13
*悪いが夫は助かるんだ
死にかけの夫は、80歳、モデルだという妻は19歳だという。
病室のベッド脇に立つハウスは、長く美しい足が汚れることも構わず床に跪き、薬剤のチューブでベッドに縛り付けられた夫の手を握りしめ縋りつく美しい夫婦愛を眺めていた。
「サラ。……私は、もう、ダメだろう。でも、人生の最後に君に出会えたことを感謝しているよ。私のような年寄りを、若い君が愛してくれたことは、まさに奇跡だ。……美しくか弱い君が、この先、困らないように、ちゃんと君に財産を残しておいたからね。……今、住んでいる家は勿論君のものだ。3台の車と、……株券と債権も、……シカゴの土地も君に譲る。それと、100万ドルの信託預金が遺してあるからね」
「ああ、あなた……なんて、あなたは優しいの」幼く美しい妻は最後の一息まで彼女を心配する夫を抱きしめ、なめらかな頬を涙で濡らす。「そんな優しいあなたに、私は何をしてあげたらいいの?」
「奥さん」
ハウスは、末期の臨場に盛り上がる夫婦の間に杖を差し入れた。
「あんたが、握ってるチューブをちょっと離してくれたら、それでいい」
*生涯の13番目
「もう、君には付いていけない。君とは縁を切らせてもらう!」
ウィルソンが怒鳴っていた。
ハウスは、大きく目を見開いている。
「マジか……? ウィルソン?」
「ああ、本気だとも。さすがの僕も頭にきた!」
「ダメだ。ウィルソン!」
ハウスの手が、強くウィルソンの腕を掴み、腫瘍学部門部長はドキリとした。本気で引き留めようとするように、ハウスの青い目が、ウィルソンを見つめている。
「……もし、君が反省する気があるのなら……」
「絶対にダメだ。ウィルソン。俺から12人の友達が去って行った。お前は俺の13番目になるつもりか? そんな縁起の悪い数、俺は絶対に認めないぞ!」