ハウたんと、GO! 12
「教会の中にある道の名前か……?」
「いや違う!この教会の地下だ!」
まるで誰かに話しかけるがごとく、大きな声で独り言を言っていたベンから答えが出ると、ショーはすかさず席を立った。
寂しい一人遊びに耽っている禿げと大事なボスを隣同士に座らせておくのなんて、真っ平御免だった。
ショーには、何故、パーキントン・レーンが教会の地下にあるのかなんてことは、これっぽっちも分からなかったが、丁重にイアンを誘導した。
イアンのためだけにドアを開け、後ろを付いてきたベンと引き離すために肩を抱いた。
すかさず、ヴィクターや、パウエルがショーの開けたイアンとベンの間に割り込んだ。
ベンはドアを開けておく為の係に成り下がった。
その上、せめてアビゲイルと話をしようとしていたベンをマクレガーが邪魔した。
アビゲイルの背中を押すと、自分も悠々とベンの開けているドアをくぐった。
一人馬鹿みたいに取り残されたベンの目が恨みがましくマクレガーの背中を睨んだ。
だが、この程度では、車の中で散々コケにされたイアン・ハウの部下の復讐心は満足しない。
「……えっと、パーキントン・レーン?これじゃない?ねぇ!ここにパーキントン・レーンって!」
辛気臭い地下墓地で、蜘蛛の巣を払っていると、ライリーが声を上げた。
なんでも自分が首を突っ込まないと気がすまないイアンがすかさず近寄った。
「ああ、確かに、パーキントン・レーンと」
金髪の美人は見つけたライリーのことを褒め、にこりと笑った。
こういう顔をイアンは出し惜しみしない。
ライリーの目尻がでれりっと下がった。
いままで射程圏外だったライリーが、イアン・ハウの部下にロック・オンされた瞬間だった。
嬉しそうな顔でぺろりと唇を舐めるイアンの顔に見惚れているライリーの服をパウエルがぐいっと引っ張った。
ライリーはこけそうになりながら、後ろへと引きずられた。
しかし、それに気付かないイアンは、大声でベンを呼んだ。
「ベン!」
呼ばれたベンは、誇らしげな顔でイアンへと近づいた。
学者は、一字一字確かめるように名前を確認した。
「パーキントン・レーン……なるほど、フリーメーソンの一員だ……」
石版へと夢中な顔のベンを見やると、ショーは、ヴィクターへと目配せした。
声などかけなくても心の通じ合っている部下達は、息の合った仕事をした。
ショーは、ベンの隣で同じように石版に見入っているイアンの腕を引き、勢いよく自分へと引き寄せた。
次の瞬間、ヴィクターは、声もかけず、振りかぶったハンマーを禿げへと叩き付けた。
一撃必殺の気迫だ。
「……っ!!!!」
石版が吹っ飛んだ。
残念ながら、ハンマーはベンの頭ではなく、パーキントン・レーンの名を刻んだ石を割った。
髪が薄い分、ベンは頭部が敏感に出来ているようだ。
多分、ハンマーを振り上げたときの風圧で薄い髪が動いたのだろう。
反射神経のいい禿のせいで、積年の恨みを晴らす機会を逃した部下達は小さく舌打ちした。
ベンが、ヴィクターを睨みつけた。
ライリーは、泣き出しそうな目をして、ベンを心配そうに見ていた。
「おい、おい、はやる気持ちはわかるが、乱暴だな。お前達」
「すみません。ボス。急に引っ張って、驚きましたよね?」
宝物に夢中のボスだけは、その場の空気を読んでいなかった。
ショーの腕の中から身を起こし、早速開いた穴の中を覗き込み行っている。
イアン・ハウの部下。
別名ハウたん親衛隊。
どうやら、本来の黒さが目立ってきたようです。
END