*ウィルソン先生とハウス先生の出会いのタイミングが、わからなくて、ねつ造しています。

足の手術する前からのお友達なのかなぁ…? それも、萌えるなぁvv

 

 

最悪の出会い

 

3か月後のポスト昇進を条件に、新たな病院へと赴任し、4日目、なんとなく掴めた気のする職場の雰囲気と、やるべきところまでやり遂げた仕事への満足で、病棟の廊下を照らしつづける常夜灯の明かりを頼りに、ウィルソンが車までを歩いていると、通り向こうのゴミバケツへと頭を突っ込んでいる人影が目に入った。

普段なら、酔っ払いかと、目もくれず通り過ぎるはずのその光景が、ひっかかったのは、男の手に杖が握られていたせいだ。

入院患者の無断外出を連れ戻す役目は、医師であるウィルソンの仕事ではなく、病院詰め所で監視カメラを見ているはずの警備員の仕事だが、苦しそうな呻き声が、ウィルソンにそのまま見逃すことを許さなかった。

おそらく善良な病院付近の住民のゴミバケツの端を両手で掴んで、その中へと頭を突っ込む男は、苦しそうに呻いている。手に持つのは、まだ真新しい杖だ。

「……大丈夫か?」

「そう、見えるか?」

かけた声に、男の背中にびくりと力がはいる。しかし、ウィルソンの接近を警戒するには、男の体はもっと緊急の用件を抱えていた。げぇっと、聞くものの胃を収縮させ、喉をすっぱくさせるような音を立てると、びしゃりと、ゴミバケツの底に吐瀉物を吐き出す。

「大丈夫か? 酔っ払ってるのか?」

「じゃなきゃ、何に見える?」

何度かえずきあげ、そのたびゲェゲェ言っていた男は、もう吐くものがなくなったのか、やっと体の震えが止まった。が、同時に弛緩した体は、ずるずるとバケツの中へと頭から落ちていきそうになる。

ウィルソンのところまで漂う匂いは相当臭い。顔を顰め、ウィルソンは仕方なく、男の体を引っ張った。

かろうじて、髪がバケツの底に付く前に引っ張り出した男のふらつく体は、無意識に杖のない左側の足にだけ、体重を乗せていた。やはり、この男は、足が悪いのだと、ウィルソンは、臭い男の匂いに出来るだけ息を止めるようにしながら、しぶしぶ体を支え、この背の高い酔っ払いを歩道へと座らせる。

「その杖は、もしかすると、病院の?」

ウィルソンの問いかけに、少し驚いたように顔を上げた男は、いかにも酔っ払い特有のあいまいさでゆっくりと頷く。

酔いに濁り、緩慢な動きをしていたが、男の目が、ちょっと印象的なほど青いのに、ウィルソンは気づいた。吐瀉物が男の武無精髭と、襟元を汚し、その汚さは、この土地にまだ友達のいないウィルソンにすら、知り合いになりたいとは思わせないが、口を薄く開けたまま、痴呆のように見上げてきた男の顔立ちは、予想を裏切り整い知性的だ。しかし、それを押して余りある暗い険が片手の杖だけは手放さない男の顔にはあった。

やはり、患者かと、ゴミバケツへと身を預け、見上げてくる男を見下ろしながら、ウィルソンは汚れを払うように、パンパンっと手を叩いた。

「だったら、病室に戻れ。今頃、君がいないんで、みんなが探しているかもしれない」

もしかしたら、アルコール依存症のこの患者と、これ以上、ウィルソンは関わるつもりはなかった。

しかし、ウィルソンの目の前で、せっかくバケツへと凭れかけさせた男の体がずるずると歩道へと倒れ込んでいく。

「おい、君、しっかりしろ!」

うずくまる酔っぱらいは、ウィルソンの手を振り払った。

「触るな!」

男はきつく眉をよせ、しきりに右足を擦る。杖をつく方の右足だ。

「足が痛いのか? 病院に戻るか?」

助け起こそうと肩に腕を回すと、吐き気を催す臭い息を吐きかけながら、にやりと笑う。

だが、額には苦痛のせいか、油汗が浮かんでいる。

「治療費が払えない。……家に、帰りたい」

 

こんな厄介事に、ウィルソンが付き合ったのは、離婚をしたばかりで、自由の時間を持て余していたせいだ。妻と別れればうまくいくかと思った相手とも、離婚の幕引きで揉める間に、溝ができた。

家に帰ったとしても、待っているのは、少なくなった家財と、連絡の入っていない留守電だけだ。

すぐだと言った男の家は、本当に病院から近かった。

「次の角を曲がるんだな。……おい! 右か、左かどっちだ!」

そんな人生の袋小路にでもいなければ、賃金はいいものの、昇進は様子をみるために3か月後になんていう馬鹿げた条件を出してきたブレインズボロ病院への転職は考えもしない。

「……右、そこだ」

 思い切りウィルソンはブレーキを踏んだ。

よろよろと指差された通り沿いの男の家は、右に曲がるというほど、曲がりはしない。目の前と言っていいほどだ。

酔っぱらいは急ブレーキに口を押さえる。

「待て! 今、ドアを開ける!」

運転席を飛び出したウィルソンがドアを開けると、男は、頭を突きだし、げぇっと胃液を吐き出した。鼻を突く匂いに、ウィルソンも顔をそむけた。

「早く降りろ」

ぽっかりと穴のあいたような、大きな男の目が、吐き出すもののない嘔吐の苦しみで濡れて、ウィルソンを見上げている。

「……歩けそうもない」

「甘えるな!」

「あんた、消毒薬の匂いがする医者だろ……?」

 

男の図々しさにあきれ、苛立ち、それでも杖をつく男が見捨てられなくて、鍵を開けた部屋の本の多さに、ウィルソンは目を疑った。

壁の一面が書棚だ。

それも、目につく医学の専門書に、肩を貸す相手をまじまじと見つめた。

「同業者……か?」

「……そう、思うか? ……足だよ。足のことが知りたくて、手当たり次第に買った」

開け放たれた続き部屋の奥には、大きなピアノが置かれていた。

「じゃぁ、ピアニスト……いや、シンガー……?」

にやにやと笑うだけで、髭面を吐瀉物で汚したまま、男は答えない。

「ベッドはどこだ?」

それにしても、酔った男の体は重かった。真面目に応えようとはしない男の態度に腹をたてていたが、仕方なく、ウィルソンは、酔っ払いを置いてさっさと帰ることだけを考え、指示された通り、男を運んだ。

吐いたばかりの男の息の臭さは、我慢していても、ウィルソンにまで吐き気を催させ、どさりと男をベッドに寝かすと、ウィルソンはキッチンにいって、コップに水を入れ戻った。

「口をゆすげ」

コップの水を含んで、男はぶくぶくと冗談のように頬を膨らませていた。そして、吐き出す。

コップの水がすっかり濁って、ウィルソンはうんざりした。

水だけ捨てたコップをキッチンにドンっと置き、最後の情けに、男のもとへと戻る。

「足の痛みは?」

「酷いよ。ドクター」

思わず男に近づいたウィルソンが間違っていた。

「どうしたんだ?」

「……俺の知らない間に、手術で筋肉を抉られた」

 

どういった状況でそんなことが起こったのかと想像をめぐらしていたウィルソンの唇を、まだ臭い男の口が覆った。

男にキスされた驚きよりも先に、匂いの酷さに吐き気が込み上げて来て、ウィルソンは思い切り男を突き飛ばした。

「何をする!」

「いや、せっかくここまで送ってくれたドクターには感謝の念を示すべきだろ」

お礼と言うには、図々し過ぎることを口にする男は、どうみたって40絡みだ。ハンサムでないとは言わないが、少なくても、ウィルソンの好みではない。絶対にない。男というだけで、ウィルソンには永遠の対象外だ。

「男を漁りたいんだったら、お仲間のところでやってくれ!」

ちっと、舌打ちの音を聞かせた男は、汚れた襟元のボタンをむしるように外し、自分から、服を脱ぎ出した。

柔らかな乳房ではなく、薄いものの体毛の繁る胸があらわになり、ウィルソンは顔をそむける。

「やめろ!」

「いいだろ。穴は、穴で同じだ。ボランティアだと思って突っ込んでいけ、ドクター」

上半身を脱ぎ終えた男が、ウィルソンのベルトに手をかけていた。ウィルソンはこんな馬鹿野郎は殴ってやると思った。実際、相手が足に障害を抱えた酔っ払いだということも忘れて、殴っていた。

ガツンと頬骨と、指の骨が当たる音がし、頬を腫らした男の頭が、ベッドの上に弾んだ。

しかし、何が嬉しいのか頬を赤くはらしたままベッドに横たわる男は、青い目を細め、にやにやと笑っている。

「あそこで会ったんだ。先生は、ブレインズボロの医者だよな」

ウィルソンはぎくりと体が強張るのを感じた。

「酔って絡んだ障害者を殴る医者ってのに、裁判官が抱く心情ってのは、どんな奴だ?」

 

女絡みでは、今までだって、いくつも間違いを犯してきたが、ウィルソンは、自分がこんなことをしでかすとは予想をしたこともなかった。

脅迫してきたキチガイに、勝手にしろと言い捨てて、部屋を出ようとしたら、男は、青い目を大きく見開き、まるで見捨てられるのを恐れるかのように、呆然とウィルソンを見上げた。

ふてぶてしい顔に似合わぬ、頼りないその大きな目が、ウィルソンに間違いを犯させた。

 

 

「ゴミバケツに頭を突っ込んで、男を誘うのがお前のいつもの手口なのか?」

ウィルソンは、当たった尻が、ピタンと音を立てるほど強く腰を突き入れ、男を揺さぶった。

「おい、カマ野郎、何とか言えよ。あの通りじゃ、穴でさえあれば、突っ込んでくれるボランディアがうろうろしてるってのか?」

突き入れのたびに、うねる中は、ウィルソンに喉の奥で唸らせるほどだというのに、男は、強くシーツを掴んでしがみつき、矢継ぎ早に息を吐き出している。

「どうしたんだ? やりたくて誘ったんだろ? もっと楽しめよ」

名も知らぬ、身障者を身勝手にいたぶることは、もっと胸の悪くなる思いを味わうかと思ったが、それよりも、興奮の方が大きかった。

相手は、ただ、やられたいだけの見知らぬ男だ。勿論、前戯すらなしの、手荒な挿入にも、男は抵抗しなかった。女の尻の滑らかさや冷たさはないものの、よく肉の乗った男の尻は、大きく、抱き心地は決して悪くはない。

浮気がばれてからの、妻との冷たいセックス。そして、ぎくしゃくとしだした、恋人との息の合わないセックス。

ストレスばかりで、少しも良くなかった近頃のセックスに比べれば、ただ突き上げるだけでいいというのに、男とのセックスは、深くピストンをするたび、肉がキュっと吸いついて来て、ウィルソンの喉を詰まらせる。

慣らしすら無しに、突き入れたそこが痛むのか、男は、身を硬くしてハァハァと息を吐きだしていたが、勃起が埋まる肉の狭間は、ゴムについたジェルの加減もあり、ヌチヌチと音をさせながら、心地よくウィルソンを締め上げている。

「よくなれないのか?」

まるで同情するようなことをウィルソンは口にしていたが、実際していたことは、もっと深く男の奥を犯すために、彼の尻を引き寄せることだった。

狭隘な肉道を、今日初めて会った男のペニスで開かされる男の喉がひっと鳴る。

男が持っているかもしれない病気が心配でつけたゴム越しなのを惜しいと感じさせるうねりを肉襞がしてみせた。

ウィルソンは、さらに男の奥を暴こうかとするかのように、腰を奥深くまで押し進めた。男の大きな尻にギュッと力が入る。

それが彼のいつものセックススタイルなのか、それとも、後ろを突き上げるウィルソンのやり方が辛いのか、男は、見知らぬ男に尻を犯させながら、懸命に自分で自分のものを扱き出していた。

手の動きにつられたように、ビクビクと、ウィルソンを噛んでいる肉輪が締まった。

「悪くない」

ウィルソンも、偶発的にレイプすることになった男のものなど、握りたくも、扱きたくもなかったから、うつ伏せた枕の中で、鼻をぐずぐず言わせながら、下半身で手を動かす男の行為をそのまま続けさせた。

あらためて腰を進めながら、自分の眼下に広がる広い背中に、自分のものがよく勃ったなと思う。

もとより範疇外の男で、しかも年上だ。

そこらじゅうで、男をひっかけているのだというには、こじ開け、突っ込んだ男の尻の穴が緩んでなくて、ウィルソンは驚いたが、バージンかと思わせる切なく辛そうに窄まった穴は、だが、突き入れてしまえば、馴染みのある生温かな温度でウィルソンを包み込み、理性をぎゅっと締め上げる強さで強く収縮し、肉襞の顫動は、溜息すらつかせた。

初めて、ウィルソンは、男を拾ったことを、ラッキーだったかもしれないと思ったのはその時だ。

今だって、浅ましく自分で扱く男の前は勃ち上がり始め、その姿は見ていられるものではなかったが、後だけで突きあげていた時よりも、遥かに、具合が良くなっている。

いくらか充血し、肥厚してきているぬめらかな直腸の粘膜は、前が勃ったきたことで、ペニスで擦られるたびに、絡みつきを強くしている。

「いいぞ。そのまま続けろ」

ペニスを奥まで引き込もうとしているような肉襞の動きにほんの少しの労わりの気持ちが湧き、ウィルソンは、肩を丸めこむようにして、懸命に自分のものを扱いている男の大きな傷を残す太腿を癒すように触れた。

「あああぁ!」

途端に、いま出来たばかりの傷口にでも触られたように強く男が身をよじった。逃げるように体をひねったが、重い尻には根本までウィルソンのものが嵌まっているのだから、逃げることは敵わない。

「触るな!」

「どうして?」

ウィルソンは、男の反応が不思議で、抱き込んだ体の傷跡を触診するように撫で回した。

「触るだけなら、痛みはないはずだ」

男は、全身でウィルソンを拒み、ガクガクと体を震えさせる。

「嫌なんだ。触らないでくれ!」

男の青い目に、どっと涙が湧いた。

無茶な挿入の時にすら、歯を食いしばって尻を突き出していた男が、ウィルソンから逃れようと手足をばたつかせる。

傷跡から、手を離したウィルソンが逃げようとする片足の不自由な男を押さえつけ、無様な尻を打つ様に何度も突き上げると、濡れ穴はペニスを卑猥なほどきゅうきゅうと締めつけてきた。

淫猥なせめぎ合いをみせて、ウィルソンを押し潰そうとする肉壁を、強くウィルソンは押し開く。

「足の傷は、君のハートをまだ、傷つけるってことか?」

細かい内部の顫動は、道で男を拾わせておくには、勿体ないほどだった。

「すごくいいな。お前の中」

思わずため息をつき、その場でとどまったまま、ウィルソンは狭い男の肉道の絞りあげを味う。

ウィルソンは、もともと男の傷になど、興味はないのだ。もう、今、頭の中にあるのは、このまま気持ち良く出してしまうことだけでしかない。

「もう一回、前を扱けよ。その方が、こっちがよく収縮する」

溜まったストレスを叩きつけて解消するには、このみじめで傲慢な男は実に具合がよかった。

「尻を少し持ち上げろ」

僅かに動いた男の尻を掴んで、腰を突き上げる。

「ほら、触っていいって言っただろう。扱けよ。貸し出しは、ペニスだけだ。そっちまではしてやる気はないんだからな。……そう、いいじゃないか。お前、若くないけど、この体なら、かなりいい」

腰を突き出すたび、大きな男の尻はよじれるように動き、先ほどあんなに牙をむいた口がぽっかりと開いて、掠れた声がかすかに漏れた。

「安心しろ。この体なら、足に酷い傷跡があったって、まだまだ男が拾えるさ。面だって悪くないし、……っぅ、あ、なんて、締めつけなんだ。……いいぞ。そのまま、いい子だ。そのまま締めてろ」

狭く熱い肉の狭間をグツグツと、犯し続けていると、男は鼻に抜けるような甘えた音を漏らした。

激しく揺さぶられると、男の手は、もうペニスへと添えられているだけで震ており、シーツを掴むもう片方の手にばかり力が入っている。

「さすが、年季の入った体は違うな」

女ですら、年下好みのウィルソンは、肛口からずるずると引き出されるペニスに、淫らに震える赤い肉襞を薄く見せる熟れたその体に、自分が興奮しているのを感じた。

その肉が軋むほど一気に突きいれたウィルソンの肉棒をぎゅっと噛みしめ、男の体がビクンと震えた。

ハァハァと息をしながら、自分のペニスを扱く男の手の動きが慌ただしくなる。

切迫し、急を告げる男の体は、ウィルソンが突き入れるたびに、背中をぴんとそらし、激しく腰をよじりながら、勃起を握る自分の手を動かし続けた。

ぶるぶる震える男の尻の奥は、ゾクリとする快感をウィルソンに与える。

「いきそうだ……もう、出すぞ」

ウィルソンが声をかける直前に、男の内部は、うねりを強くし、強張った体は、食いしばった歯の奥で耐えきれない声を漏らすような音を立てたかと思うと、いきなり絶叫した。

「ああっ、っああ! ああぁぁーーー!」

撃つ放たれた男の精は、握っている手からドクドクと溢れ出している。ヒクヒクと絶え間なく収縮する肉壁がウィルソンを揉みくちゃに締めつけてくる。

「あっ!」

もう、ウィルソンにも射精を堪えるための努力は無理で、ガクガクと揺れている体を掴むと、思う様腰を叩きつける。

「出すからなっ。……っぅ、ありがたく受け止めろよ」

パシパシと男の尻を叩くウィルソンの腰の音が室内に響いた。

 

「あっ! あっ! あっっ!」

「うぁぁああぁー! ああぁぁぁーーッ!」 

 

いきながら、男が、さらに絶頂を迎え、その背をのけぞらせた。

 

 

 

「よう!」

ブレインズボロ病院内で手を挙げて挨拶を寄こした男の顔に、ウィルソンが愕然としたのは、その2日後だ。あの時ほどひどい顔はしていないが、青い目が、間違いなく、ゴミバケツに吐いていたあの男だとウィルソンに確信させた。男は杖もついている。

「あら、ハウス。あなた、ウィルソン先生を知ってるの?」

3か月後の昇進へのため、組織内部に関する軽い打ち合わせをしながら、カディの部屋まで歩いていたウィルソンは、彼女の部屋にいる男に目を見張った。カディは、興味深そうに二人の顔を見合わせいる。

「こいつのことをか? 顔は知ってるが、名前は知らない」

相変わらず男の態度は、無礼極まりない。しかし、カディは、この病院の最高責任者だ。

その彼女にこれほどの態度がとれる相手の立場がウィルソンにはわからなかった。

言葉もでない不審な態度のウィルソンをどう思ったのか、カディは、さりげない紹介をした。

「ドクター・ウィルソン、こちら、この病院の特別診断チームの部長を務めるハウス。ハウス、こちらは、腫瘍学部門のドクターであるウィルソン先生よ」

「ああ、なるほど、3か月のお試し期間付きでおまえが引っ張ってきたとかいう、未来の腫瘍学部長だな」

ブレインズボロ教育病院の特別診断チームを束ねる、解析医は、天才だと有名だ。そして、紙一重だとも。

「よろしくたのむ、ウィルソン」

 

 

それから、ウィルソンが、ハウスを避けて、避けて、避けて、避けまくって過ごした半月が過ぎ、決してあの夜のことを持ち出そうとしないハウスに、ほんの少し気を緩めた3か月後、酒に酔ったウィルソンは、ハウスにのしかかられていた。

「……やめろ、ハウス! やめてくれ!」

「なんでだ? 俺の体をいいって、お前は言ったじゃないか」

青い目が印象的な解析医は、やはり、紙一重だ。

「あの時のことなら、謝る!」

「いいや、謝らなくていいさ。ウィルソン」

 

後日、幾ら、過度に酒を飲んだとはいえ、明日の診察に備えて、どうしたって限界をセーブしているはずの自分が、どうして抵抗できなかったのか、ハウスが種明かしをした。

「この薬の名前を知ってるか、ウィルソン?」

「……信じられない奴だ……」

 

 

 

「あの夜は、もうめちゃくちゃになりたくて、ゴミバケツの中でおっ死んでもいいと思ってたんだ。俺みたいな脚のきかないクソ野郎には、自分にふさわしい惨めな墓場だと思ったんだ」

髪を撫でられるのを嫌がっているのを承知で、ウィルソンは年上の友人の短い髪を繰り返し撫でつけていた。

「でも、それを、クソ親切な野郎が邪魔しようとするじゃないか、これはもう、善意の塊のこいつを道連れにして、最低最悪な一晩を過ごして、死んでやるのもいいかと思って」

「怖いな、君は。ってことは、あの朝、君が寝過ごしさえしなければ、俺は君の無理心中に付き合わされてたってことなんだ」

「ゲロ吐きの最低のカマ野郎の尻に突っ込んだ挙句、全裸で刺されて死んでる医者だ。ボランティア野郎には、最高の華々しい幕引きだろ」

「相変わらず、君の考えることはよくわからないよ。ハウス」

何度聞いても、この話にウィルソンは苦笑するしかできない。

「でもな、目が覚めてみれば、昼で、カディから出勤しろとガンガン電話が鳴ってて、もう死ぬには間抜けすぎるタイミングだった。腹もすいたし……病院に行ったら、ウィルソン先生は、夕べのクソサド野郎の顔なんかすっかり忘れたご清潔な顔をして仕事をしてやがる」

「……僕にも言い訳させてくれ。君が、はじめてだったなんて、欠片も思ってなかったんだ」

本当に、ウィルソンはそう思っていたが、この言い訳を、ハウスは信じない。

「かもな。それにしても、お前の本性らしい腰使いだったけどな」

ハウスは小さくあくびをした。そしてちらりとウィルソンを見る。

「3か月、為りを潜めていて、襲いかかってやった時の、お前の顔が忘れられないな。ジミー。今にも、ママって叫び出しそうな、泣きだしそうな面してたじゃないか」

あの時のことを、ウィルソンは思いだしたくない。好き勝手に乗られて、搾り取られた。

「当たり前だろ……、報復するためだけに、全然良くないアナルセックスに挑む気になった君の気持がいまだに、僕にはさっぱり理解できないよ」

「チャレンジこそ、人生だろ。おかげでほらみろ。いまじゃ、すっかり楽しいセックスライフが手に入っている」

ハウスは、にんまりと促すように笑う。

「まぁ、……そう言う言い方もできるかもしれないけど、あのあと、僕が君に話しかけるまでに、ひと月、そして、君ともう一度友達付き合いを再開するまでに2か月。……そのあと、僕は君にはそういう嗜好があるんだって誤解したから、しようとして、でも、君は、拒んだ。男とする趣味はないって僕のことを思い切り嘲笑って、やっと僕たちが寝たのは、一年後だ。……ハウス、僕が気の長い人間でよかったな」

 

青い目を細めて傲慢に笑った年上は、くいっと顎をつきだし、薄い唇に少しだけ力を入れた。

ウィルソンは、そっとキスした。

 

「一年間、君を口説いて、口説いて、口説いて、まさか、あの夜、いきなりやらせた酔っ払いともう一度寝るために、こんなに労力がかかるとは思わなかった」

その間に、ウィルソンは、ハウスの傷のわけを知った。

もう、ハウスは、ウィルソンに傷跡を触らせる。

マッサージされれば、目を細めている。

あの安心したハウスの顔を、多くの人間はみたことないはずだ。

「俺だって、あの夜、最悪の出会い方をしたクソサド野郎と、こうやって寝ることになるとは、夢にも思わなかったぞ」

 

 

キスは、2回と続かなかった。

ハウスの口は、多くの場合、キスよりも文句を言うために使われる。

「ウィルソン、いつまでもいちゃついてる。俺は、腹が減った。……朝から、お前のセックスにつきあってやったんだ。さっさと飯を作って、運んで来い」

「ベッドで食べるのか? また、汚すぞ」

「おかげさんでな。人の足を掴んで、いつまでも腰を振ってやがった最低野郎のせいで、俺は尻が痛いんだ。パンケーキだぞ。パンケーキ!」

「本当に、君は、好きだな」

 

 

END

 

お付き合い下さいまして、ありがとうございましたv