安心のポーズ
「おい……!」
「んっ、っぅ、ぅく……ん……お願い、少し、しゃべんないで」
ジェーンの手は、チョウの首に巻きついている。見上げる彼の顔は、辛そうに歪んでいて、唇だって噛まれている。
「……っ、ぁ、……んんっ、……結構、むずかしい……んだ、」
そりゃぁ、そうだと、チョウは思っている。合わさったジェーンの胸は、懸命に早鐘の音を立てている。滑らかな肌が、チョウの胸を擦る。助けるように背中にそっと手を添えたが、驚いたのか、びくりとジェーンの腰が動く。
「あっ、くそっ、ずれた」
珍しく、ジェーンが汚い言葉を吐いたが、チョウも、熱く濡れた粘膜の中に、埋まりかけていた先端が、冷たい空気の中に放りだされて、惜しい気持ちにさせられた。
どれだけ、負けず嫌いなのか、すぐさま、ジェーンは再チャレンジを始め、チョウのものを掴んで、尻の間の小さく口を閉じた窄まりの下へと据え直すと、眉の間に色気のある皺を刻んで、また、じわじわと腰を落とし始めた。
さっきまで、お互いの身体に触り合って、どうでもいいことを喋り合いながら、もう、それだけでいこうとしていたのだ。
しかも、チョウのアレを握って、くすくすと笑っていたジェーンが喋っていたことなんて、チョウのことをからかうジョークだった。
「ねぇねぇ、知ってるかい? オーガズムには、積極的なオーガズムと、消極的なオーガズム、それから、神霊的なオーガズム、偽装的なオーガズムの4種類があるんだよ」
どうでもいいと思いながら、チョウは、はっ、はっと湿った息を吐き出して喘ぐジェーンのものを扱いていた。
「教えてあげるね、チョウ」
汗を滲ませた腰を快感に捩っているくせに、どうして、こんな時までこいつは黙らないんだと思うのに、青い目がキスして欲しそうに目を細めれば、チョウの唇は、そこを塞ぎに行く。
「積極的な絶頂っていうのが、ああ、いいわ! いいわ! いいわ!って奴で」
ジェーンは、チョウの腰に足を絡めて、大胆かつ卑猥に腰を揺する。そして、ちらりとチョウの興奮度を計るように薄目で窺う。
「消極的なのってのが、あっ、ダメっ! やっ! あんっ!ダメぇッ!!っていうのでさ、神霊的ってのは、ああ! 神様、いくっ! いっちゃう! いっちゃう!って」
チョウの手の中のジェーンの硬いものは、もう、本当にいきそうに硬くなっていて、時折、びくびくと震えながら、先端からとろりと粘ついたいやらしい液を、漏らしている。
なのに、金髪は、得意げに、ちろりと唇を舐めている。
「で、偽装的なオーガズムってのはさ、『ああ! キンブル! キンブル! キンブルっ!!』」
唇を押しつけるようにしてキスしながら、一人で、ジェーンはくすくすと笑ったのだ。そして、チョウの顳顬や、笑いの欠片もない頬に上機嫌にキスすると、いきなりベッドから身を起こした。
「ねぇ、チョウ、ジェルって、……ああ、あった」
「ジェーン……?」
突然思い立ったジェーンが起こした行動の結果だからして、あそこに塗り込められたジェルも、たかだが細かく襞を寄せたいやらしげな表面と、そこから、指の関節1本分の赤い粘膜がせいぜいだ。
きつく口を閉じた肉輪が濡れた粘膜をわずかに開くが、太いチョウの先端を拒み、なかなか、中には進ませない。
たが、ジェーンも諦めない。
やっと飲み込んだ亀頭の部分を半分ほど咥え込んだまま、はぁはぁ息を吐いて、何度もごそごそとやり直す。
中途半端に口を開いたいやらしい尻でもって、怖々といった感じに、そろそろと腰を落とし直す。
金髪の腰は、怯えたように震えていたが、はっきり言えば、それだけでも、チョウにとってはかなりよかった。
浅すぎる挿入は、ジェーンにとっては、苦しいだけのようだったが、もう少し早く、そして、数十回動きを繰り返されれば、感じやすい先端ばかりを攻められているチョウのものは、みっともなくジェーンのそこを汚す可能性さえある。
「……っん、ぁ!」
やっと、ジェーンが覚悟を決めたように、息を詰めるとぐっと腰を落とし、半分ほどチョウのものは、熱い肉の中へと包み込まれた。痛いほど肉輪がペニスのくびれの少し下辺りを締めつけ、やわやわと動く肉襞が柔らかく濡れて、熱くチョウを包んだ。
だが、そこの心地よさとは、全く逆に、青い目に涙の水膜を張って、ジェーンがチョウを睨む。
中途半端な挿入に、ジェーンは辛そうに胸を喘がせている。
「これってさ、チョウのが太いのが、問題だよ」
涙ぐんだ目元はぞくりとするほどの色気だというのに、いつも通り、ジェーンは、問題点を他者になすり付けた。これは口先だけで生きてきた男に染みついた習性だと思いながらも、時々、チョウは、このジェーンの癖に腹立たしさを隠しきれない。だが、チョウが、むっと口元を顰めても、まだ、ジェーンは黙らない。
「僕の尻が壊れたら、チョウに責任を取ってもらうから。知らないだろうけど、これする度に、僕は、これから焼かれるのを待ってるクリスマスターキーにでもなった気分なんだ。尻も腹も一杯で、もう、絶対になんにも入らない」
だから、チョウもつい口が滑るのだ。
「お前が勝手に乗ったんだろ」
「あ、チョウ、しゃべらないでよ」
ぎゅっと、ジェーンがしがみついてきて、思わずチョウはその身体を受け止めた。
滑らかな胸は、体内に受け入れているものの大きさに苦しみ、早い息に大きく動いていた。背中は緊張で酷く力が入っている。
「……なんで、こんなにまでして、したいんだ?」
色を白くしている顔を覗き込むと、青い目はすかさず反らされた。
「それより……手伝ってくれる?」
曖昧に反らしたままのジェーンは口を割りそうになく、しかも、こんな中途半端な状態ではどうしようもなくて、チョウは、中に溜めていたものを金色の陰毛に漏らし汚して、項垂れてしまっているジェーンのものへと右手を伸ばした。
そして扱いて大きくさせながら、左手は、ジェーンをしがみつかせたまま、尻の谷間を探っていく。
ペニスの太さに広がり、食い込んでいる尻の穴の縁を、揉み込むようにして、今更なマッサージでそこの緊張をほぐしていく。
皺が伸びきるほど、開いているそこは、皮膚が薄くなっていて、中にあるものの硬さすらわかるほどだ。
ビクリとしがみついている腕の力をジェーンが強くした。
「……ぁ、……っぁ、ね、入れられてる時に、そこ、触られるのが気持ちいいって、僕、ちょっと変態かな?」
耳元で、少し困惑気味に、ジェーンがつぶやく。
「気持ちいいんなら、いいだろ」
チョウは、殊更、指の腹で、広がり薄くなった皮膚を擦ってやった。また、小さな声が聞こえて、ジェーンの腰がもぞりと動く。
「でも、前、扱かれるより、気持ちいいとか、変態じゃない?」
心配そうなジェーンの声がおかしくて、チョウは、前を扱く手を止めた。ペニスを飲み込み、広がった尻の穴の縁だけを指先で辿る。
一周辿りきる前に、ジェーンの尻が逃げそうになり、また抜けたら困ると、チョウは丸く脂肪を付けた尻を掴んだ。
「どうだ? 気持ちよかったか?」
引き摺り下ろされそうな気がしているのか、手の中の柔らかな尻は逃げたそうだ。
「……いい、んだけど、……でも、さっきよりは……」
「確かに、あんたは、尻で感じる方だけど、普通だろ」
やってる最中だって、時々前を触ってやらないと、ぐずりだすしなと、チョウは、ジェーンが気が付いていないだろうことを耳元で教えてやった。ジェーンは息のかかった耳を押えて、困惑気味に顔を顰める。
だが、それよりも、と、チョウは、中途半端にチョウのものを飲み込んだまま、揉み込むように蠢き始めている肉壁をそろそろどうにかしたくて、とうとう掴んだ尻を、勝手にじわじわと引き下ろし始めた。
女の尻より高い体温を感じるジェーンの丸みが、手の中で逃げたそうに動く。
だが、チョウは、もう覚悟を決めろと、苦しそうにしたジェーンの顔に視線を据えたまま、掴んだ肉を離さずに、埋めつけられた硬くそそり立つものにそって、ジェーンを引き摺り下ろす。
「息を吐いてろよ」
「……簡単に、言う」
じわじわと、ペニスの先端は、閉じていた熱い肉を穿ち、濡れた肉壁に全てが包まれていく。
「……っ、んん、んっ!」
尻肉が下腹を覆う陰毛に触り、チョウの腰の上へとジェーンの全体重がかかる根元のところまで全部を、飲み込ませると、低く喉元に唸りを溜めていたジェーンが、いきなり顔を上げ、噛みつくようにしてキスしてきた。いや、本当に噛んできた。
「痛くて、苦しい、最低だ」
チョウは、唇の端と、頬を噛まれた。
「チョウの、太すぎるよ。いつか絶対、僕の尻が壊れる」
それも、2度もだ。
ジェーンも顔を顰めて目元に涙を溜めているが、チョウだって、笑顔というわけにはいかない。
だが、噛んだと思ったら、今度、ジェーンは、頬を摺り寄せてくる。腰を掴まれている間も、ずっと首に絡んでいた腕にぎゅっと力が入った。ぺたりと胸が合わさる。
「……なのにさ、こうやって、顔を見ながら、入れてもらえたら、すごく幸せそうな気がするんだから、なんでなんだろうね?」
思わず、胸が締めつけられた。だが、口を突いて出たのは、かなり間抜けな台詞だ。
「……それは、俺に、惚れてるからか?」
やはり、ジェーンは笑った。嬉しそうに、目尻に皺を寄せて笑うと、そのまま唇を尖らせて、キスを求めてくる。ちゅっと唇を合わせて、そのまま舌を滑り込ませようとすると、閉じたままの薄い唇に拒まれた。仕方なく、チョウは、大人しく唇を合わせるだけのキスに甘んじる。
ジェーンは、勝手気ままに、チョウの唇を噛んでいる。
「どうかな、……でも、そうかも。……だと、いいなって感じだね」
そして、キスに気が済むと、ジェーンは、困ったように肩を竦めた。
「実はさ、僕の目的は、ここまでなんだよ。こうやって、チョウと抱き合ってみたかったんだ」
こんなに痛い思いをさせられるとは思ってなかったけどと、立て膝のままチョウの腰を足の間に挟みながら、ジェーンは、身体を預けてきた。こつりと金色の頭がチョウの肩に乗る。
「……つまり、これ以上、何かしようって気がなかったって言いたいんだけど」
ちらりと見上げてきた青い目は、こんなに深く繋がっている最中に、これが最終地点だと甘え、チョウの忍耐を試す気だ。
ジェーンの身体を腰の上に分かちがたく抱きしめるチョウは、男がこのままやめることなど無理なことを知りながら、無茶を言う年上の頭を思い切り叩いてやりたかったが、同時に髪がくしゃくしゃになるほどきつく撫でてやりたりたいような気分だった。
しかし、中に入れたチョウのペニスになじんできたジェーンの肉壁は、きついばかりだった締めつけをやめ、時折、絞りあげるような動きを始めている。今も、根元だけをぎゅっと締め、熱く濡れた肉襞が、チョウのものをすっぽりと包み込んで纏わりついてくる。
チョウは、滑らかな背中を抱きしめながら、耳元で囁いた。
「このまま、お前を押し倒すのも駄目なのか?」
正直、この濡れて熱い場所を擦りあげ、狭い肉の中にペニスを埋め、穿ちたかった。柔らかい肉の中へと、硬く猛った自分のものを深く突き挿し、ずるりと引き抜く。ジェーンが息を上げても、叩きつける腰の速度を緩めず、突きあげ続ける。泣くまで、これがどれほどいいのか、教えてやる。
「少なくとも、このまま僕が動くっていう案だけは、ありえない」
顔を上げて、ジェーンが、チョウの顔を見つめ、目元に手を伸ばしてきた。
「チョウ、今、君は獣の顔をしてるよ」
ジェーンがしかたがないなぁと笑った。
「ねぇ、僕のこといじめたいのなら、後でつきあって上げるから、もう少しだけ、こうして抱きしめててくれないかな? なんでかな、今だって、痛いのに、こうしてるの、すごく幸せな感じなんだ」
力を抜いた身体を抱きしめながら、チョウは、その肩や、髪に口づけ続けた。
心音は、興奮を押さえ込んでいるチョウの方が、ずいぶんと早い、合わせた肌をジェーンは心地よさそうにしている。
ジェーンの柔らかい手がチョウの短い髪を弄る。
「いい子だね、チョウ。後で、『いい! キンブル! キンブル! キンブル!』って、ちゃんと言ってあげるからね」
聞き捨てならないことを聞いたチョウは、無言で、素早く体位を変えた。
繋がったままベッドを軋ませ、強引にベッドへと磔にしたジェーンを見下ろしながら、大きく割った太腿を抱えあげる。
「ちょっ! ちょっと! ジョークだって、チョウ!!」
「ふん。ジェーン、ぜひ、言ってくれ」
END