ハウたんと、GO! 2

 

「なぁ、なぁ、なんで、ボスまで一緒についてきてるんだよ」

グループのなかで、一番運転の腕が確かなヴィクターは、ショールームでモデルのように立っている、イアン・ハウのなんとも美しい背中のラインを眺めながら、こっそりとショーに声をかけた。

二人は、今日、独立宣言書を盗み出すための足を選びに行くつもりだった。

ただし、それは、二人だけで行われるはずで、容姿のいい、つまり人の記憶に残りやすいイアン・ハウは、公文書会館の見取り図のチェックや、逃走経路のチョイスなど、他のことに携わっているはずだった。

ショーは、スキンヘッドの額に皺を寄せ、楽しげに車の中を覗き込むイアンの様子を気に留めながら答えた。

「久々の仕事だから、気に入った車じゃないと嫌なんだと」

「気に入ったって・・・」

レンタルとはいえ、いかにも高そうな最新式のキャンピングカーを物色しているイアンに、ヴィクターは眉を寄せた。

店の人間ばかりでなく、車をレンタルしに来ただけの人間も、車よりイアンに視線を吸い寄せられている。

「そうだろう?どうせ、逃走中に乗り換えることになるから、人目に付きにくければどんな車でもいいじゃないかと進言はしたんだが、パティー会場に乗り付けるのに、みっともない車は嫌だと言って」

「・・・ボスらしい・・・」

ヴィクターが、見ている前で、イアンは機嫌良さそうに家族連れに笑いかけた。

それは、その家族が連れていた金髪の小さな女の子に向けられたものだったが、真っ赤になったのは、両親のほうだった。

 

 

「ええ、こちらの車は、昨日入荷したばかりの新車で、まだ、誰にもレンタルしたことがございません。もし、よろしければ、そちら様が予約された一週間後まで、レンタルしないというお約束をすることも出来ます」

イアンに近づくまでの間に、店中の人間が牽制しあい、結局オーナーらしき男がイアンの接客に当たっていた。

金払いまで良さそうなイアンの様子に、オーナーは、満面の笑みだ。

しかし、新車である。

イアンたちが予約をいれた日取りまでの間にも、いくらでもレンタルしたがる人間がいるだろうに貸し出さないなど、破格のサービスだと言えた。

イアンは、装甲板の厚い外見や、まだ、どこにも傷のない車の様子に、嬉しそうに目を細めている。

「どう?ショー?」

「どうって、言われましても、ボス。俺は、ボスが気に入りさえすれば・・・」

ショーは、新車で、強盗に入るというクールなアイデアに楽しげなにイアンに、苦笑するしかなかった。

すこしばかり子供じみた甘えをみせてイアンはショーを見ている。

ショーは、イアンと組んで、一番長い。

だが、イアンの望みを叶えることを最優先に生きてきた男は、車などよりずっとイアンを幸せにするだろう仕事の成功を忘れはしなかった。

「でも、ボス、ヴィクターの意見を聞いてやってください。こいつが運転することになるんだし」

「そう?」

邪気なく緑の目が、ヴィクターに向けられ、ヴィクターは照れくさそうに笑った。

「俺の意見ですか?本当言うと、もうちょっとランクが下な車の方が俺には向いてると思うんですけどね。でも、ボスが気に入ってるんだったら、それでいいですよ」

 

「お友達同士で、キャンプかなにかにお出かけですか?いいですよね。この季節。よろしかったら、この車に合わせて用意しました調理道具で無料でお付けしましょうか?」

まるで、自分も連れて行ってくれ。と、言わんばかりにショールームのオーナーが、過剰なサービスを始めた。

少しでも、会話に加わり、容姿のいい金髪の気を惹こうとしているのがみえみえだった。

ショーは、無言で、老年にさしかかろうとしている男を睨んだ。

スキンヘッドの恫喝は、気温さえも下げる。

ヴィクターも、イアンに見せていた態度などどこへやら、大きな目をぎょろりとさせて、オーナーを震え上がらせた。

だが、イアンは、とても興味深そうに、オーナーに視線を向けた。

「・・・それは、いいな」

緑の目をきらきらとさせ、もう、席を立っている。

「車の中でも調理できるのか?走りながらでも?その料理器具ってやつを見せてくれ」

ショーたちの迫力に、震え上がったオーナーはぜんまい人形のようにぎこちなく、イアンをショールームの奥へと案内した。

 

「・・・・なぁ、ショー・・・俺達、独立宣言書を盗みに入るんだったよな。ピクニックに出かけるんじゃなかったよな」

ショーと、ヴィクターの二人は、車に積み込めるという電磁調理器を覗き込んで、うきうきとしているイアンの背中を見守っていた。

もう、オーナーは、必要以上に金髪へと近寄ろうとしない。

「気にするな。腹が減っては、戦は出来ぬって奴だ。ヴィクター」

ショーは表情も変えず、返事を返した。

だが、さすがに、ヴィクターは、不安そうな声を出した。

「でも・・・・俺達、強盗に・・・」

「でも、だ。ヴィクター。ボスは、腹が減ると苛々するから、嫌なんだよ。お前はボスが好きなんだろう?」

「好きだ」

こう問われれば、ヴィクターの返事に迷いはない。

 

公文書会館へと強盗に入ったイアン一家のキャンピングカーは、シルバーメタリックのすばらしく機能的な外観を誇っていた。

その上、銃撃戦に耐えるだけの装甲板の厚さもあった。

先に独立宣言書を盗みに入ったベン・ゲイツに逃げられはしたが、その威力は十分に発揮された。

 

・・・だが、その車には、扉に、フライパンが常備されていた。

それは、車の扉から振り落とされそうになっていたアビゲイル博士も証言している。

イアン・ハウの部下、別名「ハウたん親衛隊」

独立宣言書を盗み出すなどという世紀の大仕事を働く前に、ボスのためにソーセージを焼きました。

 

             END

 

部下の名前を教えてくださったN様に大感謝vvv

おかげでこの話を書くことが出来ました!