白衣のハウス
「ああ……、ハウス!」
診察を待つ外来患者たちであふれるかえる待合室で、ウィルソンは目の前のあまりのことに額を押さえて俯いた。
「よう! どうしたウィルソン?」
朝の外来受付で振り返ったハウスは、笑顔が輝いている。
ハウスの足元には、彼の杖で、すっ転んだ男が一人。
「なんだ、その顔は? この男のことか? 気にすることない、ウィルソン。こいつは、見たところそんな重症ってわけでもないのに、こんなに待ってる患者の皆んなを抜かして、診察室に突進しようとした悪い奴なんだ」
まるで褒めてほしいと言わんばかりのハウスの顔だ。何度も順番を守ろうとしないから、俺が世間のルールって奴を教えてやったんだと大きく杖を振りまわし、アピールしている。
待合室にぎっしりと詰め込まれた順番待ちの患者たちも、ハウスの言葉に肯定的で、好意的だった。よほど診察を待たされているのだ。
ただし、ハウスがその診察を待たせている医師だと知ったら、患者たちの態度も一変するかもしれない。
「こいつの病気なんて、ただの胃痛さ」
やれやれと肩をすくめただけで、廊下に膝をついて男に手を伸ばすウィルソンに、ハウスは鼻へと皺を寄せた。
「よせよ。ウィルソン、そいつは悪い奴なんだぞ」
「ドクター・リーボン、お怪我はないですか?」
男は不機嫌そうにウィルソンの手を取った。
「ドクター? こいつが? 白衣はどうした」
自分も白衣を着ようとはしないくせに、ハウスは人のことは責め立てる。
リーボン医師は、ハウスを天敵と思い定めた目付だ。
「ハウス、ミーティングにさえ参加すれば、今日から新しくドクター・リーボンがうちの病院のスタッフとして働いてくださるとわかったはずだよ」
「へぇ」
「それに、君が、さっさと診療を始めていれば、待合室はこんなに混んでいなくて、ドクターは誰にも邪魔されずに診察室にいけたはずだ」
ハウスは、受付のキャンディに手を伸ばし、ウィルソンの小言にしらんふりをしようとした。
ウィルソンは包み紙の剥かれたそれを、ハウスが口に入れる寸前に取り上げた。
キャンディが口にはいるものと舌まで突き出したハウスの間抜け顔は、かわいらしかった。
「ドクター・ハウス。診察中のご飲食は遠慮していただきたいですね」
ドクターを強調したウィルソンの声に、待合室の視線が、さっきまでのヒーローであるハウスに突き刺さる。
ハウスは思い切り顔を顰めた。
「ウィルソン、お前は、本当に性格の悪い奴だな!」
ハウスは、本気で怒鳴っていたが、外来受付でハウスとやり合うことなど、ウィルソンにとって、軽いじゃれ合いのようなものだった。だが、一度じゃれだすとハウスは、しつこいのだ。
その日の午後、部下を引き連れて廊下を歩くハウスとすれ違うと、ハウスは、わざわざ足を止めて、ウィルソンをじっと見た。
「フォアマン、病院にお前の仲間がいるぞ」
「は?」
検査結果のデータに目を通しつつ歩いていたフォアマンは突然話しかけられ困惑げにしていた。同じようにデータについての分析を口にしあっていたキャメロンとチェイスは、いきなり立ち止まらされ、互いの顔を見合わせている。
「あいつは、泥棒なんだ。俺の食べようとしていたキャンディを取り上げやがった。……よう。ウィルソン、俺の唾付きのキャンディはうまかったか?」
確かに、取り上げたキャンディをウィルソンは捨てるのもどうかと思って口にした。だが、あれは、まだハウスの口には入ってなかった。人目があるのをいいことに、わざとハウスは嘘を大きな声で言う。
「いくら、俺が好きでも、唾のついたキャンディを欲しがるなんて、変態だろ、お前。泥棒の上、変態なんて、最悪だな。ウィルソン!」
ハウスの奇矯な振る舞いには、もう病院スタッフも慣れてしまっているが、それでも、ウィルソンに冷たい視線は突き刺さる。
入院患者たちなど、マジマジとウィルソンの顔を見ていく。振り返りさえする。
「ハウス……」
「フォアマン、ウィルソンに更生の方法を教えてやれよ。おっと、手癖の悪さを直す方法は知ってても、変態からの更生の仕方は、フォアマンも知らないかな? じゃぁな、ウィルソン」
言いたいことだけ言うと、ハウスはさっさと歩き出した。
仕方なく、ウィルソンは、今朝取り上げたのと同じキャンディを一ダース、ハウスの机の上に置いておいた。
オフィスの内線が鳴った。
「おい、俺は、チェリー味のが食べたかったんだ」
「……ハウスか?」
ウィルソンはため息をついた。
「僕が食べたのは、イチゴ味だったぞ」
「俺が舐めたいのは、チェリー味だ」
たとえ、望みの味のでなかったとしても、ウィルソンは、過分な償いをしたつもりだったし、第一、外来ですっ転ばされていたリーボン医師の機嫌をなだめ、診察室へと送り込み、診察嫌いのハウスのためにすこしでも患者の数を減らしてやったのは、ウィルソンだ。
しかし、ハウスは、それ以後、一日中、廊下ですれ違うたびに、変態、泥棒と繰り返した。
「君は、医者なんだし、白衣を着ないとね」
コミュニケーションの方法がストレスを溜めこませるものだったとしても、ハウスは、ウィルソンの秘密の恋人だ。
がみがみまくしたてている最中だったとしても、ウィルソンが、今晩行くと言えば、一瞬、文句ばかりの口は止まり、同時に、さりげなくハウスの目は反らされる。
合鍵で部屋に入れば、家人が留守ということはない。
セックスが拒まれることもない。
ただし、方法については、嫌がられることも結構あった。だが、これは、ウィルソンが強引に押し切るから問題なしと同じだ。
「なんで白衣なんだ!」
「だって、君、医者だろ?」
「だとしても、どうして夜に、自宅で着なきゃならないんだ!」
「しかも、場所はベッドの上だし?」
本人には全く自覚がないようだが、ハウスは一度自分のそばへと置くことに決めた人間とは、肌の触れるような距離でいることが好きだ。
言いがかりに近い自分の意見を通しきって満足している日や、やり過ぎたかとほんの少しの反省をしている日、何もなかった日だって、別にも椅子があるというのに、ソファーに腰掛けるウィルソンの隣に座る。
「君が、医者は白衣を着なきゃいけないって言ったんだろう?」
痛む方のハウスの足へと微妙に体重をかけて逃がさないようにしながら、ウィルソンは、ハウスの部屋の中で忘れ去られ封さえ切られていない白衣を袋から取り出した。
二人とも、欲望に対して正直で熱心な方だから、ハウスの下半身からは、もうスェットも下着も脱ぎ去られた後だ。
だが、後回しになり、上半身は、シャツ代わりのTシャツがハウスの肌に張り付かせたままだった。
白いTシャツの裾から、生い茂った陰毛が見え、欲望に熱くしたものを反り勃たせたハウスに、ウィルソンは糊のきいた白衣を押し付ける。
「今朝、君も言ってたじゃないか、医者は白衣を着るものだって」
ハウスは腕を突き出し、もちろん白衣を着ようとはしない。
「なんで俺がっ! お前も医者だろ。そんなに着たいんだったら、お前が着ろ!」
「僕は、昼間着てるから……」
いいと言おうとして、ウィルソンは、昼間と同じだけきちんとした服装の上に白衣を羽織って、全裸のハウスをこのベッドで診察してみるのも悪くはないと思いついた。
「まぁ、僕が着るのは今度ってことで」
ハウスの太腿に乗せた膝に掛ける体重を僅かに増やし、にっこりと笑いながら、ウィルソンは睨み上げているハウスを抱き起した。
しっかりと抱きしめ、痛みに強張る頬にキスし、認めたりはしないだろうが薄く水膜の張った青い瞳の端にも唇を寄せる。
「誰も見てないし、僕は久しぶりに君の白衣姿を見たいし、きっと楽しいと思うんだ」
耳の中に息を吹き込むようにして囁くと、ハウスの体がぶるりと震えた。
ウィルソンは、微妙に太腿への力を加減しながら、顰められている顔中にキスを繰り返し、ハウスの腕を持ち上げ、白衣の袖を通していく。
「……くそっ、変態めっ……!」
ハウスの口にする毒づきの内容が昼間とまったく同じで、ウィルソンはくすくすと笑った。
Tシャツの上に羽織った白衣のボタンはウィルソンの手で全て留められ、これでズボンを履いていたら、滅多に見ることのできないハウス先生のできあがりだ。
「ハウス、好きだよ」
ウィルソンは、白衣の中で居心地悪そうにするハウスをぎゅっと抱きしめ直し、熱烈に唇を合わせた。
「君の白衣姿で興奮するなんて、ハウス、僕は君の言うとおり変態かもしない」
まだ機嫌の悪いハウスの口の中へと忍ばせ、舌を誘いだすと、口に含んできゅっと吸い上げた。
ウィルソンは、軽く開けられているハウスの口の中の粒の揃った歯へとチロチロと舌を這わせ、喉の奥が細かく震えているのを感じ取りながら、ヌルっと舌を潜り込ませて、濃厚な愛撫を続けた。
小さく鼻に息の抜ける音がし、柔らかなハウスの舌は、ウィルソンの思い通りになる。
ウィルソンは、ゆっくりとハウスの体をうつ伏せにさせ、足に負担がかかり過ぎないよう腹の下には、枕を積んだ。
真っ白な白衣の臀部は、緊張に硬くなっているようだった。
それを宥めるように、ウィルソンは、白衣に包まれた二つの山を布の上から両手で掴み、撫で上げ、撫でおろす。
「どう? 君も興奮する?」
昔はスポーツをしていたという太いハウスの腰が、積まれた枕の上で、ビクビクと震えていた。
まだ、ハウスの緊張は抜けないが、ウィルソンは、ゆっくりと白衣の裾をめくっていった。
若い頃尻についた筋肉が、今は、その硬さを少し失っている。
しかし、一度ついた肉はハウスの体を柔らかく覆ったままだ。
両開きの扉を開けるように、ウィルソンはハウスの大きな尻を左右に割っていく。
谷間がむっちりと開かれ、ハっ、とハウスは息を鋭く吐き出した。
広げられ、手の中で押しつぶされているたっぷりとした尻肉に、ウィルソンはキスを与え、そのまま、唇を谷間の中心に向かって動かして行った。
ハウスの腹がせわしのない息使いを教える。
みっしりと茂った下腹部のそこだけは薄い産毛に覆われた窄まりにウィルソンの舌が触れると、ハウスは、重い臀部を揺すった。
「っあ!」
ぴちゃぴちゃと子猫のように舌を尖らせ、ハウスのいやらしい窄まりの表面を濡らすと、ハウスは逃げるように体を前へと動かした。
だが、それによって、枕を下敷きにして支えられていた上半身の重心は移動し、ハウスの尻は高く上がった。
かっと、ハウスの顔が赤くなる。
しかし、ウィルソンは、助け起こしはせず、濡れた表面の皺を爪の先で引っ掻くようにして、軽い痛痒感にハウスを身悶えさせながら、内の赤を空気に晒した。
舌をズブリと差し込むと、ヌルっとした熱い肉に包まれる。
「ハウス」
「っ、ん、んっ!」
真新しい白衣で覆われたハウスの背が弓のように、後ろに反り返った。
粘膜が熱くぴっちり吸着してくる。
異物ごと閉じようと舌を締めつけてくる熱い肉を押し開くようにして、ウィルソンは尖らせた舌を奥へ、奥へと進めた。
気を抜けば、すぐ窄まってしまう小さな穴に舌を差し込み、捲り上げるようにして、ハウスの中を犯していく。
「ああ……や、やめろっ! ……そんな風にされたら、……漏れるっ……」
だが、まだ、ハウスは、後だけではいけない。
しかし、前を扱かれている時には我慢することのできる声が、後を弄られると抑えられない。
ハウスの尻の谷間に潰れるほどに鼻を押し付けて、ウィルソンは、誘いかけるように収縮する小さな穴を、唾液で光らせながら、指を沈めていった。
ハウスは、腰から背中の真ん中あたりまでむき出しにしている。
たった一度で、くしゃくしゃになった白衣は、肩のあたりまで捲り上げられている。
啜りあげるような声は、顔を押し付けるシーツの中に篭っていた。
きつく目をつむり、真っ赤にした顔中をくしゃくしゃにして、唇を内側に巻き込んだハウスは、精一杯、快感に押し流されまいと耐えていた。
だが、たっぷりと濡らされた穴の中に指を咥え込んでいるのだ。抽送の速度が早まれば、どれだけベッドの表面に爪を立てようと無駄だった。
腰の窪みから、溜まった汗が、ぶるぶると震える尻を伝い落ちていく。
「ぅ、んっ、……ッハ……! ……ゥ、ん! ……ウィルソン! ウィルソン!」
「気持ちよさそうだ、ハウス」
熱く潤んだ肉襞が、きゅっと収縮し、その窮屈さの中でも奥を開いていくウィルソン指をわななきながら締めつけた。
ウィルソンの額にも汗が噴き出ていた。
予想以上に白衣プレイは燃えた。神聖なブレインズボロ病院の解析医療部門部長を犯している気分を満喫させてくれる。
だが、そんなもの神々しいものが存在しないことも、ウィルソンは知っている。
「ハウス、」
ここにいるのは、ただのハウスだ。ウィルソンの大事な年上の恋人だ。
零れ出してしまった水滴を纏わりつかせる長い睫毛を舐めるようにして、ウィルソンはハウスの顔を覗き込んだ。
「もう、入れてほしいのかい?」
目尻を伝って零れ出してもなお、たっぷりとした潤みで覆われたハウスの青い目が、射るようにウィルソンを睨んだ。
「この、っ……変態野郎っ! 何時間、人の尻を、っ、ンっ! ん! ……弄って、りゃ、気がすむ、っんだっ!」
強く襲った快感に白い歯を食いしばりハウスは耐えようとしたが、腰がうねる。
「えっ? まだ、30分くらいだろ」
ヌルヌルに蕩けた肉は、吠える口とは正反対に、勝手にウィルソンの指を締めつけている。
前に垂れた白衣の裾は、とうに、どろどろと漏れだしているもので、べっとりと汚れていた。
内に籠った淫らな熱によって勃ったものは、同じだけ、腰の下へと積まれた枕へも押しつけられていたから、そちらもカバーの色が変わるほど濡れている。
快感の熱に浮かされた焦点の甘い目をして、ハァハァと喘ぎながらハウスは気丈にウィルソンを睨んだ。
「いつ、まで、っ、やってるっ! さっ、さと、っ、ハ、あッ、っ! いれ、ろっ!」
ウィルソンは精一杯我慢させていたものを、全身を火照らせ白衣を乱す解析医の熱く解れた小さな穴へと押し当てた。
十分な時間をかけて弄り回し、疼くほどのはずのそこは、膨れ上がった先端を吸い込むように飲み込んでいく。
「んんーーー! っぅ、ハっ、んんッーー!」
揉み込んでくる中の肉を押しのけるように開きながら、ウィルソンはずぶずぶとハウスの奥深くへと太いものを突き刺していった。
ハッ、ハッと息を吐き、本人の意志とは関係なく後のものを絞めつけては、その刺激に切なく身をよじるハウスは、懸命にベッドのシーツを強く握り込み、もみくちゃにしている。
「動くぞ。ハウス」
返事は待たずに、ウィルソンは、抽送を始めた。
鋭いスライドにも、蕩けた肉壁は、その合間を突くように、やわやわと吸いつき絞り上げようとしてくる。
「無、理っ! っ、ウィル、ソン! 強すぎっ、る!!」
「本当に?」
ハウスは自分から白衣の下へと手を伸ばして、とろとろといやらしい液を零し続けているものを握り込み、ウィルソンを搾り上げる肛口のタイミングをさらに読み難くした。
硬いもので果断なく捏ねられる濡れ肉は、うねるような反応を起こし、潜り込ましているウィルソンのものを強く噛み、放そうとしない。
白衣の肩を、ウィルソンは噛んだ。
「っ、はっ、っンーーンッ!」
「んっ、っ、! っは……ハっ!」
白衣から見える背中をわなわなと震わせのけ反ったハウスは、下肢の痙攣を強くしながら、尻穴へと咥えたペニスを食い千切ろうとでもするように、きつく搾る。
苦悶と快感の顔は一緒だった。
「っ、はっ、……いくッ! ……ぁあ、あ……! い、くっ!!」
ひくひくと痙攣していた体からがくりと力が抜けた。それでも、まだ、背中に弱くさざなみのような引き攣れが走る。
ウィルソンは、まだ、快感の余韻で肌をピンクに色づかせるハウスの額を濡らしている汗を掌で拭った。
白衣も、汗でぐっしょりと濡れてしまっている。
「本当のことを言えば、今朝、僕が本当に舐めたかったのは、あんなイチゴ味のキャンディじゃなくて、君だったんだよ、ハウス」
顰面で、睦言を聞いていたハウスだが、顔を近づければ、けだるげに首を少し持ち上げ、ウィルソンのキスに応じた。
「……だから、あんなに俺の尻を舐め回したのか……変態め……」
END
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