シャーロック・ホームズにまつわる雑記3
*脅しとして有効
レストレード警部は、今後の連絡先だといってホームズが渡したメモに、顔を顰めた。
「ホームズさん、これは、墓地の住所じゃありませんか?」
「ええ」
緊張でもしているのか、わざとらしいほどにこやかに探偵は笑っている。
「今後、こんな無茶な捜査のやり方をしたら、そこが君の住処になるだろうと、彼はとても腹を立てていて……」
探偵が向けた視線の先には、ワトスンが立っている。レストレード警部は怪訝な気持ちだ。
「警部、彼を甘く見ちゃいけません。彼は医者です」
*君、お医者さんごっこがしたいのか?
ワトスンは、同居人が部屋の中をふらふらと歩くのに眉をひそめた。
「こっちに来い、ホームズ、脱げ」
聴音器を取りだそうとしながら医者は、命じた。
「まだ、昼間だぞ?」
医者が殴りつけなかったのは、どうみてもホームズに熱があったからだ。
*君のものは、僕のもの
「君の新しいシャツが仕立てあがったぞ。ワトスン」
「ありがとう、ホームズ。それは、どこに?」
ホームズは、その場でくるりと回転してみせ、その仕立てあがりを、ワトソンに披露してみせた。
*君は張り切り過ぎ、僕ははち切れ過ぎ
「僕に必要なのは、僕の気持ちを引きずりまわし、闘志を燃え立たせるような、難解な事件なんだ。君の処方は、休養の一点張りだ。それ以外のものを君は処方することができないんだ。ワトスン君!」
ホームズは怒鳴っていた。
ワトスンは眉を寄せた。
「……ホームズ」
「ホームズ、僕は確かに、あまり腕のいい医者とは言えないかもしれない。だが、僕にも、君を興奮させ、我を忘れるほど夢中にさせるような処方をすることはできるよ」
ワトスンは動き、ホームズの眉は寄った。
二人は、苦笑いを浮かべるしかなかった。
「なるほど、確かに、それは、僕を興奮させるな」
*残念でした。
亡夫の遺品だと言う宝石を、ロンドン一の名探偵であるホームズを使って、取り戻したというのに、遺言の執行人である未亡人は、信じられないほどの安値で、それを売り払ってしまった。
それを、知ったワトスンは驚き顔だ。
「一体、どういうことなんだ、ホームズ? あれは名品だったはずだ」
「君がやたらと気にしていた、あの家庭教師も、今、そんな心境かもしれないな。ワトスン君」
ホームズは気にした様子もなくクスクスと笑っている。
なぜなら、
二日前に公開された遺言状には、あの宝石、もしくは、その対価を、故スミスソン氏の愛人であった女性教師に贈るよう、記してあったのだ。