そこに秘密はない。

 

 

ベン・ゲイツは、広々と取られた執務室で、トレジャーハントの出資者に、新たな資料を提出した。

大掛かりな宝探しに巨額の資金を提供している出資者は、高そうなブルーのスーツで、にこりと笑い、ベンから書類を受け取った。

最初に見たときにも目を引かれた色の薄い金髪が、スーツの色に映えていた。

大きな机の上に、置かれた数々の書類を一瞥しただけのイアン・ハウは、にこりと、目じりを下げ、自ら席を立った。

「今回は、少し間があいたな。ベン」

大きく取られた窓越しの光に映える金髪は、グラスを用意しながら振り返り、白い歯を見せて笑った。

少し遅れて目が細められる。

「遊んでいたわけじゃない。その資料を見てもらえば・・・」

イアンは、書類を見なかった。

それどころか、手入れの行き届いたイアンの手は、書類に触れようともしなかった。

だが、イアンは、決して盲目的にベンが持ち込んだ宝在り処を信じるような頭の悪い人間ではなかった。

それどころか、ベンの話を信じなかった他の知的な人間よりも、もっとしつこく、ベンに宝の存在を証明するための書類の提出を求めた。

出資を求めるため、作ってあったわかりやすい資料がなくなり、ベンの用意するものが学術的になり、専門用語が頻出するものになっても、特別な説明をイアンは要求しない。

 

提出までの期間に時間が掛かったことを責められたように感じたベンは、艶のいい机の上に置いた資料を取り上げ、イアンに見せようとした。

ベンの靴が踏む絨毯は、いつ来ても美しく管理されている。

イアンは、手を伸ばして、書類をさえぎり、美しいカッティングのグラスをひとつ、ベンへと渡した。

「ベン、俺は、そんなことがいいたいわけじゃない。あんたの顔を久しぶりに見た。と、そう言いたかっただけだ」

ベンのグラスへとウイスキーを注ぐイアンは、そうだろう?と、親しげな目をして、口元を緩ませた。

自分のグラスにも酒を注ぎ、ベンを見あげる。

「ベンの話を聞くのは面白いから」

イアンは、長い指を頭にあて、とんとんと二度ほど、指先で叩いた。

「ベンは、頭がいい。あんたの話は聞いていて飽きない」

そのまま、机の上に尻を乗せ、長い足を組むと、イアンは、ベンに飲むようにと勧めた。

ベンは軽く笑って、受け取った酒に口をつけた。

「あんた以外に、俺の話を聞きたがる奴なんていない」

 

ベンは、申し分のない学位を持っていたし、軍隊においても、十分な成績を残していた。

だが、ベンに宝の話をして欲しがる人間などいなかった。

そして、トレジャーハントに金を出してもいいと言う人間など、もっといない。

そう言ったのは、ここにいる、イアン・ハウだけだ。

「それは、聞き手にベンの話を聞くだけの知識がないからだ。ベンは知識が豊富なだけでなく、それを結びつけ、管理し、利用することにも長けている。ベンの発想は、飛躍する距離が長いから、凡人には理解しずらいんだろう」

グラスに口をつけつつ、上目遣いに見上げてくるイアンは、ちくちくとベンの名誉欲を刺激した。

ゲイツの名は、学会で嘲笑されて、もう長い。

「情報を読み取る力は、誰でも持っているわけではない。宝の地図が目の前にあったとしても、それを見たのが赤子なら、きっとクレパスで、落書きするに違いない。ベンは、それが、宝の地図だとわかるだけの知識と、そこから、宝の在り処を読み取る能力を持っている」

イアンの薄い唇は、ベンの話に興味を示して以来、ベンの心を蕩かし続けてきた。

トレジャーハントをビジネスだと、徹底して情報の管理をする冷静な緑の目が、ベンに優しく微笑みかける。

 

 

「イアン。今日は、資料だけでいいのか?」

ベンは、資料に目を落としたイアンの横顔に聞いた。

酒に口をつけながら、資料の文字を追っていたイアンの頬に金色の髪が掛かっていた。

少し目を大きく開け、資料から目を上げたイアンは、顔を上げ、下から掬い上げるように、ベンを見た。

緑の目に面白がっているような表情があった。

「・・・ベン。あれは、気まぐれだよ」

イアンは、唇に柔らかいカーブを描いて、ベンに笑った。

「俺が金を払っているのは、あんたが用意してくれたトレジャーハントに対してだ。博士にベッドの面倒まで見てもらえるほどの高額を払っているわけじゃない」

「・・・・嫌だったのか?」

柔らかい頬のラインを緩ませ、緑の目は、ベンを誘い込むように笑った。

「とんでもない。学者様を見直したよ」

「じゃぁ」

ベンは、声に熱をいれ、イアンを見た。

イアンは、すこし迷う目を見せた。

 

 

ベンは、イアンがビジネスで泊まっていたホテルへと書類を届けに行ったことがあった。

くつろいだ表情で部屋へと招き入れたイアンに勧められるままに酒を飲み。

多分、あれは、イアンが誘ったのだ。

それまでは、必ず、書類の受け渡し場所をオフィスと定め、ネクタイも外さなかった男が、ベッドのある部屋でYシャツの第二釦まで外していた。

穏やかな声が、ベンの名を何度も呼んだ。

気を惹かれたベンがした試すようなキスの後、イアンの目は満足そうに細められた。

 

 

明るい部屋の中で、イアンの目が、来客用の革張りのソファーへと視線を流した。

ベンもそちらを見た。

大きなソファーは、二人が縺れ込んだところで、悲鳴一つ上げはしないだろう。

よく磨きこまれた机の上に大きな尻を惜しげもなく乗せている金髪は、小さな声を出した。

「・・・ああ、今日は、時間がないんだった」

イアンの声に、残念そうな響きはなかった。

ベンに視線を戻したイアンは小さく笑った。

耳を擽る甘い声でそうやってベンの気持ちを弄んでおきながら、イアンは、ネクタイを緩めた。

形のいい指が、シュルリと音を立て、ネクタイを引き抜く。

Yシャツの襟を緩めたイアンは、ほっとしたようなため息をひとつ付き、スーツのズボンに包まれた足を開いた。

「ベン。ここでもいい?」

まるで酒のおかわりでも尋ねるような気軽な口調のイアンは、自ら上着を脱ぎ、Yシャツの釦を一つ、一つと外した。

 

ベンは、机の上に広がった資料をまとめた。

「ベン。それ、後で読みたいから、机の引き出しにしまってくれるか?」

途中まで、Yシャツの釦を外し、脱がして欲しくでもなったのかイアンは、指を止めてしまった。

イアンは命令することに慣れた態度で、ベンが資料を片付けるのを待っている。

ベンは、指示された机の引き出しを開けた。

引き出しには、オフィスにふさわしくないものが入っていた。

「使うだろう?」

イアンは、当たり前のことのように笑った。

大きく引き出しを開けなければわからないとはいえ、そこにあったのは一連に繋がったゴムと、潤滑ゼリー。

こういったものを平気で用意しておけるほど、この男は、この場所でのセックスに慣れている。

「これを使うのは、外で恐い顔をしていた奴か?」

「なんだ?あいつら、ベンに恐い顔なんてするのか?ただでさえ人相が悪いんだから、お客様には愛想よくしろと言ってあるのに」

ベンにセックスの小道具を運ばせたイアンは、自分のベルトのバックルに手を掛けた。

ベンの質問に対して、肯定も否定もしない。

滑らかな胸をYシャツの隙間から見せ、リラックスした表情のままベルトを外そうとした男の手を、ベンは邪魔した。

「・・・俺がやる」

イアンの前に回り、ベンは、自分でベルトを外した。

乱暴に、ベルトを外すベンの動きを笑いながら、イアンは見ていた。

「気に入らないか?」

「気に入らないさ」

ベンは、イアンを抱きしめ、綺麗な金髪に隠された耳の後ろを強く吸った。

「学者の先生ってのは、プライドが高いな」

ベンは、逃げようと首を曲げているイアンの首筋にしつこくキスを繰り返した。

「ベン。学者の先生ってのは、もっと大人しげな人が多いのかと思っていた」

「そういうのがタイプか?」

柔らかなイアンの体は、いい匂いをさせていた。

つい、夢中になり、ベンは、しつこくイアンに口付けを繰り返す。

「いや、でも、ベンみたいに、スタミナがありすぎるのも、実はあまり好みじゃない」

平然とした顔で、金髪は酷いことを言った。

「そうやって言われるのには、慣れてる」

意思の強さを示す眉をひそめることもせず、ベンは、キスを中断しなかった。

イアンは、小さなため息を付いた。

「・・・だったら、もっと穏やかなに楽しもうじゃないか」

「イアン。・・・前みたいに、ばてるのは、御免だって言いたいのか?このセックスビジネスに含まれていないって、あんたが言ったんだろう?」

ベンは、抱きしめたイアンの背中をせわしなく撫で回した。

呆れ顔のイアンに、ベンは、机から降りるように言った。

「やめておこうか。ベン」

そういいながら、イアンは、好色な表情をちらちらと見せている。

「ここまできて、そういう意見は受け入れられない」

ベンの言葉に、イアンは肩を竦めた。

「嫌がられないか?」

「こういうのがいいって奴も、沢山いる」

ベンは、イアンに机に向かって手を付かせると、背後から抱き込んで、ズボンの釦を外した。

そうしながら、耳を噛み、舌で愛撫するのもやめはしない。

ベンの行為に、イアンはため息のような声で言った。

「世の中は、タフな人間ばっかりだ」

「イアンもだろう?」

せわしない手つきで、手触りのいいイアンのスボンを床に落としたベンは、机の上に放っておいたゼリーを引き寄せた。

 

 

ストライプのYシャツを着たまま、下半身はむき出しにして、イアンは、足を大きく開いていた。

机に付いた手の指が開いていた。

前のめりになっているイアンを片腕で支えるように抱いているベンの指は、イアンの中を探っている。

金色の髪が、イアンの顔を覆ってしまい表情を見ることは出来なかったが、高い鼻が中の動きで、時々、カクンと上を向いた。

唇からは、切ないような息遣いが聞こえた。

「・・・ベン」

イアンは、うつむいたまま、ベンの名を呼び、少し尻を高く上げた。

美しいラインをしたイアンの背中が、ストライプのYシャツの中で、軽く反る。

たっぷりと肉の付いた尻を開いているベンは、深く指を埋めた。

イアンの要求にこたえるために、と、言い訳をしているが、自分でも煽られているんだとわかっていた。

「・・・っぁあ」

肉を割る指の動きに、イアンの喉から、声が漏れる。

恥じらいもなく快楽をむさぼるイアンの態度は、ベンの目にとても好ましく映った。

イアンは、頭がよく、話し相手として不足はなかったし、好色な体は、ベンにとっても都合が良かった。

イアンが、ベンの動きに合わせ、腰を振り出した。

ひろげた腸壁をベンの指が優しく辿り、前立腺を擦ってやると、はうっと、息を大きく吐き出し、喉を反り返す角度に色気があった。

もぞもぞとこらえ性もなく動く白い尻が、いやらしい。

「イアン」

開いている尻にペニスを擦りつけてやりながら、ベンは、イアンの名を呼んだ。

イアンは、腰を押し付けるようにして、緑の目を見せ、振り返った。

「・・・ベン・・・時間がないと、言っただろう・・・早く来てくれ。それで、俺を一杯にしてくれ」

 

しかし、イアンは、ベンを特別扱いにするつもりはないようだった。

ベンの頭脳には、一目を置いているようだったが、一介の学者相手に、本気になるつもりはさらさらないようだ。

そして、イアンが言うように、ベンは、イアンの好みとは違っていた。

この間のセックスで、イアンは、最後まで、ベンについてくることができなかった。

いつでも、自分本位に振舞うセックスに慣れているのだろう。

イアンは、好きモノであることは間違いないのだが、スタミナ不足で、仕舞いには、息も絶え絶えになりながら、ベンに揺さぶられるだけになっていた。

 

 

ベンは、立ったままのイアンを、後ろから犯した。

ずるりとベンのペニスが、イアンの中を穿つと、薄い唇から、ああっっと、声が漏れた。

小さく揺すり上げながら、奥に進むベンをイアンは、熱く締め付ける。

のけぞった項に吸い付きながら、ベンは、白い尻を揉んだ。

「いやらしい尻だ」

「・・・ぁぁあ、ベン」

大きく開いた尻の肉を掌に収め、ベンがペニスを突き入れると、イアンは、激しく頭を振った。

長い髪が、滑らかなイアンの頬を叩く。

ベンは、イアンの髪の中へと鼻を埋めるようにして、ぐいっと持ち上げた尻の間で、腰を動かした。

イアンの肛口は、激しくベンを締め上げる。

 

ずり、ずりと、ベンがペニスを突き入れるたび、イアンの髪が揺れた。

力の入っている肩の丸いラインが綺麗だった。

ベンは、イアンの様子を観察しながら、突き上げるテンポを変えていった。

オフィスで部下を食うことに躊躇いもない獣の癖に、この上品な顔をした男は、スローに突き上げられるのが好みだった。

大きく引き抜いたペニスを、じわじわと肉に分け入らせていくと、イアンは強く眉間に皺を寄せ、目を閉じ、大きく口を開いた。

体の中の空気を押し出しながら、声を聞かせた。

「・・・ぁぁあ・・・」

イアンの声は、低くかすれた。

 

たっぷりと肉の付いた腰を抱いたベンは、手の位置を変えた。

イアンの好みばかりを優先させるつもりはなかった。

この十分に味わうことを知っている体は、乱暴に扱ったところで、快楽を味わえないということはまるでない。

強く腰骨を掴んで逃げられないようにすると、ベンは、机にぶつかるほど激しくイアンを突き上げた。

イアンの尻が、びたん、びたんと音を立てる。

「っふ・・・んん・・・んんぅ・・・」

「どうだ?悪くないだろう?」

汗の噴き出してきたイアンの尻は、その白い色をもっと艶かしくした。

「・・・んんっ・・・もっと・・・ゆっくり・・・」

「いつも、いつも、自分のペースばかりじゃ飽きるだろう?」

イアンを机に押し付けてしまい、身動きできないようにして、激しく突き上げるベンを、振り返った緑の目は睨んだ。

濡れているその目に、自然とベンは笑いがこみ上げた。

唇が上がってしまったのだろう。

イアンの目がますますきつくなった。

「・・・・そういうっ・・・・んんっふ・・・・ところ・が・・きらい・・・んっなんだ・・・」

「そうか?俺は、イアンの機嫌の悪い顔が嫌いじゃない。あんたは、きれいだからな。どんな顔をしていたって見ごたえがある」

ベンは、なんとか逃げようともがく大きな尻を、強く掴んだ。

柔らかい肉へとベンの指が埋まる。

イアンは、なんとか自分のペースを取り戻そうとしていた。

がつん、がつんと突き上げられる衝撃に耐えながら、ひねった体で、無理をして、ベンの顔へと唇を寄せた。

柔らかな唇が、機嫌を取るようにベンを掠めた。

「イアン、あいつらは、こうやって、キスしてやれば、大人しくなるのか?」

この部屋の外にいるはずのイアンの部下を野次り、ベンは、容赦のない突き上げを続けた。

体をひねったことによってバランスを崩してしまったイアンは、とうとう、足が浮き上がった。

ベンに串刺しにされるようにして、机の上へと倒れこむ。

磨きこまれた机の表面が、イアンの吐く息で白くなった。

頬を机へと押し付け、ベンの揺さぶるリズムで揺れるイアンは、もう、目を閉じてしまっている。

「・・・・・・・っはぁ!・・・・んんんっ!」

イアンのペニスが、机を汚していた。

昼間のオフィスでするには、すこしばかり激しすぎるセックスに、ベンは、この後も仕事を続けるのであろうイアンを思いやって、そろそろ終わりにすることを考えた。

イアンのペニスを握りながら、彼の好むスローな突き上げで、大きく腰を動かしてやる。

「・・・ああっ!・・・ああっ・・・・ベンっ!」

イアンの白い尻に力が入り、強くベンを締め付けた。

掴むところのない机に指でひっかき、開いたままの口からは、唾液が零れた。

はぁはぁとせわしない息遣いをして、イアンの背中がぴくぴくと震える。

「早めにやめて欲しいんだろ?もう少し、緩めるんだ。イアン」

「・・・あっ・・・んんっ!そこ!・・・・あっ・・・っんつ!」

だが、イアンには、それが出来なかった。

ベンは、確実にイアンの感じる部分を捉えていた。

強い高みに追い上げるベンに、イアンは狂ったように尻を振った。

「いつも、自分の好きなペースばかり進めてちゃ、こんなに感じたりできないだろう?」

「・・・ぁぁああ・・・ん!・・・ぁあ・・んつ、あっ!あっ!」

 

 

疲れた表情で、服を調えだしたイアンは、鈍い笑いを浮かべてベンを見た。

「宝探しのほうも、このくらい精力的に進めてくれていると嬉しいよ」

「やってるさ」

言い返したベンは、乱れたイアンの髪に指を通した。

「イアン、せっかくソファーをやめたのに、残念だったな」

「全くだ。ここなら、多少手加減するかと思ったのに」

それでも、綺麗な顔をした男は、満足した笑顔を見せた。

ベンの手を嫌って、自分で髪を整えると、机の上から降り、椅子へと向かった。

「さぁ、ベン。俺は、これから、君が作ってくれた資料に目を通さなければならない。また、途中経過を知らせてくれ。そのうち、連絡する」

椅子に座り、ベンが引き出しへとしまった資料を取り出したイアンは、笑顔で顎をしゃくるとドアを示した。

もう、手は、資料をめくっている。

「さよならの、キスはなしか?」

ベンは、切り替えの早い金髪を見下ろし、一歩彼に近づいた。

「そんなものがいる関係じゃないだろう?俺達は」

顔を上げたイアンは、にっこりと唇を笑顔の形にする。

それから、遅れて目じりが下がった。

こうやって表情筋が動くのは、作り笑顔だ。

ベンは、彼の柔らかな顎を掴み、無理やりキスすることを考えたが、もう、全くベンに興味のなさそうなイアンの態度に、きびすを返した。

「ああ、ベン。悪いが、外の奴らに声をかけてくれ。用がある」

太陽の日差しが差し込む清潔なオフィスは、まだ、先ほどまでの熱く湿った空気をはらんでいるはずだった。

 

ベンは、肩越しに手を振り、部屋を出た。

 

END

 

太豆の誘惑に負けて、ナショトレ。

ほんと、なんてあんなにかわいいんだろう。