シャーロック・ホームズにまつわる雑記4
*安眠の条件
その晩、探偵は、ひどく小さな物音にもしきりに気にした。
「ワトスン、ほら、音がする。外に誰かいるんじゃないか?」
「どうかな? ホームズ、この下宿にはレストレード警部も目を光らせている。そんなに気にすることはないはずだが」
確かに、ホームズは、警察からの依頼で、たちのよくない事件の解決に努めている最中だが、代わりに、幾人かの警官が警護のためのパトロールを欠かさない。
しかし、また、しばらくすれば、ホームズはワトスンを揺り起こす。
ワトスンは目を擦った。
「どうした、神経質になっているようだな、ホームズ。君は気にし過ぎだ。落ち着いて眠りたまえ」
だが、また、ホームズは、身じろぎし、ワトスンは目を覚ました。
「どうしても、眠れないようだな。かわいそうに、ホームズ」
「……君が抜いてさえくれれば僕は安眠できるはずだ」
それはそうだ。
*常識
口裏を合わせられてはまずいと、警察がわざわざ用意した別室に屋敷の関係者を呼び、事件の話を聞いていた。
レストレード警部の尋問が終わり、ホームズは、メイドに、にこりと笑いかけた。
「ところで、この件は、秘密にしてほしいと、みんなに伝えてくれるかい?」
*ドS
ホームズと、ワトスンは互いを思い合っていた秘めた気持ちを分かち合うに至った。
その後、二人は、ロンドンの石畳をただ歩いて帰っただけだが、それは、不思議なくらい幸せな行為だった。
二人は、下宿に辿りつき、それぞれの部屋へと引き上げようとしていた。
ワトスンがホームズを抱きとめた。
「おやすみのキスをしよう」
ホームズは照れに顔を歪めた。
「ワトスン、そんな恥ずかしいことはやめよう。いくら初めのデートだからといって」
優しい顔で笑ったワトスンは、ホームズを腕の中から逃がした。
「そうだな、ホームズ。でも、最後のデートだったら?」
*え?
「ホームズ、僕は、君と出会ってから、他に心を移したことなんて、一度もない。勿論、浮気なんて、したこともない。君、信じてくれるかい?」
ワトスンの真摯な訴えに、照れ臭そうにしたホームズは軽くうなずいて見せた。
「そうか、信じてくれてうれしいよ」
そして、今日、ワトスンは、もう少し余分に願った。照れ屋の友人は、なかなか、本心を言葉にしてはくれない。
「じゃぁ、ホームズ、もし、よかったら、……君も同じことを言ってくれないか……?」
「……言うくらいは、簡単なことだが……」
*昨夜は、すまなかった。
医者として患者を抱えながら、探偵の関わる事件にも関わるワトスンは、多忙だ。
「僕が見るべき、死体はどこだ?」
今日も、探偵と連れだって今、ロンドンを震撼させている事件の現場へと現れた医者は疲労が溜まっているようにもみえたが、それでも、英国紳士らしく、ジェントルな態度だ。
「こちらです」
明らかに乱れた服装で、転がる男の遺体からは、今まで、見えなかった事件への解決への手掛かりとなりそうだと、ホームズは、夢中の様子だ。
「なぁ、彼は、事後だと思わないか、ワトスン君?」
そして、なぜか、その男のおもざしは、少しワトスン医師に似ていた。
「それよりも、ホームズ、彼は、僕に似てると思わないか? ちょっとぞっとするね」
少しホームズは考えた。彼が見ているのは、アソコ一点だ。
「どこが?……ああ、死んでるところがか」