ピロートーク1
ずっと、同じセットで撮影できれば、そんな幸せはないが、決められた期間の中で、映画の撮影スケジュールをこなそうとしていく以上、ロバートとジュードが同じ現場ばかりにいられることなど勿論なくて、ほんの50メートル程離れたセットで、互いに顔を見ることもなく撮影に明け暮れ、一日別々に過ごして終わるということなど、ありがちなことだった。
そんなすれ違いが4日続き、やっと夜間も、早朝にも撮影の詰まっていない主役の部屋を訪れることができれば、ドアを開けた時点から、恋人同士がキスし始めたとしても、誰だってしかたのないことだと言ってくれるはずだ。
ジュードは、ジャケットの袖を腕から抜きながら、迎えに出てくれたロバートにキスしたまま部屋の奥まで追い詰めていき、ジャケットを脱ぎすててしまえば、大事な恋人を両手でぎゅっと抱きしめた。
キスの最中に、やたらと髪に触りたがる年上は、少し顔を上げ気味にして積極的にキスに応えてくれていて、ジュードが、愛してるや、会いたかったを言うために、唇を離そうとしても、キスは途切れなかった。それどころか、後ろ向きに部屋へと下がるロバートは、床に置いた本に躓きそうなってもキスしている。
部屋の中央へとたどり着つけるほど、十分に長い間キスを続けて、だがまだキスしていて、会えなかった相手の体臭や体温にやっと少し安心して、腰を抱いていたジュードの手が、年上の大きくてキュートなお尻に触りたくなってそわそわと落ち着きのなくなる頃、ロバートの手も、ジュードの髪から離れ、項を撫で降りていった。しかし、もうそのタッチだけで、年下にはぞわりと腰にくるものがあって、ジュードは照れ臭くて、今更な挨拶をした。
「ハイ」
ちらりと獰猛そうな舌を見せ、まるで、まだキスしたりなそうだった年上は、そんなジュードをくすりと笑うと、瞳の色を緩める。
「ハイ」
コツンと額を合わせてロバートは、ジュードを抱きしめた。
「ハイ。俺の坊やは、元気だったか?」
現場の雰囲気を伝えあう情報交換の重要さは、互いによく知っていたが、結局、二人が寝室に辿りつくまでに出来たのは、どれだけ会いたかったのを伝えるキスだけだった。
ベッドの縁に腰掛け、ジュードが抱きしめてくる間までを待つ、少し照れ気味なロバートの顔は、ジュードの気持ちを急かし気味にする。だから、またキスして、彼の洋服を脱がせ……と、切れ目なく恋人たちの行為は続くはずだったが、ロバートを抱きしめるために腕を伸ばしたまま、ジュードの目は、あるものに釘づけになった。
それは、ピンクに近い肌色だ。大きい。スイッチも付いている。胴周りも太めのそれは、シーツに半ば隠れてはいるが、ベッドの枕元付近に放りだしてある。
「……ねぇ、あれって……?」
勿論、ジュードは、それが何であるか分かっていたし、まかり間違っても、マッサージ機だなんて思いもしなかったが、それが、ロバートのベッドの上にあることに、目を疑ったことは確かだ。
ジュードの目が、それと、ロバートの顔との間を落ち着きなく行ったり来たりすると、ロバートは不思議がって、ベッドの上へとちらりと視線を投げた。
「あ、……そうか、……そうだった。しまった」
途端、年上は、盛大に舌打ちすると、失敗を悔やむように、両手で顔を覆った。その手の中から、ため息が聞こえる。ジュードは、思わず自分のものと変わらぬサイズのバイブを凝視してしまう。そして、ため息の後、なんとも気まずそうな顔をみせた年上のことも。
「あれって、……アレだよね?」
「そう。……まぁ、そうだ」
思わず、おずおずと質問したジュードから、耐えきれないと言いたげに、ロバートは目を逸らす。
だが、もう一度、大きくため息を吐き出すと、一拍後には、ポンっと自分の腿を叩いて勢いを付けて、大きな茶色の目が上目がちにジュードを見つめた。
「お前がこの間の帰り際に、寂しかったら使ってみたらって言ったんだ」
拗ねたように突き出された口元は、とてもキュートだ。
「……確かに、言ったかも……でも、まさか、……ええっと、……もしかして、俺の望みを叶えようと思って買ってみた?」
無理強いは、ジュードの望むところではない。だが、ロバートは首を振った。
「あー……そう言えるなら、格好いいんだろうけどな、……こら、そんな、純真な目をして、俺のことを見るな。お前、かわいすぎるぞ。だから、俺がこんな馬鹿なことをしでかすんだ」
ロバートは唇をジュードの口にぶち当てるようなキスをした。そのまま口ごもる。
「……え? と、いうことは、買っただけじゃなくて、もしかして、使った? ……それも、あなたが欲しくて?」
4日も会えなかったんだぞや、初日にお前が電話で、俺の尻に舌を突っ込んで舐めまわしたいとかいやらしいことを言うからだとか、ロバートは、色々もごもごと口を開いていたが、
「……ごめん。俺、……すごい、興奮しちゃって……」
思わず、ジュードが、へたりこむようにロバートに覆いかぶさっていくと、年上は驚いたように抱きとめてくれた。額が額に摺り合わさる。自分の心臓の音が騒がしすぎて、ジュードは恥ずかしい。
「もう、ロバートのそんな姿想像しただけで、……俺、いきそうで」
それは、ジュードの本音だったが、情けない弱音を吐いた年下に、ぷっと、ロバートが吹き出す。
「それは、ヤバいな……」
声がすっかり笑っている。ジュードは、いやらしい年上の唇をぱくんと噛んだ。
「誰のせいだよ。……あんなのを、ロバートが自分で、あのちっさい穴にずぶずぶ挿して、あのぬるぬるの気持ちいいケツん中、擦って、ひぃひぃ悶えてたなんて聞かされたら、その姿を想像せずにいられるかって」
「想像して興奮してくれるのは、光栄だけどな……これから、実演しろとか、言うなよ?」
ぱくんと噛んだジュードの唇を、今度はロバートが噛み返し、そうしたら、もう、それはキスとかわらなくなってしまった。年上の唇は柔らかく、この人が、アレを使って……と、している姿を想像すれば、ジュードの興奮は高まるばかりだ。
「なんで……? すごく見たいけど」
キスしながらも、ついジュードの視線が、大きくて太いバイブに流れ、すると年上は、ぐいっとジュードの首へと腕をまわして引き戻す。
「本物がここにいるのに、俺にまだ偽物を味あわせるつもりなのか……?」
長い睫毛を閉じてキスを求めるロバートの顔は、どうしてこんなにと思うほど色っぽい。
勿論、ジュードだって、ロバートの優先採掘権をあんなバイブになど譲る気はない。
ジュードは、キスしながら、年上に覆いかぶさり、4日ぶりに触れることのできた、柔らかな身体を撫でまわしはじめた。
だが、やはり、目の端に映る露骨なディディールのピンクのバイブは気になって仕方がない。
「ねぇ、今日、いい子にしたら、今度、してくれる……?」
自分でも脱ぐのを手伝ってくれていた年上は、シャツのボタンに手を掛けたまま、苦笑した。
「坊や、見たいっていうんならな……ただし」
かぷりとジュードは、耳を噛まれた。
おまけに、やばいくらい勃起しているあそこを膝でくりくりと弄られた。
「まず、お前が欲しいよ」
End