DIY

 

ソファーにかけてテレビを見ていると、カップ片手のウィルソンが隣に座った。

湯気を立たせるカップの中身はずいぶん熱いようで、沈み込むようにしてソファーに腰かけたウィルソンはそっと啜りあげている。

「ハウス、君は、本当にこの番組が好きだな。いつも見てるのはこれだ」

素人日曜大工の番組は、気楽に画面を眺めているだけで、奇抜な想像力(一体、どうしてそこを切る気になったんだ?)や、適度なスリル(たとえば、息子の前で手に釘を打ち込む破目にならなくてよかったな、親父だ。)を味あわせてくれるから、ハウスのお気に入りだ。そのうえ、たまには、本当に感動を与えてくれたりする。(3回前のツリーハウスの放送はかなり良かった)

「お前の分だけか?」

どうせ飲むのであれば、酒の気分だったくせに、コーヒーのいい匂いに鼻をくすぐられれば、ハウスは、ウィルソンはどうして自分の分まで入れてこなかったのだと、不当な不満を抱いた。

その腹いせに、机の上に放り出してあったリモコンをウィルソンから遠ざける。

隙あらば、チャンネルを変える気だったウィルソンは、やれやれと言いたげな顔つきで、全く手の届かない場所までリモコンを移動させたハウスを見たが、文句を言っても無駄だと知っているからか、見ただけで大人しくまたコーヒーを啜り始める。

「なぁ、今日は、何が出来上がる予定なんだ?」

「知るか。番組が始まって5分だ」

「ふーん」

画面を見ているのか見ていないのか、注意深く舌を焼く熱い液体を啜りあげていたウィルソンが、コーヒーカップを置いた。

ハウスの肩に手を回して引き寄せる。柔らかい手で前髪をかき上げるように額を撫で、髪へと唇を寄せる。

「邪魔をするな」

「いいだろ。ちょっとだけ」

ウィルソンにとって、くつろいで恋人とテレビを見るという行為は、恋人の体に触れるという行動とワンセットになっているらしく、諌めたところで強引にハウスを引き寄せる。

茶色い目で、バーベキューの炉の図面を真剣に見入りながら、手は、ハウスの太腿を擦っている。

そして、赤いベースボールキャップを被ったアドバイザーが今週のにわか大工に大まかな説明をするのを聞きながら、アヒルのように口を突き出して首を振る。

「あのアドバイザーの髭は、変じゃないか? なんだか、付け髭みたいだ」

似合ってない。

「前回も言った」

ハウスはウィルソンと一緒にテレビを見るのがあまり好きではない。

「庭にバーベキューの炉か、いいな」

「じゃぁ、お前んちの広い庭に作れ」

ウィルソンの手は、ハウスの着ているTシャツの裾から入り込み、腹の肉を撫で始めていた。傍迷惑にもそこで、たるんだ肉を揉みだすように手を動かす。

「やめろ……」

「擽ったいか?」

おかげでハウスは、姑息な宣伝も兼ねている手軽でお勧めというセメント材のメーカー名の大写しを見逃した。

画面の中では、図面が畳まれる。

「ハウス」

ハウスが、この番組の最初の見せ場ともいえる、完成までに必要なレンガの枚数を実際に目の前に積み上げられて、げんなりする今回のにわか大工の顔に楽しく見入っていると、さみしくなったのか、ウィルソンが名を呼んで手をつないできた。額と、頬と、唇のすぐそばへとキスされる。

「邪魔だ」

払いのけると、ウィルソンは余計にハウスを抱きしめた。

「ちょっと、さみしい」

「触らせてやってるだろ。テレビを見てろ」

テレビでは、俺にまかせておけと言いながら、毎回殆ど手を出さない、いかがわしさが最高のアドバイザーが、ビール片手に庭のカウチに腰掛け、それを恨めしげに眺めながら、にわか大工がレンガを積み上げる苦行を開始していた。

「なんで毎回、あの人たちは、あんなに嫌そうな顔をするんだ? 自分で作りたいと思ったんじゃないのか?」

ウィルソンは、この番組の楽しみ方を全く理解できていない。

けれど、これ以上、番組への不満を漏らせば、ハウスの機嫌が悪くなることも知っていて、黙って番組を眺める。そして、その合間に、髪にキスをし、ハウスの体を撫でまわし、引き寄せる。

 

人が好きで見ているテレビ番組の邪魔をするウィルソンは鬱陶しいことこの上ないのだが、ハウスが大人しくその腕の中に抱かれていてやるのは、ずっと以前に問い質したことがあるからだ。

「お前がこうやって俺に触るのは、セックスしようっていう請求なのか?」

「ごめん。迷惑だったか?」

その時、ハウスの額にも眉間にも皺が寄っていたはずだ。

「勿論、迷惑だが、そういう意味なのか? それを聞かせろ」

「そりゃぁ、したいかって聞かれたら、したいんだけど、でも、君はこの番組が見たいんだろ? 無理にそうしようって誘ってるわけじゃなくて、僕は、君に触っていられるだけで幸せっていうか」

「……つまり、したくなきゃ、しなくてもいいってことか?」

きつく質問を重ねると、ウィルソンは、曖昧さの残る笑顔を浮かべた。

「……ああ、……まぁ……そうだね」

 

だが、約45分の番組時間中、ずっとハウスの体を撫でまわしていたウィルソンのものは勃っていて、そうされていたハウスのものも多少勃っていたが、少し無理をした引き攣り気味の笑顔で、おやすみ、ジミーとバタンと寝室のドアを閉めて、親友をソファーへと置き去りにしてやっても、翌朝、ウィルソンは、約束通り不満そうな顔を見せなかった。

それ以来、ハウスは一方的なペディングだけなら、ウィルソンに許している。

だから、ハウスは、じゃれるように乳首を弄り回すウィルソンの指の動きが気に乗れば、画面の失敗に笑いながら、自分でTシャツの裾を肩までめくりあげ、ウィルソンに胸にもキスさせる。

その態度の色気のなさに、くすくすと笑いながら、吸いついてくる男は、気が長く、しつこい。

「おい、ウィルソン、そろそろ、感動の完成披露場面だ。お前も見ろ」

「今日作ったのなんて、ただのテーブルだろ?」

「それは、昨日見てた奴だ。これは、ベビーベッドが出来上がる」

「僕は、君のおっぱいを吸うのに忙しい」

尊敬を集めている腫瘍学部門部長の台詞としては、馬鹿かと言ってやりたいものだが、頭を叩いて放りだすには、力を入れずにそっと吸いついてくる唇の感触が気持ち良すぎた。真っ白に塗り上げられたベビーベッドへの称賛を聞きながら、ハウスは自分から、ウィルソンの手を掴み、股間へと押しつける。

「触っていいのか、ハウス?」

勃ち上がったものを布地の上から撫で擦り、その形を鮮明にした上で、ウィルソンはゴムの下へと腕を潜らす。

「触わるだけならな」

 

ハウスのものを握るウィルソンは、いく寸前の気持ちのいい状態までを何度でも気長に繰り返すのだ。

テレビの画面を見ていたはずのハウスの目がティッシュのボックスを探し求め始める辺りで、くちゅくちゅと卑猥な水音を立てているハウスのペニスを扱く手を止める。

そして、髪にキスをしたり、落ち着かない呼吸を繰り返している腹を撫でてみたり、ハウスの射精感が治まるのを待って、また、やっと緊張感から解放されたペニスを掴む。

その頃には、濡れるのが嫌で、スエットは腿のあたりまで下ろされ、ハウスの足は、ふしだらにも大きく開かれている。

今、襲われたら、いいも悪いもなく、なし崩しにセックスに応じるに決まっている状態で、しかし、ウィルソンは、ただ一方的な奉仕をするだけで、利口にも、決して無理強いしない。

 

 

「これ、何回分の放送で完成するんだ?」

録り溜めた2回分の終わり近くまで録画は来ているが、バーベキューの炉は、まだ、半分程度しかレンガが積み上がっていない。

レンガの置き方がやっと様になってきたところだが、もうすっかりやる気をなくしているにわか日曜大工に、ウィルソンは同情するように眉を寄せている。

「ウィルソン……」

だが、1時間半近く、急くことのない手に撫でまわされ続けたハウスの体の方は、出来上がってしまっていた。

後、何段だ?と、口に出して数えているウィルソンの指がさっきから弄っているのはハウスの臍だ。

それなのに、ハウスは、はぁはぁと息を荒げている。

もっと下へと手を伸ばして欲しくて、ハウスは、自分からウィルソンの体にすり寄り、頭を抱え込むと口を押し付けキスをした。すぐ返されるキスは、ハウスの唇を噛んでいくような情熱的なものだが、それ以上の動きをしない。それでも、二度、三度と、無言のまま唇を押し付け合っていた。

それなのに、まだウィルソンがハウスを抱きしめるだけだったから、ハウスは、自分からウィルソンに襲いかかった。

ぎしりと音を立てるソファーへとウィルソンを押し倒し、睨みつける。

「ハウス?」

憎らしくも、ウィルソンは笑いながら見上げてきた。

「いやに余裕のある態度だな、ウィルソン」

重なった下肢は硬い。

ハウスは、年下の男の股間をぎゅっと掴んだ。

とっさに、ぎゃっと、ウィルソンが喚きながら体を丸める。

「おや? なんか、でかくて、硬いものがあるな?」

弱みを握ったままにやりと笑って、撫でさすってやると、ウィルソンは器用に肩を竦める。

「まぁね……。君の体に触ってるんだ。大きくならない方が不思議だろ?」

茶色い目が照れくさそうで、ハウスが唇を近付けると、ウィルソンは頭を上げて、しっかりと舌を絡ませてきた。項から、肩へとハウスの体を優しく撫でながら、ウィルソンはキスの合間に、耳元に唇を寄せる。

「ハウス、今日はもう、テレビを見るのは気がすんだのか?」

再生の終わったテレビ画面は、まだあと2つ録画があることを教えている。

「まだ、見るつもりだっていったら、やめる気があるのか?」

はっきり言って、ハウスにはやめる気はない。

「……一応」

だが、ウィルソンは、言うのだ。

「君が好きだからね」

 

 

END