ゾディアック小事件簿

 

*安心の言葉

 

グレイスミスがため息ばかりついている。あまりに、鬱陶しくエイヴリーは、側を通り抜けるついでに声をかけた。

「どうした? ため息ばかりだな」

「あ、うん。ごめん……実は、今朝、鏡を割っちゃって」

「なるほど」

エイヴリーは肩を竦めた。

「7年悪運に見舞われるという奴だな……安心しろ。7年も続かねぇよ」

「本当?」

「俺の伯父は、翌日死んだぜ?」

 

 

*会議室での会話

 

「なぁ」と、エイヴリーは、隣に座るグレイスミスの足を蹴った。

「そっちは、寒いか?」

「え? そんなことないけど」

しばらくすると、また、エイヴリーがグレイスミスの足を蹴る。

「なぁ、お前寒くないのか?」

「あ、うん。ありがとう。御蔭様で、大丈夫」

エイヴリーが急に席を立った。

「席を変われって言ってんだ。こっちは、隙間風でくそ寒いんだよ!」

 

 

*イライラいらいら

 

「だから、君が黙ってろって言うから、僕はずっと黙って……!」

喧嘩は一時間前だ。さすがのグレイスミスも突き上げてくる怒りをこらえるように、エイヴリーを睨んだ。

「はぁ?」

だが、エイヴリーがその顔をねめつけた。

「お前の、その黙り込んでるのが俺のイライラを募らせるんだよ。この意気地なしめ!」

 

 

*実は仲よし

 

エイヴリーとのキスは、缶入りのピーナツを食べるのに似ている。

最初の一個を食べてしまえば、後は、次々と口に入る。

「……ねぇ、」

「しゃべってないで、もっと、……っ、本気だせ」

唇はずっと離れない。

「もっと、だ。っ、もっと」

満腹になっても、つい手が出てしまうところまで、よく似ている。

 

 

*ツンデレな人

 

「実は、近頃、付き合ってる人がいてさ」

はにかむような笑顔で、グレイスミスが同僚に打ち明けている。

「へぇ。どんな人なんだ?」

エイヴリーは、恐ろしく冷たい目をして、同僚と話すグレイスミスを睨みつけていた。

「え、恥ずかしいな。うん。でも、とってもかわいいんだ。僕が部屋を訪ねると必ず靴を脱がせるんだよ」

「それは、また、尽くすタイプじゃないか! 毎回、行く度にか?」

「え? 帰ろうとする度、……なんだけど?」