シャーロック・ホームズにまつわる雑記7
*確かにそうかもしれないが!
「ホームズ、確かに君の知識はすばらしいかもしれない。だが、医学の分野においては、僕が専門だ。君は僕の意見を聞き入れるべきだ!」
医者は、探偵を睨みつけた。
「たとえばだ。ホームズ、前世紀の名医と呼ばれた医者たちについて、君が知ってることなんて、何がある!」
「みんな死んでるよ」
*ダンス
探偵の働きで解決した事件を、祝うパーティの席で、何度誘われようとも、ホームズはダンスに応じなかった。主役のはずの彼は、控え目に酒を啜るだけだ。
華やかな席から、下宿へ戻ったワトスンは、慣れぬ人づき合いに、疲れた顔でカラーを外そうとしていたホームズに手を差し出した。
「ホームズ、君は、一度も踊らなかったろ」
驚いた顔で、ホームズは、医者を見つめる。そして、探偵は笑いながら手を取った。
「ワトスン、君は、たくさん踊っていたようだったがね」
楽団の演奏はないが、ワトスンの口ずさむ曲に合わせて、二人は、ステップを踏む。男二人で踊るダンスの滑稽さと気軽さに、二人は笑い声を上げてターンした。
「ああ、おかしい。なんだか、夢のように楽しいよ。ワトスン。こんな時間がもっと続けばいいのに」
「……ホームズ、……君の足を僕の足の上から今すぐどかしてくれなきゃ、僕は、この時間を永遠のように感じることができると思うよ。きっと……!」
*探偵、何をした!?
「ホームズさん、もう、ワトスン先生に伝えましたか?ちゃんと言わなくてはだめですよ」
ホームズは、手を挙げて、ハドスン夫人の小言を止めた。
「しっ、もう少し後で……だって、彼は、今、剃刀で髭を剃っているんだ」
*直撃
ずっと、ホームズを思ってきた医者は、ついに思いを遂げた夜、探偵に罪の告白をした。
「ホームズ、実は、僕は君が初めてじゃない」
君を思うあまり、君とおもざしの似た男娼と一度……と、続くはずだった苦いワトスンの告白はホームズによって遮られた。
「じゃぁ、僕も、正直に告白しよう、ワトスン」
もしかすると、同じ苦しみをホームズも味わっていたのかと、ワトスンの目は辛さに揺れた。愛しい男の髪を撫でようと手が伸ばされる。
ホームズは、ため息を吐きだす。
「……ワトスン、君はへたくそだね」
*???
「ホームズ、ダメだ。怠けるな」
「もう……ワトスン」
だらりと手を下してしまった探偵の大きな目は、潤んでいるようにも見える。
だが、口元に笑いを浮かべ、椅子に座る医者は、許さなかった。
探偵の潤んだ目を見つめたまま、顎を突き出し、動きを止めてしまったホームズに続きを求める。
医者の身じろぎに、椅子が重くぎしりと音を立てる。
「ワトスン……。……っ、手伝っては、くれないのか?」
「無理だな。さっさとしろ、終わらないぞ」
探偵の口からは、辛そうなため息が落ちた。のろのろと探偵は動きを再開し始める。満足げに医者の目が細められる。
「君は、本当に、酷いっ……」
動きながら、探偵は医者をなじった。開いたままだった唇がきゅっと噛みしめられる。
医者は足を組みかえ、冷たくホームズを見つめた。
「当たり前だ。こんな酷くなる前に、部屋を片付けていれば、こんなに時間をかける必要だってないというのに、だいたいだな。なんでずっと僕が君を監視してなきゃいけないんだ!」