シャーロック・ホームズにまつわる雑記 12

 

*医者の大事なもの

 

ワトソンの診察室で大人しく暇を潰していたホームズは、ワトスンがかけるお大事にという声を背に、ほっとした顔で患者が帰っていくとふふっと笑いだした。

「ワトスン君、君は、大変な嘘つきだね」

「どうしてだ?」

「医者ほど、健康を嫌う人間はいないはずだよ」

 

 

*仲直り

 

医者と探偵は喧嘩中だった。

事件を調べるため、市中を馬車で移動していた探偵は、往診に向かう医者の背中を見つけた。

「ワトスン、よかったら乗っていかないか?」

ホームズは、そろそろ仲直りの頃合いだろうと思っていた。

「港の方に向かうのか?」

「ああ」

「そうか、それじゃぁ、カモメによろしく言っておいてくれ」

医者は、まだ、そう思っていないようだった。

 

 

*ワトスンVSアイリーン

 

不意に現れたアイリーン・アドラーをエスコートし、下宿の前で馬車から下ろしたホームズは、そこにワトスン医師が立っているのに気付いた。

「やぁ、ワトスン、君にこちらの女性を紹介していただろうか? こちらは、アイリーン・アドラー嬢だ」

そして、アイリーンを振り返った。

「アイリーン、こちらは、僕の親愛なる友人であるワトスン医師だ。さて、これで紹介はすんだね」

ひとめ見ただけで仇敵だと互いにわかり合った二人を前に、ホームズは優雅に帽子を脱いだ。

「では、僕は、事件があるから、失礼するよ」

ホームズは、今、降りた馬車に飛び乗った。

 

 

*ワトスンVSアイリーン 再び

 

ホームズの部屋では、一発触発の空気が漂っていた。

ワトスンと、アイリーンは睨みあっている。

それを知らず、ホームズは、部屋のドアを開けた。舌戦は始まったところだ。

「やぁ、僕に気にせず、つづけてくれたまえ」

ホームズは、ドアを閉めた。

 

 

*そんな診断誰がした!

 

ワトスンが、ホームズの神経症について、こう診断を下した。

「ホームズ、君は、もっと入浴をすべきで、適度な運動と、温かい物を着ることが必要だ。君はできるだけ身体を冷やさないように注意すべきだと思うんだ」

その晩、医師であり友人である者の言葉を胸に受け止めたホームズは、重々しい顰め面でワトスンに、こう切り出した。

「さる医師が、僕の神経症に対して、こういう診断を下したんだ。僕は、誰かと一緒の気持ちのいい風呂に毎日入るべきで、ベッドでは適度な運動を欠かさず、そして、身体を冷やさないようにその誰かは、朝まで一緒のベッドで眠るべきだと」