ハウたんと、GO! 1

 

北極圏の空気は冷たかった。

その冷たさは、到底観光気分など味わえるようなものではなく、命さえ落としそうな寒さだった。

雪上車から見える風景は、どこまでも、白い大地が広がっている。

ここでは、緑は勿論のこと、水だって、厚い氷の下にしかないのだった。

道は勿論悪路である。

 

「なぁ・・・」

部下達は、ボスであるイアン・ハウが、自分達とは別の雪上車に乗っているため、憮然とした表情を見せていた。

「なぁ、こんなところに、本当に宝を積んだ船があると思うか?」

「知るわけないだろ。そういうことは、あの偉い学者の先生に聞けよ」

雪上車の中は、ヒーターの温度を目一杯まで上げ、寒さはしのげていたが、ここにくるまでの間にも、短い吹雪に見舞われ、しばらくの間足止めをくらった。

いや、そういうことを言うのなら、まず、ここへのセスナは、二日、天候が落ち着くのを待った。

男達は、前を走るイアンの雪上車を見ていた。

「ボスは、あのベンとかいう男のことを買ってるようだが、どうだ?信用できると思うか?」

いかつい顔をした男は、どこまでも続く北極の雪原をまえに、小さなため息をついた。

「俺に聞くな。俺は、太平洋で沈んだ船が、北極の氷の中に埋もれているなんてことを説明してやるだけの脳みそがない」

「でもなぁ・・・」

仲間は、ハンドルを握ったまま、肩をすくめ、恐ろしいような笑いを口元に浮かべた。

「でも、だろ?」

「まぁ、そうなんだが・・・」

「じゃぁ、お前、ボスに内緒で、あのライリーとかいう小僧に聞いてみろ」

「まぁ、そうしてみるか」

 

部下の一人が、小柄で、可愛らしい顔をしたライリーに近づいた。

覇気に乏しいライリーは、確かに頭の良さそうな顔をしていたが、どこか子供めいた容姿していて、見ているといまひとつ、この頭脳を信じ難かった。

男は、イアンの目に付かないよう、ライリーを脅した。

「おい、本当に、こんなところに船が埋もれている可能性があるのか?」

「沈没後、まず、船は、一旦沈む。しかし、大陸棚にのった船は、ゆっくりと波に押し流され、深海へと進む。その途中でうまく海流に乗れば・・・」

こういう時ばかりは、口の回るライリーを男は、止めた。

「つまり、あるって事だな」

ライリーは、いつでも逃げ出せるだけの緊張を体に残しながら、ちらりと男を横目で見た。

「・・・いや、あるかもしれないってことで」

 

イアンが、男達を呼んだ。

「おい!お前ら、こっちだ!」

氷をのせて舞う氷原の風に吹かれながら、緑の目は、ここまで追い詰めた宝を思ってか、嬉しげに輝いていた。

隣にいる歴史学者というよりも、山師にしか見えない男に対しても、惜しみない笑みを分け与えている。

しかし、ここは、ただの氷の大地であり、どこにも宝を抱かえて眠っているという船の帆先は見えなかった。

だが、イアンは、誇らしげな顔をして部下を呼び寄せた。

「お前ら、ここを掘ってくれ。この雪の下にシャーロットが眠っている」

雪上車から降り、ただ白い氷ばかりに覆われる氷原で待たされていた男達は一斉に顔を上げた。

寒さに不機嫌になりかけていた男達だったが、それぞれの手は、すぐさま発掘のための道具を取った。

「ボス!ここですね」

「ああ、がんばってくれ。お前達が頼りだ」

 

「驚愕!北極の氷に埋もれた伝説のアメリカ船」というミステリー題材にでもなりそうな不条理なことでも、イアン・ハウが命令すれば、なんでもする部下、別名「ハウたん親衛隊」。

これからも活躍します。

 

                                       END