見栄えがいいからって、自分のこと格好いいだなんて、おナルな思い違いをしてるみたいだけど、人には好みがあるんだし、第一、男は、顔じゃないわ。ハートよ! あたしみたいな熱いハートが重要なのよ! ハートで捜査するんだから!
ジェーンは、RJのことを自分が一番よくわかっているだとでも言いたげに、ボスコは見下すように見つめたが、そんなのは無視で、ボスコは、ここぞとばかりに、ジェーンのきらきら光る金色の髪ばかりをちらちらと見つめた。
……あら、髪が細い……わよね? やっぱり、そろそろこの男だってそろそろ、禿げ始めてるのよ。ふふ。巻き毛が禿げると、結構悲惨なのよねー。その点、あたしのチャームポイントは、お髭だしー。
少しボスコの気分は向上する。
でも、ほんと、リズボンったら、せっかくあたしが、捜査のイロハを教えてあげたっていうのに、こんな外見だけの馬鹿にころりと騙されちゃって。一緒になって、RJ、RJって、確かに、RJは、最低な犯罪者だけと、あたしたちCBIの捜査官が本気になってかかれば、あんな幼児期に性的虐待を受けた変態の男なんて、こんな胡散臭いコンサルタントに頼らなくったって、必ず捕まえられるっていうのに、もう、だから、女の子って、顔のいい男に弱いんだから……。でも、まぁ、その気持ちは、オネエのあたしにも少しはわかるっていうか、リズボンのところの、リグスビーは、いい男よね。あたし、ホントは、あんな直情型の不器用だけど、一生懸命ないい男の部下が欲しかったわ。そう、それも、この男のむかつく要素の一つだわよね。リグスビーも、チョウも、まるで自分のものみたいに引きつれて、あんたは、ただのコンサルタントだっていうの! それに、まるでインドアな、そのたるんだそのお尻じゃ、全然魅力的じゃないわよ!
はんっ! なによ、その、不服そうな目は! あら、あなた、あたしのこと馬鹿にしてるの? この有能なボスコ捜査官を? 25万ドルも捜査現場で損害を出してきたばっかりのくせに信じられない。
頭の悪いコンサルタントにわかってもらうために、仕方なく、ボスコは、RJ事件について軽く説明をし、そして、どうして、この金髪が、捜査に向かないかを、気遣いのある大人の言葉で説明してやった。
わかってる? ホントは、あんたが変態のRJに夢中の、気持ちの悪い男だから、捜査から外されるんだけど、あたしは優しいから、「辛さで判断が曇っている」なんて言って上げてるのよ。なのに、なに?その顔は、あら、何よ、挨拶もなしに、出ていく気?
ジェーンがドアを閉める。
だが、ボスコはその後ろ姿に視線をくれようともしなかった。
代わりに、心の中で叫んでおく。
いいの。いいのよ。あたしのことなんて無視しなさい。あたしは、あんたが、弱虫の負け犬だって知ってるんだからー!
そして、ボスコに、ミネリから正式にRJ事件の捜査権を任されたわけだが、
だが、パトリック・ジェーンはしつこかった。
プライベートを大事にするボスコに、強引に面会の約束を取り付け、しかも、時間に遅れてくる。
サイテー! サイテー! 本当にサイテー!
時間に遅れて登場した方が、場の中で注目されるなんて、幼稚な手口を使って、あんたにはやっぱり大人の常識ってものがないのねと、待たされたボスコは不機嫌だ。
しかし、常識ある大人だから、ボスコは渋滞なんて見え透いた嘘を言うジェーンの遅刻を笑顔で許す。
しかも、飲み物まで勧めてやる。
しかし、ボスコはそこで、少し驚いた。
動くジェーンを、改めて近くでよく見ると、ジェーンの腰回りに大分肉を付けているなんていう事実を発見してしまったのだ。
それは、毎日腹筋100回を自分に課しているボスコを喜ばせた。
つい、ボスコは頑張ってる自分へのご褒美よと、ジェーンの水と一緒に、ホットドックを注文してしまう。
夢にまでみた大好物のホットドックに、もうその姿を見ただけで、ボスコ心が弾み、匂いには、心がくらくらとして、ごちゃごちゃとうるさいジェーンんの声なんて、元々どうでもいい負け犬の遠吠えと一緒だから、半ば聞き流している。だけど、勿論、あたしは、有能だから、心の90パーセントがホットドックへの愛に満ち溢れていても、そつなくインチキサイキックなんてやりこめますけどね。と、うきうきとボスコの手はホットドックを伸びる。
一口食べれば、そのおいしさに、ボスコの心が蕩けそうになる。
だが、食べた途端に、せっかく成功しつづけてきたダイエットが、脆くも中断してしまったことに気付いてボスコは大きなショックを受けた。
それもこれも、細身のスーツなんか来て、スタイルを誤魔化す、中年腹の金髪がいけないのよ!とキレかけた。
しかし、そこは、オネエの意地で、ぐっと堪えて、RJの情報が欲しいとずうずうしいことを言っているジェーンの見識違いを攻撃することで、気持ちを耐えた。
みっともないことはしないというのが、オネエなボスコの美意識だ。
でも、心の中では、大声で叫ぶ。
ほんと、最低―! あたし、中性脂肪の値が高いのよ! 今度の健康診断でひっかかったら、どうしてくれるのよ! あんたのそのぽにょった腹周りを姑息に隠すベストも最低よ―! あんたがほんとはただのデブだって、あたしもうわかっちゃったんだから! あんたなんて、皺が一杯だし、禿げそうだし、もう、リグスビーも、チョウも、あたしのものなんだから! ほんとよ。あたしの有能さを理解すれば、あの二人だって、あんたなんかじゃなく、喜んであたしの下につくわ。
……ああ、本当に、顔のいけてる部下が一人くらいはあたしも欲しい……。と、つい、ついでに普段からの不満が顔を出すが、それも堪えて、トイレの場所も教えてやらないと、ウィットのきいた皮肉で、金髪をやり込めてやれば、引き際を知らない馬鹿は、にやにやと感じ悪く笑った。
まるで自分ほどミステリアスで魅力的な人間はいないみたいなことを言うから、心を鬼にしてボスコは、まるで世界で一番自分が頭がいいとでも思っているジェーンに現実をわからせてやったのだ。
だが、それでもボスコは、ジェーンに向かって、自分の有能さを示しても、ジェーンの隠れデブも将来の禿げも、現在のしわしわについても何も言わなかった。
あたしは、身体的な欠陥を指摘したりはしないわ!
ボスコは胸を張る。
だって、だって、あたしの方が、若くて、ウエストはスマートで、お肌もつるつるで、お髭だってキュートだけど、その上、私は優しいんだもん!
ただし、あんたの性格の悪さだけは、はっきり指摘しておいて上げるけどね。これは、あんたのためよ、ジェーン。あんたには、同じオネエの匂いを感じるけど、あんたは、ハートがないの! それって、オネエとして最悪よー!
ほら、今だって、許しってものを、せっかくあたしが教えてあげようとしてるのに、わざと真似して、厭味ったらしいんだから。その上、あたしの身体に触って、ほんと、嫌な奴!
やだ。あたしに触るなんて、もう、やっぱり、パトリック・ジェーンなんて、最低―!
今も触ってきたし、もしも、もしもよ、こんなにかわいいあたしに、あの男が嫉妬して、襲いかかってきたら、ボスコ、どうしたらいいの?
ああん、やだ。そうだ。……それよりも、この馬鹿なジェーン絡みで、リグスビーが私のまわりをうろちょろし始めて、あたしの魅力にまいって、チームに入りたいなんて言い出したら、あたし、どうしよう。
やだ、ちょっと、うきうきしちゃう。
だから、その時は、勿論、リグスビーと今いる部下を交換しようと思いつつ、ボスコは、最後にジェーンの心を抉るだろう最後の一言を与え、悠然とその場を去ったのだ。
こうして、ボスコは、ジェーンとの会見を終えたのだが、翌日には、ボスコのログインパスワードは、ジェーンによって変えられた。
何よ。何。なんで、ログイン出来ない訳?
やだ、あたし、パスワード間違えた?
え? あたしのパスは、世界一かわいいバラのつぼみちゃんのはずよ?
えー?
昨夜パス変更したでしょって?
え?
つるつる禿げ?
キー!!!
ほんと、あのおデブの金髪、最低よー!
END
RJ絡みのことがちょっときつくなったせいか、実はボスコさんが苦手で……できれば好きになりたいなぁと、努力してみたんです。……悪意はないです。