星に願いを。

 

庭のカウチで新聞を広げていたヴィゴは、止まったタクシーから飛び出してきた小さな子供に目を丸くした。

「おい?」

声を掛ける暇もなく、子供はまっすぐにヴィゴに向かって走り込み、階段でつまずくと、頭から新聞に突っ込んだ。

新聞は音を立てて破れる。

新聞越しに突っ込まれたヴィゴは、子供の石頭が胸に当たり、一瞬息が止まる。

子供の後を追うように、タクシーから飛び降りたオーランドが、大声で叫んだ。

「走っちゃダメだって、ショーン!」

だが、オーランドの制止は全く役に立たなかった。

子供は大きな声で、泣き出す。

「うわ〜ん」

ヴィゴも泣きたい程痛かった。

だが、泣くわけにもいかず、泣く子の頭を撫でた。

「びっくりしたろ。でも、どこも怪我はしてないみたいだぞ。大丈夫だからな。気が済むまで泣いたら、泣きやんでいいからな」

ヴィゴは、しゃくり上げる子供の髪をかき回し、背中を撫でてやり、涙で濡れた頬を両手でさすってやった。

子供の泣き声に、必死になって走ってきたオーランドが、無事な姿を確認すると、ヴィゴの側でがっくりと膝をついた。

「ヴィゴ。助けて……」

オーランドは、目の下に隈を作り、一目で分かるほど、疲れ果てた顔をしていた。

「どうした? オーリ。親戚の子でも預かったのか?」

ヴィゴは、タクシーの運転手が、荷物を抱えて側までやってきて、やっとオーランドがいきなり現れたことに驚いた。

「お前、仕事は?」

「無理矢理作ったオフ。……その子、親戚の子じゃない」

 オーランドは、請求された金額より多く運転手に渡し、一生懸命謝っている。

 まるで、いたずらっ子に振りまわされている若い父親だ。

「じゃ、何? お前の隠し子?」

膝の上に子供を抱き直し、笑ったヴィゴをオーランドが睨んだ。

「俺の子だって? いつの子だよ」

「さぁ? かわいいじゃん。ママは、さぞかし、美人だろうな」

しゃくり上げる子供の頬にキスをしたヴィゴは、まったくオーランドの面影のない子供の様子に、くすくすと笑った。

オーランドは、子供に手を伸ばし、怪我のない膝小僧を撫でた。

子供の足が、オーランドをじゃけんにして伸ばした手を蹴る。

口を尖らし、軽く靴先を叩いたオーランドは、髪をかき上げ、ヴィゴ見上げた。

「俺がパパなら、ヴィゴは、きっとママだな」

「は?」

「よく見てみなよ。どっかの誰かによく似てるでしょ?」

ヴィゴは、背中から抱いていた子供を膝の上で反転させた。

まだ睫が涙に濡れている子供は、天使のような金髪で、大きな緑の目をしていた。

つり上がり気味の目には見覚えがあるが、こんなにも丸い輪郭の頬には見覚えがない。

「知らないぞ? 似てると言えば、ショーンだが……。あいつの隠し子?」

笑えない冗談なだけに、ヴィゴは、顔を顰めた。

だが、子供のかわいさに、吸い寄せられるように白い頬へとキスをした。

オーランドは、大人しくキスを受けている子供の様子に舌打ちした。

「ヴィゴ、あんた産んだ覚えがあるの?」

ヴィゴはじろりとオーランドを睨んだ。

「どうしても俺をママにしたいようだが、オーリ、「冗談は止めて、この子、本当はどこの子だ? ショーンの親戚?」

「残念! ヴィゴ。そうだったら、俺もどんなにいいかと思うんだけど、その子は、ショーン、本人です。冗談にしか聞こえないだろうけど、ショーンの休暇を邪魔してやろうと思って、実家に押し掛けて無理矢理泊まったら、ショーンが、『俺がガキだったら、間違いなくお前を蹴り飛ばして、叩きだしてやるのに』とかなんとか言って」

「そんなのいつものことだろう?」

「知らないよ。運悪く、流れ星が流れたんだよね。多分、そのせい。もう、そうとでも思わないと、俺、やってらんないし」

オーランドは、ヴィゴの膝の上で、今までの暴君ぶりなどどこかにやってしまったかのように大人しく猫を被っている子ショーンの腿を優しくつねった。

すぐさま、ショーンは、オーランドの手を叩く。

避けたオーランドを追って、ヴィゴの膝の上でじたばたと暴れる。

ヴィゴは、膝の上から子供が落ちないよう抱き直すと、オーランドに尋ねた。

「何歳?」

「……知らない。ヴィゴ、冷静だね」

「いや、そんな状況で、俺のところまで、この子を連れてきたっていう、オーリの方がずっと冷静だろう」

「冷静……。もう、全然、そんなこと言ってられる状態じゃなかったんだよ!」

オーランドは、澄まし顔でヴィゴの胸にもたれて、足をぶらぶらと遊ばせている服屋の店員によると5歳児とにらみ合った。

 

つづく。かも。

 

ごめ……。

ボールを投げっぱなしなのは分かってるんですが、果たして子ショーンに現在の興味を向け続けていけるのかは謎なのです。

アンケートのみではなく、メルでまで、「子豆!(小豆って書いてありましたが。子豆のことでいいんですよね?)」と、書いていただけてしまったので、やっぱりこういう変な豆はどこにも落ちてなくてお困りなのかなぁ?とか、つい、いらぬことを考え……。