ハウたんと、GO! 9

 

マクレガーと、パウエルは、ベン・ゲイツを追っていた。

禿げは、学者の癖に、足が速い。

ベンは、イアンが熱望している独立宣言書を背中に背負っていた。

するどく角を曲がるのに、すこし外へと振られながら、マクレガーが叫んだ。

「おい、パウエル!追い詰めたら、間違いなく殺るぞ。俺、あいつ、ボスにべたべたと触りやがったから嫌いなんだ!」

「そんなの決まってる!ボスから宝を取り上げようなんて性根の悪い奴は、なぶり殺しにしてやる!」

二人は、息を荒げながら、ベンの後を追った。

ベンは、墓場へと逃げ込む。

マクレガーが銃を抜いた。

パン!パン!パン!

すばしっこい禿げは、上手く墓石の影に隠れてしまって弾に当たらなかった。

しかし、その隙に、墓場の中に入り込んだパウエルが、ベンを狙った。

ベンは、マクレガーの玉に晒される危険を冒して、飛び出す。

パウエルは、銃を撃ちながら追いかけた。

しかし、頭の回る禿げが、罠を仕掛けていた。

パウエルは、独立宣言書の入った筒で、顔を強打された。

なんともこしゃくな学者の攻撃に、パウエルは腸が煮えくり立ったが、あまりの衝撃に、倒れこんだ。

「パウエル!!」

「・・・マクレガー!俺に構うな!追え!」

パウエルは、顔から血を流しながら、ベンの走っていった方角を指差した。

「あの禿げを殺せ!!!」

「任せとけ!ボスのついでに、お前の仇もとってやる!」

マクレガーが、ベンの後を追う。

 

別の場所では、ショーと、ヴィクターが、アビゲイルと、ライリーを追っていた。

ショッピングセンターに逃げ込んだライリーの後を追い、混み合った店の中をショーは走り回る。

アビゲイルは、肉屋のショーケースを飛び越えた。

「お客様はお断りなんだけど」

ショーケースの影に蹲り隠れたアビゲイルを見下ろしながら、迷惑そうな店員が言った。

「別れた旦那から逃げてるの」

アビゲイルがそう答えている時、ショーは背中になんとも言えない悪寒を感じ、人相の悪い顔がますますきつくなった。

ちょうどアビゲイルの姿が見えなくなった場所で、ショーは立ち止まった。

途端に、肉屋の女が声をかける。

「注文は?」

むしゃくしゃしていたショーは女をにらみつけた。

何故か、女は観察するようにショーを見る。

「お客さん、注文は何?」

「うるさい!」

あまりにじろじろと見られ、腹立たしさにショーは怒鳴るとその場から離れた。

アビゲイルに向かい、肉屋の女が、同情するような目をして話かけた。

「別れて正解よ」

何故か、ショーは、また、背中に悪寒を感じた。

 

マクレガーは、ベンを追い詰めた。

「ゲイツ!独立宣言書をよこせ!」

屋根の上で、にらみ合いになった。

マクレガーの銃がベンを狙った。

逃げ場のないベンは観念したように独立宣言書を投げ捨てた。

イアンだったら、一歩も動けなかったに違いない屋根の上で、落ちることも構わず、マクレガーは、独立宣言書に飛びついた。

マクレガーは、ベンの息の根を止めたかった。

だが、それよりも、イアンが欲しがっているものを、手に入れるのが先決だった。

あと体一つ分もないほど屋根のぎりぎりで、マクレガーは独立宣言書の筒を捕まえた。

しかし、拾った筒の中身は空だ。

「クソ禿げ!!てめーは頭を使いすぎるから、禿げるんだ!!」

階段を駆け下りていた自称色男のベンの背中に、禿げの二文字が突き刺さった。

 

「ボス、奴らは、市庁舎に向かってます」

ショッピングセンターのウインドーの向こうを逃げるアビゲイルとライリーを見つけたショーは、すかさず、イアンに連絡を取った。

イアンは、弾んだ声で返答を返した。

「俺も追う」

ショーは、イアンの声が走っているため、上ずっているのだと気付いた。

心の中で、時計塔から下りてこられたボスに小さな拍手を送る。

無線で連絡を取りながら、振り返って見たヴィクターの顔も輝いていた。

ヴィクターも今の無線を聞いていたのだ。

「行くぞ!」

今度は、ショーは、近頃太ってしまったことを気にしているイアンが走れなくて癇癪を起こす前に、ライリーたちを追い詰める必要があった。

イアンのふっくらしてきた体は、どうしようもない魅力に満ちているのだが、本人はいたく気にしていた。

だが、イアンは、甘いもの好きだから、ダイエットも上手く進まない。

「ボス、俺たちは、北側から追います」

少しでもイアンが走る距離を少なくするため、ショーと、ヴィクターは、長距離ランナーになった。

この道筋で追いつめていけば、イアンは、あまり速度も出さず、ほんの少し走っただけで、アビゲイルと、ライリーの前に回りこむことになった。

 

ショーと、ヴィクターに追われ、アビゲイルと、ライリーは必死になって走っていた。

前の確認をしている余裕もない。

ライリーが人にぶつかり動けなくなった。

そちらに意識を取られたアビゲイルも自転車にぶつかる。

手に持っていた独立宣言書の筒が、手から離れた。

筒は、車道を転がっていく。

アビゲイルは歴史的財産である独立宣言書を守るため、車道に飛び出した。

勿論、速度も落とさず、車は走ってくる。

ライリーは、命がけでアビゲイルに飛びつき、引き戻した。

車のタイヤが独立宣言書を踏みつけた。

独立宣言書に傷でもついたら!と、アビゲイルの心臓が悲鳴をあげた。

アビゲイルにとって、独立宣言書は、自分の命以上に価値があった。

しかし、無常にも、もう一台、独立宣言書の上を車が通り過ぎた。

アビゲイルは、誰でもいいから、独立宣言書を車のタイヤから救ってくれる人物が現れるのを祈った。

そこに、手入れの行き届いた靴が道路を悠然と渡ってきた。

長く美しい指が伸ばされ、独立宣言書の入った筒を取り上げた。

アビゲイルと、ライリーの視線が、筒が持ち上げられるのにつられて、上がっていった。

親切なその人物は足が長い。

品のいいブルーのスーツだ。

金色の髪をした人物が、確かめるように、少しつぶれた筒の蓋を取った。

中身を確かめ、整った顔立ちの口元に満足そうな笑みが浮かんだ。

「ありがとう」

イアンだった。

アビゲイルは、イアンに飛びつき、独立宣言書を取り戻そうとした。

しかし、イアンが次に浮かべた人の悪い笑みに、ライリーが、アビゲイルを引っ張った。

「逃げよう!!」

振り返ると、ショーと、ヴィクターが近づきつつあった。

ショーと、ヴィクターは、アビゲイルたちを追おうとした。

それを、イアンが止める。

「もう、いい」

独立宣言書を手にしたイアンの顔は、とても幸福そうだった。

見惚れた二人は、足が止まってしまった。

 

「俺たち、いい仕事したよな」

「ああ、勿論、ボス、幸せそうな顔してたもんな」

ショー、ヴィクターチームは、自分の仕事に満足そうだった。

しかし、無線で場所を教えられ、やっと追いついたマクレガー、パウエルチームは、すっかりしょげていた。

だが、独立宣言書を手に入れたイアンは笑顔の大盤振る舞いだ。

「よくやってくれた」

ハンカチで、パウエルの血を拭ってやっていた。

二人は、女神様でもあがめるような目でイアンを見ている。

イアンは、ショーと、ヴィクターを労うのも忘れなかった。

「勿論、お前達にも感謝してるぞ」

「ボス!!」

二人も天使様の笑顔でも見たようだ。

 

イアン・ハウの部下。

別名「ハウたん親衛隊」

こうだからこそ、ハウたん親衛隊なのである。

 

END