恋人たちは、

 

いつ来てもハウスの家は、雑然となる一歩手前の際どい整然さをみせていた。

しかし、決して、この家がきちんと管理されているわけではないのだ。

足の悪いハウスは、気が向かなければ、使ったタオルを机の上へと放置するし、使い終わったものが、必ず元の場所に戻されるというわけではない。キッチンの洗いものも毎回はなされない。

だが、この家の住人が一人であること。彼独自のルールによって物の整理がなされていること。

そのせいか、いつ来ても、ハウスの部屋が混乱状態に陥っていたことはない。

ウィルソンは、ハウスの家が結構好きだ。

もの言いたげな姿の家人が、自分をじっと眺めている今なら、もっと。

 

「ハウス。とりあえず、座ってもいいかな?」

珍しくウィルソンが時間どおりに仕事を上がれそうだった夕刻、オフィスを訪れたハウスは、何かをしゃべるわけでもなく、その後の約束を取り付けるわけでもなく、うろうろとウィルソンのオフィスに居続けた。

「何か用なら……」

最後のカルテにサインを入れ、処理済みのボックスに入れておく。こうしておけば、ナイトシフトに移る際、腫瘍学部門付きの秘書が回収していく。後、ウィルソンのやることと言えば、白衣を脱ぎ、ジャケットに袖を通して、鞄に私物を詰め込んで、ドアを開けて出ていくだけだ。

専門書の背表紙を眺めているかのように見上げていたハウスは、ウィルソンが鞄を机の上に乗せると、その音に一瞬、視線を向けた。

だが、もの言いたげにしたくせに、杖の男は、また視線を本の背へと戻す。

「ハウス、僕も今日はもう帰れるんだ」

早く帰ることのできる日に、病院に長居することは禁物だ。

「食事をしようって誘いなら」

持って帰るつもりの資料を鞄に入れた。これでもうウィルソンの帰り支度は終了だ。

「別に誘いにきたわけじゃない」

「ふーん」

ウィルソンが歩き出すと、杖を鳴らすハウスも同じようにドアに向かう。

「じゃぁ、何か話が?」

 

ハウスは、何をするでもなく、家の中をうろうろと歩きまわっている。

落ち着かないその態度は、ソファーに掛けるウィルソンにも伝染し、何度も来たことのある友人の家で腰掛けながら、ウィルソンにも落ち着きを与えなかったが、コツコツと杖の音をさせながらせわしなく自宅を歩き回るハウスの姿を見ているのは、それなりにウィルソンを楽しませていた。

だが、本当にハウスは落ち着かない。

寝室には二度行き、ウィルソンの隣に腰掛ける寸前までいくことは、三回。

そういえば、バスルームにも閉じこもった。

歩いている最中に、ウィルソンを振り返り、もの言いたげにしたことは、数えられない。

今は、キッチンに立てこもる。

「なぁ、ハウス、キッチンにいるんなら、水を一杯くれないか?」

足の障害に合わせ、歩行の邪魔になるドアを最大限、取り払った自宅のなかで、部屋の敷居の向こうから、ハウスはひょいっと顔を出す。

だが、ハウスは、まるで睨むようにウィルソンをじぃっと見つめるだけで、勿論、水も運んでくれなければ、自分でやれと文句を言いもしなかった。とりあえず、ハウスは、機嫌が悪くなってきているようだ。

仕方なく、ウィルソンは自分で取ろうと立ち上がる。

すると、夕べの残りなのか、自分の分だけターキーを挟んだパンを咥えたハウスが急ぎ足で戻った。ウィルソンがキッチンへ行こうとする道をふさぐように、立ちはだかる。

「おい、ちょっと、ハウス!」

ハウスは、無理やり、ウィルソンの隣にドサリと腰を下ろす。

口に咥えたターキーサンドに、僕のは?と、ウィルソンが目で尋ねると、ふいっとハウスは視線をそむけた。

ハウスは一人分のディナーにむしゃむしゃと口を動かし出す。

「ないってわけだな」

やはり、せめて水だけでも飲もうと、立ったままのウィルソンがハウスの前を横切ろうとすると、杖が突き出され、邪魔された。

「水も飲ませてくれないのか?」

年上の友人が子供じみた偏屈な態度を取ることは、ウィルソンにとってもう馴染んだことだ。

だから、ウィルソンは、対ハウス作戦を練り直し、診察用の営業スマイルで持ちかけた。

「じゃぁ、君の分の水もとってきてやるってことでどうだろう?」

ハウスはじろりとウィルソンを睨んだだけだ。

 

むしゃむしゃと一人分のディナーを平らげるばかりでハウスは、口を開こうとしない。

「なぁ、ハウス、……僕に話があるんだろう?」

ハウスの返事はない。

一つのソファーに隣同士で座り、質問の声が聞こえなかったわけはなく、じっとウィルソンは答えを待った。

だが、ハウスは口を開かない。

こうなってしまえば、ハウスが口を開く気になるまで、長く時間がかかることは、簡単に予想のつくことだった。

自分の分の夕食をどうしようかと考えながら、ウィルソンがテレビのリモコンを取ろうとすると、ハウスの杖がその手を叩く。

「見るなっていうのか?」

「俺のテレビだ」

「知ってるよ。そんなこと。でも、君は話もしないし、水だって飲ませてくれない」

 

ウィルソンの目は、確かに、物欲しげにハウスのサンドを眺めているのに気づいたのかもしれない。ハウスは、嫌そうな顔をして、残りひとかけらになっていたサンドをウィルソンの口へと押しつけた。

「……ありがとう」

だが、サンドはもうバターを塗ったパンのみの部分だ。

それでも口の中に放り込み、ブレインズボロ病院の腫瘍学部門部長は、ソファーに座り、水すらなしにもごもごと口を動かしていたのだ。

 

「……ウィルソン」

ようやくハウスは口を開いた時、ウィルソンは、ぼんやりと部屋の中を眺めていた。

ああ、この部屋には彼が気に入ったものしか置いてないのだ。それが、同じ匂いを発し、だから、部屋の中は独特のトーンでまとまる。

 

「ん?」

呼びかけてはきたものの、相変わらず、ハウスの口は重く話は進まない。

何がそうさせているのか、言いだしにくそうに口ごもったハウスは、ちらりとウィルソンへと視線を寄こす。

 

「……あのな、」

だが、ハウスは、そこで話を打ち切り、また、立ち上がると部屋の中を歩きまわり始めた。

自分にイラついているのか、キッチンで大きな音がする。

ピアノのふたは開けられ、閉められた。

二度目のはずのバスルームからいかにも早すぎる帰還を果たしたハウスの腕を、ウィルソンは掴んだ。

「落ち着けよ。ハウス」

 

長身でありながら、頼りないような青い眼で見上げてくるという彼独特の魅力をハウスは披露した。

ウィルソンは、覚悟を決めた。

「話を聞くよ」

実のところ、ウィルソンには、これほどハウスに不審な行動を取らせる話題というやつに、心当たりがある。

「話を聞くから、ハウス」

 

「……二週間だ」

ぼそりとハウスが言う。

やっぱりだった。

二人は、二週間前、セックスした。

それが気になっていたのは、ハウスだけではない。ウィルソンも同じだ。

ウィルソンの手にびくりと力が入ったのに気づいたのか、ハウスは、反らしていた目をそっと上げた。

 

「ウィルソン、……この話をして欲しくないか……?」

して欲しくないわけではなかったが、するには勇気のいる話だった。

ウィルソンは、とりあえず、ハウスに掛けるよう勧めた。

座ったことで、また言いだしにくくなったのか、ハウスは押し黙る。いつもは強気な頬に不安が見えた。

それでも青い目には、強い意志が見える。

「……ウィルソン、お前は、嫌だったんだな」

溜息とともに言いだす。

「違う。ハウス」

だが、杖に顎をのせた友人は、ウィルソンの方を見ない。

「わからなくはない。俺はこんな年寄りだし、障害者だ。お前を十分楽しませてやれるとはいえない」

「そういうことじゃないんだ」

ハウスがやっとウィルソンを見た。あの夜、体の全てを見せたように、ハウスは傷ついた顔を、ウィルソンにはっきりと見せる。

「じゃぁ、どういうことだ、ウィルソン?」

ハウスという男は、潔い。決めてしまった青い目にじっと見つめられ、ウィルソンは、ぽりぽりと頭を掻く。

「ハウス……君は、僕がずるい男だってことは知ってるよな?」

「まぁな。……だから、なかったことにして、話もしたくなかったんだろう?」

「いや、なかったことにしたかったわけじゃなくて、」

しどろもどろのウィルソンの言い訳に、睨んでくるハウスの目を避け、ウィルソンは組んだ指の上へと自分の頭を落とした。

「僕は君が好きなんだ」

まだ、逃げ道はないものかと探る自分の頭にウィルソンは見切りをつける。

「同情か? ウィルソン」

即答したハウスは全くウィルソンの言葉を信じていない。

「俺たちは飲んでたし、ウィルソン、お前は酔ってたんだと逃げてもいい」

「そんな、僕が誘っておいて、そんな言い訳が通用するわけが」

「世間じゃ通用しなくても、俺は納得してやるよ。それにお前が誘ったわけじゃない。俺がお前の仕掛けてくるのを待ってた」

「そんなんじゃないよ! 君は自分に自信を持ち過ぎた。あんな、いつもよりちょっと余分に胸元を開けただけの格好で、僕が釣られたとか言われちゃ」

「お前は、俺に色気がないといいたいのか!」

「違うよ! 君が自信過剰だって言いたいだけで!」

「同じことだろ!」

 

怒鳴り合いになり、お互いに本題からずれたことに気づいて溜息を洩らした。仕方がない、遠慮のない友人でいた時間の方がはるかに長い。

 

「ウィルソン」

低い声でもう一度きり出したハウスの目は、暗かった。

たぶん、ハウスはまた自分を傷つけるための言葉を言いだそうとしていた。

それが聞きたくなくてウィルソンはハウスをきつく抱きしめ、キスで口を塞いだ。

ソファーがぎしりと鳴り、腕の中に囲い込んだハウスは厚顔無恥な友人を押しのけようともがく。

ウィルソンは放さなかった。

「君としたセックスはすごく良かった。ハウス」

顔を顰めたハウスの青い目がウィルソンをきつく睨む。

「本当なんだ。恥ずかしいけど、毎日したいって思うくらい、君はよかった」

「……なら、なんでだ?」

抱きしめた体は汗を浮かべ熱いというのに、ハウスの声は低いままだ。

青い目が射るように、ウィルソンを睨んでいる。

「だって……」

「やってよかったんだったら、やればいいだろ。俺は一言だって嫌だなんて言ってない。さりげなく俺を避けたのはお前だ。それどころか、この家に来ておきながら、テレビだけ見て帰ったのもお前だ!」

怒鳴ったハウスの口は、今にも噛みつきそうだった。

「よかったんなら、なんであれから、二週間、一度もしない。普通に考えてみろ。やりたてなんて、毎日盛ってるようなもんだろ!」

「ハウス、君は毎日盛ってたの?」

場違いにも、ウィルソンの脳裏に鮮明に浮かんだのは、眉間にセクシーな皺をよせ、薄く口を開けたハウスのいき顔だ。

いく寸前、キスを求めてきた唇の形も思い出した。

「そうじゃない! いや、違う。……くそっ、盛ってたさ。……お前は、……俺を好きだと……言ったろ……!」

 

言ったのだ。過去にも何回となく、ハウスに好きだと告げはしたが、裸で抱き合って、セックスしながら好きだと告げたのは、初めてのことだった。

ハウスのことは好きだったが、はっきりと性的なニュアンスを含めて、好きだとお互いに告げあったのは初めてのことだった。

好きだと言う言葉が動揺をもたらしたのだと告げたことが恥ずかしかったのか、ハウスは悔し気に目をそらしている。

「ハウス、本当に君はよかったんだよ」

あまりに正直に自分を曝け出すハウスに、呆然とウィルソンは言った。すると、ハウスは、だけど?と、疑い深い、いつもの目でウィルソンを見る。

「だけど、ハウス。僕は、その……そんな自分が君にばれるのが嫌だったんだ。君は僕を馬鹿にすると思った。僕だけがそうなのが、悔しかった」

正直にウィルソンは告白したが、ハウスは憎らしげに鼻の頭へと皺を寄せただけだ。

ウィルソンは、抱きしめたままのハウスのズボンの前をいきなり開けにかかった。

驚いたハウスが、ウィルソンの手を叩く。

だが、ウィルソンは強引に下着の中へと手を突っ込んだ。

「ウィルソン!」

「これを、触ったり、舐めたりして、君が気持ち良くなる顔がすごく見たかったんだ。でも、実は、……やってさ、君とのこと知らん振りしたら、もしかすると、もう一回、君が僕の好きだって、態度に示してくれるかなぁなんて、……あの時の君は、とても好みで、だから、あんな風にも一度なったらいいのにって、思いもした」

あまりに勝手なことを言うウィルソンに、ハウスは怒りだしている。ウィルソンの手が握るペニスだって、少しも興奮していない。

だが、これは、本当のことだった。

「ウィルソン、お前って奴は!」

でも、嘘でもある。

「いや、実は違う。ハウス。僕は、疑ってたんだ」

ハウスは、すっかり眉間に皺を寄せた怒り出す一歩手前の表情だった。

「一回目が、思いもかけずよかったから、もう一度したら、がっかりするんじゃないかって」

ハウスの顔が強張る。

やっと、ウィルソンは本当のことを言う気になった。ウィルソンはゴクリと唾を飲み込む。

「……ごめん。僕は嘘つきだ。一度目のこと、もしあれを口にしたら、実はあれが僕の妄想で、君にそっぽを向かれるんじゃないかって、」

恐かった。

これが、本当の、本当だった。

ウィルソンは信じられなかった。

ジェームス・ウィルソンという男は、保身にばかり長けたかなり情けない男なのだ。

「ウィルソン……」

病院でどれだけいい医者であろうと、恋した友人の前では立ちすくむ。

ずるい真似をして、ハウスを傷つける。

「馬鹿だな。お前」

だが、ハウスは、ウィルソンの頭を一つ殴ったが、それで許して、抱きしめた。

ハウスは、長い溜息を吐き出す。

「本当に、馬鹿だな」

 

 

ハウスが、本当に俺とやりたいくらい好きなのか?と聞いたから、ウィルソンはそうだと答えた。

すると、キスは、ムード無視の互いの歯がぶつかりあうような激しいものになった。

噛み付くように、ハウスが口を開いて求めてくるものだから、ウィルソンもハウスの口を犯すように友人の口の中へと舌を伸ばした。

薄いハウスの唇が唾液で濡れた様子はセクシーだ。

ウィルソンの手の中のハウスのペニスは、興奮を示して大きくなり始めている。

握り込んで扱いてやると、もっとというように、ハウスの腰がソファーから浮きあがる。

もう二人ともベッドに行くまで待てなくて、互いの服をむしり取るようにして脱がせ合った。

ハウスの腰から下着を剥ぎ取り、開かせた足の間に体を押し込むと、ハウスの目が、迷うように動く。

「どうした、ハウス?」

自分の声が弾む息にかすれていて、ウィルソンは自分が少し恥ずかしかった。

「あの、……な、ウィルソン。俺の尻ポケットにゴムがある。それから、ソファーの下に、……ジェルが転がってる」

脱がせたまま放ってあるハウスのズボンを引き寄せれば、ポケットからは、2枚のスキンが出てきた。

もしかしたら、職場にも入れたまま行っていたのかと、変な嫉妬を感じた。

「誰と使う気だったんだ?」

「お前とだ。……ベッドに行けば、同じのが100はある」

ぷいっとそむけられた顔のまつ毛の長さに、ウィルソンは幸福を感じた。

ハウスの胸へと唇を這わしていく。

ショッキンググリーンのパッケージに入ったスキンを指に挟んだまま、小さく勃ちあがっている乳首のまわりに円を描くようにして舌で辿る。

「……ウィルソン、ジェルも取れ」

ドキドキと落ち着かない鼓動を聞かせるハウスが口を開く。

「うん。後で。ハウス」

ハウスの胸がせわしなく上下している。

赤くした顔をハウスは顰める。

「今だ」

 

「お前は、俺の尻になんか嵌めたくないのかもしれないが、……俺はしたいんだ。だから、ウィルソン、ジェルを取れ」

ウィルソンがジェルを取らなかったのは、まだ、ハウスに触れていたかっただけだ。

だが、勃起状態の思考力の落ちたウィルソンの頭でも、どのくらい、自分が不当にハウスを貶めたのかは理解できる。

初めてのベッドインから二週間の禁欲は、ハウスから、自信をそぎ落としたのだ。

「せっかちだな、君は」

少しばかり居心地の悪い思いを味わいながら、ウィルソンはソファーの下を探った。

まだ回復しないプライドに、卑屈さがハウスの瞳を覆っている。

出てきたのは、この間のボトルとは違う、しかし、封が切られ、中身の減ったものだ。

「……使った?」

自分の問いが、さらにハウスを追い詰めたのに、ウィルソンは気づいた。

目をそらしたままのハウスは答えない。

けれど、落ち着かない息を繰り返すハウスの下腹では、陰毛の中から勃ち上がるペニスがひくひくと動いていた。

「もしかして、ハウス……!」

落ち着きなく動きまわっていたハウスが立ち寄った場所がある。

痛むはずの右足に最低限の気遣いだけをして、友人の体をひっくり返したウィルソンは、少し持ち上げた尻の狭間にある穴を指で押し広げるようにした。

「馬鹿っ、お前っ!!」

さっと背中が赤く染まった。

「人の尻の穴に直接指を入れるな! ……頼む。頼むから、ゴムを使って」

「ここ、きれいだ。ハウス」

広げた肛口は、内の赤を晒していた。それが、ウィルソンを興奮させる。

目の前にあるのは、ただの尻の穴だ。

頭髪と同じ色の縮れた短い毛がまばらに生え、放射状にきゅっと皺が寄る。

けれども、これがハウスの穴だと思うと、ウィルソンは、今すぐにでも突き入れたくなるモノを諌めるのに苦労しなければならなかった。舐めてみたかった。

尻の穴をウィルソンに広げられ、じっと見つめられながら、ハウスは口を開く。

「……中は洗ってある」

「えっ?」

背中を真っ赤にしてハウスは怒鳴る。

「したかったんだ! 一人で尻の穴を弄くり回すくらい、お前としたかったって、さっき言ったろ!」

 

ハウスを安心させるために、指にスキンを嵌めることも、広げていた指を離してしまえば、すぐ閉じてしまった狭い窄みの上へとジェルを塗り込めることも、ウィルソンにとって、大変困難を極める作業だった。

ハウスと繋がりたくてしょうがなかった。

ハウスは、左に重心の乗った、少し傾いだ格好で、軽く膝を立てている。

この間も最初はこの格好だった。

ウィルソンは、スキンを被せた指で、ジェルに濡れた穴をこじ開ける。

「っ、ん」

ハウスの頭が後ろへとのけぞり、男にしてはよく肉のついた尻へと続く太い腰が震えた。

ウィルソンは、そのままよく締まる肉の間に指をねじ込んでいき、引き出す。

「あっ」

「ハウス。時間をかけて慣らしてなんてこと、できそうにないんだけど、いいかな?」

一度目も確か、同じことを言った。まるで患者たちに掛けるような優しい声も出したはずだ。

「ハウス。息を吐いて。そう。ゆっくり、息を吐いて」

だが、焦る気持ちを抑えきれずに、肛口が収縮してしまう前に、もう一度ウィルソンは指を入れている。

「っ、!」

ハウスの中で、ある程度指が自由に動くようになると、ウィルソンはすぐさま二本目の指を挿入した。

行為に慣れないハウスの落ち着かない内心を示すように、呼吸に合わせ腹は、大きく動いている。

またきつく感じるようになった熱い肉を押し分けるようにして、ウィルソンは挿入の動きを繰り返す。

「前、触って欲しい?」

眉間へと皺を寄せたハウスの顔には、苦痛の色があって、ウィルソンは中途半端に勃っているハウスのものへと手を伸ばそうとした。

だが、ハウスが横に首を振る。

「俺は、いい。それより、お前の、触らせろよ。……なんだったら、舐めてやる」

肩越しに振り返ったハウスは赤い舌をのぞかせ、緩く口を開けていた。

「ちゃんと勃ってるのか、ジミー?」

ハウスは言うのだ。

「……ごめん。ハウス」

青い目が、じっとウィルソンをみるから、ウィルソンは、前の張る自分のジッパーを下ろしていった。

ハウスの目は、安堵と、驚嘆、そして、友人の興奮を示すサイズににやつくような、複雑な色になった。

 

「……ゴム、つけてくれるかい?」

 

「ハウス、君のこと、すごく好きだ。本当に、すごく好きなんだ」

窄まりを一気に突きさし、ズブリとハウスの中へと嵌めこんだ状態で、ウィルソンはハウスの顔に指をかけ、振り向かせた。

「キスしよう、ハウス」

無理な体位に、ハウスは少し苦しそうだ。

けれど。

「ただ、入れただけなのに、なんか、君は幸せそうだ」

まだ無理のある挿入だったというのに、全てが入り切ると、苦しいはずのハウスの体が安心したように弛緩した。

「そういうお前こそ、笑ってるぞ。ウィルソン」

「そうかい? まぁ、でも、僕は、君が好きだから、こうして、ハウス、君とくっつけただけで、すごく幸せになれるんだけど」

「髭面のオヤジとキスして、幸せなのか?」

幸せだよと、ウィルソンはもう一度ハウスの唇を捕まえた。そっと唇を割り、舌を忍び込ませる。強面だというのに、ハウスの舌は驚くほど柔らかい。

 

ずるずると引き出したものを、熱い肉の狭間に押し戻せば、ハウスの背が反り返る。

だが、まだ、尻の中をペニスで擦られるだけではいけないから、ウィルソンは、恋人のために前で揺れているペニスを握る。

「すごく、君が好きなんだ。ハウス」

背骨に沿って、キスで背中を上がって行き、項にたどり着く頃には、ハウスのペニスは、先端をぬるりと 濡らしていた。

ウィルソンは、手の中のものから、快楽を絞り出すように、絶え間なく責め上げる。

ハウスは、興奮を示す、はっ、はっという短い息を吐き出しながら、ソファーについたウィルソンの手に片手を重ねた。

 

「っ、ぁっ、いきそうだ。……いき、そう。っジミー」

 

「いけそう?」

 

尻に噛んだものを少し辛そうにしながらも、背中に汗を浮かべ、ハウスは、ソファーの上のクッションを強く掴んでいる。

ウィルソンの動きを、少しでも自分のいい部分に合わせようと、少し腰を持ち上げる。

「前、もっと擦ってくれ、……ぁっ、……っ、いい、そう、……いい、ジミー」

手の動きを早くしながら、ハウスの前立腺の辺りを意識して擦るようにしてやると、ぶるぶるとハウスの腰が震えた。

 

「っぁ、あ!」

 

ソファーの上で、重なっている手を握るハウスの力が強まる。

 

「っ、あっ、! あっ!」

 

 

 

「いくっ、い、くっ、もう、いく、っ、ジミー!」

 

 

 

 

「本当に、たくさんあるなぁ」

ハウスをいかせ、その後、ハウスの中でいかせて貰いもし、すっきりとしたウィルソンは、だるそうにソファーで転がったままのハウスを置いて、寝室へと侵入したのだ。

そして、ベッドの上に、スキンの大箱を見つけた。

「これ、前に使った奴だな。こっちも減ってるじゃないか」

ウィルソンはにやつく顔が止められない。寝室の床には、ローションのボトルもあったのだ。

 

「ハウス!」

ウィルソンの大声に、ソファーのハウスが驚く音がする。

「なんだ!?」

「何回やったら、寝室のアレ、全部なくなると思う?」

寝室を出たウィルソンは、迷惑そうな顔をしたソファーの上のハウスに、覆いかぶさってキスをした。

 

 

END

 

 

お付き合い、ありがとうございましたvv