*ウィルソンの嫌いなところ 1

 

映画館に来ていたハウスは、飲み物がどうの、スナックがどうのといつまでもうるさいウィルソンにイライラしていた。この映画が見たいといったのは、ウィルソンだ。こんな甘ったるい話は、ハウスは嫌だったし、長時間狭いシートに座り続けなければならないのも、ぞっとする。

やっと辺りが暗くなり始め、深くシートに座りなおしたウィルソンも大人しくなる。

「なぁ、ハウス……」

急に耳元へ口元を寄せ、囁くウィルソンに、ハウスは黙っていろと小さく怒鳴った。

 

「……あの、……お医者様はいらっしゃいませんでしょうか……?」

スクリーンの光だけで暗くなった館内にか細い女性の声がする。ざわめきが起きたが、立ち上がる影は見えなかった。勿論、ハウスは立たない。

「すみません、……あの、どなたか、お医者様はいらっしゃいませんでしょうか?」

また、細い女の声がして、ウィルソンが席を立とうとした。ハウスはぎゅっとウィルソンの手を握り、行くなと首を振った。

「でもハウス、急病人かも」

 

救急車が呼ばれたわけでもなく、映画が始まり5分後、ウィルソンは戻ってきた。

無視しようかと思ったが、一応、ハウスは声をかけた。

「死んだのか?」

ウィルソンは苦笑する。

「死なないよ。病人がいるかと思って近づいたら、なかなか美人の年増がいて、もし、独身ならうちの娘と付き合いませんかだってさ。確かに、こういう場面では偽医者なんて現れないだろうしね、すごく確かな職業確認法だよね」

周りの迷惑を鑑みない中年女の根性はハウスをイラつかせたが、それよりも、もっとハウスをイラつかせているものがある。手ぶらで立ちあがったはずのウィルソンの手に荷物がある。

「で、ウィルソン、お前は何を持ってる?」

「うん? くれるっていうから、一応、娘さんの写真を貰って……」