星に願いを 4

 

ショーンの半ズボンの中をのぞき込んだヴィゴはにやりと笑った。

見上げるショーンもヴィゴを真似、肩頬だけで笑おうとして失敗していた。

オーランドの言葉通り、やはりショーンはパンツを履いていない。

すべすべと柔らかそうな腹をデニムの半ズボンの中にしまい込んでいた。

ヴィゴは約束通り、大きく片目をつむって、唇の前で指を立ててみせた。

両方の目をつむってしまったショーンが、うんっと、大きく頷く。

子供は、オーランドを仲間はずれにしたということが、相当嬉しいらしい。

ヴィゴに小さなペニスを見せつけるため、一生懸命半ズボンの前を引っ張っていた。

「ショーン、オーリにばれるぞ」

ヴィゴが注意を与えると、オーランドに視線をやった子ショーンは、鼻の頭に皺を寄せ、とびっきりの悪い顔で笑った。

そして、なんともかわいらしい子供の浅知恵だ。

「ヴィゴだけだよ」

パンツを履いていないことなど丸わかりのずいぶん下までズボンの前を引っ張り、まあるく膨らんだすべすべの腹をオーランドに見せつけた。

「う〜ん。見えない」

オーランドが付き合って、のぞき込む振りで伸び上がった。

すぐさま、子ショーンは、ズボンの前を引っ張るのを止めた。

ぱつんと、ゴムが、子供腹を打つ。

子ショーンは、つんとすました顔をして、ヴィゴを見上げた。

そして、とても嬉しそうに笑った。

こういうのを天真爛漫な笑みと言うのだろう。

大人のショーンも確かにこういう笑いを浮かべたが、さすがに子供のそれにはもっと威力があった。

「ショーン……」

あまりに嬉しそうな顔だったので、ヴィゴは、たまらない気持ちなった。

もしかしたら、これから先、あのショーンの笑顔がもう見られないのかもしれないと、胸が締め付けられた。

「ヴィゴ?」

 子供は、きょとんとヴィゴを見上げる。

仲間はずれにされたオーランドが、わざとらしく泣き真似をした。

「酷いよ。ショーン。俺だけ、仲間はずれなんて!」

わっと泣き伏せるオーランドにヴィゴは自分の気持ちを誤魔化すように指さした。

「ほら、ショーンが意地悪をするから、オーリが泣いちまった」

ヴィゴは、わざとらしいオーランドの演技に、実際ほっとした思いだった。

「いいのか? オーリ泣いてるぞ」

唇を尖らした子ショーンが、ヴィゴの指を掴んだ。

「あんなの、嘘泣きだもん」

「本当か? ショーンが酷いことばっかりするから、オーリ、ショーンのこと嫌いになっちまったんじゃないのか?」

「そんなことないもん!」

それでも、ちらちらとオーランドに視線を送る子ショーンの様子に、ヴィゴは唇を緩めてオーランドに注意した。

「オーリ。もっとうまく泣けってさ」

「酷い! 酷いよ! ヴィゴも、ショーンも!」

一声大きく叫んだオーランドは、泣き方から、わざとらしさをそぎ落とした。

オーランドの肩だけが小さく震える。

ヴィゴは、うまくなったな。と、感心して見ていた。

だが、それが続くと、手を繋いだままの子ショーンは居心地悪そうになった。

ヴィゴの指を掴んでいた手に力が入り、何度もオーランドとヴィゴの間で視線を彷徨わせた。

そして、とうとう、子ショーンは、オーランドの元へそっと近づいた。

「……オーリ?」

子供の小さな手が、オーランドの肩を撫でた。

「オーリ、悲しい?」

「うん。ショーン、俺、悲しい……」

オーランドの声は震えていた。

子供相手に止めてやれよと、ヴィゴが呆れる程、オーランドは真剣に演技を続けた。

ショーンの手が、オーランドの頭を撫でる。

それでも泣きやまないオーランドに、子供は、小さな頭をオーランドの背中にくっつけ、きゅっと抱きついた。

「オーリ。まだ、さみしい?」

「だって、ショーン、仲間はずれにするもん……」

拗ねた声は、オーランドの十八番だ。

ヴィゴですら、何度もこの声のせいで、オーランドのわがままを受け入れた。

素直な子供が、騙されないはずはない。

一生懸命にオーランドの背中を撫でた子ショーンは、泣くオーランドの横顔をのぞき込んだ。

「泣くのやめるんなら、オーリにも見せたげる」

泣かないで。と顔に書いた子供は、自分の目まで潤ませてオーランドの顔をのぞき込んだ。

オーランドは、大きな茶色い目に涙を一杯にため、子ショーンに尋ねた。

「ほんと?」

「うん。ほんと」

「ショーン、俺にもちゃんと見せてくれるの?」

端から見ていれば、おもしろいだけなのだが、子ショーンが、かなり真剣な面もちで、自分の半ズボンをずり下げた。

ヴィゴは、オーランドの策略にまんまと嵌っている子ショーンに苦笑した。

真っ白の小さなお尻が丸出しになる。

その瞬間を逃さず、オーランドが、がばりとショーンを抱き込んだ。

「ほら! ショーン、やっぱり、パンツ履いてない!」

オーランドはショーンの身体を擽りながら、ぷりんと持ち上がったお尻を軽く叩いた。

「誰が、『絶対に、パンツ、履いてる!』んだってけ? ショーンのパンツは見えないパンツなのかな?」

オーランドの顔には、さっき前の涙の跡などありはしなかった。

驚いた子ショーンがオーランドの頭を叩いた。

オーランドは、それでも子ショーンを離さず、子供を擽りまくった。

「悪い子には、お仕置きだ。ショーン、覚悟!」

くすぐられた子供は、黄色い悲鳴を上げて、きゃっきゃっと笑った。

怒っていても、擽られれば子供は笑う。

「ミルク臭いぞ。ショーン、この匂いは、ママのおっぱい?」

「嫌! 嫌! オーリ!」

オーランドは、ショーンの胸に顔を埋め、ぐりぐりと鼻を押しつけた。

ショーンが、オーランドの髪を引っ張り、転げ回る。

加減のない子供の力に、オーランドの髪はぐしゃぐしゃだった。

ショーンも苦しそうに、はぁはぁ、息をしながらも、まだ、笑っていた。

ヴィゴは、冷蔵庫からオーランド用の水を取り出した。

「ほら、そろそろ、おしまいだ。オーリ。ショーンの服を着せてやってくれ」

 半裸の子供は、顔を真っ赤にして苦しそうに笑っている。

「ショーンも、寂しがり屋のママに洋服を着せて貰え」

「オーリ、ショーンのママじゃないもん!」

「寂しがり屋のママって、何だよ。ヴィゴ!」

声を揃えての、二人の抗議に、ヴィゴは、肩をすくめた。

「失礼。じゃぁ、子供好きの心優しいお兄さんに洋服を着せて貰え、甘えん坊」

「ショーンは、甘えん坊じゃない!」

「いいや、こんな甘えん坊みたことない。ショーンは甘えん坊だ」

オーランドが嬉しそうな顔で笑った。

笑いの余韻を残して、頬をピンクに染めている子供を抱きしめ、頬ずりする。

「嫌、ショーンのこと離せ! オーリ!」

子ショーンは、オーランドの腕の中から逃げようともがいた。

ヴィゴは、ショーンににやりと笑った。

「ボーイ。ショーンなんて言う子は、どこの赤ちゃんだ?」

ショーンははっと口を押さえた。

「赤ちゃん、赤ちゃん」

はやし立てるオーランドに、ショーンが蹴りを入れた。

大げさに、オーランドが倒れた。

オーランドが倒れたことに目を輝かせたショーンは、オーランドの手が、ショーンの半ズボンの裾を摘んだ事に気付いていなかった。

だが、大人のオーランドはちゃっかり倒れ込むのを利用して、ショーンの半ズボンを完全にずり下ろした。

小さなペニスが、ちょこんと跳ねる。

「パンツ履いてない。赤ちゃん、発見!」

オーランドが大きな声を出した。

靴下に、スニーカーだけの格好になったショーンは、真っ赤になった。

泣きそうな顔の子供は、開いたトランクの中からはみ出していたパンツとシャツをひったくると、廊下へ駆けていった。

オーランドがけらけらと笑う。

ヴィゴは、オーランドをたしなめた。

「オーリ。そういうことばかりするから、ショーン嫌われるんだぞ」

「なんで? ヴィゴのやってることと、そんなに変わんないじゃん」

オーランドは、子ショーンがぐしゃぐしゃにした髪をかき上げた。

そして、ショーンばかりか、子ショーンとまでも親密なヴィゴをちらりと睨む。

ヴィゴは、オーランドに教えてやった。

「オーリ、大人ってのは、一緒になって遊んでても、子供の気持ちに手加減できるもんだ」

ヴィゴは、オーランドにペットボトルを差し出しながら、廊下へと歩いて行った。

ひょいっと廊下をのぞき込み、パンツとシャツだけ着た子ショーンを見下ろす。

ヴィゴは、憮然とした顔をしている子供に聞いた。

「ショーン。着たい服とかあるのか?」

「緑の……」

「オッケー」

ヴィゴはトランクをかき回し、緑のボーダーTシャツを取り出した。

「ずるいなぁ。ヴィゴは」

「おかげさまでね。一度通ってきた道だからな」

水を飲んでいたオーランドは、子供の機嫌を取るため、冷蔵庫から、ミルクを取りだした。

 

 

続く。(ゆっくりだけど。苦笑)

 

子供と戯れる藻と花(笑)