わんこコザック3

 

先週の金曜のあの事以来、ジュードが研究室に立ち寄っても、恥ずかしがっているのかコザックが隠れてしまって決して顔を出そうとしないせいで、ジュードは、その朝の散歩の約束も守られないのかもしれないと思っていた。外は朝日がよく差す、いい天気だ。きっと廊下のスクリーンに映る風景も、愛犬との散歩にふさわしい美しいものに違いない。だが、ジュードは、期待せぬよう自分に言い聞かせながら、エレベーターの前で地下へのボタンを押す。ジェイクも、何度、研究室を訪ねようと、コザック博士を捕獲できずにいるとぼやいていた。

しかし、愛犬家のジェイクを、ジュードが唯一出し抜けているのも、この水曜の朝の散歩の約束だけなのだ。ジェイクは、ジュードが朝食会に参加しているはずだと思っている。

時計で時間を確かめながら、足早に廊下を進めば、研究室の前には意外なことに人影があった。しかも、その人物は、ジュードが気付くずっと前から、ジュードの存在に気付いていた。そわそわと尻尾が揺れている。思わず、ジュードは笑顔になる。

「ドクター。おはよう」

待っていたくせに、ジュードが声をかければ、コザック博士はそっぽを向いて目をそらした。ジュードは、この年上の研究室室長がかわいく感じられてしかたがなかった。不貞腐れた顔をして目をそらしているくせに、尻尾の動きは全力だ。

「ドクターは、散歩に行かない気かな?」

ジュードが聞くと、コザックは、途端に俯いてしまった。尻尾が垂れ下がる。

「嘘だよ。ドクター」

どうして、こんなに犬という生き物はかわいらしいのだろう。嘘だとわかった途端、尻尾はまた振られ始める。

「……酷い奴だ」

見上げてきた目の方といえば、泣き出しそうに潤んでいて、思わずジュードは、犬耳の研究室室長へと手を伸ばした。耳の下辺りから、顎にかけてを撫でていく。

「噛んじゃだめだよ。ドクター」

ジュードの手を舐めようと顔を向けていたコザックは、前回、ジェイクを噛んだことをまた叱られたと思ったのか、やましそうに眼鏡の奥の目をそらした。だが、撫でる手には、ちゃっかりと気持ちよさそうにしている。

「舐めてくれるのなら、全然いいんだけどね」

ジュードを見上げながら、恐るおそるという感じに、コザックの舌が、手を舐めていく。舌が温かい。

「ドクター、実は、今日はプレゼントがあって」

 

前回、ジェイクに撫でまわされて喜ぶコザックを見てすぐに用意したリボンの付いたそのプレゼントを取り出すと、ジュードは、包みを破り捨てた。中から取り出した首輪を差し出す間、コザックは大人しく待てで、じっとそれを見つめ続ける。

流石に、このプレゼントは、博士に犬の尻尾や耳があったとしても、激しい拒絶を受けるのではないかと思っていたが、コザックの眼鏡の奥の大きな目は潤んだまま瞬きを繰り返すばかりで、それ以上の反応をみせなくて、それをいいことにジュードは、勝手に顎をもちあげ、飼い主の当然の権利だと、その首へと太いベルトを巻いていった。首輪の色は、コザックの瞳の色に合わせた濃いブラウンだ。

「痛くない、ドクター?」

かちゃかちゃと金属の触れ合う音をさせながら、ジュードがベルトを締め終わるまで、コザックは身じろぎひとつしなかった。ジュードは、そのまま首輪にリードの紐をつないでしまう。

かちゃりと音がして、ジュードがリードの先をしっかりと握ると、やっと、コザックが、おずおずと自分につけられたリードへと触れた。リードを伝い、首輪にも触れていく。

「首、苦しい?」

ゆっくりとコザックは首を横に振った。首に嵌められた首を触ったまま、大きな目でじっとコザックはジュードを見上げてくる。

「お前、本気で、俺にこれをつけるのか?」

「嫌なの?」

言い淀むようにぺろりとコザックの舌が自分の唇を舐める。

「……違う、……自分でも、信じがたいんだが、……うれしい」

しゃべることが苦しかったのか、けほりとコザックが咳き込む。

それでも、コザックは、首輪に付いた金の札に触れる。

「俺の名前?」

自覚はないようだが、軽く尻尾が振られている。見上げてきたコザックの目はきらきらと輝いている。

「表はね。でも、裏は、迷子になった時、飼い主の元に帰れるように俺の名前と連絡先が入れてある」

へぇと言いながら、また、尻尾を振り、照れ臭そうにコザックは裏面を撫でた。

それが、ジュードには、ダメだった。

ジュードは思わず、つよくリードを引っ張っていた。

コザックが慌て、大きく反対へと首を振る。痛みに、きゃんと大きく鳴いた。だが、ジュードは、博士が苦しがるのも構わず、コザックが立っていたドアを開け、彼専用の研究室の中に入った。

「ドクター……」

リードを手繰り寄せ、首輪を掴むと、ドアにコザックを押しつけたまま、強引に唇を合わせた。コザックは、最初やはり、喉元で唸り声を上げた。だが、いい子だからと、耳の後ろの滑らかな肌を撫で続けながら、キスを続けると、唸り声は徐々に弱まっていく。合わさった唇を先にぺろりと舐めたのは、コザックの方だった。瞳を潤ませ、舌を伸ばしてくる相手をそっといなしながら、額を合わせる。

「ドクター、今日、お散歩中止にしてもいい?」

コザックが恋の季節だというのは、本当のようだ。簡単に火のついたコザックは、すっかり目を潤ませて全身でジュードに擦り寄ろうとしている。押さえつけていなければ、はぁはぁ、息を荒げているコザックの足は、もうジュードに絡みついていたはずだ。

「ドクター、実は、俺、じゃんけんでジェイクに負けて」

 

ジュードの匂いを、それも特に、股間の辺りの匂いを四つん這いのまま嗅ぎまわるコザックに、ジュードは自分のジッパーに手をかけた。椅子を引き寄せ、そこに腰掛ける。コザックにおいでと手招きした。何をさせられるのか、予想はつくのだろう、迷うような目をしてゆっくりと近づいてくるコザックは、それでも、ジュードの匂いに惹きつけられるのか、脛に鼻を押し当て、しきりに膝を嗅ぎまわり、とうとう太股に両手をかけると、膝立ちになって腿に頬を擦りつける。

「ドクターに、できるかな?」

ジュードは、コザックの頭を撫でた。

コザックの目が開けられたジッパーをじっと見つめていた。

ジュードが、下着の中から勃起を取り出してみせると、瞳を濡らして、はぁはぁと、コザックの息が荒くなる。次の瞬間、噛みつくような勢いで、飛びついて来られて、さすがに場所が場所なだけに、ジュードの方が思わず身を引いた。

取り上げられるのかと、コザックがきゃうん、きゃうんと鳴き喚く。

ジュードは、すっかり乱れてしまっている髪を撫でてやりながら、ゆっくりとコザックの顔をそこへと誘導した。舌はとうに延ばされ、熱い息が、はぁはぁとジュードのものにかかる。舌先がかすかに触れると、ぺろりとコザックが舐めていく。ぞわりとジュードは腰が震えるのを感じた。

がつがつとした勢いで、コザックの舌がジュードのものを舐め続ける。額に汗を浮かべて、キュンキュン鳴くコザックに、ジュードはペニスを舐めさせたまま、深く椅子の背によりかかった。ジュードの手には、しっかりとコザックのリードが握られている。

「いい子。いい子だ。コザック」

褒められたのがうれしいのか、唾液で口の周りを濡らしたまま、コザックが見上げてくる。ジュードは、身をかがめて、その唇に唇を合わせた。それで、恋の季節のドクターは、今度は自分が何かいいことをして貰えると思ったようだ。ジュードの足に、膨らんだ股間を摺り寄せてきた。瞳を潤ませたまま、クンクンと甘え声で鳴くコザックの露骨なおねだりに、ジュードは苦笑だ。

「俺の舐めるだけじゃ、やっぱり満足できない?」

「っ、……そんなわけじゃ」

飼い主の足にはしたなく股間を擦りつけている現状を指摘されることは、発情中であっても、酷く恥ずかしかったようだ。真っ赤にした顔も耳も伏せたコザックが、ずりずりと後ろ足で後退していく。だが、ジュードの手には、首輪に続くリードが握られている。遠く離れることのできないコザックは、スラックスの前を盛り上げたまま、うなだれる。しかし、犬の尻尾はゆるく揺れたままだ。

ジュードは、リードを引っ張り、コザックを引き寄せた。汗の匂いのする耳の後ろへとキスをすると、床の上に座り込んでいるコザックの方向をくるりと変えてしまう。そのまま背中に寄りそうように一緒に床に座り込むと、博士のベルトに手をかけた。抱き寄せた背中の温度が高い。

「……いいのか? お前、じゃんけんで負けたって」

ドキドキとせわしなく打つコザックの胸の鼓動に、ジュードは、この犬が大好きだと思った。心配症の犬は、キスで黙らせる。

「後で、ドクターが酷い目にあわされたりしないためにも、ジェイクとの約束は守るけどね」

ジッパーを下ろしたスラックスの中は、今日も腰に食い込むいやらしい黒のビキニだ。それをたっぷりと眺めていたい気持ちもあったが、大きな尻を持ち上げて、ずるりと脱がしてしまう。犬は、きゃんと恥ずかしそうに鳴き、尻尾がきゅっと丸まった。ジュードは、コザックの勃っているペニスとボールを一緒に掴む。

「ドクター、腰を上げてくれるかな?」

床の上で四つん這いに這わせ、その背にジュードは覆いかぶさった。

「腿、きゅって締めて、ドクター」

たっぷりついた太股の間に、さっきまで舐められていたペニスを突っ込み、揺り動かす。前で握ったままのペニスを扱いてやると、コザックの息が乱れる。すぐに濡れてきた先端を撫でまわすようにしながら、手を動かし続けると、コザックの腰が揺れて、それはそのままジュードへの愛撫となった。はぁはぁと、目を潤ませ、犬は大きく喘いでいる。みっしりと肉のついた太股は柔らかで、ただでさえいい感触だというのに、犬は、重く大きな尻を突き出すようにして、もっととねだってくる。

「かなり、いい、な」

コザックは、自分からジュードの手に前を押し付けてくる。

「気持ちよさそうだね」

 

コザックの腰を揺するリズムに合わせ、自分でも腰を突き出していたジュードは、こらえ性のないコザックの腰が、かくかくと末期の動きで揺れるのに気付いて、握ったペニスを絞り出すように扱いてやった。ぬるぬると漏れ出すものは、限界を伝えていて、ふうふうと唸り声に近い声を上げながら、頭を床へと伏せてしまったコザックがびくびくと身体を震わせている。だが、くんくん、辛そうに鳴くばかりで、コザックは懸命に身体に力を入れている。

もしやと、思ってジュードは口を開いた。

「いきたいんだろう? いっていいよ。ドクター」

許可を与えると、床の上で丸めた手を強く握るコザックの身体にびくり、びくりと、断続的に痙攣が走り、ジュードによって絞り取られた精液が、床の上を汚していった。はぁはぁと息を荒げたままの犬は、そのまま床に伏せてしまうかと思っていたのに、目を潤ませた火照った顔でゆっくりとジュードを振り返える。まだ息を乱しているくせに、もぞもぞと自分からジュードに大きな尻を擦りつける。

「俺の心配をしてくれてるの?」

「……お前は、俺の飼い主だから……」

赤い顔のまま、ぷいっと前を向いてしまったコザック博士が、ジュードはたまらなく愛しく感じた。

「そうだよ。だから、散歩のときは、必ず、首輪だよ?」

ジュードは、柔らかい太股の間を、硬いペニスで犯していった。いったばかりで敏感なペニスを後ろからごりごりと擦られるのに、息を乱すコザックの腰が自然に揺れる。

「もっと、足を閉じて」

中途半端に浮いた尻尾が、コザックの戸惑いや、恥じらいを示すようで、ジュードにはかわいらしく思えた。尻尾の生えた大きな尻を掴んで、ジュードは腰を突き出し続けた。もういけそうだと感じたところで、ぬるつく太股の間からペニスを引き抜く。

たっぷりと肉をつけ盛り上がる尻に狙って射精すると、コザックの尻尾の付け根もべとりと汚れてしまった。ジュードにかけられた精液で尻を濡らしたまま、はぁはぁと喘ぎながら、今度こそ本当に、コザックは床に伏せてしまう。

「いい子だったね。ドクター」

ジュードは、頭を撫でた。そのまま顔を撫でて行った手を、追いかけるようにして、コザックが舌を伸ばして舐める。上げられた首に、首輪のプレートが床とかすかな音を立てた。

 

 

予定の散歩時間を大幅に超過し、けれども、まだ始業時間には早い時刻、眼鏡をかけ直し、衣服を整えたコザック博士は、だが、しきりと自分の尻尾を気にして、何度も何度も、振り返り、まったく落ち着かない様子だった。まるで自分の尻尾を追いかける犬だ。

「俺の精液の匂いがするの?」

まだ、首輪のリードを離さないジュードは、くすくすとその様子を愛しげに見つめた。

 

END