ハウたんと、GO! 5
歓喜に満ちた瞳で、独立宣言書の包みを広げたイアン・ハウの目が、一気に曇った。
「畜生っ!」
本物にはあるはずのないプライスシールを目にしたハウは、そのまま包みを両手で丸める。
「ゲイツ・・・くそっ・・・あの禿げっ!」
イアンは、思い切り車の床へと独立宣言書のコピーを投げつけた。
振り返ったイアンは、たいそう気に入っていた調理台を思い切り叩き、顔を顰める。
怒りに髪をかきむしり、そのまま運転席へと姿を消した。
残された部下は、すぐさま、大きく開けられていた後部のドアを閉めた。
それは、不審車両だと思われないためだという配慮もあったが、それよりももっと重要な理由があった。
乱暴にイアンが、運転席へと繋がるドアを閉めると同時に、男達は、投げ捨てられた宣言書を見た。
「コピーだったのか・・・」
「くそうっ!あの似非学者め!」
ショーは、どんっ!と、壁を叩いて、フライパンを跳ねさせた。
「畜生!」
マクレガーも、床を数度蹴り上げ、大きな音を立て、運転席へと姿を消したイアンに悔しさをアピールした。
が。
一通り悔しがって見せた3人は、ちらりとイアンが閉めたドアに視線を向け、きらりと瞳を輝かせた。
ショーは、イアンの投げ捨てた独立宣言書へと一歩近づいたマクレガーを牽制するように、きつい声を出した。
「おい、待て。それは、ボスのために、俺が、処分しておく」
ショーの手は持っていた銃もそのままに、軽く安全装置にかけている指の力を入れたりしていた。
「気にするなよ。ショー。俺だって、ちゃんと処分できる。万が一、忘れてこの車に痕跡を残すわけにもいかないし、気付いた時にやっておくに限るだろ?任せといてくれよ。俺が処分する」
マクレガーは、銃の存在も気にせず、もう、後ろのドア付近に転がる独立宣言書に釘付けだった。
悔しがるイアンの姿は、最高にかわいかった。
記念の品を手元に置いておけば、あの記憶を呼び覚ましやすくなる。
「いいや、マクレガー。ボスのフォローは俺の役目だ。それを見て、ボスが気分を害さないよう、きちんと処理する必要もある。俺がやっておくから、心配するな」
ショーは仲間に銃を向けたまま、優しい顔をしてマクレガーに向かって首を横に振った。
「酷いぞ。ショー。お前、いつだって、そうやってボスの品を自分の物にしてるじゃないか。俺だって、欲しい!」
「なぁ、マクレガー。俺は、この後、怒り狂ったボスと一晩中、飲み交わすという大変な作業が待っている。かわいそうな俺のために、そのくらいの役得は当たり前だと思わないか?」
「ショー。それだって、ボスが、ショーがいいっていうから、仕方なく譲ってるだけで、別に俺だって、いつでも、付き合う気なんだぞ!」
二人は、お互いに、イアンの丸めた独立宣言書までの距離を縮めながら、牽制しあっていた。
だがいに、手に武器を持ちつつの攻防戦なだけに、緊張感は否が応でも高まっていく。
「ショー!譲ってくれ!!あの悔しそうなボスの顔!あんなかわいい顔みたの久しぶりなんだぞ!」
「俺は、ボスが、ベン・ゲイツのことをただの禿げだと気付いた記念の品として、大事に保管しておくことに決めたんだ!」
「・・・・なぁ、やばいぞ。お前ら・・・」
第3の男は、ショーと、マクレガーの隙をうかがい独立宣言書をゲットしようと試みていたが、その前に、あることに気付いた。
運転席との境のドアは、イアンが叩きつけるように閉めたため、反動で、少し開いていたようだ。
車の振動により、その開きが大きくなっていた。
開いた隙間から、銃口が覗いている。
「・・・ボス・・・?」
「あと、一言でも口を利いたら、お前ら、殺す・・・」
地を這うように低いイアン・ハウの声がした。
車の中の温度が一気に下がる。
「ボスっ、腹へってませんか?なんか作りましょうか?」
「お前ら、今日のヘマの記念品として、独立宣言書のコピーをアジトの壁にピンで留める気か?」
ハウタンの部下、別名、「ハウたん親衛隊」
彼らの趣味の一つに、ハウたんグッズコレクションというのがあります。
でも、たまに、失敗もする模様。
END