15
*問題の解決
売店の前の前を通りかかったハウスはちょうど右側にいたフォアマンに言った。
「キャンディ代を貸せ」
「いやですよ。俺はあなたって人を知ってるんですから」
仕方なく、ハウスは、今度左側にいた全く知らない、たぶん、外来の患者であろう男に話しかけた。
「おい、後で返すから、俺に、キャンディ代を貸せ」
「なんで、私が! 私は、全くあなたのことを知らないんですよ!」
「どいつもこいつも! フォアマンは俺を知ってるから金を貸さないという。このケチは、俺を知らないから金は貸せないという。そんな道理の通らない話があるか!」
ハウスが、ふと見た先に、診察室に向かおうとしているのか、カルテを持ったウィルソンが足早に歩いている。
「おい! ウィルソン、このキャンディが欲しいんだ。金を払っておいてくれ」
ハウスの問題は解決した。
*無実の証明
「おい、ハウス、どうして君は僕が歌いだすと必ずピアノを弾くのを止めて、バルコニーに出るんだ、そんなに僕が歌うのが気に入らないのか?」
お互いの家を行来する間柄の友人たちは、リラックスして酒を飲むような夜には、ハウスがピアノの演奏をしたりする。
そして、ゆったりとその曲を聞いているウィルソンが、たまにその声を披露したりするのだ。
だが、ウィルソンが歌いだせば、ハウスはすぐに演奏をやめた。そして、何も言わずにバルコニーへと出ていく、そして、見知らぬ他人に、両手を上げて手を振ったりする。
「君の演奏で歌うには僕が下手過ぎるとでも言いたいのか?」
ハウスは青い目を見開いて、心外とウィルソンに訴えた。
「いいや、俺はお前の歌が好きだぞ」
「だったら、なんで!」
「でも、俺がお前の首を絞めてるってわけじゃないって、みんなに分かってもらっておかないとな」
*動物愛護?
遅刻ギリギリで病院に現れたハウスは、そこにいたウィルソンを捕まえた。
「おい、ウィルソン、ペンギンの身長ってどのくらいか知ってるか?」
「おはよ、はぁ? いったい、どうしたんだハウス?」
「いいから、言え、ペンギンの身長ってのは、どのくらいなんだ!」
「そうだなぁ……1メートル弱ってところじゃないか?」
「正確に言え!」
「そんなこと言っても、僕だって知らないよ」
そこで、ブレインズボロ病院の部長二人は、ペンギンの身長を調べ始めた。ちなみに、この朝、ハウスは外来診察の担当医だ。
だが、二人は仲良くパソコンのモニターを覗き込んでいる。
「へぇ、最小種は、フェアリーペンギンで40センチだってさ、皇帝ペンギンが一番大きくて、100センチから、130センチだってさ」
「なるほど」
ハウスは納得したようだ。
「じゃぁ、ここに来る途中、俺がバイクで轢きかけて喚いてたのは、尼さんだったってことだな」
*不眠
「おはよう、ハウス」
ウィルソンは、病院に現れたハウスに声をかけた。しかし、ハウスは返事をしない。仕方なく、ウィルソンはもう一度大きな声で呼びかけた。
「ハウス、おはようって言ってるだろう!」
「ああっ! なんだ、ウィルソンか、びっくりした」
ぶるぶるっと震えたハウスは、まるで夢から覚めたかのようだ。
「どうしたんだ、ハウス、調子が悪いのか?」
ハウスはそっと目を伏せた。視線を避けるようなやましいかのようなその態度は、ウィルソンに首を傾げさせた。
「いや、昨日、お前の講演を聞いただろう? で、夕べ眠れなくてな」
昨日ウィルソンが行った講演は、患者へのアプローチ法である。特に、腫瘍学部門に多い、人生の終焉を余儀なく迎えることになる患者への医師として最適なアプローチを探るというテーマだった。
ハウスが覗きに来ているのは知っていたが。
「君が? 君が、もしかして、僕の話に感銘を受けたりしたってのか?」
「いや、……お前の話を聞いていたら眠くなって、おかげで、夜、全く寝られなかったんだ」
*夏休みの宿題
カディが喚いていた。
「どうして、ハウス、あなたの出したカルテが、ウィルソンのカルテと一語一句一緒なのよ!」
「なんでだ? お前が、何でもいいから、カルテを出せ!ってヒステリーを起こしたせいだろう」
確かに、昨日、ハウスのオフィスで溜まりに溜まった未提出のカルテを発見したカディは何でもいいから、さっさとカルテを出しなさい!と、この解析医を叱ったのだ。
しかし。
「だからって、どうして、脳血栓の患者のカルテが、肺腫瘍の患者と同じ内容に!」
「一人でやるのがさみしいから、奴と一緒にやったんだよ。でも、途中から、やるのが面倒になって、奴が書いてるのを写すことにした。……何でもいいから出せって言ったのは、お前じゃないか」