シャーロック・ホームズにまつわる雑記5
*退屈に鬱屈する探偵
ワトスンは、ロンドンの未来を明るくするためにも、早く留置所へと探偵を迎えにくるべきだった。
「ここでの時間を無為に過ごすなんて、君、なんて勿体ない。全ての時間は、自己を向上させるために使うべきなんだ。そうすれば、君は、こんなところに入り、無駄な時間を過ごすことなどなくなる」
押し入りの罪で逮捕された男に、探偵は、熱心に説いている。
「君、自己を研鑽したまえ、そうすれば、君はここを出る時、間抜けな押し入りではなく、立派な強盗になれるだろう!」
*頑張れば……?
ブラック・ウッド卿の死刑が執行される日だった。
刑の執行を見届ける検視官として、ワトスンはその場にいた。
最高刑の執行の場では、不謹慎なことだが、無駄口をきくために医者は、隣に立つ、探偵の肩を少しつついた。
「彼が、死刑になるのは当然のことだが、執行人というのは、気の重い仕事だな」
場所柄か、ホームズは、医者の耳に低く返した。
「いや、ワトスン。執行人の仕事は、彼の首に縄を巻いて、台板を外すだけのこと。その後のことは、ブラック・ウッドが勝手にすることだから、執行人には関係がないよ」
*紳士淑女の振る舞い
「どうして、君は止めなかったんだ!」
医者が留守にする間に、患者が鉢合わせした。
それも、運悪く、犬猿の仲であるミス・ワトキンスと、ミセス・ドミンゴの二人だった。
ワトスンが、懸命に二人にレディらしさを求める間、ホームズはその様子を眺めていた。
「ホームズ、どうして君はこの二人のレディに対して紳士らしい行動をとらない!」
「だって、君、この診察室には、2つしか椅子がないじゃないか。3つ目があれば、僕だって参戦していたとも!」
*記録
ホームズがまた、ワトスンのベッドに忍び込もうとした。
返り打ちにしたワトスンは、うんざりと探偵を見下ろした。
「ホームズ、もう、これで何回目だ……」
「ワトスン? そんなの君が記録してるとばかり思ってて、僕はメモしてないよ」
*知的犯罪者求む!
ワトスンが知らぬ間に、探偵は、一つ、警察の仕事を手伝っていたようだ。
「ホームズ、すごいじゃないか」
新聞の一面には、探偵を讃える記事が踊る。
「君のおかげで、コソ泥がまた一人、ロンドンの街から消えた」
「なになに? 高級毛皮店に、骨董屋、質屋に、肉屋、それから、辻馬車屋だって? これだけ、全部に、たった一週間の間で、このコソ泥ときたら、押し入ったというのか?」
ワトスンは驚いている。
ホームズはつまらなそうだ。
「そうだろう、ワトスン。彼の勤勉さを皆が持てば、この国は、大繁栄するに違いないよ」