ピロートーク 2

 

身体の汗は引き始め、波打つシーツの上にある足は少しだるく、温かに絡まったままで、とてもいい感じだった。

「眠そうだな」

「……ん? そうかも、……もしかして、俺、寝てた?」

呼びかけに、さっき閉じたばかりだったジュードの青い目は驚いたように大きく開かれ、彼は、目頭をごしごしと擦った。ロバートが、指を伸ばして唇に触れると、慌てたように唾液を啜る。

「よだれなら、たらしてなかったぞ?」

にやにやと笑ってやると、やられたと盛大に顔を顰めた後、ジュードは眠そうに大きな欠伸をして、ロバートの方へと向きを変え、絡めていた足をもっと深く絡め直してくる。目はとろりと、表情は鈍く、いまにも、まぶたがくっつきそうだ。

「お前、このまま、この部屋に泊っていく気か?」

眠気は、精悍な彼の顔にも、疲労を明確にしていた。

「……ダメ?」

ダメだということでは決してなく、それどころか、ジュードになら、ロバートは、この部屋へと居続かれても困らなかった。やわらかなルームライトの光の下、枕の上の青い目は、強要もねだりもせず、ただ率直に、ロバートの返事を待っているのだ。

「全く駄目じゃない」

ロバートは口元を緩め、ジュードの目の上を手の平で覆った。至近距離で見つめられるにはジュードはハンサム過ぎる。

「だけど、……そうだな、お前が明日、この部屋で目を覚ますっていうんなら」

手のひらの中で、ジュードの睫毛が擽ったく動くのを笑いながら、ロバートは言葉を切った。先にこの男に眠りに落ちられてしまい、ロバートは、少しばかり退屈していたのだ。自分の足を挟んでいたジュードの足を持ち上げ、その間から足を抜き出す。目で後を追ってくるジュードを残したまま、足元でくちゃくちゃになっていたローブを手に取ってベッドから身を起こした。

「目が覚めた時に、とっておきのお楽しみを用意してやらなきゃな。ん? だろ? かわいい、ジュード?」

身をかがめて、ロバートが額にキスしてやっているというのに、寄せ合っていた温かみがなくなったジュードは、シーツを引き寄せ、ミノムシのようにまるまるのに忙しそうだ。

「ロバート、何する気?」

シーツの中からくぐもった声がする。

「だから、とっておきだって言っただろう?」

 

ロバートがベッドから離れた、僅かの間に、ジュードは、また眠りに落ちてしまっていた。ジュードの瞼には力が入っていて、この男が眠るということに最大限の努力でもって挑んでいるようでおかしかった。ロバートはドスンとベッドに腰掛け、年下の無礼を指摘してやる。

「……あ、また?」

ベッドに起きた小さな地震に、思惑通り目を覚ましたジュードは、大きく目を開いて、覚醒したばかりの無防備さでじっとロバートを見つめている。

「俺、寝てたか? ああ、そうだとも。寝てたよ。ジュード」

「すごくセックスがよかったから」

許しを請うように緩く笑って、ジュードの手が、ロバートの足を撫でる。

「疲れたか?」

年下の恋人は、また欠伸をする。

「満足したから、……眠い」

ロバートは、そんなジュードの目の前に、手のひらの上に乗せて白く丸い卵型のものを差し出した。それが、なんだか、分からずに、形のよいジュードの眉が何?と、曲げている。

「明日の朝のお楽しみだ」

「お楽しみ……?」

「そう。これを、……こうして」

片手に卵型をした白くてまるいものを手に握り込んだロバートの手は、ローブの裾を潜った。わずかに眉を寄せ、軽く口を開いて、下肢の間でごそごそとやるロバートを、ジュードは不思議そうに眺めている。目の中にまだ眠さを残して、ぼんやりと見つめてくるジュードのかわいらしさに、ロバートは、自分の中へとセックストイを埋めながら、身体を曲げて軽いキスを送った。軽いキスだけで離れようとしたロバートを追いかけるようにキスする唇は尖ったが、ジュードは、まだロバートが何をしているのか、わかっていない。

「ほら、これで、お前のキュートなニワトリは、明日の朝、卵を産むぞ」

ジェルで濡れ、さっきまでのセックスで解れた場所に、卵を埋め終わったロバートは、股の間にくぐらせていた両手を上げ、何もないぞとぱっと広げて見せた。かなり眠そうにしているジュードは、しばらくの間、何が起こったのかを考えていたようだが、やっと、わかったようだ。

「……なんで!?」

「お前に、ちょっとした楽しみを与えてやりたくて」

驚きに身を起こしたジュードの上へとなだめるようにロバートは覆いかぶさり、その身体をベッドへと押し戻しながら、キスをした。キスには応えてきたものの、ジュードは酷く焦っていて、軽いパニックを起こしている。

「そんなんで、寝れるの、ロバート!?」

年下の率直で、的外れな質問は、ロバートを笑わせる。

「さぁ? 多分」

青い目が心配だとみつめていたが、ロバートはとぼけた。だが経験上、眠れることは知っている。ロバートはシーツをジュードの肩まで引き上げてやって、子供にするように胸の上をぽんぽんと叩いてやった。

「ほら、眠い奴は寝ろよ。明日の朝にはサンタのプレゼントだぞ」

「そんな、サンタのプレゼントなんてない」

ジュードは、眉の間に皺を寄せて、渋い顔だ。

「なんだよ。せっかくセクシーなサンタが、お前にサプライズなプレゼントしてやろうっていうのに、受け取りを拒否する気なのか?」

ロバートが鼻の頭に盛大に皺を寄せたせいで、しぶしぶジュードは目を閉じたのだが、翌朝、ロバートがジュードを揺り起こした時も、ジュードの機嫌はあまり良くなく、ロバートの期待は外れた。ロバートはサンタのプレゼントが待ちきれないジュードに、自分が揺り起こされることすら期待していたのだ。だが、彼は、朝日を浴びて大きく欠伸をしている。

仕方なくロバートは、自分からベッドの上で四つん這いになった。ジュードの前に、尻を突き出すようにして這うと、肩越しに振り返る。それで、やっと、ジュードの頭は、昨日のロバートが卵のようなものを、あらぬところに入れていたことを思い出したようだ。欠伸の途中で、動きが止まる。

「ほら、気になるだろう?」

ロバートは、色気たっぷりに流し目を送って、大きな尻を振り、ジュードにローブの裾をめくれと促した。

「本気……?」

だが、そう言ったきり、顔を顰めてジュードは手を伸ばそうとしない。

予想通りにいかない展開に、仕方なく、ロバートは尻を覆い隠していたローブの裾をそろそろと捲りあげた。45歳の下半身が、朝の光と、ジュードの視線の中に、無防備に晒される。さすがに恥ずかしさを感じた。だが、あえて、平気な素振りをしてみせる。

「ジュード、興奮するだろ?」

ジュードは無言だった。こんな格好までしているのにと、背中の毛がぞくりと逆立つような居たたまれなさを感じたが、口の中にたまった唾液を飲み込むことで押さえ込む。

「どうした? もっと近づいて特等席で見てもいいんだぞ?」

自分で始めたことだ。ロバートは腹を決め、ジュードに尻を晒したまま、下腹に力を入れ、ショーを開始する。

「んっ」

今までに何度かやったことがあるとはいえ、異物をあそこから産み落とすのは、人にはみせない排泄を、恋人の目の前でしてみせるのと代わりのない行為だ。抵抗もあれば、身の竦むような羞恥もある。ロバートの腰の窪みにはじわりと汗が噴き出していた。だが、恥ずかしさをこらえ、何度も息を吸い込み、下腹に力をいれて、力んだ。腹の中におさまっていた異物が位置を変え始める。

「はっ、……んっ!」

じわじわと内壁を擦って移動するものに、もう少しだと、大きく息を吸い込み、シーツをぎゅっと掴んで、力を入れると、つぷりと卵の一部が窄まりを押し開き、顔を出した感触があった。

「……っ」

だが、そこまでいくと、今度は、今すぐにでも、出してしまいたい排泄感に悩まされる。

はっ、はっと、何度も息を吐いて、なんとか、身体の力を抜きながら、ロバートは背後のジュードを振り返った。込み上げる排泄感に悩まされている今、自分でも、たっぷりと瞳が濡れている自覚があって、こういうプレイは初めてなのか、のってこなくて、冷めた態度だったジュードも、今なら、興奮で目がぎらついているはずだと確信があった。

だが、ジュードは、やれやれとでも言いたげな、少し呆れた目をして、温かくこのショーを見守っているだけだ。

「……なんでだ?」

全てを晒したロバートの下半身は、ジュードの視線の中にあるのだ。この変態的なプレイにたまらない恥ずかしさはあったが、これでジュードを興奮させることができるかと思えば、年甲斐もなくロバートのペニスは、勃ちあがりかけていた。

白い卵を産みおとそうとしている部分だけでなく、恥ずかしげもないそこも、ジュードには見えているはすだ。なのに、ジュードが、現場で悪乗りが過ぎた時の自分を見守る時のような目をしていて、ロバートはひやりと心が竦んだ。組まれていたジュードの腕が癒そうとするようにロバートへと伸びてきて、ロバートは、思わずその手から逃れた。シーツをひっつかみ、転げこむようにして中へと潜り込む。

「ロバート!?」

思わずシーツの中で足を蹴り出し、その足は、ジュードらしきものを蹴ったようで、恋人の声は、怒ったようなものだったが、羞恥と逆恨みに近い怒りでかぁっと身体は痛いほど火照り、頭もガンガンと痛むロバートは、構っていられなかった。

「出ていけ!」

「どうして?」

「どうしてもだ。今すぐ出ていけ!」

不服そうにジュードが寝室のドアを閉めたのは分かっていたが、ロバートは悲しくて泣きたいほどの気持ちでシーツの中にまるまっていた。浮かれていた自分が悔しい。しかも、こんなにも、気分が滅入っているというのに、尻の穴を押し上げている卵は、容赦なく、むずむずと排泄感を刺激する。

「……くそっ。こっちが、どんな思いで!」

ロバートは、シーツを頭まで被ったまま、んっと腹に力を入れた。シーツを握り込むまでもなく、ほんのわずかに力んだだけで、簡単に、卵は、尻から押し出される。ほっと息は付けたが、強く瞑った瞼が熱い。

「……馬鹿みたいだ」

とりあえず、誰の目にも触れずに、シーツにくるまったまま、馬鹿な自分のために泣けそうなのが救いだった。しかし、追い出したはずの恋人の声がする。

「ロバート、入るから」

厳しい声がして、ドアは開いた。

 

シーツの中に、頭まで隠して芋虫みたいにまるまっているロバートは入ってくるなと怒鳴っていたが、ジュードは構わずベッドに近づいた。皺の寄ったシーツの山は、頑なに強張っており、息を詰めたようにぴくりとも動かない。どこから攻略しようかと思い、やはり正面からだろうと、その山の上へと、ふわりとジュードは覆いかぶさった。だが、頭からすっぽりとシーツの被った塊は、頑なに身体を強張らせたままだ。ジュードは、多分、ロバートの頭があると思われる部分に、頬擦りしてみた。ロバートの匂いがするシーツの下からは、ふわりとした頭髪を感じられたが、頬に感じたその柔らかさと裏腹に、まだ、腕に抱き込んだシーツの砦は固いままだ。

シーツ越しの熱は高く、感情を高ぶらせているロバートが、どんな言葉よりも先に、まずジュードから謝罪の言葉を聞きたがっているのはわかっていたが、

「あなたは馬鹿だ」

ジュードは恋人を詰った。寝乱れたベッドの上では、酷い喧嘩のあとみたいに、枕が斜めになって転がっている。

「あなたさ、時々、すごく馬鹿なんだよ、ロバート」

抱きしめたまま、繰り返し詰ると、びくりとシーツは大きく揺れた。だがシーツの下は無言のままで、緊張した息遣いだけが聞こえる。ジュードは、シーツ越しに、ロバートの頭へと一つキスをすると、小さくため息を吐いて身を起こした。シーツに視界を奪われているせいで状況のわからないロバートの緊張は痛いほど伝わったが、ジュードは、無言を通し、そっとシーツの端を掴む。そして、勢いよくシーツを剥いだ。

「なっ!?」

慌ててロバートは手を伸ばしたが、ジュードによってめくられたシーツを掴むのには失敗した。朝日を浴びて、唸るような毒づきとともに、身体を丸めてしまう。

「ロバート……」

ジュードは、涙に濡れた真っ赤な目を見せて、背中を丸めた人の頭を撫でた。だが、大きく左右に頭を振って、ロバートは嫌がる。髪はくしゃくしゃだった。頑なさを貫こうとするその態度は、だが、残念ながら、大きなお尻がローブからめくれて出てしまっている丸出しの状態では、滑稽だ。

「ロバート」

漏れる苦笑に口元を緩めながら、ジュードは、ローブの裾を直してやり、ベッドの端に腰掛けた。ロバートは無視だ。だが、ロバートの腿のそばには、この揉め事の原因である卵がぬるりと表面を濡らしたまま落ちていて、背中を向けながらも、その存在を、ロバートが気にしているはわかった。それをどうジュードが扱うのか、背中は固く緊張している。

懸命に感覚を探る人の太股のそばから、ジュードは手を伸ばして、それを取った。まだ、温かだ。これから投げつけられるだろう言葉に対する防御なのか、ロバートの背中にぎゅっと力が入る。だが、ジュードがしたいのは、喧嘩ではなく和解だ。

ジュードは、めくりあげたシーツの端をもう一度掴みなおし、頑なに背を丸めたロバートの隣へと身を滑り込ませる。

「ロバート」

ぐちゃぐちゃに波打つ身体の下のシーツと、こんもりと自分たちを頭から覆うシーツで出来た白く柔らかな繭の中で、抱き込んだ身体の頬に触ろうしたが、ロバートの手が伸びて、ジュードを押しのけようともがく。長い睫毛だけでなく、目尻にできた皺にまで涙の跡があって、ロバートが十分に反省したことをジュードは認めた。年上の目は真っ赤だ。

「触るなっ!」

無意識に俳優の顔に拳が当たるのを避けているのはさすがだが、格闘技の熟達者の腕前が、肩を胸をと遠慮なく、打っていく。

「痛っ、暴れるなって」

何箇所かに平手を食らいながら、ジュードは、なんとか激しくもがくロバートの両腕を掴んでベッドの上に磔にした。はぁはぁと息が乱れる身体の下のシーツはもうぐちゃぐちゃだ。二人して暴れたせいで、せっかくすっぽりと被っていたシーツもずれてしまって、汗をかいたジュードの背も、情けなく歪んだロバートの顔も陽の光の下に暴き出されている。ジュードは、お願いだから、大人しくしていてと不貞腐れたように横を向いたロバートの両掌の上にキスすると、まとめて片手で押さえつけ、ずれたシーツをもう一度頭からすっぽりと被り直した。これでまた二人だけの空間だ。

「ロバート。機嫌を直してよ」

「嫌だね」

「ったく、あなたって人は……」

子供のように拗ねてしまっている年上は、これだけ親密に肌を寄せ合っても、話し合うチャンスをジュードに与えようとはしなかった。いくらジュードが請い願うようにキスを繰り返しても、嫌がって顔を背け続け、ますます機嫌を損ねるだけだ。

「じゃぁ、ロバート、正直に言うけど、俺、あなたがさっきやってたみたいなの、好みじゃないんだ」

息を飲んだロバートは、下睫毛の濡れた大きな目を見開いた。

ジュードも本当は、もっとソフトな言葉で打ち明けるつもりだった。だが、今、屈辱で身を震わせ、歯を噛みしめるロバートは、あまりにも頑なだ。

押さえ込んでいるロバートに、今度こそジュードは、力づくでキスを迫った。やっと唇が触れ、押し返そうとロバートが込める力に、押さえつけている腕がブルブルと震えだしてもジュードはそのままキスし続けた。ロバートは睨み続けている。だが、とうとう根負けしたのかロバートが眉を顰めたまま、身体の力を抜いた。ジュードは、そろそろと腕の力を抜いて、拗ねている恋人を見下ろした。じっと見下ろしていると、やっとロバートが口を開く。

「……興奮するかと思ったんだ」

しなかったジュードを責める口調だ。

「したよ」

正直な答えをジュードは返したが、嘘をつけと、ぎらぎらと目を怒らせてロバートはさらに文句を言いたてようとした。ジュードは、吠えかかろうとしている口にしっと指を押し当てた。身勝手な人を見つめる眉に力を込める。

「ただし、他の男が喜んだ手が、俺にも通じるって思われるのはしゃくだね」

流石に、ぐっと、ロバートは息を飲む音を立てた。だが、まだ疑い深く目を顰めている。

「確かに、あんなのされちゃ、興奮するし、喜びもするけど、俺のためだっていうんなら、もっとやり方を考えてほしいんだ」

ジュードは、いつの間にかロバートの肩のあたりに転がっていた卵を取り上げた。じっとロバートの目がそれを追う。眉をひそめたままのロバートの額に、ちゅっとキスをして、ジュードは恋人の足首を掴んだ。シーツに後頭部を押し付けられる格好でいきなり足を胸に付くほど開かれ、ロバートの目は、驚きでただジュードを見上げるだけだ。声も上がらなかった。ジュードは、息苦しくなるほど狭いシーツの中の親密な空間で、柔らかくなっているロバートのあの穴を探りあて、卵をぐっと押し当てた。温かなそこは、さっきまでの余韻を残して、ぬるりと湿っていた。口を閉ざした窄まりは、だが、ジュードが少し力を入れただけで、難なく丸くそれほどの大きさでもない卵など、飲み込んでしまう。

しかし、素直で柔軟なあそことは裏腹に、ロバートは顔を真っ赤にして睨み殺さんばかりに睨みつけてきた。唇を噛み、今すぐにでも押し入れられたものを出そうと、腹と尻とに力を込めている。ジュードは、そこへと手のひらをぐっと押し当て出せないようにしたまま、強引にロバートの唇を奪った。唇は熱かったが、すぐ、噛みついてこようとした。俳優の唇に噛みつこうというのだから、この年上のプライドの高さがたまらない。暴れるロバートのせいで、またもや、自分たちを覆っていたシーツがずれてしまいそうになっていて、慌ててジュードは、端を掴んだ。

「二人っきりだよ。ロバート。誰も、見てない」

二人の息のせいで、額に汗が伝うほどだが、シーツのドームに覆われた自分たちは、まるで世界に二人きりのようなのだ。

「だから、何だ!」

だが、ロバートはジュードが抱いていたロマンチックな感想など眼中にない。けれど、ジュードは、熱っぽくロバートを見つめた。噛んでくる唇の隙を狙って口づける。

「ねぇ、俺の願いを叶えて欲しい。ロバート、もう一度、卵を産んで。ねぇ、ここから俺たちのベイビーを産んで」

卵を押し込んだ小さな穴の上を指先で擽りながら言うと、瞬間、えっと、言葉に詰まったように、茫然と見上げてきていたロバートが次の瞬間にはウソみたいに真っ赤になった。

「お前っ! なに、っ、馬鹿を言え!」

押さえつけておくのが難しいほど、今までで一番激しい抵抗だ。

「何、恥ずかしいことを言い出すんだ!」

だが、ジュードは本気だった。お前は馬鹿じゃないのかと、できるわけがないをミックスしたロバートは、ものすごく真っ赤にした顔を泣き出しそうに歪めていたが、ジュードは逃げ回るロバートの唇にも頬にも、額にも鼻にも、顔中全てにキスをし続けた。

「俺さ、……ただの過激なプレイより、そういうのの方が、ずっとぐっとくるんだよ。だってさ、想像してよ。俺の精子でロバートが孕んで、卵を産むんだ」

たまらないかんじだろと言うジュードの声は、興奮でかすれた。胸を打とうと暴れるロバートの両腕を掴んで、ベッドの上に磔ると、身動きできないように、下肢の上に乗り上げ重みをかけ、キスを強要する。真っ赤な耳に囁いた。

「ここの中なら、誰にも見えない。ほら、シーツの中に、二人っきりだ。だから、ロバート、この中の、俺たちのベイビーを産んで」

ねぇと、ジュードは迫った。ロバートは、今までに見たことがないほど、情けない顔で歯を食いしばっている。泣きだしそうに歪んだ顔は真っ赤で、シーツの中に籠った熱気のせいだけでなく、額の皺に汗を伝わせていた。潤んだ目は真っ赤に充血し、ジュードが願いを口にした途端、ぎゅっと締め始めた窄まりを締め続けるために食いしばる歯の間からはっ、はっと吐き出される息も早かった。ジュードは、自分の思いつきにぞくぞくと興奮を感じながら、嫌がれても、嫌がれても、繰り返し恋人にキスを求めた。押さえつけ、逃げられないようにしている腕も離さない。そのうちに、ジュードは、油断なく押さえつけている腕を伝い、ついには、ロバートの指へと、指を絡めた。年上の指にはがちがちに力が入り、キスの度に、身を固くする。だが、かまわず、ジュードはキスをし続ける。

「たくさんセックスしたから、ロバートのお腹には、俺のベイビーができちゃったんだよね?」

自分で言って、ジュードは自分の言葉に興奮した。

「ねぇ、二人だけの秘密だから……このシーツの中だけの秘密だから、ロバート、俺のために産んでよ」

ジュードのペニスはとっくに硬くなっており、下に敷きこんでいるロバートにも、その熱がはっきり分かっているはすだ。

「……ジュード、お前っ……!」

「だって、ロバートに俺の子を産ませるのかと思うと、たまらないんだ」

嫌がっているのがわかっていても、しつこいほど、甘くキスを繰り返してしまうのが、興奮している時の自分の悪い癖だと、ジュードは自覚していた。だが、キスを強要するのをやめられない。

「そんなの、バカバカし過ぎる!」

ロバートは懸命に顔を背け、キスを避けている。だが、ジュードは追う。

「そうかも」

「俺の年じゃ、もう産めない!」

「それでも、産んで。ううん。産ませる。じゃぁ、ロバートが本当に孕むまでセックスし続ける?」

耳の中に囁くと、ロバートの顔がひきつった。

「マジかよ……」

目を見開いて、まじまじとジュードをロバートが見詰めた。愛を込めて、一番自信のある顔で、ジュードは微笑み返した。

「愛してるよ。ロバート」

年上は、ぶるりと身を震わせていた。目を背ける。

「……そういうのは、恥ずかしいんだ……!」

「そういうのって?」

「孕ませるとか、二人の子供が欲しいとか……そういうあり得ないことを言い合ったりとか」

「だろうね……。あなた、変なところで、自信家じゃないからね。でも、俺は、あなたに俺の子を産ませたいくらい、あなたのことが好きなんだ。もし、あなたが子供を産めるんなら、騙してでも、孕ませてる」

耳に歯を立てるようにして、今まで言ったことのない本心を囁くと、ロバートは初めて迷いを浮かべて、ジュードの顔を探るように見上げてきた。ひどく汗を掻いている。

「……本気か?」

「勿論。ねぇ、産んで?」

「本気で言ってるのか?」

そうだよと、勃起した股間をロバートの腰に押し当てたまま、請い願うように唇にキスすると、ロバートの喉が、ごくりと唾を飲み込む音を立てた。眉間は顰められたままだ。

「くそっ、……なんで、こんなことを……!」

ロバートは、唸った。

「絶対に、見るなよ!」

「約束する」

自分たちの卵を産むロバートをみられないのは惜しかったが、ジュードは潔く目を閉じて、約束を守った。絡めていた指にロバートが力を入れ、ジュードの手をぎゅっと握る。

んっという息を詰めた音が聞こえた。

ロバートの身体に酷く力が入った。ジュードは、ロバートの手を握り返しながら、一緒に息を詰めて待った。

「馬鹿、ジュード!」

んっ、んっと、力むロバートに、目を閉じたままジュードはキスを繰り返した。

重なっている唇に、また、んっとつぶやくような音を立てて力が入り、頭を起こして自分からも唇を押しつけてきていたロバートの首が「あっ」と、声とともに、がくりと落ちた。はぁはぁと喘ぐ息が聞こえる。

薄眼をジュードは開けた。

「産まれた?」

「産んでやった。最低だ。くそ、ジュード……!」

真っ赤な顔のロバートは、うっすらと涙ぐんでいる。

「ありがとう。ロバート!」

真っ赤になったまま機関銃のように毒づくロバートを手放しでジュードは抱きしめ、どれだけ嫌がられようと、激しくキスを繰り返した。顔中、余すところなくキスしながら、ジュードは、ロバートの股の間に手を潜らせて、そこにある卵に、また、うれしさが込み上げ、まだロバートをキス攻めにする。

「くそっ、もう、やめろ。離せ」

「やめられない。ロバート、どうしよう。だって、ロバートが俺たちの卵を産んだんだ」

愛してる。愛してると夢中になってキスしていると、消え入るような声が聞こえた。

「……頼む……恥ずかしいから、やめてくれ、ジュード……」

ロバートが、いままでとは違う表情で顔に恥ずかしさを浮かべていた。

「どうしたの?」

「……ああ、もう、くそっ、俺も、お前が好きだ!」

今度のキスは、歯と歯がぶつかった。

 

 

 

 

そして、その後、セックスへとなだれ込んだわけだが。

「……ねぇ、ところで、ああいう卵なんて使うの、誰とやってたの?」

シーツの中で縺れあって、二人とも汗びっしょりだった。

ロバートは、目をそらした。

「……細かいことは気にするなって、な、パパ?」

 

 

END