星に願いを 3
ヴィゴは、ミルクを取り出そうと、冷蔵庫の前で立ち止まった。
手を繋いでいたショーンが、ヴィゴを見上げる。
「ヴィゴ?」
首を傾げるその角度が、ショーンのままで、ヴィゴは思わず扉に掛けていた手が止まってしまった。
「……ショーン」
「ヴィゴ。早く!」
待ちかまえている子供は、焦れた声を上げた。
「ああ、……うん」
愛されるままに小綺麗に整えられた金色の髪を見下ろしながら、ヴィゴはミルクを取りだした。
ショーンは、ただ、見上げているだけで、すぐ側に置かれているコップを取りに行くこともしない。
「ボーイ。おうちでお手伝いはしないのか?」
ヴィゴは、顎をしゃくった。
「ヴィゴ。名前で呼んで」
「じゃぁ、ショーン。コップを取ってくれ」
ショーンは、仕方がないというように、肩をすくめコップを取った。
「いい子だ」
頭を撫でたヴィゴに子ショーンはにやりと笑う。
その笑顔の悪さに、ヴィゴはめまいを感じた。
こんな小さな時から、ショーンは、この顔で笑っていたのだ。
「……確かに、ショーンだ」
ヴィゴは、ため息をついて、ショーンが差し出したコップにミルクを注いだ。
ショーンは、こくこくと喉を鳴らしてミルクを飲む。
「うまいか?」
うん!と、力強く頷いたショーンは、口の周りをミルクで汚していた。
ヴィゴは、くすりと笑い、しゃがみ込むと白くなったショーン唇の周りを舐めた。
「ショーン。ちゃんと俺のこと覚えてるのか? 俺に会いに来てくれたのか?」
「前に、ヴィゴと、会う約束、した。だから、オーリと来た」
「俺のことを、覚えてるのか?」
ヴィゴは、ショーンの受け答えに、幼さを感じていた。
ショーンの言葉はかなり語彙が少ない。
多分、この愛らしい天使は、嫌になるくらい、家族に愛されているのだろう。
質問の答えまで先取りされることに慣れている幼子は、自分で言葉を探して返事をすることに、一生懸命頭を使っていた。
「覚えてる? うん。覚えてる」
ショーンは、舐められた場所がくすぐったかったのか、手で唇の上をごしごしと拭いた。
そして、もどかしそうにヴィゴの髪を触った。
「俺、ヴィゴ、好き」
うまく答えられない気持ちをなんとか伝えようと、ショーンは、ヴィゴに頬ずりをした。
ヴィゴも、ショーンのすべすべとした頬に頬ずりを返した。
「こうもはっきりショーンが告白してくれとは。……小さくなってくれて、万歳って感じだな」
頬ずりするヴィゴの無精髭がくすぐったいのか、ショーンがうれしそうな声で笑った。
ヴィゴは、事態を努めて軽く受け止める努力をした。
子ショーンの幸せそうな緑色の目をのぞき込み、おどけて聞いた。
「ショーン、俺とデートする約束を守るために、オーリに密入国の手伝いをさせたのか?」
ショーンはうれしそうにヴィゴの言葉を真似た。
「ショーンは、オーリに密入国させた」
甘えきった自慢げな笑顔がぴかぴかと輝いている。
「俺のことが好きだから?」
「ショーンは、ヴィゴのことが好きだから」
ヴィゴは、やれやれと肩を竦め、笑うと、ショーンを抱き上げた。
小さな身体は、簡単にヴィゴに持ち上げられる。
ショーンは、ヴィゴの首に手を回して、ぎゅっと掴まった。
そこまでは、大層愛らしかったが、コップでヴィゴの頭の後ろを叩いた。
「ヴィゴ、もう一杯」
「はい、はい。わがままな王子様だ。どうだ? ジュースより、うまかったろ」
ショーンが胸を張った。
「うん。うまかった」
ヴィゴは、ショーンを片腕で抱いたまま、冷蔵庫のドアを開け、ショーンのコップにミルクをもう一度注いだ。
しかし、もう一度、冷蔵庫を強く閉めた拍子にたっぷりと注いだミルクがこぼれた。
あっと、思う間もなかった。
ショーンの洋服にべったりとミルクがかかった。
「ごめんなさい。……冷たい……」
この金髪は、躾のいい子供なのだ。
ショーンは、どうしたらいいのだろうと、泣き出しそうな顔で、ヴィゴを見つめた。
「すまない。ショーン。これは、俺が悪い。ショーンは悪くない」
「でも、ショーンも、コップちゃんと持ってなかった。ごめんなさい」
謝る子供の頭を撫でたヴィゴは、大きな声で、オーランドを呼んだ。
「お〜い。オーリ。ショーンの替えの服ってあるのか?」
「何やったの!」
慌てたようなオーランドの声とともに、トランクを引きずる音。
素早いオーランドの対応に、ヴィゴはくすりと笑った。
「ショーン、お前、相当、オーリに迷惑を掛けただろう?」
ヴィゴは、困った顔のままのショーンの額にこつんと、額を当てた。
「オーリ、ショーンのこといじめる」
「ショーンが、オーリのこといじめるからだろ。それと、ショーン。自分のこと、ショーンって言うな。格好悪いぞ」
子ショーンは、子供なりにはっとした顔をした。
そして、うそぶくような顔をすると、しれっと、俺、ショーンなんて言わないもん。と、言った。
「嘘をつけ。家で、いつも、自分のこと、ショーンって言ってるんだろう?」
「言わない!」
暴れたショーンは、残っていたミルクも、コップからこぼした。
ヴィゴの腕は、ミルクまみれだ。
「今度は、ショーンが悪いぞ」
ヴィゴは、軽くショーンを睨んだ。
ショーンは、ヴィゴの腕を叩いた。
「ヴィゴが悪い!」
「俺は、悪くない」
「何、子供と張り合ってるの? ヴィゴ」
オーランドが、呆れた顔で、トランクの留め金を外した。
「着替え。ほら、ショーン、こっち来て」
じたばたとヴィゴの腕の中で暴れていたショーンは、オーランドに向かって走って行った。
オーランドが困った顔をしながらも、うれしそうにミルクまみれの子供を抱き留める。
「さてと。ショーンがパンツ履いてないの、確かめちゃおっと」
オーランドが、にやりと笑った。
「なんだ?ショーン、パンツ履いてないのか?」
ヴィゴは、腕に付いたミルクをタオルで拭きながら、もうTシャツをめくって貰っているショーンを見た。
ショーンは、きまり悪そうに唇を付きだした。
「そう。訳わかんないよ。絶対に自分一人で着替えるって頑張ったとこまでは、いいけど、着替え終わったら、パンツ残ってるし。おまけに履いてるって頑張るし」
ヴィゴへと意識の逸れたオーランドの腕から、するりと子供は逃げ出してしまった。
ショーンは、半ズボンだけの姿で、ヴィゴの元まで逃げてきた。
「ショーン、こっち、戻っておいで!そんな格好で、うろうろしない!」
「どうした? ショーン。 本当にパンツ、履いてるのか? 実は履いてないだろう?」
オーランドにイーと歯を剥いたショーンは、にやにやと笑ったヴィゴに、あさっての方向を向いた。
「見せてみろよ、ショーン。オーリには内緒にしといてやるから。なっ、俺にだけ」
ヴィゴは、ショーンの薄い胸をくすぐった。
ショーンが、笑って、ヴィゴを見上げた。
目の前にいるのが、子供なせいで、つい、ヴィゴは、ショーンをショーンとして扱えないでいた。
子ショーンも、どのくらいショーンとしての意識が残っているのか、態度はまるで子供だ。
「ほら、ショーン。オーリには内緒だ。俺にだけ、教えろ」
ヴィゴは、オーランドを仲間はずれにするという子供にとってはたまらない提案を持ちかけた。
やはり、ショーンは、うれしそうに目を輝かせる。
「絶対、オーリには内緒だよ?」
「よし、約束な。ショーン」
「約束」
ショーンは、半ズボンをぐいっと引っ張った。
ヴィゴが覗き込んだすべすべの下腹部からは、ちょこんと小さなウインナーが生えていた。
続くかも。かも。(笑) (→4へ)
衝撃の事実(笑)
子豆リクのメルは、相棒の悪戯でした(笑)
いや、完全にだまされた。
そして、告白とともに、「だから、無理して書かなくてもいいから」と(笑)
でも、書き始めちゃったからねぇ。どうしようねぇ(苦笑)