おはよう

 

「……、すごく気持ちいよ……、ハウス」

「…………そうかよ……」

背中に張り付いたウィルソンの重みに、ハウスは超絶不機嫌だ。後ろから乗っかられた状態で目がさめれば、確かに、爽快な朝とは言い難い。しかも、アレは、ずっぷり根元まで嵌まっていて、抱き枕ででもあるようにハウスを抱くウィルソンは、思い切り満足そうな顔をしている。

「……誰が、していいって言った……?」

きちんと着て寝たスエットを知らない間に全て脱がされ、目が覚めればベッドの上でうつ伏せで少し尻だけを上げた状態だ。だが、不思議とこんな格好をしていても右足への負担は感じない。それどころか、毎朝の目覚めと同時にやってくる憂鬱で甚大な痛みが今朝はなくて、そのおかげでウィルソンの腹に問答無用の肘鉄は入ってないが、それでもハウスの機嫌が悪いことには変わりはない。

無防備な尻には、朝から勃起したペニスが嵌まっているのだ。

人の肩へと幸せそうに頬ずりするウィルソンの手は、ハウスのペニスから、濁りのある液体を絞りだそうと無遠慮に動いている。

「嫌なのかい?」

 

当たり前だとハウスは答えたかった。

だが、わざとゆっくり腰を引いてゆくウィルソンの動きに、喉の奥からあっ、っと、声が出た。じりじりと肉壁を擦って後退したウィルソンは、大きなものがなくなったことできゅっと狭まった場所を今度は遠慮なしに突き拡げる。

そのまま早いペースで腰を振られ、ハウスは枕を強く掴んだ。

「んっ、っ……っは!」

「やっぱり、君の中は、すごくいい」

「っ、……っ、は……んっ、んっ」

「ハウス、君、すごく気持ちがいい。どうして、こんなに君は具合がいいんだろう」

 

朝っぱらから、熱に浮かされたような囁きを垂れ流しつつ、熱心に腰を振る男は、残念ながら、現在ハウスのたった一人の恋人だ。

世間的な尺度で見るなら、ブレインズボロ病院の腫瘍学部門部長を若くして務めるウィルソンは、恋人として申し分のない社会的地位を持っている。好みもあるだろうが、容貌も決して醜いとは言い難い。人柄の良さに関しては、病院中のスタッフが保証するに違いない。

だが、この男は、夕べ、ハウスと8時に約束をしながら、夜中まで伸びた入院患者のオペに付き合い、その足でハウスの家までやってくるなり寝くさった。

10時を過ぎたあたりで、ハウスも、仕事に対して貪欲な友人としてのウィルソンを知るだけに見切りをつけてはいたが、真夜中過ぎにやってきた恋人は、ハウスのベッドに忍び込み、眠っていた背中を抱きしめ、ごめん、ごめんと囁きながら項にキスを繰り返したのだ。

深く寝入っていたところを起こされ、嫌な夢から覚めるような重だるさで、やっとハウスは目を開けたというのに、文句をいってやろうと首を捻じ曲げ振り向くと、ウィルソンは寝息を立てていた。

「ウィルソン、おいっ、ウィルソン!」

「……うん、……ハウス、眠い」

Tシャツの襟が濡れると気持ちが悪いというのに鎖骨の辺りを舐め、項を軽く噛みさえしたのに、ハウスの体を抱きしめるウィルソンの腕からは力が抜けており、体に掛かる腕は重い。

「ウィルソン、おいっ、ただ寝るだけなら、ソファーに行け。狭い」

「……うん、ハウス、……うん」

眉が影を落とす瞼は生い茂った睫毛を揺らして、しっかりと瞑られていた。

「何がうん、だ。狭いって言ってるだろう、お前!」

「……ごめん、……ごめん」

殆ど眠りの国にいるウィルソンの唇は、かすかに開き、やすらかな寝息を立てている。

「……ハウス、ねむい」

 

昨夜、あんなざまだったというのに、許しも得ずに朝から乗っかるウィルソンをハウスは許せるわけながない。

「っ……んっ、んっ!」

「っ、んッ、ウィルソン、よせっ!」

「ハウス、いいんだろ。良さそうな顔してる」

確かに、いいは、いいのだ。

抉るように突き出される腰に、内壁を擦られて、腰が蕩けるような快感が、熱く下腹からこみ上げる。取らされている体位のせいか、突き出されるペニスは下腹の弱い部分を何度も擦って行き、過分に与えられる快感のあまり、ハウスの眼尻には、涙が溜まってしまっていた。

だが、ここまで勝手をされて、許せるわけがない。

「……もしかして、ハウス、怒ってるのか?」

 

顔を覗き込むようにしたウィルソンが、急に腰の動きを止めて、ハウスは、切ないほどの物足りなさに身悶えた。

「足は、痛くないだろ?」

しかし、知ってか知らずか、いや、知っていてわざとだろうが、腰の動きは止めたまま、ウィルソンの手が、右足を擦る。ただそれだけで、ぞくぞくとした快感がハウスの腰から湧き上がり、背中が震える。

今朝、痛みを感じずにすんだ足の理由なら、ハウスにも思いつくことができた。

「……マッサージ、したんだな?」

「まぁね。目が覚めたら、君が苦しそうな顔で寝てたから」

ウィルソンはちゅっとハウスの耳に触れていった。

そのまま、肩までキスを続けていく。

だが、ハウスが欲しいのは、そんな甘いキスではなく、疼く肉の狭間を埋めて動く太くて硬いものだ。

「マッサージしてたら、世界中の苦悩でも背負っているようだった君の顔がだんだん緩んできて、ついでに、アッチの方も勃ってきたから」

舌打ちするハウスが焦れているのに気づいているはずなのに、まだウィルソンは動かない。

「……お前、寝てる俺に気持いいかって聞いたか?」

「うん、そうだね。気持ちいいかいって聞いて、それから、もっとして欲しい?って聞いたら、君が、ああって言うから」

夢うつつの相手の返事を真に受けるなんてウィルソンは変人だ。

「君の足に触っているうちに僕もしたくなってたし、それに、夕べの君がいい子で寝るなんてあり得ないから、絶対楽に入ると思ったんだ」

 

ぴたりと肌を合わせ背中に覆いかぶさっていたウィルソンが、ハウスの耳を噛んだ。

そのまま耳の穴の中へと舌を這わしていく。

「ハウス。確かに約束が守れない僕も悪いんだけど、振動の強いおもちゃでばかり遊んで、その刺激じゃないといけないなんてことにならないでくれよ」

懇願を装う声に、内心のにやつきがにじみ出ていて、思わずハウスはウィルソンの顔を叩いた。

「痛いなぁ。見えてないのに、なんでそんなに正確に叩けるんだ」

うつ伏せのままでいながら、ハウスはちゃんとウィルソンの顔を叩くことが出来た。

だが、ウィルソンは言うほどにはダメージを受けていないようだ。

意趣返しなのか、ハウスの腰を掴んだウィルソンは、尻山の狭間を自分の腰で押し分けるほど深くハウスに突き入れ、そこで揺さぶる。狭い肉筒の中を、一杯に埋められ、刺激されるハウスは、自分のだとは思いたくないような、破廉恥な声を上げていた。

「好き? ここ、好きだよね? よかったよ。まだ、君が僕ので感じてくれるみたいで」

くすくす笑いながらウィルソンは、ハウスが思わずきゅっと硬く太い肉棒を締めつけている場所を無遠慮にこじ開けてゆく。

パンパンと音がするほど激しく持ち上げられた尻を続けざまに突き上げられ、ハウスは声が止まらない。

「絶対に君は、オナニーしてから寝ると思ってたんだ」

あまりに切れ目なく声と息を吐き出すせいで、ハウスの口からは涎が伝った。

「夕べは、どれを使ったんだい、ハウス? 勝手に一人で楽しまないで、たまには、貞淑に僕のことを待っていて欲しいなぁ」

ウィルソンは勝手なことばかり言っている。

「でも、君がしてたおかげで、いい具合に中が解れてて、ハウス、僕も、すごく気持ちいいよ」

腰を突き動かしながら、ウィルソンはハウスの項を噛んだ。

「どれだけ、僕が君のこと、好きなのか、知りたいかい、ハウス?」

 

 

強く突き入れられた衝撃の甘さに堪えきれず、きゅっと後を締めつけたハウスのものからは、精液が飛び出していた。

 

 

「……今朝のハウス、機嫌悪いわね」

「いつものことだろ」

医学専門書の陰に隠れて、オフィスでひそひそとやるのは、キャメロンとチェイスだ。

「きっと、アレだろ。ウィルソン先生が」

度を超えた仲の友人同士であるハウスとウィルソン腫瘍学門部部長が、勤務時間外にも親しい仲であることは、病院中が知っている。気むずかしく、体にも障害を持つハウスの友人が、ウィルソン、ただ一人であることを考えれば、ウィルソンの友情は美談の域だ。

自分の分のコーヒーに砂糖をいれていたフォアマンは、きっと、朝飯だの、身だしなみをきちんとしろだの、友人の家に泊まったウィルソンがハウスの世話を焼いて、いつもより早くに起こされたんだろうと、続けるつもりだった。

だが、ハウスが、ぎろりと睨んだ。

思わず口をつぐんだフォアマンを見据えて、ハウスは機嫌の悪さを隠しもせずに、口を開く。

「その通りだ、フォアマン。朝から盛るあいつが俺にのっかって、二回もやりやがった。二回だぞ。二回!これで機嫌よく出勤できるほうがおかしい。だいたい、寝てる奴にいきなり入れるか? 俺は気持ち良く寝てたんだ。あいつは天使の皮を被った悪魔だ」

ハウスの弟子たちは、勿論、友情の美談ではすまされないウィルソンとハウスの仲を知っていた。

知ってはいたが、できれば隠しておいて欲しいのだ。

だが、ハウスは遠慮がない。

「寝てたのに、いきなり入れるか、普通? 本当にいきなり入れるんだぞ。あいつ! おかしいだろ」

同意を求められ、フォアマンはうなだれ、キャメロンはうつろに遠くへと視線を飛ばす。

ただ一人、チェイスが少し驚いたような顔をしていた。

 

「……へぇ、先生、いきなりなのに、入るんだ……」

 

END