ハウたんと、GO! 4
独立宣言書を守る最後のドアが、開いた。
開いたといっても、力技でだ。
この時、イアン・ハウは、30秒という時間を提示していた。
建前としては、一秒でも早く、独立宣言書を手に入れたいとのことだったが、事実は、必死になって扉を破る部下の行動が楽しくなっていた。
「さぁ、お前達、時間がないぞ!」
時計を見つめる緑の目は完全に面白がっていた。
部下たちは、イアンの命令に従うため、手っ取り早くドアを、もう二度とその務めが果たせない形にした。
完全に破壊され、ドアはもう二度と閉まらない。
イアンの部下は、ボスの望みをかなえるために、最大限の努力をしていた。
先に監視カメラの目を奪い、イアンが踏み出した滑らかな大理石の廊下の安全確認も怠りない。
しかし、開けたドアの向こうには、監視カメラの映像とは違った展開を迎えていた。
「ゲイツ!」
もう手に入るところまで来た宝への案内図を前に、イアンは、今まで手を組んできたベン・ゲイツに先を越されたことを知った。
強盗スタイルのイアンたちと違い、ベンは、クールにタキシード姿で、独立宣言書をケースごと胸に抱きかかえていた。
ショーは、ベンが武器を持っていることを考え、とっさに、イアンの前に出た。
しかし、それは杞憂だった。ベンは、逃げの体制に入っている。
イアンが、小さくつぶやいた。
「・・・畜生・・・あの禿げ・・・」
小さな声には、今までにない怒りが滲んでいた。
その言葉を聞き、ショーは躊躇いなく、銃を構えた。
これまでイアンの命令に従い、我慢してきたが、ショーは、常々ベンを撃ち殺してやりたいと思っていた。
ベンは、気さくという人柄を演出し、なにかというと、イアンの体をべたべたと触った。
精力的なといえば、まだ言葉がいいが、ねっちこそうなセックスをイメージさせるベンのキャラクターに、イアンが、すこし興味を示していたのも知っている。
パンッ!パンッ!パンッ!!
ショーが悪意を持って打った玉を、いかさま学者は、歴史的にも価値がある独立宣言書を楯にして身を守った。
防弾ガラスで守られた宣言書は、無傷だが、至近距離からの発砲に、ガラスにはヒビが入る。
悔しそうな顔のイアンに、世界的遺産でもある楯を下ろしたベンは、被害者面をしながらも、僅かに口元を緩めて見せた。
やたらにセックスアピールに溢れた、いやらしげな大きな目が、命の危険に晒されている状況だというのに、イアンの体を眺め回す。
エレベーターのドアが、音を立て開いた。
ショーは、イアンの成功を邪魔するベンを絶対に殺してやると、後を追った。
しかし、いかさま学者を守るようにドアは閉まる。
「畜生。あいつ、地図を盗みやがった・・・」
イアンは、金髪をかきむしった。
自分がどこで計画を間違えたのか、と、めまぐるしく緑の目がこれまでの過程を点検した。
しかし、金髪は、僅かの間に、自分を取り戻した。
自分の計画にミスを見つけ出せなかったイアンは、すぐさま頭を切り替えた。
「行くぞ!野郎ども!!」
イアンたちは、来た道を駆け戻った。
しかし、どんなところへ行くのにも、一番のりが大好きなイアンが、車の真下に出るマンホールのはしごを上るところで、足を止めた。
「先に行け」
イアンに命令されれば、ショーたちに二言はない。
だが、機敏にはしごに登りながら、部下達は声を潜め言葉を交わした。
「なぁ、下にいて、ボスが登りきるまで、見ててやった方が本当は良くないか?ボス、縄梯子を登るのが恐いんだろう?」
「しっ!マクレガー、ボスに聞こえる。あの人は、自分が高いところの苦手なことを俺たちに知られてないと思ってるんだ。歯を食いしばってでも、上ってくるから、じっと待っててやるんだ」
歳若いマクレガーに比べ、流石に長い付き合いのショーは、イアンの立て方を知っている。
「でも、ショー。ボス、これに登る時、額に脂汗が浮かんでるんだぞ」
「お前、自分で、抱きかかえて登るつもりか?そんなことしたら、ボスは、一生お前と口を利かないぞ」
一番に地上に出、仲間が登ってくるのを待っていたヴィクターは、マクレガーに手を貸しながら、囁いた。
「マクレガー。お前、親切めかして、ボスの下から登ろうなんて言ってるが、ボスの尻に触るつもりだろう」
「・・・なんだ。そうなのか。お前、早死にが希望か?」
ショーの声も低く、マクレガーの耳に響く。
地下道から怒鳴るイアンの指示通り、車に乗り込んで待つ部下達は、イアンが、意を決して、縄梯子を上ってくるのを待った。
実は、どこに盗みに入ろうと、このイアン待ちの時間が一番長い。
そして、イアンも、梯子に足をかけるまでに時間が掛かることを自覚しているので、決して、部下をその場で待たせたりはしなかった。
次のアクションをスムーズに起こせるようにという大義名分を振りかざし、必ず部下には、次の行動への準備をさせ、怯える姿を見せはしない。
しかし、震える子羊のようなボスの心を知っている部下たちは、怠りなく潜入用に使用した道具を車に片付けながらも、万が一にも、イアンが縄梯子の途中で気を失いでもして、落ちてしまわないよう、監視の目を怠ったりしなかった。
イアンには秘密であるが、事を起こす際、必ず車の腹には、監視カメラが取り付けられている。
必死に縄梯子を掴んでいたイアンの手が、道路面に掛かった。
青くなっていた顔色を取り戻したイアンが、ふうっと、安堵のため息を吐き出し、マンホールから顔を出す。
「よかった。ボス、無事に上に辿りついたぞ。見ろよ。ヴィクター。ボス、すごく安心した顔になった」
「でも、まだ、すこし、頬の辺りに緊張が残ってるな。確かに、今回は、結構縦に長かったからなぁ」
イアンが、マンホールを登るのに時間をかけたことは、結果的に有益な結果をもたらした。
独立宣言書を手に、揉めるベンと、女を発見したのだ。
「まだいける・・・」
舌なめずりをしたイアンの顔に、モニターを覗き込んでいた部下は、顔を赤くした。
「・・・うっ、また。・・・ボスは、夢中になるとこれだから・・・」
「車を出せ!!ヴィクター!!」
怒鳴り声を上げたイアンに、部下たちは、それまでの緩んだ顔などどこへやら、すぐさま戦闘モードに入った。
ベンに向け銃を発射し、ただのパティー客と思しき女にも容赦なく銃口を向けた。
イアン・ハウの部下。
別名「ハウたん親衛隊」
現在、ベン・ゲイツと独立宣言書をかけ、熾烈なカーチェイス中ではあるが、趣味は全員、イアン・ハウ ウオッチング。
END
皆さん、映画を観ていらしたでしょうか?
見られた方は、あのシーン、この人いなかったよ。とか、こんなじゃなかったと、アレ?っと思われいらっしゃると思いますが、大人の余裕で受け流しておいてください(苦笑)
精一杯思い出してはいるんですが、瞼に焼き付いているのは、ハウたんのぷるぷるほっぺばかりなのです(笑)