ハウスとチェイスの朝の会話。
調べたいことがあって少し早めに出勤すると、オフィスにはもうハウスがいてチェイスは驚いた。
「おはようございます。泊りですか?」
ドアを押し開け、挨拶のために口を開きながらそれが違うことにチェイスはもう気づいていた。自分の言ったことは意地の悪い医者に弟子をからかう口実を与えたようなものだ。
相変わらずのくしゃくしゃだが、彼のシャツは昨日とは違う。
「ふん」
けれどハウスは、チェイスのミスをこれ見よがしに嘲笑ったりせず、手にしていたゲーム機を机の上に放りだした。
突っかかってこない上司を下手に刺激するつもりのないチェイスは、肩かけの鞄を下ろしながら自分の机に近づこうとした。
しかし、バンっと杖の音がする。
「……なにか?」
杖の音に条件反射で立ち止まったチェイスに戻って来いとハウスは指で招く。
「どうしたんですか?」
鞭の音ならぬ、杖の音で行動の決まる自分が、まるでサーカスの動物のようだと思いながチェイスはハウスの机まで、今歩いたばかりの7歩を戻る。
「まぁ、座れ」
ハウスは目の前の椅子を杖で指し示す。
「……はぁ、……今日はなんか機嫌がいいですね」
「そりゃぁ、勿論」
ハウスの前の椅子には座ってはみたものの、チェイスは尻が落ち着かなかった。大抵の朝は、不機嫌に押し黙り気味のハウスの口角が上を向いている。机の上に散らかるおもちゃも、雑誌や、ゲーム機。ボールでも、ジャグリングの道具でもない、それは、ハウスにとって退屈しのぎの時のチョイスだ。
「……ええっと、昨日何かいいことがあって、それを俺に話たいとかですか?」
ハウスの口元がにやりと笑った。
「あたりだ。チェイス」
「……そういうハッピーな話なら、キャメロン辺りとした方が……」
幸せな話の聞き手としてふさわしいだろうキャメロンを、差し置いて自分が聞き手として選ばれたわけを十分思い知らされながらチェイスはハウスの前に座っていた。
とりあえず、神聖なるオフィスで朝からするような話ではない。
でも、また確かに、チェイス以外に聞き手のいない話でもあった。
もし、自分が早くこなければ、勤務時間が始まってからでもハウスはためらいなくチェイスを拉致して話を聞かせただろう。
上着を椅子の背に、鞄は机の上に放り出して、チェイスは相槌を打っている。
「これ飲むんだったらしてもいいって言うから」
ここまでの話は、いかにジェームズ・ウィルソン医師が意地悪く、どれだけ誘ってもなかなかセックスに応じなかったという長ったらしい愚痴だった。
「それであなた、その薬を飲んだんですか」
「あいつも医者だ。死ぬような薬は差し出さないさ。ドラッグだったらこっちだって大歓迎だし」
至極当然という態度のハウスの青い目が異様に輝いていて、チェイス自身、ウィルソンの薬というものに、そそられる気持ちはあった。だが、今のところ、薬でハイにならなければ辛いほどのストレスは感じていない。朝から昨夜のセックスの暴露話をしたがる上司がいたとしても。
ハウスは、渋い顔をしてみせたが、目が夕べの楽しみを如実に語っている。
「でも、その薬っていうのが、期待してたのと、全く違う種類の奴だったんだ」
ウィルソンの手の平から取り上げた錠剤をためらいなく口の中に放り込んだハウスを、薬を差し出した張本人が呆れたような顔をして見ていた。
「さぁ、飲んだぞ。これでいいか?」
まだ白衣のままのウィルソンは肩を竦める。
「せめて夕食を食べてからにしないか?」
「外で食うのは面倒だ」
「じゃぁ、せめて、持ち帰りで」
食い意地の張ったウィルソンの運転を急かしつつ家に帰り、さっさと夕食という時間を終わらせるために箸を動かし、固形物をかみ砕くハウスは、飲まされた薬が、ドラッグの一種だろうと思っていただけに、自分の体に特にこれといった変化が訪れないことが不思議だった。
すぐ隣にウィルソンが座ることには興奮は覚える。だが、それはこれからのセックスへの期待感に体が疼くというだけで、特に普段と変わりない。
薬を使った時の、プライドなど擦り切れる切望感をハウスは知っている。だが、ああいうのも決して悪くはない。
テレビのニュースを眺め、テイクアウトのボックスの中から、ゆっくり箸で麺を引きずり出しているウィルソンは、ちらちらと視線を送るハウスを時折たしなめるように見ては、落ち着けと言わんばかりに、何度目になるのか、また、飲み物を差し出した。
仕方なく口をつけながらハウスは、まだ見ているウィルソンを煽るようにカップの中の液体を舌の先で掬うようにして遊ばせ、最後の春巻きを噛み砕く。
そして、呑気なウィルソンがそれでも6割方は食べ終わったのを確認すると、強引に腕を掴んで席を立たせた。
「おい、まだ、食べてる」
ウィルソンは、意地汚くまだ箸を持ったままだ。頬にシュウマイだったものを溜めこんで、もぐもぐと口を動かしている。
だが、ハウスは、十分待った。
「食い終わったとしても、まだテレビが見たいだとか、時間が早いだとか、いろいろ言いだすんだお前は」
足の悪い身障者を突き飛ばすわけにもいかず、まだ口を動かしながらウィルソンは、無理やり引きずられ、足がテーブルにぶつかっている。
「いや、君のためにも、今日は、そこまでは、言う気はないけど、」
「なら、いいだろ」
自分よりやや小柄な友人の腕を抱きすくめるように強く掴んだまま、唇を押し付けた。
片足の悪いハウスはバランスが悪い。嫌ならば、ウィルソンはどんな風にでも拒むことができる。
だが、無理やり唇を割るようにして舌を押しこめば、強引さに呆れたのか、ウィルソンの口の形が笑うようにして解かれた。
口の中は、自分とは違う味がした。
伸ばした舌で、すぐには絡んでこないウィルソンの舌を追い詰め、強引に捕まえるとやっとその気になったウィルソンの手がハウスの腰を抱く。
ハウスは痛む足にかかる負担を減らすためにも、年下の親友の胸へと体を預けた。すると、そのタイミングを待っていたかのように、ウィルソンは、もつれ合うようにしてベッドへと倒れ込んだ。
ウィルソンの手が、ハウスの体のラインを確かめるように、撫でていく。
こんなときに、どうしてどうして手間のかかるボタンのついたシャツなんて着たのかと、ハウスは焦れる思いだ。だが、今朝は、まだこの部屋へとウィルソンを連れ帰れるだけの勝算がなかったのだ。
勤勉なウィルソンは、絶えず幾本かの部下たちの論文の締め切りを抱えており、そして、一人が苦手な男だから、女も切らさない。
ウィルソンの手が、一つ、また、一つとハウスのボタンをゆっくりと外していき、素肌を手入れされた医者の指が撫でていく。
ぞわりと背中を駆けのぼっていくものがあり、ハウスは喉をそらして、ウィルソンのブルーのシャツを掴んだ。
腹の肉を撫で、胸へと近づいた手が、急に方向を変え、せっかちにも硬くなり、愛撫を望むズボンの下腹部を押さえる。
「あっ」
だが、まだハウスは、声を出すほど感じているわけではなかった。
実は、そこに食事の最中からすら軽い尿意をハウスは覚えていたのだ。何気なく押され、今ははっきりと尿意を感じた。
あんなに熱望していたセックスだったというのに、勃ちあがったペニスを布越しに弄るように撫でられて興奮よりも、緊急を告げる排泄への欲求が酷くなっていくのに、ハウスは舌打ちしたほど苛立たしい。
ウィルソンのセックスは肌を交わすという親密さに相応しいだけ、優しく気遣いに満ちている。
首筋にキスをしながら、ベルトを外す友人の手は、下着の中へと入り込み、下腹部を優しく撫でる愛撫をしながら、じわじわとペニスそのものへと近づいていく。
はっきり言えば、じれったくて、しょうがない。
「早く、早くしろ。ウィルソン」
「相変わらずせっかちだなぁ、君は」
どんどんと尿意は、危険な領域へと近づいていき、それでもハウスは、セックスに夢中になろうとしていた。
膀胱に尿が溜まった状態で突きあげられると、多少の痛みを感じるものの、普段と違うもっと奥まった部分でよくなれる。それで今回もそれで乗り切ろうと思っていたが、尻の穴を解しているウィルソンの指が狭まった奥を広げるために、湿った肉を穿ちながら深く中へと入り込むと、ハウスは短く悲鳴に似た息を吐き出した。
中から、尿の溜まった膀胱を刺激されると、もう、どんなに強く歯を噛みしめていても、ダメだった。
パンパンに張った臓器は、今にもはちきれそうで、ハウスは、切なさのあまり堪え切れずに声を上げた。
「おい、大丈夫か、ハウス?」
十分に時間をかけて解したというのに、酷く力が入って硬いそこで繋がって、そっと奥を穿った時点で、もう完全にハウスは限界だった。
緊張で力が入り、筋肉の張る左の太腿。
尿意を堪えるために、尻にも強い力が入り、蕩けた中を穿つウィルソンのものは、痛いほど根元を締めつけられている。
先ほど飲ませた利尿剤のせいで、たっぷりと尿を溜めた下腹部のペニスが、それでも勃っているのは、さすがだが、下腹は、我慢の限界を超え、ぶるぶるとせつなく震えっぱなしだった。
意地っ張りの年上の友人は、硬く締まった後ろの穴を指でほぐしている最中から、何度も何度も、シーツを硬く握りしめたり、下半身に力を入れてふるわせたりして、飲まされた薬のせいでこの事態を引き起こされていると気づくこともできないほどの尿意に追い詰められているくせに、まだ弱音を吐こうとしない。
酷く荒い息や、なんども体に入れられる力。背中に浮かんだ汗。
色を無くして噛みしめられる唇だって、何も知らなければ、久しぶりのセックスに、緊張しつつも感じている姿だと甘ったるく誤解することだって出来たかもしれない。
けれども、ウィルソンは、薬を飲ませた張本人だ。
後ろから深く嵌められ、四つん這いのハウスは、ウィルソンが緩く突き入れるたび、膨らみきった膀胱を腹の中から刺激され、辛そうに短い声を漏らし、シーツをかきむしる。
はぁはぁ、はぁはぁとうるさい息を聞かせる口は、開きっぱなしだ。
さっきは、涙が頬を伝って落ちていた。
「ハウス……」
ウィルソンは、ハウスの髪に唇を寄せて、そろそろ耳元でこの意地悪の種明かしを囁こうとした。
我慢させることが、ウィルソンの目的ではない。確かに、多少、そういうのも期待はした。
「あのな、ハウス……」
「ウィルソン、いきそう……だ」
だが、すっかり潤んだ目で振り返るハウスは、犬のようにみっともなく喘ぎながら、辛そうな、バツが悪そうな顔をして、漏らすのを堪えるために自分のペニスを強く握り込んだ。
ハウスに身を寄せたウィルソンのものが深まった分、さらに苦しくなった排泄欲に、ハウスの体はがたがたと震わせている。
また、強い尿意に襲われたのか、唇に歯の跡が付くほど噛みしめる。
それでも、嘘までついてやめたくないと言う。
額に汗を浮かべてまで強がるハウスの青い目に、ウィルソンは、惚れ直す思いだ。自然に、口元が緩む。
「嘘だろ。出したいのは、別のものだろ?」
ウィルソンは、友人の尻に自分の腹が擦れるまで深く突き刺したもので、ゆっくりと奥を刺激した。
「……ウィ、ルソン、……何、をっ?」
ハウスの目が見開かれる。
「ハウス、ここは、精液なんかと、違う色のものが出したくてしょうがないはずだ」
ウィルソンは、ハウスの上半身を抱き込むようにしてベッドからひきはがし、自分の膝の上へと載せた。
「あっ、っ! ウィルソンっ!」
たっぷりと尿を溜めた膀胱が圧迫され、切迫したハウスの声に悲痛なものが交る。
「まだ、気付かないのか? 君の尿意は、さっきの薬のせいだよ。さぁ、どんな格好でしたい? ハウス?」
「で、やつがまた嵌めたまま、揺するもんだから、もう、どうしても我慢ができなくなって、シッコしに行くから、離せって言ったんだ」
もう、チェイスの相槌はため息交じりだ。
「今までの話だと、行かせて貰えそうな気はしませんね……」
「あいつは悪趣味なんだ」
「いえ、あなたの趣味も相当なものだと……」
とは言うものの、様々な事情の果てに、といっても、多少サドっ気があることがハウスに知られると、主に忙しいウィルソンの代わりとして使われているだけだが、ハウスと体の関係のあるチェイスは、自分の漏らした尿まみれになりながら、揺さぶられるハウスの姿には、ちょっとそそられるものがあった。
漏らしている最中の排尿の快感に蕩ける体を、尻に突き刺したままのもので揺さぶってやるのも、いい感じだ。
きっと、その時のハウスは犬のような激しい息使いをして、熱があるかと思うほど熱くした体をぐったりとさせ、ぼとぼとと涙を零しているに違いない。
それでも。
「しかし、よく、ウィルソン先生も、そんな後始末の面倒な真似をする気になったな。ベッドがダメになったでしょ」
「……床で、させられた」
「ああ、なるほど」
ハウスの不満顔は、硬い床では、足が痛かったからに違いない。
そのくせ、セックスの最中に、痛む足を強く掴まれることにハウスは感じるのだ。
「じゃぁ、俺ん時は、防水シートを用意しておきます」
もう話は終わりだろうとチェイスは、鞄を肩にかけなおし、立ち上がろうとした。
朝からするには濃すぎた会話だ。
ハウスは、ばんっと杖で机を叩いた。
「誰がお前にまで、そんなことさせてやると言った!」
「えっ? よかったから、お前もしろって話なんじゃないんですか?」
エンド
意思の疎通が難しいハウス先生と弟子の話でした(笑)