ハウたんと、GO! 3

 

イアン・ハウから、公文書会館への侵入方法の説明を受けていたマクレガーは、隣に座るヴィクターを見た。

イアンが、自慢げに強盗用の車の車種を告げたばかりだった。

ヴィクターは、渡されていたコピーでとっさに顔を隠す。

「おい、ヴィクター、お前、一緒に行ったんだろう?」

「俺に言うな。ショーに言え」

「でも、お前、新車って・・・・」

イアンが口にしたのは、モデルチェンジしたばかりの最新型のキャンピングカーで、テレビのCMでも、盛んに宣伝しているものだった。

確かに、スポーツカーよりは、人の目に付かないとは言えたが、それは、あまり慰めにもならないものだった。

なんと言っても、マクレガー達がしようとしているのは、独立宣言書の強盗である。

 

「どうした?何か、意見があるのか?マクレガー」

イアンの緑の目で見つめられ、歳若いマクレガーは、慌てたように席を立った。

メンバーの中で一番高い身長の肩を縮め、とんでもないと大きく首を振る。

「いいえ、いいえ。ボス」

「・・・車が気に入らない?」

すこしばかりつまらなそうに唇に触れたイアンの様子に、ますますマクレガーは体を縮めた。

「いえ!とんでもない。ボス!!」

 

しかし、部下に不満がある状態など慣れていないイアンは、わざわざ席を立って、マクレガーの前に回りこんだ。

金色の髪を耳にかけ、マクレガーの顔を見上げる。

「確かにあの車は、人目に付きやすいかもしれない。だが、あの独立宣言書を盗むんだ。どうせなら、格好よく決めたいじゃないか。お前達と組んでやる仕事で、失敗なんてしたことはないんだから、多少のリスクは遊びのうちだろう?」

イアンは、たらしこむような目をして、マクレガーに笑いかけた。

盗まれるはずがない。と、傲慢な態度の公文書会館の管理体制へ挑戦することに興奮気味のイアンの目は、少し濡れ気味だ。

それが、間近で笑う。

ソファーに腰掛けたままの、ヴィクターもうっとりとイアンの顔を見上げていた。

「お前達の腕なら、カーチェイスになること事態がまずあり得ないんだ。車なんて、たいした問題じゃない」

「ええ、勿論。ボス!!」

イアンの目は、人、一人で有するには多すぎると伝えられてきた宝の山を夢見てもいた。

その強欲な望みは、イアンの美貌にぴったりだった。

イアンは、全てを思い通りにするために、口元を緩めた。

若いマクレガーは、短い髪の中まで赤くなっている。

 

 

公文書会館の地下を進むマクレガーは、手にドリルを抱えていた。

ドリルは、すでに一度使用されていて、少しの熱をはらんでいた。

イアンの立てた計画は、抜かりがなかった。

警備の合間をかいくぐり、最短距離で、マクレガー達は、独立宣言書に近づきつつあった。

配管の位置一つさえ、正確だった見取り図は、イアンが、手に入るさまざまな設計図から起こしたものだ。

 

「90秒でやれ」

目の前に立ちふさがったドアの前で、イアンは、言った。

勿論、強盗にスピードは、必要不可欠な要素だったが、今回の進入には、秒単位での指定は必要なかった。

この建物の上では、パティーの最中で、警備は手薄だ。

そして、イアンの入念な下調べによれば、時間単位でコードの変わるような凝った仕掛けの金庫だって待ち構えていない。

 

「なぁ、ショー。打ち合わせと何か変わったのか?」

いきなり時間の指示をし出したイアンに、マクレガーは、ドリルで、ドアを壊しながら、隣で、同じ作業にいそしむショーの耳元に聞いた。

マクレガーの後ろでは、腕時計の針をじっと睨んでいるイアンがいる。

足元にしゃがみこみ、同じようにドリルを使っていたヴィクターが声を出した。

「いや、俺は、昨日のテレビで、こういうのがやってたんだと思う。よくあるだろう?あと、何秒かすると見つかるっていう奴」

「ああ、ぎりぎりまで、ドアが開かなかったり、心臓に悪い奴」

ヴィクターの声も、それに応えるマクレガーの声も、それなりに大きかった。

だが、壁を抉るドリルの音の方が大きかった。

聞こえないのかイアンは、腕時計から目をあげようともしない。

昨日は、仕事前ということで、最後のミーティングを済ますと、その後は自由時間だった。

イアンは、一人部屋に篭っていた。

こういう時、イアンは、興味もないようなドラマをいくつも見る。

 

しかし、ショーが、苛々と足で床を蹴っているイアンを振り返り、ぼそりといった。

「・・・違う。ボスのあれは、単に、待ってるのが、嫌になっただけだ」

イアンの目は、じっと時計の秒針を追っており、口元は不機嫌に引き結ばれていた。

 

ドアが、破壊された。

最初の進入で、どうやら、ボスをお待たせし過ぎてしまった部下達は、すぐさま、イアンのためにその場から退いた。

イアンは、さっと手を挙げ、荷物をまとめる部下たちの前を先へと歩いた。

「いくぞ。ほら!」

90秒を待たずして開いたドアに、イアンの足取りが軽い。

 

「さぁ、ここは、60秒。いいか?お前達」

90秒の壁が簡単に破れたものだから、イアンは、提示する時間を短くした。

今日の仕事は、時計の針を気にしながら進めなければならないような計画ではなかった。

それよりも、繊細に、大胆に、うまく独立宣言書を手にして、逃走できればそれでよかった。

それでも、せっかちなイアンのために、部下達は、ドリルのメモリを最大限に上げた。

 

イアン・ハウの部下、別名「ハウたん親衛隊」

イアンが言うなら、どんな無理なことだって実現してしまう、とんでもない集団。

現在、公文書会館地下にて、ドア破り世界大会、新記録へと挑戦中。

 

                       END