魔法中年ショーン

 花魔人との対決

 

その日、ショーンは、まだ、十分眠っていられるはずの時間に電話で起こされた。

「ショーン!」

「・・・おはよう。ヴィゴ」

ヴィゴの声は大きかった。

なんだって、こんな朝早くに!という気持ちを、ヴィゴから電話が貰えたという感激が多い尽くすのには、多少の時間がかかった。

「ああ、おはよう。ショーン。なぁ、すごいことが起こったんだ!ショーン。すごいことが起こったんだよ!なんだと思う?」

嬉しそうなヴィゴの声は、あまりこちらの時間について考えてはいないようだった。

ショーンは、自分の額を強く掴み、感じている頭痛に対して、小さなうなり声を上げることでやり過ごすと、勢いをつけてベッドの上に体を起こした。

「・・・どうした?ショーン?」

「いや、別に・・・。大丈夫だ。それで、どうしたって?ヴィゴ」

「だから、すごいんだよ。ショーン。リーの言っていたプレゼントが、航空便で届いたんだが、これが!」

嬉しそうなヴィゴの声は、ショーンに嫌な予感を抱かせた。

ショーンが、リーから貰ったプレゼントはとんでもないものだった。

ショーンがどんなに努力しても外れないそれは、今も、ショーンの胸で揺れているが、撮影の時などには、どうということなく、スタッフの手によって外されるのだから、たまらない。

「・・・何が届いたんだ?ヴィゴ」

ショーンは、警戒しながら聞いた。

「聞いて驚くなよ。それが、何も。なのさ。箱を開けた当初は、ぎっちり入ってたんだよ。タキシードに、シルクハットに、マントに、なんだか、杖みたいなステッキな。それから、目の部分だけのマスクだったかな?とにかく、どこのパーティに行けって言うんだ?って位、一揃え、クラシカルなのが入ってたのに、俺がリーに御礼の電話をして戻ったら、箱の中には何もない!」

「誰かが、片付けてくれたんだろう」

ショーンは、自分に起こったことが、ヴィゴにも起こりつつあるのだということを認めるのが嫌で、何とか物事を現実的に処理しようとした。

ヴィゴは、抗議の舌打ちをした。

「この家には、誰もいないってのに?」

ヴィゴは、リーの魔法だとでも言いたいらしい。

ショーンは、顔を顰めた。

「どうせ、家に鍵なんかかけてなかったんだろう?ヴィゴが電話している間に、誰かが入り込んで、持ち出したんだよ」

ショーンは、ヴィゴが体験した不思議が魔法だとわかるだけの経験をしていながら、まだ、無駄な抵抗を続けた。

「俺は、荷物と同じ部屋で電話してたのにか?そのほうが、プレゼントの喪失よりよっぽどマジックだ。何だよ。ショーン、俺の話を信じない気か?」

「・・・いや、そういうわけじゃないが・・・」

ショーンは、リーがくれたマジックアイテムについて考えるのが嫌だった。

ショーンに与えられたペンダントは、決してショーンを幸福にしない。

あのとても恥ずかしかった変身だけでも、いい加減迷惑なギフトだと思っていたが、その後、ショーンがこっそりとシェフィールドが試合に勝つことを願ったり、宝くじに当たるようお願いしたことを、アイテムは、何一つ叶えてはくれなかった。

「なんだよ。ショーン。俺、これでも結構楽しみにしていたんだぜ?リーが、ショーンと仲良くなれる魔法のグッズをプレゼントしてやるって言ってたから」

「・・・ヴィゴ。そんなこと本当に信じてたのか」

ショーンは、ヴィゴから、もっと仲良くなりたいと言われた幸福を奥歯に噛み締めながら、つい、突き放すような返事をしてしまった。

言った後、すぐに、ショーンは、後悔した。

「ショーン。俺が、もっとあんたと一緒にいたいって思っちゃ迷惑だってのか?この電話も迷惑?」

「いや、そんなことはない。違う。違うんだ。ヴィゴ。電話は嬉しいに決まってる。ただ、魔法のアイテムなんて、そんなものろくなことにならないに決まってるから・・・」

ショーンは、真っ裸にされた変身の後、気を失っているスタッフを引きずり、大変な思いをしてスタジオまでたどり着いた。

スタッフに変身の時の記憶がなかったのが、なによりだったが、ずいぶんと遅れてスタジオに入ったショーンは、監督に刺々しい注意を受けた。

魔法のグッズが、どうショーンとヴィゴの仲を進展させてくれるのか知らないが、現在のところ、ショーンは迷惑ばかりこうむっている。

ヴィゴは、ふっと、笑ったようだ。

「まぁ、いい。リーのおかげで、ショーンに電話をする口実も出来たし、ショーンが、魔法グッズの呪いを信じているらしいってかわいらしいこともわかったしな。ちょっとばっかし、ショーンとクラシカルなパーティに出かけられなかったのは残念だが、ギフトが、なくなっちゃ、ね。仕方が無い。諦めることにするか。ああ、でも、ショーン。もし、リーに会う事があったら、あの手品の仕掛けを聞いといてくれないか?リーの荷物についていた電話番号、御礼の電話をしたときには通じたのに、その後は、何度かけても、使われてないって言うんだ」

ショーンは、リーになど会いたくないと思いながらも、ヴィゴに向かって快諾の返事を返した。

ヴィゴは、急にショーンの時間が、早朝だと気付いたらしい。

「悪かった」と、突然の思いつきを何度か謝って、もう少し眠るよう、ショーンに甘くささやき、電話を切った。

かかってきた時と同じくらい唐突だった。

確かに、ショーンの枕元においてある時計は、まだ、しばらくの睡眠時間を教えていた。

せめて、ショーンは、ヴィゴの声が耳の奥から消えないうちに、もう一眠りしようとした。

だが、そうはいかなかった。

 

「ショーン。お前に危険が迫っているぞ!」

リーが、いきなりショーンのベッドルームに現れた。

だが、そのことに驚くまもなく、同じ時、もう一度、電話が鳴った。

ショーンは、リーの出現にあっけに取られたが、手は、無意識に受話器に伸びていた。

つい習慣で、リーにそのまま待ってくれ。と、合図を送りながら、あまりの驚きで、こわばったままの声で、電話に出た。

「もしもし」

「・・・ショーン」

電話の主は、オーランドだった。

あまりに珍しい相手に、ショーンは、ぱちぱちと瞬きした。

「どうした?珍しいな」

ショーンの視界のなかでは、リーがやってきたときの慌しさを恥じるように、背筋を伸ばし、髪を撫で付けていた。

ショーンは、ベッドルームのドアが開いていないことを確認した。

やはり、リーは、突然、ここへ現れたていた。

「ショーン・・・あの、ショーン。こんな時間に迷惑なのはわかってるんだ。でも、俺、どうしてもショーンと会わなくちゃいけないような気分になって・・・」

「どうした?大丈夫か?オーリ」

オーランドの声は、寂しげで、思いつめていた。

ショーンは、目の前で起こっている不可解な現実、つまり自分のベッドルールにリーがいるということだが、その大きさからして無視しにくい事象を、無理やり視界の外に追いやり、電話に向き合った。

「オーリ。何か、困ったことでもあったのか?」

無視された事象は、すました顔をしてショーンの部屋を見回し、その乱雑さに顔を顰めたが、礼儀正しく順番がやってくるのを待っていた。

オーランドは、落ち着きのない息遣いをしていた。

「・・・ショーン。あの、突然で悪いんだけど、ほんのちょっとでいいから、会ってくれない?」

「会うって、オーリ。お前、どこにいるんだ?お前、時間なんて取れないだろう」

ショーンは、自分の身の上以上にはおかしなことにはなっていないだろうといつつも、あの明るいオーランドが一体どうしたんだと、心配になった。

「う・・・ん。それが、もう、なんでだか、さっぱりわかんないんだけど、俺、今、イギリスにいて・・・」

「え?どこに?」

「うん・・・あの、多分、ここ、ショーンの家のすぐ側だと思うんだけど・・・」

「・・・はぁ?」

ショーンにも、オーランドが陥っている事情がさっぱりわからなかった。

窓の外は、まだ、薄暗いはずだった。

イギリスにいるにしたって、どこかのホテルから電話をかけてきたのなら、まだしも、ショーンの家がある住宅地にいきなり若手トップスターと言ってもいいオーランドがいるなんてことは考えられない。

「オーリ。落ち着いて。本当にそこは、俺の家の側なのか?」

「う・・・ん。多分、そう。おかしいんだよ。俺、自分ちの側で買い物をしてたはずなんだ。なんだか、突然、ショーンのことを思い出して、会いたいなぁとか思ってたら・・・信じられないけど、こっちにいて・・・」

ショーンは、オーランドが陥っているらしい不思議について説明できそうな気がするリーに向かって、ちろりと視線を向けた。

待ちぼうけをくらいながら立っているリーは、遠慮なくとでも言う気なのか、ショーンに手を挙げ、にこりと笑った。

ショーンはそのすまし顔に舌打ちした。

「ああ、オーリ。俺の家の位置はわかるか?すぐ、俺も家の前に出てやるから、とりあえず、こっちに向かって歩いて来い。その位近くなんだろう?・・・なんて言うか、多分、俺は、お前の話を信じてもいい状況にいるから、遠慮なんかせずに、必ず来るんだぞ。わかったな」

ショーンは、電話を切ると、リーを胡散臭い目で見た。

 

「・・・リー。あんた、一体何の用件で来たんだ」

オーランドとの電話が切れるまで、礼儀正しく順番を待っていたリーは、ショーンに、にっこりと微笑んだ。

「おはよう。ショーン。朝早くにすまないね。年よりは朝が早いんだよ」

確かに、人を訪ねるには、早すぎる時間だった。

しかし、パジャマ姿のショーンとは違い、リーは、十分、人の家を訪ねるに当たって失礼にならない格好をしていた。

「挨拶はいい、リー。それよりも、とっとと、あんたが玄関からじゃなく、現れたわけについて説明してくれ」

「相変わらず、君はせっかちだ。じゃぁ、早速だが。ショーン。実はね。君を新しく仲間に迎えたに当たって、我々、魔法士同盟は、承認と同時に、君が新しい魔法戦士になったということを敵陣にファックスしたんだ」

「・・・リー」

ショーンは、低い声で、リーの名前を呼んだ。

いろいろと耳障りな内容が、ショーンにすんなりとリーの話を聞かせなかった。

しかし、リーは、ショーンを無視して話を進める。

「そうしたら、敵の魔王が、いたく君に刺激を受けたようでね。これから君を集中的に狙うというんだ」

「・・・リー」

ショーンは、無駄を承知で、もう一度リーの名を呼んだ。

だが、面の皮が厚い老人は、表情一つ変えることなく、淡々と話を続ける。

「まぁ、攻撃を受ける機会が増えれば、それだけ、ヴィゴとの接触も多くなるだろうから、ショーンにとっても辛いことばかりというわけではないだろうと思うんだが、しかし、ショーンも魔法戦士になったばかりだし、ちょっと注意をしておいてやろうかと、朝早くに失礼かと思ったが、慌ててやってきたわけなんだが」

リーは、にこりと笑った。

「おせっかいだったかね?」

背の高い魔法使いは、はじめて、ショーンの表情を伺った。

ショーンは、ぎゅっと握り込んだ拳がぷるぷると震えるのを感じた。

「・・・リー。面倒だからな。一気に聞くぞ。俺が魔法戦士って、何だ。ファックスしたって、どういう意味だ。魔王って、誰なんだよ。ファックスするような仲なら、対立なんかするなよ。集中的に狙うって、どういうことだよ。ヴィゴとの接触が増えるって、それさえ言っときゃ俺が大人しくしてると思ってるのかよ。ああ、ついでだ。ヴィゴが、あんたからのギフトが消えたって、電話をかけてきた。どういう手品なんだか、仕掛けを教えろって言ってたぞ」

ショーンは、リーをにらみつけた。

リーは、少し小首をかしげた。

「ヴィゴのギフトは、見えなくともヴィゴの側にある。魔法の発動が必要とされる時には、ちゃんと出現するから、心配しなくてもいい」

リーは、そこで、言葉を切った。

ショーンがいくら待っても、それ以上のことを言わない。

「リー・・・もう一度、頭から、質問を繰り返そうか?」

ショーンは、怒りで震えそうになる声を、精一杯コントロールしながらリーに言った。

「いや、してもらわなくてもいい。ショーン、お前の質問は、修行も積んでいないような魔法戦士になったばかりの者には、許されないものばかりなんだよ。ショーン」

「・・・・・・リー」

ショーンは、うなるようにリーの名を呼んだ。

「俺は、なりたくて魔法戦士とかいうのになったわけじゃない!敵なんか来られても、どうしていいのかわからないんだよ。わかるか?迷惑!迷惑なんだよ!このペンダントを外してくれ。そして、持って帰ってくれ。悪いが、俺は、世界平和のためのボランティアをする気なんてないんだ!!」

ショーンは、ペンダントをぐいっと引っ張った。

すると、いきなりそれは光りだした。

まぶしさに、ショーンは目を瞑った。

「おお!ショーン。敵が近くにいるようだ」

リーは、重々しくショーンに告げた。

「何だって!?」

「魔王は、戦士のよく見知った人間を自分の手下にすることが多い。ショーン。さっきの電話。オーランドだって言っておったな」

「・・・言ったが・・・」

ショーンの額に深い皺が寄った。

ショーンの顔には、今、起こっている全ての事柄を拒否したいとはっきりと書いてあった。

「残念だが、ショーン。多分、オーランドは、魔王に操られている。ショーン、お前は、魔法戦士として、地球の平和のために戦わなければならない」

「嫌だ」

ショーンは、ペンダントの輝きを手の中に隠すようにぎゅっと握り締め、布団の中に潜り込もうとした。

もう、わけのわからないことに付き合うのは真っ平だった。

「ショーン。お前は、大事な友人が魔王の手下にされたままでいいのか?彼らは、一度倒してやらないと、元の姿に戻れないんだぞ」

「だから!俺は、遠慮するって言ってるだろう!!」

ショーンは、シーツから目だけを出して、リーを睨みつけ、また、シーツのなかに潜り込んだ。

「ダメだ。ショーン。ほら、オーランドがお前の家の扉の前までやってきたぞ」

リーは、門の前でためらっているオーランドの姿を映し出した。

ショーンは、指を鳴らすだけで、そんなことの出来るリーを薄気味悪く思った。

しかし、魔法戦士うんぬんは抜きに、ショーンは、オーランドを迎えてやらなければならなかった。

とにかく、オーランドは、早朝のイギリスで心細い思いをしている。

「気をつけるがいい。ショーン。何事もはじめが肝心だ・・・」

ベッドから足を下ろしたショーンに、リーは先達としての警告を与えた。

ショーンは、怒鳴った。

「うるさい!俺は、オーリを迎えに行くだけだ!!」

リーは、優雅に頭を下げた。

いきなり姿が消える。

「おい!ちょっと待て!これでもし、本当にオーリが、敵だったらどうしてくれるんだ!」

「そのために、お前に魔法のアイテムを授けたではないか。大丈夫だ。危険になったら、ヴィゴを呼べばいい」

リーは、声だけで、ショーンに返事をした。

「呼んでどうなるって言うんだよ!勘弁してくれよ!もう!ほんと!いい加減にしてくれ!!」

ショーンは、リーが立っていた場所で地団駄を踏んだ。

しかし、もう、リーは答えない。

「畜生!!」

ショーンは、小さな光になったとは言え、光り続けるペンダントの存在に、心が焦った。

本当に、オーランドが敵だったら、また、あの変身をしなければならないのかと思うと、気が遠くなりそうだった。

オーランドを迎えに出てやらなければならないと思うのに、玄関に足が向けられない。

しかし、とうとう、チャイムが鳴った。

ショーンは、もう一度床を蹴り飛ばし、玄関に向かった。

 

 

ショーンは、ドアを開けた。

ドアの外に立つ、オーランドの頬はこわばっていた。

いつも楽しげにきらめいている黒い瞳も、不安に押しつぶされそうになっていた。

ショーンの顔を見るなり、詰めていたらしい息を吐き出し、がばりと手を広げ、抱きついた。

「・・・ショーン・・・」

ショーンは、とりあえず、オーランドを受け止め、背中を撫でた。

「大丈夫か?オーリ。酷い目にあったな」

「・・・ショーン。嘘。あんた、俺の話、本当に信じてくれるの?」

ショーンの肩から顔を起こしたオーランドは、目に涙を溜めていた。

自分でも、人に話して信じてもらえる話だとは、思えなかったのだろう。

アメリカにいたはずだったのに、いきなり早朝のイギリスにいた。なんて、確かに、普段のショーンだったら、頭っから、信じはしなかった。

「・・・ああ、なんて言うか、お前がいきなりイギリスに現れるくらいのことは信じてもいい気持ちになるようなことが、ここのところ続いてな」

ショーンは、オーランドの肩を抱きながら、家の中へ入るよう促した。

オーランドは、ほっとしたのか、小さな笑顔を見せた。

「ショーン、あんた、パジャマだ」

「そりゃぁ、そうだ。今、何時だと思う?」

ショーンは、自分のパジャマを引っ張りながら、オーランドの表情が緩んだのに、ほっとして笑顔を見せた。

すると、オーランドが、急に前を押さえてかがみ込んだ。

下腹の辺りを押さえているのに、ショーンは焦った。

「どうした?オーリ。どこか痛いのか!?」

「ううん。ううん。違う。ショーン・・・」

しかし、オーランドは、痛みに耐えるような声を出し、床に手を付いてしまった。

ショーンは、慌ててオーランドの背中をさすった。

「おい、大丈夫か。医者に行ったほうが良くないか!」

その時、小さく光っていたはずのペンダントが、激しく光った。

ショーンがあまりのまぶしさに目を瞑り、おそるおそる目を開けた時、目の前では、信じられないことが起こっていた。

オーランドの体が、変化を始めていた。

「ショーン。言った通りだろう?オーランドは、魔王の手下にされてしまったんだ。どうやら、お前に対して、よこしまな気持ちを抱くと、かけられた魔法が発動するらしいな」

ショーンの耳元で、リーのしたり声がした。

ショーンは、いもしないリーの姿を求めながら、大声で怒鳴った。

「一体どうなってるんだ!」

オーランドの体は、緑に変化を始めていた。

腕が、何本もの蔦を寄り合わせたようなものに変化をはじめ、顔の周りには、花びらのようなものが生え始めた。

「こういう時にこそ、変身するんだ。ショーン」

リーの声がショーンに命じた。

「馬鹿野郎!オーリが化け物になろうとしているんだぞ。遊んでるんじゃないんだ!!」

ショーンは、床にうずくまり、苦しげに変身していくオーランドをどうしたらいいのか、おろおろと周りをぐるぐる回った。

「だからこそ、変身するんだ。ショーン。ああ、もう、面倒な奴だな」

リーは、ショーンをしかりつけた。

ショーンのペンダントトップが、ひとりでに外れ、宙で大きくなり始めた。

ショーンの体が、宙に浮き、激しい光に包まれる。

「オーリ!!」

ショーンは、地に足が着かなくなった途端、決してそんな場合ではない、オーランドに向かって助けてくれと叫んでいた。

オーランドは、花びらに包まれた顔を上げた。

そのオーランドの前で、ショーンの変身が始まる。

ショーンのパジャマがびりびりと破れ始めた。

ショーンは、パジャマを必死でおさえたが、勿論、抵抗できるものではなかった。

せめて、体を小さく丸めようとしたが、上半身は、意思に反し、胸を張り、両腕は高く上げられる。

精一杯頑張って、閉じた足が、おかしな風に左右両足がずれ、少し膝は曲げ気味で、ショーンは、ペニスが見える恥ずかしさに、必死になって腰をよじった。

口がひとりでに開き、ショーンは、言いたくもない台詞を叫んでしまう。

「セクシー・ショーン!」

ショーンの顔は真っ赤だった。

真っ裸になった今、両手を挙げているショーンの小さなピンクの乳首は丸見えだった。

精一杯腰をよじっているが、ペニスだって、見えているに違いなかった。

容赦なく、ショーンの体は回転し始める。

そうすると、ショーンのむっちりと肉のついた尻が、オーランドに披露された。

オーランドの顔が真っ赤になった。

顔の周りには、バラのような花びら。そして、腕も足も、蔦のように変化していたが、かろうじて、人間だとわかる形をしていたのに、オーランドは、また、強く下腹を抑えるようにかがみ込むと、今度は、もっと大きく変身しはじえめた。

植物の化け物のように、触手がうにゃうにゃと伸び、もはや、人間の形をとどめていない。

ショーンも、光に包まれたまま、空中で一回転し、着地した時には、変身を遂げていた。

「なんだ。これ!?」

ショーンは、薄い緑色をしたつなぎ型の半そで半ズボン。それに、腰には、短いエプロンをしていた。

いつの間にか、手に持っている銀のステッキとまるで合わない。

「ショーン。花怪人には、ガーデナーで対抗だ」

「だから!遊んでるんじゃねぇ!って、言ってるだろうが!!」

ショーンは、苛立ちのあまり、だんだんと床を踏み鳴らした。

「ほら、せっかく、変身したんだ。さっさと、オーランドを助けてやれ」

「リー!変身する前の方が、オーリ、ずっと人間に近かったぞ!」

「それは、ショーン。セクシーすぎるお前がいけないんだろうな」

ショーンは、思い切り頭をかきむしった。

そこに、オーランドの触手が伸びた。

触手は、愛しげにショーンに巻きつき、中央に咲く花へ向かって、ショーンの体を引きづりはじめた。

「く・苦しい。オーリ・・・」

首の絞まったショーンは、喘ぐような声を出した。

触手は、ますますショーンに絡みつき、短パンのすそから、中へと、その先を潜り込ませる。

「やめろ!やめてくれ!オーリ!!」

首からも、袖からも入り込んだ触手は、ショーンの上着のボタンを飛ばし、薄いピンクの色をした乳首を際立たせるように巻きついた。

「オー・・・リ・・・」

短パンの中の触手は、せわしなくその動き、盛り上がった布地にその下で行われているだろうことを伝えた。

ショーンの唇が開き、はぁはぁと、赤い舌を覗かせた。

「ヴィゴ!ヴィゴ!ヴィゴ!助けてくれ!!」

「・・・ショーン。お前、自分で戦おうという気はないのか?」

リーは、何の魔法も使わずに、いきなりヴィゴへと助けを求めたショーンに対して、呆れた声を出した。

「・・・こんな・・・状況、俺に・・・どうしろって・・言うんだ・・・」

ショーンの体は、もうすっかり怪物の本体である花の側へと引き寄せられ、体中に触手が巻きついていた。

上着の破られた半ズボンは、足に絡みつき、下手に腰に残っているエプロンだけが、いやらしい。

触手は、ショーンに逃げ出すことを許しはしなかったが、決して強く締めすぎたりはしていないようだった。

言うならば、愛撫のように丁寧にショーンの体に絡みつき、ショーンにご奉仕をしているようだ。

「ヴィゴ!助けてくれ!畜生!ヴィゴ、助けに来い!」

しかし、この状況は、勝手にヴィゴに操を捧げているショーンにとって、最悪だった。

さっきから、どうにも不届きな意思を持って、触手がショーンの尻をノックしていた。

ショーンは、尻にぐっと力を入れながら、叫んだ。

「お願いだ!ヴィゴ、早く、助けに来てくれ!!」

前を隠すエプロンのせいで、何をされているのか知らないが、目元の赤く染まったショーンの前に、いきなりヴィゴが現れた。

ヴィゴは、歯ブラシを口に咥え、ありもしない鏡に向かって、いーっと、歯をむき出しにしていた。

「えっ!?」

突然変わった風景に、驚いたヴィゴが周りを見回すと、やたらとセクシーな格好をしたショーンが、特撮セットの中で、一人、SMに挑戦していた。

「ええっ!?」

ヴィゴは、驚きのあまり、歯ブラシを落とした。

すると、次の瞬間、Tシャツにジーンズだったヴィゴの姿が、シルクハットにタキシードとなった。

顔には、いまさら付けたところでどうしょうもない仮面がある。

「えええっ!?」

ヴィゴは、自分で自分に驚いたように、両手を広げて、自分の体を見下ろした。

裸足だった足も、エナメルの靴を履いている。

手には、手袋。勿論ステッキも持っていた。

なくなったはずのリーのギフトそのままだ。

「・・・ショーン・・・これは、一体・・・」

「そんなことより、助けろ。ヴィゴ!」

ショーンは、最早目元に涙を浮かべて、ヴィゴに助けを求めた。

セットだと思っていた触手は、しゅるしゅると動きながら、ショーンの体を這い回っている。

「助けるって・・・」

ヴィゴは、全く訳がわからないままに、それでも焦って、ショーンに巻きつく触手を引き剥がし始めた。

しかし、その力は強く、反対にヴィゴまで、触手に絡め取られていった。

「・・・ショー・・・ン」

ショーンに絡む触手と違い、ヴィゴを締め上げる触手は、容赦がない。

ただし、ヴィゴへと絡むようになった分、ショーンに絡み付いていた本数が減った。

ショーンは、自分が落としてしまったステッキの変わりに、ヴィゴの持つ、木のステッキを寄越せと、手を伸ばした。

ヴィゴは、苦しい息のなか、なんとか、ショーンにステッキを手渡す。

「ショーン・・・ヴィゴのステッキでは、お前の魔法は発動しない」

リーの声が聞こえたが、そんなものは、ショーンには関係がなかった。

ショーンは、ヴィゴから受け取ったステッキで、怪物の本体らしい花の部分を思い切り殴った。

「ぎゃぁ!!!」

恐ろしい悲鳴が上がり、触手がしゅるしゅると短くなる。

ショーンは、続けざまに、花を殴った。

「ぎゃぁ!ひいっ!・・・・・・・痛い!」

しゅるしゅると短くなった触手は、だんだんと人間に近くなった。

花びらの頭を抑え、小さく体を丸めている。

「食らえ!おらっ!!」

ショーンは、とうとう蹴りまで入れた。

うつぶせのままどうっと倒れたオーランドは、まだ、全身が緑色だが、人間だった。

「ショーン・・・これは一体・・・?」

ヴィゴは、全く事情がわからないまま、肩で息をしているなまめかしいショーンに近づこうとした。

ショーンは、ぎりぎり大事なところを隠せるだけの長さしかないエプロンを一枚身につけているだけの姿だ。

ヴィゴは、自分のマントを肩から外し、ショーンに羽織らせようとした。

「ヴィゴ・・・」

ショーンの潤んだ目が、ヴィゴを見つめた。

あと、一歩踏み出せば、ヴィゴは、ショーンを抱きしめながら、その体を包むことが出来た。

しかし、その瞬間、ヴィゴの体は掻き消えてしまう。

「ヴィゴ!!」

大きな声を出したショーンの足元で、すっかり色まで元に戻ったオーランドが目を開けた。

下から見上げたオーランドには、ショーンの着けるエプロンの中が丸見えだった。

 

 

「・・・ショーン」っと、床から遠慮がちに、声をかけたオーランドには、ショーンの家についてからの記憶がなにもないようだった。

ショーンは、仁王立ちだった足を閉じ、いつの間にか出現していたパジャマを慌てて着なおした。

 

ただ、床に落ちているヴィゴの歯ブラシだけが、さっきまであった不思議をショーンに本当のことだと伝えていた。

 

END

 

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魔法中年。このフレーズが私の腹筋を震えさせる・・・。