ハウたんと、GO! 6

 

「どう?ボス、真面目に考えてるか?」

「・・・いや、それがさ」

ヴィクターは、口元を隠すようにして笑った。

 

独立宣言書のレプリカをベン・ゲイツに掴まされ、イアン・ハウと、その部下は、宝へと別のアプローチを強いられることになった。

煮え湯を飲まされた憤りをやり過ごしたイアンは、ベンの思考方法を辿り、現在、謎解きに向き合っている。

 

ヴィクターは、先ほど通りかかった時、謎解きを放り出し、熱心に絵を描き込んでいたイアンを思って口元を緩めた。

「今、ボス、紙の余白に落書きすることに夢中」

「何を描いてた?」

「それがさ、ショー。今回、はっきり何かわかる絵でさ」

ショーは目を見開いた。

「それは・・珍しいな。俺も行って見て来よう」

 

イアンの周りには、熱心な部下達が集まっていた。

イアンは、じっと自分が書き込んだ文字を見つめ、額をなでるようにして、考え込んでいた。

沈黙があたりを包んでいた。

やがて、イアンは、二つの文字に丸をつけた。

「諸君、どうして、この二つだけが、大文字なのか、わかるか?」

真剣に額を寄せる男たちの熱意に押されるように、ひらめきを得たイアンは、口元に満足そうな笑いを浮かべ、部下を見回した。

「・・・重要だからですか?」

目が合ったヴィクターは、単なる思い付きを口にした。

実際、ヴィクターは、イアンの描いた二つの剣が重ねあわされた模様に見入っていて、どの文字が大文字だったのかすら見ていなかった。

隣に座るショーも同様だ。

ショーは、3つ並んだパイプを見て、3つともパイプだとわかることに驚きを感じていた。

イアンの絵は、大抵すばらしく芸術的で、どれほど愛情に満ちた思いで見つめても、その正体がわからないことの方が多いのだ。

イアンは、ヴィクター、ショー、マクレガーと順に視線を移していき、最後の男も首を横に振るのに苦笑した。

それでも、イアンは頼りない部下達に機嫌よく丸をつけた紙を見せた。

だが、残念ながら、部下の視線は、二つの大文字よりも、周りに描かれた悪戯描きに吸い寄せられている。

しかし、気付いていないイアンは、説明を続けた。

「この二つだけが、大文字なのは、この二つだけが、特別だからだ。つまり・・・」

特別と、いう言葉に、部下たちはぴんっ!ときた。

どこかで、見たことがあると思っていた。

「この二つが、人の名前だからだ」

落書きの正体は、ボスの好きなスポーツチームのマークだった。

なるほど、これなら、イアンはいやと言うほど、見ているはずだ。

上手に描けて当然だ。

 

「さぁ、準備をするぞ」

イアンは、レポート用紙を放り出し、着替えをするため、席をたった。

「行くって、どこにですか?」

「決まってる。ベンジャミン・フランクリン記念館だ」

何を聞いていたんだ。と、言いだけに、イアンは、座ったままの部下を見下ろした。

部下は、慌てて席を立った。

「ああ、そうですね。勿論です。すぐ、用意します」

誰も、どうしてベンジャミン・フランクリン記念館に行かなければならないのかわかっていなかった。

しかし、目的はわからなくとも、行く先さえわかれば、とりあえず、ボスをお連れすることはできる。

 

イアンは、宝に一歩近づいた満足感を胸に、ショーにスーツを選ばせていた。

ショーは、今日の落書きがいやにわかりやすかったことの謎が解けた満足感を胸にイアンにスーツを着せ掛けていた。

別室では、イアンの落書きを誰がコレクションするかで、小競り合いが起きている。

 

イアン・ハウの部下、別名「ハウたん親衛隊」

世界的な宝よりも、目の前の宝に目が眩んでいる危ない集団。

誰一人として、今日の目的がわからないのに、びしっとスーツで決めたボスの後ろ姿に吸い寄せられ、ついふらふらとベンジャミン・フランクリン記念館の階段を登ってます。

 

END