ハウたんと、GO! 8

 

州議事堂の階段をイアン・ハウと、ショーは駆け上がっていた。

最初、独立記念館だと思い、そちらの建物に行ったのだが、イアンは、宝の在り処にたどり着く鍵が眠るのは、州議事堂だと気付いたらしい。

理由についての説明はなかった。

だが、もう、ショー自身、理由などはどうでもよかった。

イアンがそうだ。というのなら、そうなのだ。

 

「ここだ」

イアンが止まったのは、この時計塔建物の一番上、自由の鐘が吊るされていた場所だった。

見下ろす屋根、そして、地上までの高さといえば、かなりのものだ。

風が強い。

イアンは、柵へとしっかり掴まっていた。

一瞬身を乗り出したが、すぐに柵の中へと体を戻す。

自分がこの柵を乗り越えるべきだろうと判断したショーは、自分が前に出ようとした。

「きっと、どこかに手がかりが・・・」

特別高い場所に恐怖心などないショーは、見回しながら柵に手を掛けた。

しかし、隠してはいるが、高所恐怖症のイアンは、ショーが動くことにも不安を感じるようで、引き止める。

「危ないぞ。ショー」

「ボス・・・」

イアンは、この場所に出るための扉を開け、外に顔を出した時から顔色が悪かった。

今は、額に汗が滲んでいる。

だが、決して自分が恐がっていることを知られたくないイアンは、ショーの心配をしてみせた。

あまりの高さに青ざめた唇は小さく震えていたが、イアンは、ショーが気付いていることにすら、恐怖の余り思い当たっていないようだ。

「ボス、ちょっと見てみるだけですから」

ショーは、イアンを出来るだけ建物の中心に移動させると、自分だけが柵から飛び出す気だった。

しかし、イアンは強がった。

ショーの背中に張り付くようにして、また、そろそろと柵へと近づいた。

ここで動くと、イアンが恐がる。

これでは、ショーも、飛び降りることが出来ない。

その時、強く握りこんだ形のまま、開くことも出来ずにいるイアンの手のなかの無線機が声を伝えた。

「見つけました」

下で待機していたパウエルと、マクレガーのチームだった。

すぐさまショーが下を覗き込むと、ベン・ゲイツが早足に歩いていく後姿が見えた。

光気味のでこ、そして、薄くなっている後頭部といい間違いない。

「ボス、奴です」

ショーはすぐにでも後を追おうとした。

だが、無線機のない方の手で掴んだ柵から指一本すら離せずにいたイアンが、ショーを呼んだ。

「見ろ、あいつらもいる」

こういうのも怪我の功名と言うのだろう。

イアンは、ただ、高いところが恐くて、すばやく柵から手が離せなかっただけだが、アビゲイルと、ライリーが建物から出るのを見つけた。

「追え、ショー!」

「はい」

ショーは、振り向くこともせず、イアンを置いて、階段を下りていった。

途中で、車で待機していたヴィクターに連絡をつける。

「ヴィクター二手に分かれて追跡する。前に回れ」

階段を駆け下りながら、ショーは、イアンが気の済むだけゆっくりとあの時計台から降りてくるよう願っていた。

出来るならば、手を貸してやり、そっと抱きかかえるようにして安全な場所までエスコートしてやりたいところだが、それでは、イアンの面目が保てない。

ショーは、イアンの部下としての歴が長い分、どうイアンに接すればいいのか、よく知っていた。

ヴィクターは、走りながらのせいか、弾んだ息のまま、無線機を使って尋ねてきた。

「なぁ、ショー。ボス、大丈夫だったか?」

時計台に昇ると連絡が入った時から、ヴィクターは、イアンのことが心配でならなかった。

「ああ、随分顔色が悪かった。でも、一人にしてきたから、そろそろと加減しながら降りてくるだろう。一人にして差し上げないと、無理に強がるからな」

ショーは、二段飛ばしに階段を駆け下りながら、強張った顔で、何度も柵から手を離そうとしつつ、出来ずにいるだろうイアンを思い、かわいそうな気持ちになった。

「ああ!俺が抱きかかえておろして差し上げたい!」

「できるもんなら、俺だってそうしている!」

ショーは、建物の外に走り出た。

ヴィクターがちょうどそこにたどり着く。

「ボスは・・・・」

見上げた時計台の柵に、まだイアンが張り付いていた。

もう一度駆け上って助けてやりたかったが、見ない振りで、二人は、追跡を始める。

「畜生。あいつら、ボスにあんな怖い思いをさせやがって!」

雑踏の中にアビゲイルの金髪と、ライリーのくしゃくしゃ頭があった。

「絶対に捕まえてやる!」

ショーと、ヴィクターは、恐ろしい形相で走り出した。

 

イアン・ハウの部下。

別名「ハウたん親衛隊」

時々、ボスの目的とは別の理由により暴走します。

それでも、ボス至上主義者の集まりなので、結果は決して外しません。

 

END