私の子供
リンカーン・6・エコーの身体能力の高さは、報告書で読んでいたはずだった。
ドクターメリックは、自分の部屋のテーブルに押さえつけられていた。
「放しなさい!」
低く恫喝を含んで、ドクターの声が部屋に響いた。
ドクターの眼鏡がずれていた。
「放しなさい。リンカーン・6.エコー」
「ああ! なんだって、俺はこんなことを?」
慌てた声のリンカーンは、声のままに動転していたが、押さえつけたドクターを解き放しはしなかった。
普段、ワークアウトなどしない、メリックは、自社製品の腕から逃れることができなかった。
生まれて、3年の若い細胞が、力強くドクターを押さえつけていた。
「なんでだ? なんでなんだ?」
リンカーンがドクターであるメリックに答えを求めた。
それは、腕が折れるのではないかと言うほどねじり上げられているメリックが聞きたかった。
その部屋は、リンカーン・6・エコーの部屋よりは、少し明度が低かった。
「どうだい? 今、困っていることがあるかい?」
リンカーン・6・エコーの前には、エリート然とした顔の男が、優しし表情を浮かべ、首を傾げていた。
白衣の下には、濃い色のスーツ。
机の上で組まれた指が長く細い。
男と向かい合って椅子に座りながら、リンカーンは、言い難い違和感を感じていた。
自分をじわじわと浸食していくものがあった。
それは、良くもあり、悪くもあるものだった。
例えば、目の前にいるドクターは、昨夜寝るまで、リンカーンにとって、疑うべくなく絶対の存在だった。
だが、今日のリンカーンは、何故、彼がこんな表情をして自分を見るのか、気になるのだ。
その理由を、リンカーンは知りたい。
リンカーンは、ドクターに目を合わせた。
「困っていること……、それは、言わなければならないですか?」
不思議なことに、このドクターはリンカーンが自分から目線を合わせると、するすると視線を逃がした。
そうされることに、苛立つということに、リンカーンは初めて気付いた。
今までは、ドクターがどんな表情をしていようが、彼は、この施設のトップであり、彼に従わなければならないということが、リンカーンには分かっていた。
だが。
ドクターは、微かに外した視線を眼鏡で誤魔化せると思っているのか、柔らかな声を出した。
「私は、君に、アイランドへと移住できる日まで安心してここで暮らして貰いたいと思っている。改善出来ることならば、努力をするつもりだ。……出来れば、話して貰いたい」
リンカーンは、聞いた。
「例えば、俺が、ここの生活に適応していないとなると、それは、アイランドへの移住が難しくなる?」
リンカーンたち、ここで暮らす者が日々夢見ているのは、アイランドへの移住だけだ。
汚染された世界の中で、唯一、人が人のまま暮らすことができる島。
そこには、泳げる海や、裸足のまま歩ける砂浜があると言う。
ドクターは、目の前の男に視線を戻すと、ゆっくりと口元に笑いを浮かべた。
「心配しなくていい。リンカーン・6・エコー。私は、ただ、ここの生活で、君に苦痛があるといけないと思っているだけなんだ」
住環境への不満。
考えてみれば、リンカーンは、いままでそれを強く感じたことがなかった。
だが、今、リンカーンの中には、はち切れそうに不満が渦巻いていた。
ドクターメリックの浮かべた笑いに、リンカーンは、作り物めいた印象が嫌だった。
リンカーンは、モニターも兼ねたテーブルの上に肘を付き、緩く口元を覆うように手の上に顎を乗せると、良く磨かれた床へと視線を落とした。
「悪夢を見ます。……それから、食事が気に入らない」
リンカーンは、日頃の不満を一部口にした。
「ああ、リンカーン。君は、ナトリウムの数値が高いんだったな」
メリックの手が動き、モニターを兼ねた机に、リンカーンの資料が表示された。
「アイランドへの移住者には、健康でいて貰わないといけない。食事療法はもうしばらく続けて貰わないと……いけないようだな」
ドクターの口から、苦笑とともに、ため息が漏れた。
「リンカーン、ベーコンが好き?」
リンカーンのすべては、この管理者に筒抜けだった。
それは当たり前のことだったが、今はドクターの一言が、そうされている自分に対する疑問と、怒りを誘発した。
「俺は、健康だ」
リンカーンは、強く、机を叩いた。
いきなり激高したリンカーンに、メリックが僅かに目を見開いた。
探るような視線が、リンカーンの身体に張り付く。
「俺は、全くの健康体だ。どこも悪くない。なのに、どうして食事制限を受けなければならない? 仕事だって十分している。それどころか、運動だって!!」
落ち着くようにとでも言うように、ドクターの手がひらひらと宙を舞った。
「ああ、分かっている。リンカーン。しかし、もっと健康でいて貰わないといけないんだよ」
言い聞かせるようなメリックの声が、リンカーンを苛立たせた。
「何故だ? 何故、今ですら、健康なのに、もっと健康に?」
「アイランドでの生活をより豊かで、実りあるものとして欲しいからだ」
「それを、ドクターは、皆に言ってるのか?」
リンカーンの手が、もう一度机を叩いた。
「ドクター、どうして、俺を呼びだした? 俺に興味があるのか? ここには、何千人と暮らしているというのに、どうして俺だけが特別に、ドクターのカウンセリングを受けているんだ?」
「それは……、君は率直な意見を口にするから……」
ドクターメリックの目が泳いだ。
それこそが、この施設の管理者でもある多忙なメリックがリンカーンを呼び出す時間を作ったわけだった。
ドクターメリックは、生産者に対し、率直な意見を述べる商品など作った覚えはなかった。
「リンカーン。座って」
いつの間にか立ちあがっていたリンカーンにドクターは、座るように命じた。
リンカーンが机に手を付き、どすんと腰を下ろすと、ドクターの手が、その上に重なった。
「落ち着いて。リンカーン。薬を飲むかい?」
メリックは、リンカーンの手をさするようにして、手首をそっと握った。
クローンの脈が早かった。
これ以上、興奮するようなら、薬を処置する必要があった。
リンカーンは、反対の手で目の上を手で覆った。
「いいえ。いいえ。ドクター」
ため息を吐きだしながら、リンカーンは、掴まれた手の柔らかさに、自分の中に動揺が起こるのを感じた。
それが、どうしてなのか、リンカーンには気になった。
こんな感じに、近頃のリンカーンの毎日は、興味があっちにもこっちにも引っ張られた。
それは、楽しい。
だが、理由も分からず無理矢理視界を大きく広げられるのは、リンカーンにとって苦しくもあった。
一つ知ることは歓びをリンカーンに与え、だが、同時に何故か、リンカーンのなかに、苛立ちもやってきた。
もう一度、息を吐き出し、リンカーンは言った。
「大きな声を出して、すみませんでした。ドクター」
今日になっていきなりリンカーンの苛立ちを誘うようになった作り笑顔で、メリックは笑った。
「いいんだよ。リンカーン。身体のバランスが悪くなると、感情も安定しない」
メリックは、リンカーンの手を撫でながら、商品を改めて観察した。
クローンの顔色は悪くない。
一週間前のデーターチェックでは、内蔵の状態も良好だ。
ただ、この商品は、近頃、感情が安定しない。
本体には、精神的なバランスの悪さは見られなかった。
それどころか、オリジナルのバランスがもともと悪くとも、ここでの穏やかで単調な生活で、クローンはノーマルに暮らしている例だってあった。
メリックは、口元に作り笑いを浮かべた。
メリックは、クローンに相対するとき、必ず笑顔を作った。
「アイランド行きに選ばれないから、ストレスを感じているのかい? リンカーン」
ストレスは、商品にいい影響を与えない。
メリックは、管理のために、クローン達に、アイランドへ行くことを唯一の目的として植え付けた。
それは、高品質の商品を契約者に保証するためには、必要なことだった。
しかし、そのせいで、選ばれないクローンがストレスを感じているのを、メリックは知っていた。
リンカーンは首を振った。
「確かに、アイランド行きに選ばれないのを残念だとは思っている。だが、よくわからないんだ……」
「何がわからないんだ? リンカーン」
メリックにとって、リンカーン・6・エコーが理由なく、分からないと言い出すことなどあり得なかった。
ここにいるクローンには幸福しか用意されていない。
正体のわからない不安などという代物は、清潔に整えられたこの施設に、入り込む隙間もあるはずはないのだ。
リンカーンは目を上げた。
「ドクター」
青い目が微かにすがりつくような色を見せた。
これぞ、メリックの商品の顔だ。
「どうした? リンカーン。何でも話してくれ。時間はある。落ち着いて話してくれればいい」
メリックは、殊更優しい顔をして自分の商品を見つめた。
高水準の商品を出荷するために、それは、メリックのしなければならないメンテナンスのようなものだった。
しかし、今日は、それが、この精神のバランスを欠いたクローンの失調を誘った。
「そんな顔で笑うな、ドクター!! あんたは、俺をなんだと思ってる!」
怒鳴り声が、メリックの耳を叩いた。
いきなり、クローンの手が、メリックを掴み上げた。
「放しなさい! リンカーン・6.エコー!!」
「ああ! なんだって、俺はこんなことを?」
「なんでだ? なんでなんだ?」
背中からのしかかるようにメリックを押さえつけていただけだったリンカーンが動いた。
クローンは、メリックの身体に股間を押しつけ、擦り始めた。
メリックは震え上がった。
「やめろっ!!」
管理の簡素化のため、クローンに性の知識は教えてなかった。
こんなことはあり得なかった。
「何をしている! やめろ! やめるんだ! リンカーン!!」
メリックの声が裏返った。
メリックにとって、クローンなど、内臓の保管袋に過ぎない。
自社製品に自分が肉欲の対象とされるなどということは、プライドの高いメリックにとって、信じられないことだった。
「リンカーン、お前、自分が何をしているのか、わかっているのか!」
メリックは、男性クローン体の新鮮な精子保存に拘った研究者を恨んだ。
リンカーンの息は弾んでいた。
「ドクター、分からない。俺には分からない。だけど、これは、とても気持ちがいい」
リンカーンは、触れていたメリックの身体の柔らかさに、強い衝動を感じた。
怒りに似た凶暴なその衝動は、あっという間に、リンカーンを飲み込んだ。
それを上手く解消する方法が思いつかず、苛立ちながら、リンカーンは、メリックの身体でペニスを擦り続けた。
「くそっ、上手くいかない! ドクター、もうちょっと身体をあげてくれ」
机の下へとずり落ちて逃げようとするメリックの白衣を、リンカーンは掴み上げた。
メリックの頬が、机で潰れた。
ずれた眼鏡のせいで、視界が酷く歪んでいた。
「やっぱり、こっちの方が気持ちがいい」
リンカーンは、突き出されたドクターの尻へとペニスを擦りつけた。
「こんなに気持ちがいいのに、何故、俺たちは接触禁止なんだ?」
せわしない息づかいのリンカーンは、ドクターを背中から抱きしめるように、覆い被さった。
「ドクター。ドクターは、俺に秘密を持ちすぎている」
強い衝動のままに、リンカーンは、メリックの首へと歯を立てた。
噛み付き、しかし、それでは違うと思った。
リンカーンが求めたのは、これとは違う感触だった。
リンカーンは、それを、知っていると思った。
だが、リンカーンには方法が分からなかった。
「痛いっ! 痛い、リンカーン!」
メリックは、大きな声で叫んだ。
リンカーンは、ドクターの長い首に吸い付いた。
強く吸い上げ、自分が希望している感触に近い結果を得た。
「痛い! やめろ! リンカーン!!」
今度、リンカーンは、そっと唇で、ドクターの首に触れてみた。
やっと、やわからく、なめらかな肌の感触を得た。
気持ちがよかった。
「これだ……」
つぶやいたリンカーンは、ドクターの白衣の下へ手を潜り込ませた。
「何をする! 放せ! リンカーン!!」
大きな声を上げるメリックを拘束したまま、リンカーンは、初めての性感に、突き動かされるように、ドクターのベルトを緩めた。
「これは……?」
普段、自分たちが着ているものと違いすぎ、リンカーンは、ベルトの構造がわからなかった。
あまりに強く引っ張るせいで、ドクターが呻く。
「ドクター、なんであんたはこんな服を着てるんだ?」
「放……せっ!」
ドクターの嫌がる声が、訳もなくリンカーンを高ぶらせた。
手間取ったベルトが、とうとうリンカーンの手によって引き抜かれた。
せわしない手つきのリンカーンがメリックの白衣に隠されたズボンの釦を外す。
現れた下着の色に、リンカーンが悔しそうな声を出した。
「……黒だ」
クローンには、白の下着しか用意されていない。
不健康なほど白いメリックの肌に、黒の下着は、強烈だった。
「ドクター、凄く、興奮する。まるで、ファイトの時みたいだ」
リンカーンにとっての最高の興奮は、夜の自由時間にする、疑似ファイトだけだった。
クローンは、自分のペニスを露出させ、それをメリックの太腿に擦りつけた。
「いいっ……」
なめらかな肌の感触は、リンカーンを満足させた。
ナマの肌への接触は、柔らかなのが、一番気持ちがいいと、リンカーンは、先ほど学んだ。
リンカーンのペニスを覆う粘膜が、白いメリックの肌に触れる。
柔らかい肉が、リンカーンのペニスに触れる。
しかし、まだ、リンカーンは、納得しなかった。
自分の内側に、これが到達点ではない。という確信に近いものがあった。
とりあえず、リンカーンは、柔らかな尻のドクターの肉にペニスを擦り付けたかった。
ドクターの尻に食い込む下着をずり下ろし、柔らかな肉に、闇雲にペニスを擦りつけた。
「ドクター……、すごく気持ちがいい」
まろやかな丸みを持つメリックの尻の感触は、リンカーンをかなり興奮させた。
「……リンカーン、やめろ……」
夢中になってペニスを擦りつけるクローンに、メリックは腹の底から、低い声を出した。
「今すぐ、私から退け。さもないと、一生アイランドへの移住はない」
初めての性衝動の虜になっているクローンは、メリックにとって嫌悪の対象だった。
首筋へと降りかかる湿った息に吐きそうになった。
メリックはこの商品を作ったことを心の底から悔いた。
これは、欠陥品だったのだ。
しかし、ドクターを腕力でどうとでも扱えると分かったリンカーンは、脅しにのらなかった。
それどころか、メリックの首を強く締め上げ、彼を大人しくさせると、尻の肉を掴んで山にし、その間で、ペニスを抜き差しした。
「……違う」
リンカーンは、自分でも自覚なく、もっと気持ちのいい感触があることを知っていた。
求めている感触が得られなくて、苛立ったリンカーンは、メリックの足を蹴り、それを揃えさせると、ぴったりと寄った太腿の間に、ペニスを突き立てた。
「違う!」
確かに気持ちはいいのだ。
しかし、もっと濡れた気持ちのいい感触をリンカーンは求めていた。
「くそっ、どこだ」
闇雲に、リンカーンは、メリックへとペニスを突き立てる。
「なぁ、ドクター。あんた、どこに隠し持ってるんだ。なぁ!」
めくりあげた白衣の背中を揺さぶったリンカーンは、苛立って、メリックに怒鳴った。
「どこだ! これじゃ違うんだ! くそっ! こんな風じゃなく!」
この感触が、自分の求めているものと違うということがリンカーンにはわかった。
しかし、違うということしかわからないリンカーンは、苛立ちに任せて、両手で、髪をかきむしった。
その隙に、メリックは這いずり、武器を握った。
あいにく、手の届くところに、銃がなかった。
手にとったのは、果物を剥くためのクラシカルなナイフだ。
「近づくな! リンカーン!!」
しかし、メリックの行動に気付いたリンカーンは、ためらいなくメリックに近づき、頬を張った。
メリックの落ち度は、クローンであるリンカーンに、ナイフの恐怖をバーチャルでしか教えなかったことだ。
表層に植え付けられた凶器の脅威は、リンカーンの感情的興奮を凌駕しなかった。
肉を打つ、大きな音が部屋に響いた。
かろうじてメリックの鼻にひっかかっていた眼鏡が部屋の隅へと飛んだ。
もみ合い、軽々とメリックの手からナイフを奪ったリンカーンは、にやりと笑った。
ナイフの使い道について良い考えが浮かんだのだ。
「ドクター、もしかして、これであんたのことを切るのか? そして、そこにペニスを入れる?」
腹を打つほどペニスを反りかえさせているリンカーンは、興奮に目をきらきらとさせながら、恐ろしいことを口にした。
手が、ナイフを握り直す。
ドクターメリックは、腹へとナイフの先を突き立てられ、恐怖のあまり顔の色をなくした。
「違う! リンカーン・6・エコー、それは、違う!」
「だったら、ドクター。教えてくれ。あんたの濡れてるところって、どこだ?」
聞くリンカーンの顔は、肉欲にまみれていた。
自分の欲望を達成するためになら、メリックの腹を引き裂きそうだった。
恐怖が、メリックを襲った。
生まれてから、3年しか経っていないクローンは、痛みというものを殆ど知らない。
メリックは自分の口を指さした。
「リンカーン。ここだ。ここに入れるんだ」
それは、メリックにとって、たまらない屈辱だった。
歯を食いしばったメリックの唇に、容赦なく、濡れたリンカーンのペニスが擦り付けられた。
ぬるりとした丸い先端が、メリックの唇を強引にこじ開けた。
「ドクター、入れる……んだろ?」
歯を食いしばったまま、口を開かないメリックに、焦れたリンカーンは、メリックの顎を掴んだ。
蝶番の部分に力を込め、無理矢理メリックの口を開かせた。
暖かく湿った口内が、リンカーンのペニスを包む。
リンカーンは、思わずため息をついた。
「……そう、こんな感じだ」
メリックがえずき上げるのも構わず、リンカーンは、腰を振った。
本能的な動きだった。
メリックの口内は、リンカーンを幸せな気持ちにさせた。
クローンは、メリックの頭を掴んだまま、目を瞑って腰を使いだした。
メリックは、こぼれ落ちる唾液をぬぐえずにいる顎に力を入れた。
商品のペニスを噛み切るつもりだった。
この商品がユーザーから、必要とされているのは、とりあえず、肝臓だ。
ペニスは、いらない。
いや、命だっていりはしない。
なんだったら、作り替えればいいのだ。
しかし、クローンは、自分の危険に素早く気付いた。
素早く、ペニスを引き抜いたクローンは、本能のままに、けだものの目をしていた。
「ドクター。やっぱり、嘘だったんだな。何かが、違うと思ったんだ」
リンカーンは、メリックを強く押し、床へ転ばすと、ひっかかっていたズボンをメリックの足から抜いた。
大きく足を開かせると、股の間にナイフを近づけた。
冷たい刃物が、メリックの肌に触れた。
ナイフの先で、メリックの陰毛をかき分け、リンカーンの目が、ペニスの挿入口を探す。
「多分、この辺りなんだ。この辺りに、入れるはずなんだ」
ナイフの先が、縮み上がったメリックの睾丸に触れた。
メリックの背中に寒気が走った。
「ドクター、なんで、入れられないんだ? やっぱり、ここを切って入れるんだろう?」
リンカーンの持つナイフが、メリックの身体の縫い目を辿った。
セックスなど存在自体を知らないはずのクローンだった。
それが、どうしてか、股の間にペニスを入れるということを知っているクローンの苛立ちは、メリックにとって恐怖でしかなかった。
クローンは、いまにも、メリックの股を裂こうとしていた。
メリックは、強く目を瞑った。
「……リンカーン・6・エコー、本当に、ナイフで切ったりはしない。……君は、まず、その対象を間違っているんだ。セックスは、本当は異性とするものなんだ」
「異性? あんたとはどうやってやるんだ? また、嘘を付こうとしているんだろう!」
「本当だ。私とは……できない」
リンカーンの手のナイフが強くメリックの肌を押した。
「嘘だ! そんなはずはない!」
メリックの股の間に刃物の鋭い痛みが走った。
「痛いっ! そうじゃない! リンカーン! やめろ!」
「じゃぁ、本当のことを言え」
激しい興奮状態のリンカーンは、濡れたペニスをメリックの太腿へと擦りつけた。
メリックは、嫌悪に顔をゆがめた。
「……私の尻の穴に入れろ。……出来ると言うならな」
残念ながら、宗教を持つことなど許されていなかったクローンには、禁忌はなかった。
強引な挿入によって切れたメリックの尻に、リンカーンのペニスが突き立てられていた。
額から汗を流し、必死になってリンカーンは、メリックの白い尻へとペニスを突き刺した。
「いい、すごくいいっ!」
リンカーンの顎から、汗がメリックの白衣に落ちた。
メリックは、痛みに肌を凍り付かせながら、床を涙と唾液で汚していた。
食いしばった歯の間から、呻きと供に、唾液がこぼれ落ちていった。
「……ううっ……うっ……うう……」
メリックの白い足に、血のぬめりが伝う。
痛みと恐怖を与えられて、初めてメリックは、リンカーンが人間のコピーであるということを強く自覚した。
メリックが作った最高の内臓保管庫は、人間の形をしていた。
話しする。
笑う。
食べる。
時には泣く。
そして、今、そのクローンは、セックスをしていた。
内臓を突き上げられながら、メリックは、クローンに哀願した。
「……痛い……、リンカーン……痛い。せめて、もっとゆっくり……」
メリックの身体の中を、尿の排泄器官、そして、精子の採集用としてしか用のなかったはずのクローンのペニスが往復していた。
ペニスが太い。
メリックの身体は内側から、裂かれるような痛みを感じていた。
「……痛いんだ。……リンカーン……優しくして……くれ……」
もし、クローンも、人間だとしたならば、メリックの言葉が通じるはずだった。
涙にまみれたメリックの顔をリンカーンが見つめた。
メリックを痛めつけていた腰の動きが止まった。
「ドクター……」
リンカーンの顔には、せつないと言っていいような表情が浮かんでいた。
「俺は、知りたいんだ。ドクター。俺は、あんたに笑いかけられると、酷く苛立つ。でも、あんたに触られると、すごく気持ちがいいんだ。……こうやってあんたに繋がるのも、すごくいい……」
リンカーンは、止めていた動きを再開し、メリックにまたうめき声を上げさせた。
「……うっっ……いた……い………」
メリックは、爪で床を掻いた。
「……痛い……やめて、くれ、……お願いだ。……痛くしないでくれ……」
リンカーンの大きな目が、潤んだ。
「痛くない方法があるのか? なぁ、ドクター」
バイオテック社の製品は、完璧だった。
オリジナルと全く同じ遺伝子をもった精子が、メリックの体内に流し込まれた。
END
今回痛いばっかで、ごめんなさい。
メリックさんへのアプローチを模索中